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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
599/715

599 銀狼が選んだのは

 フクーベを離れた3人は森を駆ける。


 結局、ペニーとシーダはダンジョンに潜ることを選んだ。どこへ連れて行こうか考えた結果、多幸草が咲くダンジョンがいいと思えたけど、最終的には『獣の楽園』に行ってみることにした。


「獣人しか入れない珍しいダンジョンもある」と伝えたら、「銀狼が入れるか試そう!」ということになったからだ。フクーベから休みなく駆けること1時間弱。いい鍛錬になる。


「着いたよ」

「ウォルトも速いな」

「けど、サマラと違って楽に付いていける。不思議だぞ」

「サマラは予想もしない動きをするからだよ」

「確かにな」

「驚くことが多かったぞ」


 駆けながらわざとギリギリで木を躱したり、あえて難しいコースを選んで遊んだりするから付いていくと混乱してしまう。ボクは安全で確実なルートを選んで誘導するからだ。

 

「ココが『獣の楽園』の入口だよ。なにか感じないか?」

「凄くいいな…」

「気持ちいいような…不思議な気分だぞ」


 似た感覚でよかった。嫌な方だったら帰るつもりだった。


「じゃあ、入ってみようか」

「「行こう!」」


 ダンジョンにはすんなり入れた。というより、多種族がどの時点で弾かれるのかすら知らない。獣人は堰き止めるという結界のような力を感じないから。


「入れたな」

「俺達は大丈夫だぞ!」

「一応、このダンジョンについて説明しておく」


 見たことがある魔物ばかりだけど、森に棲息する魔物より硬かったり魔法に弱いことも説明する。狼吼が有効だと。


「わかった」

「覚えたぞ!」

「ダメだと思ったら引き返すからね」


 今回で来るのは3回目。1階層の魔物と闘えば、2人がどこまで行けるか予想できる。早速魔物が出現した。ハウンドドックだ。


「ウォルトは見ててくれ!シーダ!まずは狼吼なしだ!」

「わかったぞ!」


 互いに駆け出して激突する。


「ガルルッ!」

「ガウッ!!」


 噛み付いたり引っ掻いてもなかなか倒せない。それでも、力だけで倒しきるから大したモノ。


「コイツらは強いな!身体が硬い!」

「かなり疲れるぞ!確かに森の奴とは違う!」

「無理せず狼吼を有効に使うといいよ。立派な戦略だから」


 雷や炎を毛皮に纏ったり、口から放ってペニーとシーダは闘う。効果的に弱らせたり狼吼だけでも倒していく。


「コレならイケる!」

「かなり狼吼は効くな!」

 

 でも消耗は激しくなるから、上手く闘わなければならない。ダンジョン攻略の肝は、いかに余裕を持って進めるかだとボクは思っている。


「2人に教えておきたいんだけど」

「「なんだ?」」

「狼吼には、こんな使い方もあるよ」


 大きく口を開いて自分の歯を見せる。


「牙が光ってるな。狼吼か!」

「牙だけなんて凄いぞ!」

「コレができれば、噛み付いたり引っ掻くときだけ狼吼を使って強化できる。牙や爪に纏わせる量だけだから疲れなくて済むよ」

「教えてくれ!」

「知りたいぞ!」  


 コツを教えるだけで充分だろう。


「目を1つに寄せるようにしながら…」

「首を引っ込めつもりで狼吼を流す…。こうか?」


 2人の牙が輝き出した。


「上手くいった!」

「やったぞ!できた!」

「さすがだね」

「爪はどうやるんだ?」

「…こうか?いや、違うぞ」


 知恵を絞って試行錯誤してる。成長しよう努力する姿を見ていると、なぜか嬉しくなってしまう。


「じっくり考えよう。俺とシーダは勢いだけで適当なとこがある」

「ほとんど失敗してるからな」


 自分の性格を理解することは大事だ。


「今は無理そうだな」

「里に帰ってからにしよう。まず牙が通用するかやってみたいぞ」


 魔物に食らいつきダメージを与える。強化された牙は鋭さを増して、魔物の硬さをものともしない。


「ペニー!いいこと思いついたぞ!」

「なんだ!?」


 シーダが駆け出して、狐型の魔物フォクスロットの首に食らいつくと、噛まれた箇所が燃え上がる。


「牙から炎か!やるな、シーダ!」


 牙を強化できるなら、他の狼吼も同様に牙から発動できると気付いて試したのか。直ぐに操作できる技量も素晴らしい。


「俺も負けない!」


 駆け出したペニーは、噛み付いて雷で痺れさせる。体内に直接送り込まれたらひとたまりもない。


「ウォルト!」

「どうだった?!」


 褒めてほしそうに尻尾を振ってる。


「君達は凄い。最強の銀狼に近づいてるね」

「そうだろ!」

「父さんにも勝つぞ!」


 互いにモフりモフられる。


「ボクも成長を見せたくなったよ」

「見たい!」

「なにをやるんだ!?」

「そうだね…。まだ構想しかない獣人の魔法を見てもらおうかな」


 かなり刺激された。ボクも新たな魔法に挑戦してみよう。2階層に進むと、ちょうど3匹のブラッドウルフが出現した。フォレストウルフの上位種。


「2人は見てて」


 前に出て、駆けてくる魔物に手を翳す。


鰐ノ顎(マンバ)


 巨大な魔法の鰐が現れ、口を大きく開いてバクン!とまとめて飲み込む。

 

「すっげぇ~!魔法の鰐だ!」

「まるで生きてるみたいだったぞ!」

「自己満足の魔法なんだけどね」


 使い勝手がいいワケでも威力があるワケでもない。強靭な顎の力で岩をも砕くと評される鰐の力を魔法で表現したかっただけ。2人は知ってるみたいだけど、ボクは本物の鰐に遭遇したことがない。とりあえず上手くいってよかった。


「まだ先に進むか!」

「行きたいぞ!」

「あっ!そっちに行くと…」


 ペニーとシーダの足下が崩れる。駆け出して2人を脇に抱えた。


「落ちるっ!」

「ヤバいぞっ!」

「大丈夫」


『無重力』でふんわり着地する。


「めちゃくちゃ魔物がいるっ!」

「凄い数だぞっ!」

「ココは『魔物部屋』だよ。ダンジョンの罠の1つなんだ」

「そうか!初めてだ!全部倒す!」

「行くぞ!」


 この数に怯む様子もない。銀狼は勇敢だ。それぞれ狼吼を纏って魔物の群れに突っ込んでいく。


「くぅっ…!数がっ…多すぎるっ…!」

「厳しいぞ…!」


 勢いがよかったのは最初だけ。魔物も当然怯まない。あっという間に囲まれて2人は劣勢に陥る。少しずつ倒してるけど、自分達のできることを最大限発揮してない。


「ペニー!シーダ!君達は雷も炎も使えるんだ!忘れてるよ!」

「…そうかっ!」

「…行くぞっ!」


 ペニーが吠えると、魔物達の頭上から雷撃が降り注ぐ。手合わせしたときより威力が高まってる。シーダは横からの火炎放射。上からと横からの攻撃で魔物達も混乱してる。


「ハァ…ハァ…」

「これでもキツいぞ…」


 狼吼に限界はある。かなり数を減らせたけど、まだまだだ。


「ペニー。シーダ。こっちに来てくれ」


『強化盾』で安全区域を作り、駆け寄った2人を回復する。幸い魔法を使う魔物はいない。


「助かる。狼吼が増えた」

「疲れもとれたぞ!」

「まだやるかい?無理ならボクがやる」

「いや!俺達は強くなりたい」

「どんな奴に里が襲われても撃退してやるくらい強くなるぞ!」


 最近では冒険者も増えてるようだし、危機感があるのかもしれない。


「わかった。協力して闘えばもっと楽になる。たとえば…」


 ボクが思う効果的な戦術を教えて後は任せる。


「なるほどな」

「わかったぞ」

「じゃあ、解除するよ」


 群がる魔物達を魔法で吹き飛ばして『強化盾』を解除する。


「「ウォォォン!!」」


 気合いの咆哮を上げたペニー達は、再度魔物と激突した。




「めちゃくちゃキツかった~!」

「でも、なんとかなったぞ~!」


 100匹近くいた魔物を殲滅した2人は、疲れ切った様子で横になって動かない。何度か回復を受けたとはいえ、大きな怪我なく倒しきった。

 このダンジョンの魔物は、ざっと森にいる同種の3倍の強度を誇る。今回の戦闘で得た経験は彼等をもっと強く成長させるはずだ。負けてられない。


「倒しきったのは本当に凄い。ボクは尊敬する」

「そうか!」

「ウォルトに言われると嬉しいぞ!」

「でも、もう帰ろうか。お腹が空いただろう」

「コイツらは倒すと消えるんだな」

「食おうと思ったのに食えないぞ」

「一応、糧食ならあるけど食べてみる?」


 揃って「食べる」と言うので渡す。


「ウォルト玉はあまり美味くない」

「変な味だぞ」


 形が丸いだけで、ボクの玉ではない。


「保存食だから仕方ないよ。でも、栄養はあるんだ」


 水は『水撃』で飲んでもらえるからいいけど、食料の現地調達ができないこのダンジョンを攻略するには準備が必要だ。いずれ来るときの課題だな。


「やっぱり肉が食いたい!」

「腹減ってきたぞ!」

「じゃあ帰ろうか」


 戻るために上の階層へ向かおうとして、ふと立ち止まり周囲を見渡す。


「ウォルト、どうした?」

「気になることがあるのか?」

「なんでもないよ。行こう」


 その後は落ち着いて魔物を倒しながらダンジョンを後にした。「ここは気分がよかった」「また来たいぞ!」というのが2人の意見。けれど、危険なダンジョンには変わりないから、もし来ても無理はしないよう釘を刺しておく。


 今回到達したのは3階層まで。それでも、経路に人骨が増えていた。誰かが挑み、そして散ったんだろう。ダンジョンは決して優しくない。様々な者の想いを飲み込んでただ在り続ける。



 住み家に帰って直ぐに狩りに出る。時間はまだ昼過ぎだ。疲れたであろう2人に肉を獲ってきてあげよう。里への帰路に空腹で力が出なくて倒れたり魔物にやられてほしくない。

 カーシを1頭だけ魔法で狩れば充分。住み家に戻ると、シャノとペニー達が仲良く寝ていた。

 

「うぅ…」

「ニャ…」


 シャノはなぜかシーダの上に被さるように寝ている。暖かいのかな。起こさずにご飯を作ろう。

 カーシを捌き、調理しながら思い返す。『獣の楽園』から帰ることに決めて歩き出そうとしたとき、何者かの気配を感じた。姿は見えなかったけどまず間違いない。ボクはあの感覚を知っている。

 けれど、今は放っておこう。無理して探る必要もない。無事に戻れたことだけで充分。いつかまた挑むことになる。


「美味いな!」

「美味いぞ!」

「ニャッ!」

「次に街に行ったら、もう少し長くいれると思うよ」

「俺はもう行かなくてもいい。大体わかった」

「俺もだぞ。臭くない街なら行きたい」

「じゃあクローセに行こうか。アニカ達に訊いて、行ってもよければ森に泊まろう」

「いいな!」

「皆で森で寝るぞ!」


 魔伝送器で確認すると、「皆で行きましょう!」と賛成してくれた。オーレンもいいらしい。


「ところで、まだ帰らなくていいのかい?」

「大丈夫だぞ」

「暗くなる前には帰るけどな。ウォルトと手合わせしたい」

「別にいいけど、疲れてない?」

「今日覚えたことを試したいんだ」

「そっか。2人がいいならやろう」

「ニャ」


 シャノも見学してくれるみたいだ。


「今日は勝つ!」

「やれそうな気がするぞ!」

「ボクも負けないよ」


 住み家を出ながら談笑していると、玄関を出て直ぐに声をかけられた。


「き、君は、あの時のっ!」


 声には聞き覚えがある。


 向けた視線の先には、王都のSランク冒険者アルビニさんがいた。

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