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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
585/715

585 いつかの予行練習

 仕事から帰って直ぐ、フクーベの自宅で床に臥すサマラ。


「まいったぁ…」


 久しぶりに熱出したぁ…。何年ぶりかなぁ。思い当たる節はないけど、私だってたまには病気に罹る。

 マードックは冒険でいないし、身重のバッハに看病を頼んで伝染せないし、こんなときに限って魔伝送器の魔力も切れてるから妹達にも頼めない。


 動くのダルい…。お腹空いたなぁ…。


『サマラ。大丈夫か?』


 ウォルトの優しい声が聞こえてきた…。空耳かぁ…。熱って怖いねぇ…。


『家の外から魔法で話しかけてる。聞こえてるなら、頑張って玄関を開けてくれないか?寝てるかな?』


 ……っしゃ~!


 跳び起きて玄関に向かう。ドアを開けるとちゃんとウォルトがいた。入ってもらって、まずはハグ~!


「おかえり!」

「ただいま」


 自然にお姫様抱っこされる。


「無理せず安静にしてないとダメだよ」


 こんなの自然にやってくれるなんて成長したね!天然ジゴロ猫だ!


「なんで病気ってわかったの?」

「チャチャから連絡が来た。ウイカとアニカも熱があって、連絡取れないけど多分サマラもだって。何日か前に一緒に飲んだんだろう?」


 確かに定例会でお酒を飲んだ。あの時、ゲホゲホ言ってるオジさんに絡まれたっけ。軽く首締めたけど、あの時が怪しいね。


「ウイカ達も調子悪いんだね」

「皆は同居してる人がいるからいいけど、マードックが冒険でサマラは1人のはずだから、見に行ってほしいって」


 優しすぎる妹達だね!最高すぎる!


「ご飯も食べてないだろう?今から作るけど、食べれる?」

「もち!…って、あれ?」


 私の部屋に直行。そしてベッドに寝かされた。


「作って持ってくるから。大人しく待ってて」


 ニャッ!と微笑んで掌でおでこを冷やしてくれる。さすがの魔法だね。冷やしすぎず適温だぁ。


「気持ちいいよ」

「薬もあるけど、飲むなら食後の方がいい。それまで待てる?キツかったら先に飲んでもいいよ」

「後でいい!」

「できるだけ早く作るから」

 

 ウォルトは台所に向かった。そして、本当にあっという間に戻ってきた。


「はやっ!」

「住み家に食材はあったから、温めるだけでいいようにさっと作って持ってきたんだよ」


 美味しそうな…カーユかぁ…。


「そんな顔しないでくれ。まずは消化にいいモノからね。調子がよくなったら普通の料理も持ってきてるから」

「よっしゃ!いただきます!……カーユなのに美味しい!」


 どんな腕してるの?ほとんど具も入ってなくて、薄味なのにしっかり美味しい!一気に食べ尽くした。


「熱冷ましの薬だよ」

「いただく!」


 ちょっと苦いけど、ウォルトの作った薬は信用しまくり。


 …………。


「よっしゃ!治ったぁ~!」

「そんなはずない。まだじっとしてないと…」

「ホントだって!」


 宙返りとかしちゃうよね!しかも2回転!


「母さんと同じだな…」

「ミーナさんも身体強そうだもんね」

「とにかく、今日だけは身体を休めてくれ」

「わかった!でも、まずはお風呂行く!私、汗臭いよね?」

「それは仕方ないよ」


 めっちゃ汗かいて毛皮もベタベタ。サッパリしたい。


「お風呂沸かそうか?」

「水浴びでいいよ」

「病み上がりだからぬるま湯の方がいいと思う」

「わかった!じゃあ一緒に入ろう!」

「それは無理だって」

「お風呂にじゃないよ。直ぐ外で話し相手してくれない?倒れたりはしないと思うけどね」

「それならいいよ」


 ということで一緒にお風呂に向かう。ウォルトが後ろを向いてる内に得意の早脱ぎして、沸かしてもらったお風呂に入る。ウォルトは脱衣所で待機。


「ふぅ~!サッパリするぅ~!ぬるま湯正解かも!ありがと!」

「どういたしまして。ちょっと訊きたいんだけど」

「どしたの?」

「マードックは子供が生まれてもココに住むのか?」

「部屋も余ってるし、マードックはいないことも多いから、私的にはバッハと子供も一緒に住んでいいけど出て行くつもりみたい。やっぱり親子水入らずで住みたいんじゃない?」

「そうか」

「なんでそんなこと聞くの?」

「まだ先の話だけど、サマラと一緒に住んでもいいと思って」


 なぬっ?!


「どゆことっ!?」

「うわぁぁっ!隠してくれっ!」

「あっ!ご、ごめんっ!」


 思わず裸のまま顔を出してしまった!身体は見えてないからセ~フ。既に1回見られてるけどね。


「前に離れの空間を広げる魔法を覚えてほしいって言ってたろう。やっとできそうな気がしてきたんだ」

「なるほど」


 あやうく勘違いするところだった。でも嬉しいなぁ。


「住まなくてもいいけど、皆の体調が悪くなったらゆっくり看病してあげられる」

「いいっ!それはいいね~!」

「ボクの我が儘な願望なんだけど」

「早くそうなるように頑張って!」


 …そうだ!


「ウォルト。今日だけ泊まりに行っていい?ちょ~~っとだけ、熱がぶり返さないか心配なんだよね」

「いいよ。住み家に行く方が悪化しそうだけど」

「大丈夫っ!」


 さっとお風呂から上がって毛皮を乾かしてもらう。その後、ガッツリした料理を食べてる間に魔伝送器に魔力を込めてもらって、妹達に連絡だ!


「ウォルトと行くから待っててね!」




 まずはウイカとアニカの家に到着。看病中のオーレン君が出迎えてくれた。


「ウイカ達は私達に任せて!オーレン君はミーリャとゆっくりいちゃいちゃしてきて!」


 ウォルトが料理と薬で看病することを伝えて、オーレン君には休んでもらうようにお願いする。


「そうはっきり言われると…」

「いいからいいから!」

「そうですか?じゃあ、お言葉に甘えて。ウォルトさん。サマラさん。よろしくお願いします」

「うん。任せて!」


 理解のあるオーレン君を見送って、ウォルトには2人の部屋に入ってもらう。まずは邪魔しちゃいけない。心静かに待って弱っている2人がウォルトと話したりハグして満足するのを待つ。

 この隙に持ってきていたカーユを温めて、部屋から出てきたときには直ぐに出せる態勢。これで完璧!


「美味しい~…」

「美味しいです…!」


 カーユを食べ終えて薬も飲んだ2人は直ぐに元気になった。


「2人でお風呂に行ってきます」

「汗でベタついてるので!」

「ぬるめに沸かしてあるけど、足りなかったら沸かして」

「私は2人についておくよ。のぼせちゃいけないから」

「わかった」


 お茶を飲みながら『優しい長女だニャ~』とか言いそうな顔してる。チャチャが言うように雰囲気だけど顔が丸く見えてきた。この可愛い丸猫は竜も倒しちゃうけどね。


 脱衣所に座って入浴中の2人と話す。


「ウォルトを呼んでくれてありがと!ホント助かったよ~!」

「どういたしまして」

「辛いときはお互い様です!ウチにも来てくれて元気でました!」

「このあとなんだけど、チャチャのとこに行って…」


 提案したら二つ返事でオッケーしてくれた。入浴を終えて髪を乾かしてもらった2人は、食事をとってウォルトに確認。


「ウォルトさん。私とアニカは、すこ~~しだけ寒気が残ってて」

「かる~~く頭痛も残ってたりして、気になるので泊まりに行ってもいいですか?」

「もちろん構わないよ。ジッとしてる方がいい気もするけど」


 約束を取り付けて4人でチャチャの家に向かう。病み上がりということで、街を出てからはウォルトに運んでもらうことになった。公正なくじ引きの結果、ウイカが前で私とアニカは後ろ。


「ウイカ…。あの…今日は一段と密着が凄いね?」

「小ぶりなので精一杯いってます」

「なにが?」

「「あはははっ!」」


 ダイホウはそう遠くない。体感的にはあっという間に到着。チャチャの家に着いて呼びかけてみる。


「こんばんは~」


 家の中は暗くて、し~ん…としてるね。


「チャチャ達いないのかな?」

「いるよ。寝てるみたいだ。部屋は知ってるからチャチャに呼びかけてみる」

「その魔法、ホント便利だよね」


 ウォルトは遠くから魔法で語りかけられる。すっごく便利だ。しばらくしてチャチャが顔を見せた。


「兄ちゃん…?それに皆も……どうして…?」

「看病に来たの!ウォルトに教えてくれてありがとね!」

「当然です…。ウチは…全員熱が出ちゃって…寝込んでます…」

「それは大変!ウォルト!」

「うん。手分けして看病しよう」


 ウォルトはチャチャを抱っこして部屋に運んで、アニカとウイカが部屋を魔法で明るくする。私とウイカとアニカでカーユの準備。薬はウォルトが多めに持ってきてたから余裕がある。

 カズ達も辛そう。ララも顔が熱い。カーユが温まったら皆で手分けして食べさせる。ダイゴさんとナナさんだけ自分で食べれそう。食後に薬を飲んでもらうと楽になったみたい。


「熱は完全に下がったな。相変わらずいい薬だ。助かった」

「相当楽になったわ」

「姉ちゃん達ありがとう!ウォルト兄ちゃんの薬も凄い!」

「治るのも1発だ!カーユも激うま!」

「かんち!」


 さすが獣人一家だね。回復力が素晴らしい!ウォルトはというと…。


「あぁうぅ~!」

「ララちゃん、もう辛くない?大丈夫?」

「あぅっ!」

「熱はしっかり下がってるね」


 すっかり元気になったララに捕まって、胸にしがみつかれてる。「逃がさないぞ!」とでも言いたげな表情で相変わらずの好かれっぷり。


「皆が来てくれて助かりました。相当辛かったんです」

「こっちこそ!チャチャが伝えてくれなかったら、私は今でも寝込んでた!」

「私達も治ったから来れたの」

「ウォルトさんのおかげ!」

「まさか全員熱が出ると思ってなかったですよね」

「あのオジさんのせいだね!ところで、チャチャ」

「なんですか?」


 今からウォルトの住み家に行くことをこそっと耳打ちする。


「私も行きたいです」

「でも、家族全員病み上がりだから心配だよね」

「多分大丈夫です。兄ちゃん、料理をお願いしていい?」

「いいよ。ララちゃん、背負ってもいいかい?」

「あぃ!」


 器用に紐で背負って子連れ猫で台所に消えた。皆で談笑しながら料理を待っていると、ウォルトの声が聞こえてくる。


「ララちゃん。危ないよ」

「あぅっ!」

「いたたたっ!毛がっ!あいたたっ!」


 料理しながらなにやってんの?気になってチャチャと一緒に台所を覗いてみると、ララがウォルトの後頭部の毛を掴んでよじ登ってた。赤ちゃんなのに力強い。てっぺんまで登って頭にしがみつく。


「楽しいのかい?」

「きゃはっ!」


 そのままよじ登って前に落ちそうになる。


「おっと。危ない」


 ウォルトが受け止めて両脇を掴んで顔を近づける。


「料理中は危ないからじっとしててね」

「う~っ…あっ!」


 ララはウォルトの顔に手を伸ばして、おもいきり口にキスをした。


「やぁ~っ!きゃはっ!」

「あははっ。ララちゃんは猫好きだね。嬉しいよ」

「あぃっ!」


 チャチャと私はそっと台所から離れる。


「先越されたね…」

「やってやった!って顔してました…。我が妹ながら積極的です…」


 負け狼と負け猿で、とぼとぼと皆の輪に戻る。その後、チャチャは一家で晩ご飯。しっかり食欲もありそう。熱あるときって熱が下がるとめっちゃお腹空くもんね。


 ご飯を食べてきた私達は飲み物だけもらう。食べ終えたチャチャがウォルトの住み家に皆で泊まると伝えたら、ダイゴさん達も心配いらないと笑った。


「じゃあ、行ってくるね。明日の朝には帰ってくるから」

「気を付けてな。まだ病み上がりだ。狩りも明日は休みにする」

「今日はありがとうね。また皆で来て」

「「「遊びに行くよ!」」」

「あぅ~!!」

「ララ。ウォルトはまた来てくれるわ」

「うぅ~…!」

「ララちゃん。また見せるからね」

「ふおぉぉっ!」


 一家に見送られながらチャチャの家を後にする。


「兄ちゃんはララにキスされてデレてました!」


 道中でチャチャは不満げ。


「えぇ~!」

「クローセに続いてっ!?」

「見てたの?ララちゃんは猫好きだから、ボクをぬいぐるみだと思ったのかもね」

「違うよっ!」

「あまり興奮すると、また熱が上がるよ?」

「…ふんだっ!」


 ウォルトにはわからないだろうなぁ~。妹に先を越された姉の悔しさは。よくわかるのはウイカかな。





 無事に住み家に着いて、花茶やカフィを淹れてもらう。


「落ち着くぅ~!」

「安心ですね」

「もはや第2の我が家でっす!」

「美味しいよ」

「今夜はボクが看病するからゆっくりしてほしい」


 もれなく治ってるんだけどね!


「早く離れに泊まれるようお願いね!」

「なんとかするつもりだよ」

「前回は勢いもあったから一応訊くけど、私達が隣に住んで嫌じゃない?」

「嫌なら魔法を覚えても言わない。常時住むには不便だろうけど、別荘みたいにたまにでも泊まってくれると嬉しいよ」


 ニャッ!と笑った。


「前にも言ったけど、私は本格的に住むよ。ココから仕事も通うし」

「私とアニカも住みます」

「ただ、クエストとかでフクーベの家と並行かもです!オーレン次第ですね!」

「私も住む。ただ、ララも小さいし、カズ達がもう少し狩りを覚えるまではダイホウにいることが多いかも」

「無理はしなくていいからね」

「私達以外に誰か住む予定ある?」

「ないよ………いや、1人だけいるかな」

「誰?」

「リスティアだよ。王族を追放されたらココに住むかもしれない」


 王女が森に住むとか普通ならありえないけど、ウォルトが言うからあり得るんだよねぇ~。実際泊まりに来てるみたいだし。


「そうなったら楽しみだね!」

「会ってみたいです」

「ウォルトさんの親友だから、面白い王女様なのはわかってます!」

「仲良くなれる気がする」

「皆は王族って聞いても動じないから凄いなぁ。普通なら恐縮しそうだけど」

「ウォルトには言われたくない」


 一番非常識なのに!


「あと、今日は添い寝はしないよ」

「なんで?」

「最近、夜でも人が訪ねて来ることがあるんだ。直ぐに対応できるようにボクは居間で寝る」

「一緒だとマズいの?」

「人の気配に気付くのが遅れるかもしれない。どんな奴が来るかわからないから」


 寝る前に魔法で結界を張ってるけど、ウォルトの結界は誰にでも無効にできるような魔法だから突破されてもおかしくないらしい。多分勘違いだけど私達は言わないよ。


「じゃあ、4姉妹で寝ようかな!」

「なにかあれば直ぐに駆けつける。気にならないなら、この魔石を身に付けて寝てくれないか?」


 小さな魔石が付いたネックレスをそれぞれ渡される。色違いで私達用に作った魔道具らしい。口を揃えて「欲しい!」と言ったら「いいよ」と笑ってくれた。魔道具でも外見は立派なアクセサリーなんだよね!全員でご機嫌!


「ウォルトは眠れてるの?」

「気配を察知する瞬間までぐっすり寝てる。相変わらず寝付きもいいし」

「輩も来てる?」

「たまに来る。仰々しい名を名乗る奴らもいるんだ。『羅刹の享楽』とか『闇夜の鵺』とか『縛血の凶刃』とか。相当な悪者っぽく聞こえないか?」

「悪ぶってる感はあるね」

「でも、実際はそうでもない。ボクが言うのもなんだけど、ちょいワルの集団ばかりだ」

「あははは!格好いいと思って付けてるのに、ちょいワルって!」

「だって事実だからね。ちょいなんだ」


 最初は『ニャ、ニャんだって!?』って過剰に反応してたのに、後では『ニャ~んだ』って顔になってそう。

 寝る時間まではゆっくり5人で話す。ウォルトの最近の出来事を中心に、それぞれ情報を共有しながら楽しむ。


 少し前まで熱があったから、全員疲れてるのは確かで、ベッドでの女子会も早めに切り上げて寝よう。皆でウォルトの看病を受けるという目的も達成したし、終わってみたらいい日だった!


 余談だけど、ウォルトがちょいワルと言ってた集団は、外国ではちょっとは名の知れた悪党共で盗賊みたいな輩らしい。

 アニカ達がギルドから「カネルラに入国している情報を得たから遭遇したら注意しろ」って言われたらしいけど、多分もうカネルラにはいないね。


 私はソイツらに言ってやりたい。本当に怖い奴っていうのは、名前とか見た目は至って普通で大抵いつもニコニコしてるってことを。

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