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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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597 読心術

 住み家に戻ったウォルトは、猫小屋の外から声をかける。


「シャノ。ただいま」

「ニャ~」


 飛び出すように小屋から出てきた。


「留守番ありがとう。身体は大丈夫かい?」

「ニャッ!」

「無理しちゃダメだよ」


 なんて動物に言っても意味がないことは知ってる。我が儘で言っているだけ。皆で住み家に入り、チャチャとペニー達は居間で寛いでもらう。

 ボクは料理を作るために台所へ直行。肉をチャチャから分けてもらったので、ふんだんに焼く。サマラも来るって言ってたから、その分も忘れないように。


「美味そうだぞ~!」

「まだ見てないじゃん」

「ウォルト焼きは間違いないからな」

「ニャッ」


 ハッキリ会話が聞こえる。調理中に結界や周囲に気を配るのに慣れてきた。やればできるもんだな。


「ウォルトは番が多いぞ!」

「チャチャの他に、ウイカもアニカもサマラも番だ!」

「まぁ~そう言えなくもないね」


 チャチャ…。そこは否定しようよ…。調理中にサマラもやって来た。ハグだけして居間に向かう。また会話が聞こえてくる。


「サマラは俺達に尻尾が似てるぞ!」

「私は狼の獣人だからね!遠い親戚みたいなモノだよ!」


 それはどうだろう?


「そういえば、狼の獣人と猫の獣人の子供はどうなるんだ?」

「実はね……鳥の獣人が生まれるんだよぉ~」

「「そうなのか!?」」


 サマラの主張はあり得なくはない。どちらかの先祖にいれば可能性があるけど、限りなく低い。


「猿と猫だったら、人間が生まれるからね」 

「「へぇ~!」」


 チャチャの主張は噓。親が片方でも獣人なら生まれる子供は獣人。これは絶対に近い確率。両方ならなおさらだ。例外はないと思うけど、ボクのような魔法使いがいるから絶対とは言いたくない。


 一旦手を止めて顔を出す。


「ペニー。シーダ。サマラ達が言ってるのは噓だよ。揶揄ってるんだ」

「そうなのか!?」

「騙すなんてひどいぞ!」

「あははっ!ゴメンね!ついからかいたくなって♪大体どっちかの種族の獣人が生まれるよ!猿と猫でも一緒!」

「に、兄ちゃんが話を聞いてた!?」

「サマラのおかげで気を配るようにしたんだ」

「サマラさぁ~ん。それはどうかと思いますよ~」

「ゴメン!でも、今は森に変な奴が多くて危ないからさ!わかるでしょ?」

「それはそうですけどぉ~」


 なぜかチャチャは不満げ。こっそり話したいことがあるんだろうか。


「皆がいるときは、居間の会話だけ聞かないようにするよ」


 聴覚を台所と外に集中させたら可能。どうしても薄ら聞こえるけど、それほど気にならない。


「器用だね!」

「なにかあれば呼びにきてくれたらいいし、そのくらいなら簡単だよ」

「じゃあそれでよろしく!」


 いつになくサマラは楽しそうだ。やっぱり狼に近いペニー達と交流できるのが嬉しいんだろう。ボクはペニーを狼だと思ったけど、サマラは最初から違いに気付いてる口振りだった。マードックもだろうか?そもそも、アイツは狼に興味があるのか不明。

 

「ご飯できたよ」


 皆で協力して居間に運ぶ。ペニーとシーダは「危ないよ」という忠告を聞かず、頭上に皿を載せて自分達の肉を運び、案の定、床に落としてチャチャに叱られた。

 こうなるのを見越して『保存』しておいたから肉は無事。汁物だったら大変なことになってたけど。


「「美味いなっ!」」

「美味しいね~」


 好評なようで満足。

 

「シャノ。俺達の肉もちょっと食ってみるか?美味いぞ」

「ニャ~…」


 ペニー達の好きな香辛料を振った肉は、薄味を好むシャノには不評。逆も然り。この辺りは好みがハッキリしてる。

 

「ねぇ、兄ちゃん。猿に会ってない?」

「まだ会ったことないなぁ。気にしてはいるんだけど」

「ペニー達は猿に会ったことある?」

「ないな」

「俺もないけど、父さんはあるみたいだぞ!」

「ニャ~」

「えっ!?シャノはあるの?!」

「ニャニャッ!」

「そっかぁ。そうだよね」


 同じ動物とて互いに仲良くなんてない。どうやら敵として出会ったみたいだ。


「サマラさんは動物と出会ったことありますか?」

「ない!シャノが初めて!ウォルトは意外にあるんでしょ?」

「馬と牛、リスや兎にも遭遇したよ」

「勘違いの可能性は?」

「自信があるんだ。動物は明らかに魔物と違う雰囲気を纏ってる。シャノやペニー達も同じで」


 だからペニーを狼だと勘違いした。


「俺達は動物なのか?」

「定義が曖昧だけど、大きな意味ではそうだ。ボクら獣人や人間も動物の1種みたいだ。ただ人族という種族なだけで」

「そうなると、皆が仲間だぞ!」

「そうだね」


 楽しく会話しながら食事を終え、後片付けを終えるとペニーに頼まれる。


「ウォルト。消える狼吼を長く続けるコツを教えてくれ」

「もっと安定して消えたいぞ!驚かせたくないからな!」

「いいよ」


『隠蔽』が長く続かないのは、狼吼の量だけが原因じゃない。むしろ、体内を巡らせ続ける方が難しい。2人はそのことを理解してる。ここまで狼吼を鍛え上げたんだから、体内の回路や狼吼の残量を感じてるはずだ。


「やってみせるから、自分で狼吼の流れを掴んでほしい。2人ならできる」

「難しそうだけど」

「やるぞ!」


 2人の背中に手を添えて集中する。ボクの理屈だと消える狼吼はこんな感じで体内操作しているはずだ…。掌から魔力で生成した疑似狼吼を送り込むとゆっくり姿が消えた。


「ここからだ。集中して感じて」

「任せろ…」

「狼吼が…動いてるぞ…」


 消費量を抑えて、効率的に消える狼吼の操作を身体に教える。


「なんとなくわかった!」

「多分こうだぞ!」


 2人は見事に消えた。そして、居間の中をグルグル歩き始める。


「いい感じだな!」

「これならしばらくいけるぞ!」


 そして…。


「あいたっ…!」


 こっそり背後から忍び寄った2人が座っているチャチャの頭をポカッと叩いた…と思われる。


「あはははっ!」

「やったぞ!気付かれなかったな!」


 チャチャは鋭い視線で2人を睨む。


「…ペニ~~!…シーダ~~!」

「逃げろっ!」

「チャチャには見えてないから余裕だぞ!」


 すかさず移動して散らばった。でも、考えが甘い。

 

「バカペニーとバカシーダめっ!」

「やめてくれぇ~!!ははははっ!」

「なんでわかったんだ!?あははははっ!」

「わからいでか!」


 あっという間に確保されて、くすぐりの刑に処される銀狼。外なら逃げ切れたかもしれないけど、相手は獣人で狭い室内だから匂いで追跡されるし、部屋の角に追い込まれてあえなく御用となった。


「悪い子は腑をぶちまけちゃえ!」

「やめろぉ~!あははははっ!し、死ぬぅ~!」

「俺達が悪かったぞっ!謝るから許してくれぇ~!」

「教わるときに、「魔法を悪戯に使うな」って兄ちゃんに言われて約束したでしょ!もう忘れたのっ?!」

「もうやらない!悪かった!」

「絶対だぞ!」

「私に謝ってどうするの?!反省しなさいっ!」


 今回のチャチャは本気だ。そして、とても大事なことを教えてる。徹底的に絞られた2人は、舌を出したまま服従ポーズでピクリとも動かない。いや、動けないんだろう。

 チャチャが叱ってなければボクが言っていた。それも見越して叱ってくれた気がする。この姿の2人に追い打ちをかける気にはなれない。そっと上から覗き込む。


「大丈夫かい?」

「ウォルト……約束破って…ゴメン……」

「もう…絶対に悪戯しないぞ…。許して…くれ…」

「ボクら友人にやる分にはいいんだ。今のも皆が笑ってくれるようなちょっとした悪戯だった。でも、約束を忘れちゃダメだよ」

「もうこりごりだ…」

「二度と狼吼ではやらないぞ…」


 狼吼でなければやるんだな…。調子に乗りやすいからいい薬になったはず。

 

「ニャ~。ニャ~」

「こんなの普通だよ」 


 チャチャはシャノの尊敬を集めてる。大きな銀狼を簡単にやっつけたように見えたのかもしれない。シャノが2人の様子を見にいく。


「シャノ…。俺達はもうダメかもしれない…」

「力が入らなくて…立ち上がれないぞ…」

「ニャッ!」


 猫に『気合いを入れろ!』とツッコまれる銀狼。


「ペニー!シーダ!いつまで寝てるの?!そろそろお風呂に行くよ!」

「動けない…」

「まだ無理だぞ…」

「はぁ。しょうがないなぁ」


 サマラは軽々と2人を担いでお風呂に向かう。


「ウォルト。お湯沸いてる?」

「沸かして魔法で保温してあるよ」

「チャチャ。今日は私が2人と一緒に入るね」

「お願いします」

「シャノも行かない?」

「ニャッ」


 シャノは入らないみたいだ。しばらくして、お風呂から楽しそうな声が聞こえてきた。どうやら2人は回復したっぽい。


「サマラはチャチャより胸が大きいな!」

「ウォルトが好きそうだぞ!」


 シーダはなんてことを言うんだ…。


「なんでそう思うの?」

「獲物だって小さいより大きい方がいい!なんでもそうだぞ!チャチャはキャミィより大きいけどな!でも、身体が重くなってるから違うところが大きくなってるんだぞ!」


 声が大きいから丸聞こえで、チラッとチャチャを見ると口を真一文字に結んで顔が真っ赤に染まってる…。

 匂いからすると…怒ってるな。宥めたいけど、どうすればいいんだ…?このままでは、銀狼の種の存続に関わりそうな気が…。ただ、怒ってる理由がわからない。


 ……そうか!ラクンさんの毛刈り事件のとき、チャチャは「スタイルがいい」と彼女を褒めてた。女性は体型を気にするし、自分にもう少し胸があれば…と小さいのを気にしてるんだな。いつの間にかチャチャがこっちを見ていた。


「そうだけど…なにか?」


 マズいっ…!心を読まれた。顔に出てたかな?


「いや……その…あまり気にしなくてもいいんじゃないかな…?」


 これは本音だ。スタイルが全てじゃないと思う。

 

「気持ちは嬉しいけど、人それぞれ理想ってあるからね。兄ちゃんもムキムキになりたかったでしょ?」


 否定はできない。今でも逞しい獣人に憧れはある。


「それと一緒だよ。私ももうちょっと大きくなってみたい」


 それはわかるけど、怒らなくていいんじゃないかな?


「怒ってるのは胸のことじゃないよ。どうしようもないもん」


 重くなってる、の方か…。 


「正解。シーダに悪気はないけどね」


 ずっと口に出してないけど、よくわかるね。


「私達を舐めちゃダメだよ」


 いつか喋れなくなっても皆とは話せそうだ。


「そうかもね。いつまでも楽しいんじゃないかな」

「でも、こうやって直に話す方が嬉しい」

「ふふっ。そうだね」


 話してる内にチャチャの匂いも落ち着いてきた。話すだけでよかったのか。シャノはいつの間にか椅子の上で丸まって眠ってる。ギリギリ身体が収まるサイズが気に入ってるっぽい。


「シャノの出産はいつ頃になるんだろう?」

「もう少し先だと思う」


 毎日魔法で確認してるけど、順調に大きくなってる。でも、まだ猫の姿じゃない。


「兄ちゃんは楽しみ?」

「もちろん。とにかく無事に生まれてほしい」

「森に帰ったら寂しくない?」

「寂しいけど強制はしたくない。同じ猫だから余計にそう思う。ボクならされたくない。今だけでも一緒にいれることが幸せで、ずっと忘れない」

「たまに帰ってきてくれたら嬉しいね」

「そうだね。小屋はそのままにしておくつもりだよ」


 サマラ達がお風呂から出てきた。


「いいお風呂だったぁ~!」

「水が飲みたい!」

「喉が渇いたぞ!」

「飲み物を持ってくるよ」


 ペニー達には冷水、サマラには冷えたお酒を出す。

 

「冷やした酒も美味しいじゃん!」

「商人の友達から聞いたんだ」


 ナバロさんが「冷やして飲む酒では泡酒が有名だけど、ほとんどの酒は冷やしても美味い」と教えてくれた。火酒でもそうらしい。「邪道と言われても、美味しければ楽しみ方は自由」という意見に納得できた。


「風呂上がりに飲んだら酔いが回っちゃうよ~。私になにするつもり~?むふふっ!」

「なにもしないよ」

「ノリが悪いなぁ!」

「母さんみたいなこと言うね」


 チャチャがサマラの前に立つ。


「サマラさん。私の胸はまだ成長します。負けませんからね」

「お風呂の会話が聞こえてたの?私も負けないよ。チャチャがまだ成長するの知ってるから!」


 スタイルでも張り合ってるのが負けず嫌いの獣人らしい。


「誰かさんのせいでねぇ~」

「そうですねぇ~」

「もしかして…ボクのせいって言いたいのか?」

「珍しいじゃん。よくわかったね」

「心当たりはないけど」


 皆の体型について、争いの火種になるようなことは言ったことない…はず。水着姿を見てじっくり観察させてもらった。魔法と同じでそれぞれ長所短所があると思うし、優劣はつけられない。


 怒られるかもしれないけど、気にしすぎだと思うんだよなぁ。皆は容姿も含めて魅力的なのは確か。ただ、体型は容姿の一角を担っているだけで、外見より内面的な部分が重要に思える。 

 ボクの知ってる女性は綺麗な人ばかりなので、見た目だけでは1つも判断できない。いかに容姿がよくても性格に難があるなら魅力を感じない。でも、あくまで個人的な意見。それぞれの価値観がある。


「今回は長いね。さすがに読み切れなかった」

「そうですか?私はわかりました」

「なにぃ~!?ウォルト、もう1回!」

「無理だよ。問題を出してるつもりはないんだ」

「簡単に言うと、外見を気にするより内面を磨けってことだよね?」

「まぁそうだね」

「悔しいぃ~!弟子に追い抜かれた気分だ!」


 なんの弟子?読心術?


「コツを教えましょうか?」

「い~やっ!今のは油断しただけっ!気合い入った!負けられない!」


 チャチャが珍しく自慢気。でも張り合う必要はない。ボクの心を読めても自慢にならないんだから。


「あまり誰彼構わず人の心を読まない方がいいんじゃないか?技術を磨くのはいいけど、知りたくないことまで知ってしまうとか…」


 思わぬ弊害もありそうだ。


「他の奴の心なんて読まない!一切興味ないし!無視してるよ!」

「兄ちゃんだけでいいのっ!」

「そ、そう?だったらいいんだけど…。よければ、ボクにも心を読み取るコツを教えてくれないか?」

「珍しいっ!どういう風の吹き回し?」

「シャノの心を読みたいと思って」

「なるほどね!いいでしょう!じゃあ、今から私とチャチャは同じことを考える!表情から読み取ってみて!」

「話し合わないと同じかなんてわからないだろう?」

「「間違いない!」」

「そう?試しにやってみるよ」


 交互に見比べても、笑顔を浮かべているだけ。


「ご機嫌だと思う」

「そういうことじゃないでしょ!」

「なにを考えてるかってことを当てないと!」


 しばらく訓練してみたけど、ボクの予想はかすりもしてないらしい。


「隠すのが上手いなぁ」

「隠してないし!」

「むしろ前面に押し出してるよ!」

「ズバリ当ててみたいから、たまにお願いしていい?」

「いつでもいいよ!」

「ちょっとは上達するといいけど」


 どうやらボクに強いメッセージを送ってたらしいけど、難しすぎる。シャノの出産に間に合えばいいけどなぁ。

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