6 錬金術師?
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
オーレンが目を覚ました翌日。アニカはウォルトとともに朝食の準備をしている。
若干のダルさは残っているものの、2日も眠っていた身体を揺り起こそうと積極的に動きまわる。
「そんなに動いたら傷が開くよ」
優しいウォルトさんは気遣ってくれるけど、どこも痛くないのにジッとなんてしてられない。私はそういう性分だ。
「大丈夫です!痛みもないし、迷惑でなければ手伝わせて下さい!」
身体を動かしている方が落ち着くので、恩返しも兼ねて手伝いたいと伝える。
「わかった。ただし、少しでも違和感を感じたら休むと約束してくれるかい?」
「わかりました!」
そうは言ったものの、手際よく調理するウォルトさんを見て『手伝えることあるかな…?』と不安になる。私は料理が得意じゃない。
獣人には詳しくないけど、獣人の男性は料理が苦手だと云われているはず。でも、ウォルトさんはそんな雰囲気を微塵も感じさせない。オーレンのタメにわざわざ消化にいいカーユを作ってくれてる。
カーユは、穀物を刻んだ野菜などと一緒に柔らかくなるまで煮た料理で、弱った病人でも食べることができる。
ちなみに、ウォルトさんの腕は毛皮でモフモフしてるけど、手や足の作りは人間と変わらないし、動物の猫のような肉球もない。特製だと思うけど、調理中は長い手袋をはめて毛が料理に入らないようにしてる。
「できたよ。オーレンの部屋に運んでもらっていい?」
「わかりました!」
カーユを受け取り、オーレンが安静にしている部屋に向かって中を覗いてみる。すると、ちょうどベッドから下りようとしていた。驚いてすぐさま声をかける。
「なにしてんの?!まだ寝てなきゃダメでしょ!」
「大丈夫だ。身体も全然痛くないし。アニカだって動いてるだろ?」
忠告を聞く気がないようなので、厳しい口調で告げる。
「ほとんどミイラ状態のくせに傷が開いたらどうすんの!アンタのほうが傷は酷かったんだから!ウォルトさんが大丈夫って言うまでじっとしときなさいよ。とりあえず、朝ご飯持ってきたから食べて!ほら!」
「わかったよ…」
渋々といった感じでオーレンはベッドに戻る。まったく…油断も隙もない兄貴分だ。元気になったことは喜ばしいけれど。
「カーユだ…。ありがたく頂きます」
「ウォルトさんが作ってくれたんだから、ゆっくり味わって食べなさいよ」
「わかってるよ。無礼はできないからな」
昨夜、目を覚ました後に少しだけ話してウォルトさんのことを伝えた。倒れていた私達を助けてくれた事実を聞いたオーレンは、涙を流して感謝してた。
そんなオーレンは熱々のカーユをスプーンで掬って口に含む。
「ただのカーユに見えるけど、めちゃくちゃ美味い…。なんていうか…五臓六腑に染み渡るというか…」
よほど美味しかったのかあっという間に平らげてしまい、仕上げとばかりに水をグイッと飲み干した。ちゃんと元気を取り戻しているようでとりあえずホッとする。
「ふぅ~。生き返った。カーユをこんなに美味いと思ったのは初めてだ」
「ウォルトさんの料理、美味しいよね。私も味見で食べたけど体力が戻るよう気がする」
「確かに。けど、見た感じなにか入ってるような感じはしないけどなぁ」
オーレンが言うように、どこをどう見ても普通のカーユにしか見えないんだけど、気のせいじゃないと思う。
「実は薬草が入ってるとかかな?」
「可能性はあると思う。あとでウォルトさんに聞いてみようぜ」
そうだね、と食器を片づけてウォルトさんの元へ戻った。
「オーレンは食べてくれた?」
笑顔のウォルトさんは、表情も口調も全てが優しい。
「はい!凄い勢いで食べてました!美味しかったそうです!」
「口に合ってよかった」
「私も手伝います!」
引き続き自分達の朝食を準備してくれるようなので、隣に立って手伝いながら気になったことを訊いておこう。
「ウォルトさん。訊いてもいいですか?」
「なんだい?」
「ウォルトさんの料理は、回復効果があるように感じたんですけど気のせいですか?」
感心したような表情を見せてくれる。
「合ってるよ。薬草というか回復薬を入れてあるんだ。少しだけね」
「やっぱり…。高価なのに、なんてお礼を言ったらいいのか…」
回復薬は、駆け出し冒険者では手が出ないほど高価なモノだ。少量でも値が張る。私達では買うことすらできない代物。
「気にしなくていいよ。ボクが森の薬草から調合してお金もかかってないし。むしろ、勝手に使ってゴメン」
「えっ!?回復薬って薬草から作るんですか?ウォルトさんって、もしかして錬金術師だったり?」
「違うよ。ボクの師匠が教えてくれたんだ。普通に売られてる回復薬とは製法が違うかもしれないけど、それなりに効果は高い。別に秘伝でもないから、知りたいなら教えようか?」
まさかの提案に目を見開いて鼻息荒く答える。
「是非お願いします!今後もきっと使う機会があると思うので!もちろん、ウォルトさんが教えていいと思う範囲で構いません!」
目を輝かせていると碧い目で見つめられた。
「今後も使うかもってことは…冒険者を辞めるつもりはないんだね?」
「はい!助けられた命でまた危険な世界に戻るのは申し訳ない気持ちもあります…。でも…冒険者になるのは小さな頃から夢だったんです!」
本当に怖い体験をした。魔物に殺されなかったのは運がよかっただけ。それでも不思議と冒険者を辞めたいとは思わない。元気になったら、もっと鍛えて2人でアイツにリベンジしたいと思える。
オーレンはどう思ってるかわからないけど、きっと同じことを考えてる。冒険者になりたい意志は昔からオーレンの方が強かったから。
ウォルトさんは、料理していた手を止めて私に顔を向ける。
「アニカの人生だよ。好きに生きていいと思う」
目を細めながらそう言って微笑んでくれた。その後、出来上がった朝ご飯を居間のテーブルに運んで2人で食べる。
「いただきます!……めちゃくちゃ美味しいです!」
「ありがとう。お代わりもあるよ」
ウォルトさんが作った朝ご飯は、食べたことも見たこともない料理。獣人が好む料理なのかもしれないけど私は知らない。
とんでもなく美味しくて、冗談でもお世辞でもなく今まで食べた料理で一番美味しかった。
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