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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
575/715

575 ムリデル一家に教わる

 久しぶりにメリルがウォルトの住み家を訪ねてきた。


「辛くて美味いっ!最高だっ!」


 いつも激辛料理を褒めてくれるけど、街のシェフが作った方が美味しいんじゃないかな。ボクは一度も味見すらしたことがない。


「最近も魔道具製作は忙しいんですか?」

「適度に忙しい。ランパードさんが仕事をくれるから助かるやら大変やらだ」

「そうですか」

「はふぅっ…!今日は頼みたいことがあるんだ!嫌なら断ってくれ!」

「とりあえず、食べてからゆっくり聞きますね」


 食後で汗だくのメリルさんに冷えた水を差し出す。


「ぷはぁっ!水が美味すぎるっ!!」

「落ち着いたら頼みたいことを教えて下さい」

「もう大丈夫だ。私達の親父がリリムに会いたがってる。ウォルトの魔法でリリムを変装させてくれないか」

「お安い御用ですが、さすがにバレませんか?」


 肉親の目を誤魔化せる自信がない。


「バレるだろう。変装に気付く可能性は高い」

「それでもいいんですか?」

「構わない。リリムとも話したが会うことに決めた」


 2人は魔伝送器で連絡を取り合ってる。メリルさんのは生活魔法の魔力で補充可能なように改造しているから、フクーベの誰かに補充を頼んでるんだろう。話し出すときりがないから滅多に使わないと言ってた。


「2人がいいのならボクは構いません。会うのはいつですか?」

「今から行くつもりだ。泊まってるフクーベの宿にリリムを連れていく」

「なるほど。じゃあ、リリムさんに会いに行きましょう。メリルさんとまとめてボクが背負って運びます」

「汗だくなんだが」

「よければお風呂に入りますか?服は水洗いして魔法で直ぐに乾かせます」

「身体が熱いから、水を浴びるだけで構わないよ」


 メリルさんの要望に応えて、外で服を着たまま魔法で全身に水をかける。魔法でさっと乾かした。


「綺麗に乾いてますか?」

「大丈夫だ。さっぱりした」


 背負って修練場に駆け出す。


「相変わらず速い。これが楽しいんだ」

「よかったです」


 寄り道せずに修練場に着いて、スケ美さんを呼び出す。ポコポコと湧いてきてくれた。


「リリム。迎えに来たぞ」

『よし!行くとしようかな!』


 挨拶もほどほどにリリムさんを魔法で変身させる。顔も声も整えて準備万端。一時的に股関節を魔法で調整して、がに股になるのも修正した。

 

「完璧!ウォルト、ありがとね!」

「いつでも言って下さい」

「もうちょっと美人にしてくれてもいいけど」

「できますけど、双子なのにメリルさんと違う顔になります」

「だはっ!そりゃそうだね!」


 ボクは生前のリリムさんを見たことがない。メリルさんがいるから容姿が想像しやすいだけで、あとは皆の意見を反映してるだけだから見破られそうだと思ってる。

 スケさん達に見送られながら、修練場をあとにして駆ける前に2人を抱える。前にリリムさんで背中にメリルさん。魔力の網でしっかり支えて出発。


「おい、リリム。あまり適当に答えるなよ」

「わかってるって。父さんは勘がいいから普通にしておくよ」


 ボクを挟んで前後で会話する姉妹。ウイカとアニカとは違って新鮮。


「ウォルトも一緒にいてくれるの?」

「よければいます。なにかあれば魔法でフォローできるかもしれないので。ただ、邪魔なら待機しておくか帰ります」

「私はいてくれるほうが助かる。親父は変な奴だからな」

「まぁ、簡単に言うとそうかな!」


 変な人?ミーナ母さんのように、ひょうきんな性格なのかな?



 


 

 フクーベに到着して、目的地である宿を目指し3人で歩いていると声をかけられた。


「おい!リリム!」


 この声は…。振り向くと声の主は予想通りマードックだった。遠征帰りなのかホライズンの皆と一緒だ。遠くからドスドスと音を立てて駆けてくる。眼前に立ってリリムさんを見下ろした。


「やぁ、マードック!久しぶりだね!でっかくなっちゃって!」

「お前……元気だったんか?」

「いろいろあったけど元気だよ!サマラちゃんやウォルトから事情を聞いてないの?」

「コイツらは教えやがらねぇ」

「ボクはちゃんと訊かれたことがないぞ」

「うるせぇな!忘れてたんだよ!」


 コイツ…。言ってることがめちゃくちゃだ。急に顔をしかめたマードックは、スンスンと鼻を鳴らす。匂いで気付いたか。


「リリム…。お前……まさか…」

「しぃ~っ!ココじゃ内緒だよ!」

「…マジかよ」

「事情を知りたいなら今度ゆっくり話そうか。ウォルトの住み家でもいいよ!」

「あぁ…」

「そういえば番ができたらしいね!おめでとう!」

「おぅ。ありがとよ」


 こんなに素直なマードックは初めて見る。どうやらリリムさんの方が立場が強いみたいだ。


「あっ、そうだ!サマラちゃんにも言ったけど、気持ちは嬉しかった。今が幸せなら余計に嬉しいよ!」

「へっ。そうかよ」

「お姉さんとしては利かん坊の弟分を優しく抱きしめてあげたいけど、番がいるからなぁ~」

「いらねぇよ。ガキ扱いすんじゃねぇ」


 2人は笑い合う。


「おい、ウォルト。今度聞きに行くぜ」

「あぁ。わかった」


 マードックと別れて再び会話しながら宿を目指す。


「さっきのゴリラはリリムの元恋人か?」

「違うよ。冒険者のときのパーティーメンバー。今はゴツいけど昔は可愛くてね~。ね、ウォルト」


 ゴリラは否定しないんだな。


「そんな時代はアイツにはなかったと思います」

「なんと手厳しい!幼馴染みでしょ!」

「だからこそ知ってます。昔から可愛かった時期なんてないです」


 そもそも男同士にその感覚は皆無。特にマードックには微塵も感じたことはない。ヨーキーなら可愛らしいと言っても差し支えない。なぜか、ボクも4姉妹に「可愛い」と言われる。嫌な気持ちはしないけど褒め言葉じゃない。ファルコさんのように渋い獣人に憧れているから。


 なんて考えていると宿に到着した。


「着いたぞ」

「父さんがいるってワケね!」

「間違いない。行くか」


 姉妹は躊躇うことなく宿に入り、ボクも後を追う。メリルさんが受付で部屋を確認し、揃って向かう。どうやらムリデルさんという名前らしい。


「ボクは外で待っておきましょうか?」

「大丈夫!一緒に入ろう!」

「ウォルトがいても気にしない。だからウォルトも気にしないでくれ。いてくれるだけでいい」


 久々の再会なのにそんな人いるかな?とりあえず信じよう。メリルさんがドアをノックすると、「はい」と微かに声が聞こえた。


「メリルとリリムだ。入るぞ」


 喋りながら既にドアノブを回している…。とりあえず一緒に部屋に入ると、白髪交じりのボサボサ頭に丸眼鏡を掛けた男性がいた。


「姉妹揃って来てやった」

「なんでメリルはいつも偉そうなんだよ~」

「有り難く思え」


 とても親子の会話とは思えない。


「父さん、久しぶり!」

「………」


 ムリデルさんはリリムさんに近づいて、眼鏡を外したり付け直したりして覗き込む。


「リリム…。この姿は一体どうしちゃったんだ…?違和感しかない…」


 本当に即座に見破った。素晴らしい眼力。ボクの魔法はまだまだだ。


「冒険中に死んじゃったの!今は仮の姿なんだ!」

「そうかぁ~…。リリムは死んじゃったのか~………って、死んだぁ?!」


 反応が遅い。


「親父よ。昔から思ってたが、なんでそんなにのんびりしてるんだ?今までよく生きてこれたな」

「こういう喋り方なだけで、別にのんびりしてるないって~。驚かすなぁ~」

「あははっ。でも本当なの」

「道理で2人とも帰ってこないワケだ~。納得だよ~」

「私はただ帰ってないだけだぞ」

「メリルはわかってた~。人殺ししてなきゃいいな~くらいに思ってたから~」

「ふざけるな。雑すぎるだろ」

「リリムは死んでなきゃいいな~って思ってたのに、その通りになっちゃったか~」

「ゴメンね」


 それほどショックを受けてないみたいだ。


「メリルは仮の姿って言ってたけど、どういうことなんだ~?よく変装できてるな~」

「魔力で姿を映してるの。真の姿を見る?」

「見たいよ~」


 目配せしてきたので魔法を解除すると、メリルさんはビシッとポーズを決めた。


『どう?』

「見事に骨だね~。細いな~」


 それだけ…?ムリデルさんは動じない人なのかもしれない。


「それが親の台詞か?」

「今さら驚いても遅いだろ~。どんな姿でもリリムはリリムだし、冒険者になるって聞いたときに覚悟はしてたよ~」

『母さんには反対されたけど、味方してくれたもんね!』

「いろいろ言えないよ~。俺の娘だから似るのは普通だし~」

「全然似てないぞ」

『似てないよね』

「相変わらず姉妹で仲いいな~。いいことだ~」


 親子も仲がいいと思う。とりあえず、リリムさんはまた変身させておく。


「親父よ。1つ言ってもいいか?」

「なんだい?」

「私とリリム以外に、もう1人いるのに気付いてるか?」

「もう1人…?………わぁ~!ね、猫の獣人がいる~!」


 まさか…ボクの存在に今気付いたのか…?隠れもせず堂々と横に立ってたけど、かなり目が悪いのか…?


「君は誰だい?!」

「初めまして。ウォルトといいます。2人の友人で一緒に来ました」

「そうなのか~。俺はムリデルだよ~。2人の父親なんだ~」


 ぺこりと頭を下げられたので、ボクも下げる。驚いていたのに切り替えは早い。


「再会にお邪魔してすみません」

「別にいいよ~。どうせ俺が気付かないと思って呼んだんだろうから~」

「その通りだ。黙ってたら最後まで気付かなかったろ」

「父さんは視野が狭すぎ!」

「ウォルト。かなり抜けてるけど、こう見えて親父は研究者だ」

「研究者の方には初めてお会いします」


 ハズキさんやブライトさんは研究者に近いと思うけど。


「子供の頃は、私達もウォルトみたいに無視されたね!2人で話しかけても知らんぷりでさ~!」

「そんな時代もあったかな~?結果、メリルには逆に無視されるようになったけど~」

「やられたらやり返すだろう。さすがに子供でも腹が立つ。今でも思い出すとイラッとする」

「仕事だからさ~、大目に見てほしかったよ~。ルーラにもよく怒られたけど~」

「母さんは諦めてたよね!」


 気持ちはわかるなぁ。なにかに没頭してると周囲に気を配れなくなる。研究中ならなおさらだろう。


「それにしても、まさかメリルが恋人を連れてくるなんてな~。ルーラが喜んだろうに~」

「え?」


 なんでそうなるんだ?


「勘違いだぞ。ウォルトは私の恋人じゃない」

「じゃあ、ウォルト君はなんでいるんだ~?」

「リリムは遠いところに住んでいる。運んでくれたんだ」

「そうか~。骨のリリムに驚かないってことは、この事象の関係者ってことだろ~ね」

「そうだ。リリムと私の弟子でもある」

「その通りです」

「へぇ~」


 2人は友人であり、ボクにとっては戦闘と魔道具製作の師匠でもある。


「とにかく元気そうでよかったよ~。王都に行く前に2人に会えてよかった~」

「王都に行かれるんですか?」

「ちょっと仕事でね~。魔物や獣の研究をしてるんだけど~、カネルラにドラゴンが現れたから呼ばれたんだ~」


 わざわざ呼ばれるってことは、研究者として評価されてる人なんだな。


「生きてる内にドラゴンを見れるなんてまずないよ~。ちょっとでも力になれたらいいけどね~」

「大丈夫だろう」

「父さんは仕事だけはちゃんとしてるしね!」 

「一言多いけど~、なんだかんだ優しい娘を持って幸せだ~」

「無茶するなよ。倒れてももう母さんはいない」


 もしかして、ルーラさんは亡くなってるのかな…。


「いざとなったら私が一緒に住んでお世話するけど!骨身を削ってね♪」

「まだそんな歳じゃないさ~。頼らなくてもなんとかやれるよ~」


 骨冗句を軽くスルーしたな。


「どうせ1人の方が気楽なんだろ?」

「俺はさ~、ルーラ以外の人とは住めないって自覚があるよ~」

「そうか。いつでも遠慮なく言ってこい。私達ならいいだろ」

「その時は頼むよ~」

「ところで、親父とウォルトを会わせたのには他にも理由がある」

「いずれは結婚かな~?」

「研究者のくせに短絡的な思考はやめろ。ウォルトは魔物の生態に詳しいんだ。互いに役立つときがくるかもしれない」

「ボクの知識は大したことないですよ」

「それは助かるな~。ウォルト君、よろしく~」

「こちらこそよろしくお願いします」


 メリルさんにそんな狙いがあったなんて。ボクがこの場にいる意味がわからなかったけど、顔繋ぎで誘ってくれたんだな。


「ドラゴンについても訊くかもしれないよ~」

「ボクが知ってることは、一般的な知識しかないと思いますが」

「誰だってそうさ~。自分しか知らないことなんてほとんどないよ~。でも、1つでも多く知れたらそれだけで助かるんだ~」


 ムリデルさんは謙虚な研究者のような気がする。しばらく会話していたけど、4人でご飯を食べに行く流れになり、店に行くと思いきやメリルさんの家でボクが料理を作ることに。


 作りたいし楽しいので文句はない。むしろ感謝だ。


「美味いけれど辛味が弱いな…」


 抑えた辛味に不満げなメリルさん。


「1日2食はやりすぎです。また胃がやられますよ。これでもボクの思うギリギリを攻めてるので」

「むぅ…。仕方ないか」

「充分辛いって~。唇が腫れ上がりそうだ~。こんなの久々に食ったよ~。明日が怖いけど、味は確かに美味しいな~」

「私は味を感じないけど、なんか痺れる!メリルは辛いのよく食べてたね!」


 リリムさんにはスケさんと同様の魔法を施してある。消化は可能。


「久しぶりの会食だ。親父は腹いっぱい食え」

「無理だって~。お尻が火を噴く~」

「前より瘦せてるけど、ちゃんと食べてるの?」

「リリムには言われたくないな~。死なない程度に食べてるよ~」


 なんというか緩い空気が流れる食卓。でも家族らしい雰囲気でいい。愛娘が骨になったことすら動じないムリデルさんなら、ボクが魔法使いだと言っても驚かれたりしないだろうか。


「リリムに言っておきたいんだ~」

「なに?」  


 ムリデルさんは優しく微笑む。


「そんな姿で生きていられることが不思議で仕方ないけど、また会えて本当に嬉しいんだ。長生きしてくれよ」

「できるだけね!父さんより長生きできたらいいけど!」

「頼むよ」

「心配するな。リリムが逝く前には私が息の根を止めてやる」

「めちゃくちゃ言うなって~」

「普通に喋れるくせに腹立つ奴だ」


 確かに。ちょっと驚いた。


「真剣な口調は長く保たないんだよ~。知ってるだろ~?」

「間延びして喋ると、身体に雷が走る魔道具を作って装着してやるからな。死ぬまで取れないように改造して」

「やめろよ~!」


 3人を見て会話を聞いてるだけで楽しいな。今日のボクは、近年稀に見るぐらい何もしてない。そして、ろくに話してもいないけど、とてもいい時間を過ごせている。


 深く理由を訊くこともせず、娘が骨になっても「生きろ」と言ってくれる人がいる。そして、受け入れてくれる。


 何気ない家族の日常。そんなことが知れただけでいい日だと思えた。

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