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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
593/715

593 評価に納得いかない白猫

 今日はオーレンとミーリャがウォルトの住み家を訪ねてきた。


「うりうり~!こちょこちょ!」

「ニャ~ッ!ニャッ!」


 ミーリャは初対面のシャノと普通に交流してる。今のところボリスさんだけが攻撃されていて、知らなかったけど動物好きだからホッとした。人が人なら斬られていてもおかしくない。今度改めてお詫びしよう。

「気に入らなくても知人は攻撃しないでほしい」とシャノに伝えたけど、不満げだったので聞き入れてくれないかもしれないな。ボリスさんから猫が嫌がる匂いでもしたんだろうか?


 オーレンとミーリャに飲み物を淹れてゆっくりしてもらう。


「ウォルトさんに製作を依頼したいモノがあって、ミーリャとお願いに来ました」

「なんだい?」 


 久しぶりにモノづくりができそうだ。


「作ってもらいたいのは盾なんですけど、大丈夫でしょうか?」

「攻撃を防ぐのに使う盾のこと?」

「はい。他のパーティーとクエストをこなしたりしてる内に、剣を磨くだけじゃなくて攻撃を防ぐのに盾が必要だと思ったんです。小手だけじゃ難しくて」

「作ったことはないけど、任せてもらっていいのかい?」

「お願いします!俺の知る中では、ウォルトさんが最高の職人なんで!」

「大袈裟だよ」

「私の盾もお願いできますか?」

「もちろんいいよ。お揃いの盾にしようか?」

「気持ちは有り難いんですけど、それぞれ好みの盾が違ってて」

「それはそうか。2人の理想の盾を詳しく教えてもらっていいかい?」


 細かく要望を聞きながら紙に書き留めていく。オーレンの言う通りで、形状も大きさも全く違うから面白い。2人の意見から導き出される盾は…。


「完成図はこんな感じかな」

「…ぶっふぅっ…!」

「ぷっ…!くっ…!」


 しまった…。なにも考えず絵を描いてしまった。


「笑っていいんだよ?」

「い、いえっ…!大体そんな感じで…ぶっふ…!」

「あはははっ!ふふふっ…!ウォルトさん!笑ってごめんなさいっ!」


 友人に笑われる分には慣れてる。


「構わないよ。ちなみに、なにを描いたように見える?こっちがオーレンの盾だよ」

「俺のは……ふっ!…太ったタヌキ…ですかね…?」

「私のは……果実がいっぱい載った…水車に見えます…ふふっ!」

「そう見えるよね。実は…盾なんだ」

「「ぶふっ…!」」


 面白い冗談は言えないけど、絵だけは確実に笑ってもらえる。2人が落ち着くのを待って、紅茶とカフィを追加した。


「必要な素材を教えてもらえますか?」

「素材はボクが準備するから必要ないよ」

「そうはいかないです。ただでさえ作ってもらうのに」

「ちょうどいい素材が余ってるんだ。いい素材だし、使わなければ宝の持ち腐れだから」


 オーレンは冒険者になりたての頃に愛用していた剣が折れてしまって、素材を再利用して作り直した小手をずっと装備してくれてる。使い込まれて傷だらけだけど、いつも綺麗に手入れされていて制作者として冥利に尽きる。ミーリャも装備を大切に使って頑張ってる。彼らに渡すなら、気合いを入れていいモノを作りたい。


「わかりました。お願いします」

「お願いします!」

「少し時間をもらうよ」

「ゆっくりで大丈夫です!」


 後で久しぶりにドワーフの工房を訪ねよう。






 工房を訪ねると、いつものごとく忙しそうな精錬の師匠達。


「おっ!ウォルトが来たぞ!」

「なにっ!?早速手伝ってくれ!」

「任せてください」


 魔法で補助をして回る。


「コンゴウさん。今日はなにを作ってるんですか?」

「玉鋼だ!モノじゃなくて原料だな!簡単に言うと上等な鉄よ!」

「勉強になります」


 今日は精錬が主な仕事のようで炉が大活躍。いつもより温度は低いけど、手間をかけて不純物を抜くらしく、ずっと茹だるような暑さの中で作業を進める。


「…よっしゃ!こんなもんだな!終わりにするか!」

「量は充分だろ!」

「汗かきまくったぜ!酒が美味ぇぞ!」

「肴ができました」


 ファムさん達と作った肴を並べて、酒盛りは始まった。肉を貪り豪快に酒を飲むドワーフの姿は、慣れてくると豪快というより爽快に感じる。差し入れにナバロさんお勧めの酒も持ってきたから後で出そう。


「ぶっはぁ!今日はどうした!?なにか作りに来たのか?!」

「盾を作りたいんですが」

「ほぅ。どんなのだ?」

「こんなのです」


 完成予想図を見せると全員から爆笑をさらった。腹を抱えて笑い転げてる。


「ひぃ~っ…!ひぃ~っ…!そりゃ盾じゃない!タヌキだろっ!」

「息がっ…上手く吸えんっ!」

「俺達に酒を飲む暇を与えんとは、お前は大したもんだっ!がははははっ!!」

「どの辺りがタヌキなんですか?自分じゃわからないんですけど」

「全部だ!」


 とりあえず完成図を使って説明してみるものの、皆が笑ってしまって話が進まない。


「皆さん…ボクは真面目に話してます」

「俺達も真面目に答えたいが、答えられんのだっ!絵を隠せっ!」


 仕方ないので言葉のみでの説明に切り替える。


「ふぅ…。お前の絵は万人に通用するぞ。天才め」

「冗句がすぎます」

「上手くはないが、絶対に狙って描ける絵じゃない。おかしな方向に振りきっとるだけで間違いなく才能だ」


 ボクは求めてない才能。落ち着いたようなので構想を聞いてもらう。


「この盾を作れると思いますか?」

「お前が作るならイケる」

「よかったです」


 ボクの技量でもなんとかなるみたいだ。


「しばらく泊まりで仕事ができないので、何日か通わせて下さい」

「どうした?嫁でもできたか?」

「番じゃないんですが、一緒に住んでて」

「がっはっは!お前もやるな!時間があるときにいつでも来い!」

「ウォルト!いい加減な付き合い方はするんじゃないよ!アンタがそんな男じゃないって知ってるけどさ!」

「そのつもりです」


 ファムさんの言う通りで、シャノとの同居は遊びじゃない。できる限り面倒を見るつもりだ。この日から何日か工房に通って、コツコツ盾を完成させた。



「いいのができたな」

「ありがとうございます。皆さんのおかげです」


 今回も色々とアドバイスしてもらった。鍛冶に関して知らないことはないんじゃないだろうか。


「どうすればあの完成図になるのか、さっぱりわからん」

「描いた通りにできましたよ?」

「どこがだ!」

「お前、ちゃんと目が付いてるのか?!」

「2つ付いてます」


 …と、ファムさん達女性陣に囲まれる。


「ウォルト。今度暇なときに連れてきな」

「誰をですか?」

「同居してる子だよ。アタシらは歓迎する」

「ありがとうございます。でも、身重なので連れてくるのは無理ですね」

「なんだって!?そうかい。だったら、祝いの品を渡さなくちゃならないねぇ」

「気を使わなくて大丈夫です」

「そうはいくかい!アンタはアタシらの息子みたいなもんだ!」

「気持ちは嬉しいんですが、ボクの番じゃないので」

「なんだいそりゃ?どんな女なんだい?」

「猫です」

「は?」

「出産を控えた黒猫なんです。世話をしながら一緒に暮らしてます」

「……紛らわしいんだよ!」


 なぜか怒られ、恋人や番ができたら連れてきて紹介することを約束させられた。




 盾が完成したのでアニカ達に連絡したら、夜に住み家に来てくれることになって晩ご飯を準備する。


「美味しいかい?」

「ニャッ」


 合わせてシャノにもご飯を作る。森で獲物を狩ってくることもあるので、確認して『いらない』と言われたら作らない。

 食欲は旺盛で食べる量の判断は全てシャノ任せ。満足してくれたところで、残りを『保存』して次の日にアレンジして料理する。飽きがこないように献立を考えるのも楽しい。


 食べ終えたシャノは、ピンと尻尾を立ててボクの寝室に向かって歩き出した。食後は直ぐ眠くなるようで、身体に合う低いベッドを作ったら仮眠に使ってくれてる。

 ドアを開けるのも器用にノブを前足で挟んで回す。もはや行動が猫じゃない。話し声が気にならないよう居間側の壁一帯に『沈黙』を付与しておこう。


 しばらくしてオーレンとミーリャが来てくれた。今日はウイカとアニカも一緒に。まずは冒険を終えた皆の労をねぎらって夕食から。今日も沢山食べてくれて嬉しい。シャノが寝ていることだけ伝えておく。


 食事を終えて各自に飲み物を淹れると、オーレンから布袋を渡された。


「なんだい?」

「知り合いのテイマーに訊いて作ってきました。チルトって名前の猫が好きなおやつらしくて。よかったらシャノに」

「へぇ~。後で食べてもらおう」

「作り方も聞いたんで教えます」

「ありがとう」


 オーレンの人脈の広さに感謝だ。容器を開けると、ゼリーのような食べ物で猫が好きそうな匂いがする。確かに美味しそうだ。

 

「ボクからオーレンとミーリャに」


 作った盾を持ってきて渡す。


「すげぇ…。格好いいです…」

「お願いした通りで、もの凄く模様が綺麗です…」

「要望通りにできたと思う」


 オーレンには綺麗な円形の盾。大きさはさほどでもなく、攻撃を逸らすことに重点をおいた丸みを帯びた形。

 盾を構える方の手でも剣を握れるように、小手に装着できるのが特徴。希望通りに太陽と月をイメージした模様を焼き付けた。

 ミーリャの盾は、角が丸みを帯びた五角形で縦に長い。打撃を受け止めるのではなく、攻撃の回避率を上げる作りで、オーレンの盾より大きめ。半身になれば上半身をほとんど隠すことができる。

 腕にベルトで装着できるし、取っ手で掴むこともできる仕様。ミーリャの希望に添って花をモチーフにした模様を焼き付けてる。


「軽いのに相当硬いな…」

「私は初めて見る素材です…」

「ラードンの鱗だよ」

「「えぇっ!?」」

「相当硬いのに軽く加工できる。しかも魔法耐性も高い。盾に適した素材なんだ」


 生きているときは金色の鱗に見えていたけど、剥ぎ取ってから時間が経つにつれ銀色に変化した。見た目でラードンの鱗だとは気付かれないはず。


「マジですか…。ドラゴンの鱗…」

「ビックリです…」

「討伐したときに採っておいたんだ。使い道があってよかった」


 ハルケ先生達の赤ちゃん用揺り籠の骨組みにも使えたし、意外に有用な素材。


「ありがとうございます。俺、なにかお礼したいんですけど」

「私もです」

「シャノのおやつを貰ったから充分だよ」

「いやいやいやいやっ!さすがに釣り合いませんって!」

「オーレン!ウォルトさんは、アンタがモノを大事に扱うのを知ってるから作ってくれたんだ!黙って貰えばいい!」

「そうはいってもだな…」

「アニカの言う通りだよ。ミーリャも気にする必要ない。ウォルトさんはまた1つ作れるモノが増えて嬉しいんだから」


 ウイカとアニカの言う通り。わかってくれて嬉しい。


「遠慮なく貰っていいんですか…?」

「冒険の役に立ててくれたら嬉しいよ」

「有り難く使わせてもらいます!」

「私もです!」

「ちょっと使ってみたけど、慣れるまでは大変だと思う。攻撃を逸らしたり受けるのにかなりコツがいる。逆に大怪我するかもしれない」


 腕を狙われたのに、逸らしたら首が斬れたなんて笑えない。


「修練します!あと、盗まれないように気を付けます!」

「わかりやすい印を彫れるよ」

「じゃあ、俺の名前を彫って下さい!」


 裏返して指定された箇所を指でなぞり、魔法でオーレンの名前を刻む。


「削って消したりできないように魔法で保護したよ。相当硬いから簡単には加工できないと思う」

「ありがとうございます!文字の書体も格好いいです!」

「ウォルトさん。私の盾にも彫ってもらっていいですか?」

「いいよ」


 彫る箇所を確認して指を近づけると…。


「『オーレン』って彫って下さい」

「ミ、ミーリャ?!」

「いいの?」

「自分の名前より恋人の名前を見た方がやる気が出ます!それに、より一層大事にできる気がして♪」   


 なるほど。恋人ならではの発想だ。


「う、嬉しい…けども…」

「あははははっ!悔しかろう!アンタじゃミーリャには敵わないね!」

「ふふっ。オーレンは愛が足りないかも」

「そんなワケあるかぁ!ウォルトさん!俺のにも『ミーリャ』って彫って下さいっ!名前の横にデカめでっ!」

「いいの?」

「お願いしますっ!」

「私は今さらだと思うなぁ~」

「うるさいなっ!遅いとか早いじゃないんだよっ!」

「そうじゃなくて、盾に彼女の名前を入れるのはどうかと思うよぉ~?使って傷だらけになっちゃうよねぇ~?ミーリャの場合はオーレンが守ってくれるって意味でいいけどぉ~」

「ぐっ…!」


 言われてみれば確かに。アニカのような発想もなかった。皆は意味を込めることに敏感だなぁ。


「さぁ、どうするぅ~?名前を入れるのぉ~?入れないのぉ~?」

「ぐぐぐっ…」


 悩んだ末に、オーレンは自分の名前の隣にミーリャの名前を彫ってほしいと要望した。『いつも一緒だ』『共に闘う』という意味で彫りたいと。


「それでいいのかなぁ~?」

「しつこいなっ!いいんだよっ!」

「ボクもいいと思う。いろんな想いがあっていいよね」

「そうですよね♪私もそう思ってました♪」

「変わり身早すぎだろ!いい加減にしろ!」


 名前を彫り終えてから訊いてみる。


「オーレン。正直な意見が聞きたいんだけど、作った盾はタヌキに見えるかい?」

「見えないです。俺の希望通りの盾です」

「私のは想像してたより模様も形も遙かに綺麗です」

「タヌキってなんのことですか?」

「気になるね!」

「コレなんだけど」


 アニカとウイカに盾の完成予想図を見てもらうと、同時にお茶を吹き出した。


「ゲホッ…!確かに…模様がタヌキですね……んふふっ!」

「ゴホッ!まさしく……ぐっ!…んふっ…!」


 2人なら納得いく答えを教えてくれるかもしれない。


「ボクは絵に描いた通りに作れたと思ってて、どこが違うのかわからないんだ」

「なるほど。私とアニカは推理できます」

「任せて下さい!ウォルトさんの絵の解釈には自信があります!第一人者なんで!」


 まるで抽象的な絵の評論家みたいなことを言ってるけど、正確に描くことを心掛けてるんだよなぁ…。あと、第一人者はサマラだ。


「この丸みがタヌキの目になります。鼻と口は、ココから…こう繋げると見えますよね」

「…あぁ。そうか、なるほど~」

「ヒゲは光沢の描き方が誤解を招く感じになってて、こう描いてたらわかりやすかったですね!」

「…あぁ~。確かにそうだね」


 細かく教えてくれて、確かにボクの描いた絵がタヌキの顔と風車に見えてきた。

 

「ありがとう。すごくわかりやすかった」

「この画風を貫き通していいと思います」

「誰にも真似できません!唯一無二です!」

「画家になりたいワケじゃないけど、鍛冶の師匠にも狙って描けないって言われたよ」


 ずっと理由がわからなかったけど、やっと納得できた。上手く描いたように脳内で変換して、頭から離れないんだ。頭の中に浮かべた映像を、『念写』のように正確に描き上げたと勘違いしたままで認識してしまってる。

 まるで呪縛。呪いが解けたらタヌキが現れる不思議。改めて見るととんでもなく下手だな…。笑われて当然だ。


「この絵は頂きます」

「成功報酬で!」

「いいよ」


 喜んでくれてるけど、いつか上手く描いた絵をあげたい。

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