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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
587/715

587 よろしくお願いするニャ!

「ウォルト。最近、周りはどうだ?」

「落ち着いて生活できてます」

「一時期、森に人が多かったがかなり減ったな」

「そうですね」


 ウォルトはアマン川の穴場でファルコと並び釣り糸を垂れる。久しぶりに釣りに来たらたまたま遭遇した。


「ファルコさんは慌ただしくなかったんですか?」

「仲間は俺がドラゴン討伐に関わってると知らない。普通に暮らしてる」

「倒せたのは、ほとんどファルコさんのおかげなんですけど」

「ふっ。誰かさんと同じで目立ちたくないんでな」


 渋い。ボクが目立ちたくないのを知ってるから、誰にも言ってないのかもしれない。気を使わせてないだろうか。


「相談なんですけど、討伐したのはファルコさんだけの手柄にしてもらえませんか?」

「断る。俺がやったのは微々たることだ。そんなことより、この間オニールに会ったぞ。アイツは面白い奴だな。いらないと言ってるのに魚をくれた」

「オニールさんは出会ったときから面白い人です。でも、気概のある格好いい獣人で」


 あの里には鳥と亀の獣人以外辿り着けないと思う。静かに暮らせているといいけど。


「ところで、お前が魔導師サバトの正体だったんだな」

「なんでわかったんですか?」

「はははっ。世間ではサバトがドラゴンを討伐したとハッキリ言われてるぞ」

「そうでしたね…」


 完全に忘れてた。


「ウォルト」

「なんでしょう?」

「好きに生きればいい。だが、魔法でどの種族にも負けるな」

「さすがに難しいです」

「獣人を蔑むふざけた奴がいたら、魔法で黙らせてやれ。俺はお前の魔法を最高だと思う。誰にも真似できない」


 お世辞でもその評価は嬉しい。


「獣人だから、爪で切り裂き牙で喉笛を掻き切るのが爽快だがな」

「そうですね」


 ボクが絡まれているだろうと予想して言ってくれてるのかな。


「お~い!お前ら!」

「「ん?」」


 声の方に目を向けると、川をスイスイ泳ぐ笑顔のオニールさん。岸に向かって泳いでくる。


「久しぶりだな!」

「お久しぶりです」

「久しぶりだ」


 岸には上がらずに、身体を半分だけ陸に乗り出す形で会話する。お風呂に浸かってるような体勢。


「最近ウォルトは大変だろぉ~。この間の魔物騒動で世間は大騒ぎみたいだなぁ~。街も大騒ぎだった」

「やっと落ち着いてきました」

「ウチの里も落ち着いてきたぞ!」

「えっ?!変な奴が来たりしてますか?」

「人は来てない!ファルコの言う通りになってな!」

「なにがですか?」

「こっちの話だ。そうだろ、オニール」

「ははっ!そうだな!ところで、ウォルトの釣り糸は魚がいない場所に沈んでるけどいいのか?」

「なんでわかるんです?」

「川ってのは魚がいる場所が大体決まってる。ちょっと竿を貸してくれ」


 上がってきたオニールさんに竿を渡す。餌を付けて竿を一振り。


「…よっしゃ!来た!」

「噓だぁ!」


 あっという間に大物を釣り上げた。ボクの好物トラウト。


「なっ?」

「凄いですね…」

「流石だな」

「亀の獣人にとっては朝飯前だ!こんなの自慢にもならない!水の中は俺達の庭だからな!魚の気持ちになれば釣るのは簡単だろ!じゃあ、またな!」

「はい、また」


 スイスイ泳いで川を遡上していく。


「俺達は空。オニール達は川。お前はどこが生きる舞台なんだろうな」

「森だと思ってます。猫なんで」

「ふっ。もっと広いと思うが」


 その後、ひとしきり釣りを楽しんでオニールさんが釣ったトラウトを土産に住み家に帰ると、玄関の前に久しぶりに会う友達の姿。遠くから呼びかける。


「シャノ!」

「…ニャッ!」


 駆けてくるシャノを待つ。


「待たせてごゴメン。魚を釣りに行ってたんだ。久しぶりだね」

「ニャ~」


 顎をくすぐるように撫でると、目を細めてゴロゴロと音を鳴らしてくれる。とりあえず元気そうでよかった。あちこち怪我してるから魔法で治療する。


「ちょうど魚を貰ったから一緒に食べないか?」

「ニャッ!」


 自分では釣ってないところが悲しい。住み家に入って水を差し出すと舌で器用に飲んでくれる。シャノに限らず、ペニーやシーダ用の食器も焼いた。友人には専用の食器を準備したかったから。


「焼き魚が美味しいよね。ちょっと調理してくる」


 味付けは必要なさそうだけど、前回は少し味付けしても美味しそうに食べてくれた。本当に軽くだけ調味料を振ってみよう。香ばしく焼いたら身をほぐして…と。


「シャノ。できたよ」

「ニャ~!」

「まだ熱いから気を付けて」


 猫だけに猫舌だと思う。ボクは当然テーブルで食べるけど、シャノも椅子に載って身を乗り出すようにテーブルで食べてる。

 食べる姿に癒やされるなぁ。猫も含めて動物にはなかなか出会えない。昔に比べて生息数が減少しているからで、動物の森で暮らしていてもまず出会うことはない。


 ボクら獣人以外の種族にとって、動物は狩りの対象。食料としてや毛皮を採るタメの乱獲で数が減少したと云われていて、過去には保護したい獣人とその他の種族で争いが起こったこともある。

 世界の大半を占める多種族、特に人間の勢力に押されて獣人は敗北した。結局動物は数を減らして、今では保護の対象になっている国も多いと聞く。勝手すぎる理屈だけどカネルラもそうだ。


 ボクは幾度か動物に遭遇した。でも狩ったことは一度もない。深い意味はなくて単純にそうしたいから。ペニー達のように森で生きていれば、動物と争って命のやり取りを繰り広げるのも自然の摂理。この世は弱肉強食。動物もさらに弱い者を食べて生きている。でもボクには関係ない。


「ボクのも食べていいよ」


 シャノはジッと見つめて動かない。どうやら、ボクの分を食べるつもりはないらしい。


「コレはボクが食べるよ。肉もあるから食べるかい?」

「ニャッ!」


 反応を見てると、やっぱり人語を解してる気がするんだよなぁ。カリーやリリサイドのように実は魔法で話せるとか…?試しに『念話』で話しかけてみる。


『シャノ。聞こえる?』


 話しかけても返答はない。ただし、聞こえている反応をした。

 

『今から料理してくるよ』

「ニャッ」


 やっぱり言葉を理解していそう。これだけでシャノが賢いとわかる。肉も食べ終えたシャノは、ゆっくり床に寝転んだ。目を閉じて寝息をたてる。外敵のいない住み家では寛いでもらいたい。


 後片付けを終えて魔導書を読んでいると、人の気配を感じとる。展開している結界魔法内に誰かが入ってきた。魔法で探知すると、サマラとチャチャだ。

 4姉妹に渡したネックレスには、魔力反応で持ち主を特定できるような細工を施していて、動物の森の中であればどこにいるか探知できたりもする。


 広範囲結界について木の精霊に駄目元でお願いしたら、バラモさんやウルシさん、他にも木の精霊達が協力してくれることになって、動物の森に生えている神木の微かな精霊力を借りながら連動させて結界を張っている。

 バラモさんには『普通の魔導師にはできない』と言われたけど、精霊達に協力してもらえたからこそできること。外に出て出迎えよう。


「ウォルト、ただいま!」

「兄ちゃん、ただいま」

「おかえり」


 とりあえずハグして2人に事情を説明する。シャノがどんな反応をするかわからないから伝えておかないと。


「へぇ~!遊んでほしいなぁ~!」

「動物には滅多に会えないから、見れるだけでも嬉しい!」

「とりあえず今は寝てる。静かに中に入ろう」

「「了解」」


 静かにドアを開けて中に入ると、シャノは変わらず夢の中。


「ホントに猫だ…。初めて見るけど可愛い…」

「私の想像より大きい…」

「2人ともご飯食べる…?離れで食べてもいいけど…」


 起こさないように小声で会話して、一緒に料理を作っていると…。


「ニャ…」


 シャノが起きてきた。『沈黙』で声と音は消してたけど、匂いで気付いたのかな。サマラ達を警戒しているっぽい。


「シャノ。2人はボクの友達なんだ。狼と猿の獣人だよ。なにもしないから心配しなくていい」

「……」


 理解してくれたのかゆっくり歩み寄るシャノは、しばらく2人の匂いを嗅いで足に身体をすり寄せた。


「か、可愛い!」

「さ、触ってもいいかな?」


 そっとシャノに触れて、顎や頭、背中を撫でる。


「気持ちいい…。ウォルトはいいなぁ」

「なにが?」

「猫と友達で触れ合えるのが羨ましい。狼に会ったことないもん」

「私も猿に触りたい」

「気持ちはわかるよ。もし森で出会ったら話してみようか。ボクは猫人だから通じないかもしれないけど」

「ニャ~」


 なんとなく『それは難しい』と言われた気がした。




「シャノ!コレでどう?!」

「ニャー!」

「こっちにもあるよ!」

「ニャ~!」


 2人は器用に自分の尻尾でシャノを釣ってる。サマラはフサフサの尻尾を爪で挟まれてるけど痛くないのかな?楽しそうなのはいいけど、狭い台所で遊ぶのはやめてほしい。


「料理ができるまで居間で遊んでて」

「りょ~かい!シャノ、行くよ!」

「私は猫じゃらしも上手いから!」

「ニャッ!」


 出ていって静かになる。自分の祖先以外の動物には興味がない獣人も多くて、チャチャやサマラみたいに猫と遊んでくれるのは有り難い。シャノも人に懐いてくれるし。

 ボクは動物全般が好きだけど、多分少数派。だからこそ「猫のくせに」「猫の分際で」とほざく奴がいる。ただ、そんなことを言われてもソイツの祖先の動物は嫌いになれない。


「ご飯できたよ」


 出来上がった料理を食べるサマラとチャチャを見ながら、シャノもなんとなく食べたそうに見えた。


「シャノ。もう少しご飯食べる?」

「ニャ」


 実は食べ足りなかったのか普通に平らげた。今度は満足そう。


「大丈夫~?食べ過ぎじゃな~い?」

「筋肉質のいい身体してるけど、太っちゃうかもだよ」

「ニャ~!」


 動物なのに太ると言われて不服なのか…。バカにされたのがわかるんだな。本当に賢い。食欲旺盛だし、前に会ったときよりお腹がぽっこりしてるけど、ご飯を食べ過ぎただけじゃ…ないか……な…。


 ……待てよ。もしかして…。


「シャノ…。お腹に子猫がいたりするのか…?」

「「えっ!?」」

「ニャ~」


 シャノを撫でながらお腹の中を魔法で確認すると、まだかなり小さいけど子猫らしき姿が4匹確認できる。


 感動だ…。


「新たな命が宿ってる…」

「そっかぁ~!無事に生まれるといいね~!」

「沢山ご飯を食べたかったのかな!」

「きっと…そうだね…」


 理屈じゃなく感情が揺さぶられる。ボクが手助けできることはないかな…。

 

「一緒に住むのが一番いいけど…」

「ニャッ!」

「えっ?」


『お願い』と言われた気がする…。気のせいかな…?


「ボクと一緒に住むかい?」

「ニャ~」

「そこまででいいの?」

「ニャッ」


『子どもが生まれるまでは一緒に住んでもいい』…的なことを言ってるっぽいけど、ボクの願望がそう思わせてるのか…?冷静じゃない気がするからサマラとチャチャの意見も聞こう。


「猫と住んじゃいけないなんてルールはないんだし、あってもウォルトは好きなようにするだけだから関係ないじゃん」

「まぁそうなんだけど」

「私もいいと思う。兄ちゃんと同じ立場ならそうしたい。身籠もってる間は動くのも辛いだろうし」

「そうだね」


 …よし!


「シャノ。子猫が生まれるまでココに住んでいいし、その後は好きにすればいいよ」

「ニャ~」


 身を寄せてくる。了承してくれたみたいだ。


「気を使わなくていいからね。食べ物も心配いらない。ボクは住み家にいないことも多いけど……そうだ!猫小屋を作ろう!」

「猫小屋?」

「どんなの?」

「大きくなくていい。ゆったりした空間で、雨風が凌げてぐっすり眠れるだけで違うはず」

 

 離れは蟲人の避難場所になってる。あまり使ってないみたいだけど、いきなり鉢合わせになったらお互い驚く。小さくても機能性の高いシャノ専用の小屋を新たに建てよう。


「猫は気まぐれだから、住み家にいたくない時だってあるかもしれない。1人になりたかったり、狩った獲物を貪り食べたかったり」

「そうかなぁ~?ココが快適だよ」

「でも、シャノが兄ちゃんを煩わしく思うことだってあるかも」

「ボクもそう思うんだ」

「ニャ~」


『そんなことない』と言ってくれてる気がする。もっとシャノの気持ちを読み解けるようになるだろうか。


「大変だけど、とにかくめでたいね!」

「出産を控えてるシャノを皆で見守ろう!」

「そうだね。少しずつ紹介する。ボクの友達は優しい人ばかりだから心配いらないよ」

「ニャッ」


 まさかの同居になったけど、子を生むタメに…猫という種族を存続するタメにボクを頼ってくれたのなら掛け値なしに嬉しい。誰がなんと言おうと守ってあげたい。


「ニャ~」 

「お風呂に行きたいのかい?洗ってあげようか?」

「ニャッ!」

「私も洗いたいなぁ~」

「私も!」

「ボクはいいけど、シャノはいい?」

「ニャッ」


 どうやらいいみたいなので、2人に任せる。今の内に猫の生態について詳しく調べ直そう。結構詳しい自信はあるけど、出生までに気になることは確認しておきたい。師匠の文献には動物の生態について書かれている本もあった。


 ボクの記憶が確かなら、猫の妊娠期間は60日前後。2ヶ月程度しかない。できることはなんでもやってあげたい。

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