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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
564/715

564 ほこたて

 久しぶりにマルソーがウォルトの住み家を訪ねてきた。好物のカフィを淹れてもてなす。


「またウォルト君に会わせたい魔導師がいるんだ」

「マルソーさんの紹介ならお会いしますが、今度はどんな方ですか?」

「クレスニさんの紹介なんだが、俺は知らない魔導師でね。是非会ってもらえないかと手紙が来た」

「気になります」


 クレスニさんは、マルソーさんの知り合いで炎魔法に特化したもの凄い魔導師。魔力を圧縮するように打ち出し、威力を高める技法を教えもらって本当に感謝している。今では多くの魔法に活かしている手法。


「クレスニさんはお元気ですか?」

「かなり元気だ。少し前に会ったけど、毎日の修練が楽しくて仕方ないらしい。魔法の幅が広がったおかげで交流も広がり性格まで明るくなった」

「魔法の修練は楽しいですよね」

「あぁ。ところで、会っても大丈夫か?」

「大丈夫ですが、その方はサバトに会いたいんでしょうか?」


 ボクにとっては結構重要なポイント。


「そうではなく、クレスニさんの魔法を矯正した人物に会いたいらしい」

「なるほど。だったら人間の姿で会った方がいいでしょうか?」

「クレスニさんは信用に足る魔導師だったけど、俺はその魔導師のことを知らない。その方が無難ではあるだろう」

「そうします。いつでもお越し下さいと伝えてもらえたら」

「わかった。それと、今日も少し魔法戦をお願いしていいか?」

「こちらこそ。お願いします」


 マルソーさんと魔法戦を繰り広げると、今回も魔法の強度を上げてくれている。このくらいならやれると判断してくれたのだろう。


 自分が少しずつ成長していることに気付ける魔法戦はやっぱり楽しいな。






 数日後。住み家の外で畑仕事をしていると、微かに声が聞こえてきた。マルソーさんとクレスニさんの匂いが鼻に届き、知らない人が1人いる。


 瞬時にテムズさんに変装して待ち構えていると、住み家の角から3人が現れた。やはり初めて見る男性がいる。

 なぜかニンマリ笑みを浮かべるこの人が、会ってほしいといわれた魔導師だろう。鍛えられた魔力が視認できる。


「ウォルト君…?」


 マルソーさんは、今ひとつ自信なさげに呼びかけてきた。名前は…別にそのままでいいか。わかりやすくていい。


「マルソーさん。クレスニさん。お久しぶりです」

「俺は数日ぶりだが」

「久しぶりだな。おかげさまで、王都で楽しくやってる」

「よかったです」


「クレスニさんには変装について事前に伝えておく」とマルソーさんから言われた。前にサバトに変身して見せたから驚かないと思うけど。

 クレスニさんの纏う魔力が前回と変化しているのは万遍なく魔法を修練しているからだな。変わらず磨かれてる。やっぱり凄い魔導師。


「ムスタング。彼がお前の会いたがってた魔導師だ」


 ムスタングさんがゆっくり前に出る。笑顔を浮かべて人付き合いが上手そうな雰囲気を醸し出してる。


「よろしく!俺はムスタングだ!」

「ウォルトです。よろしくお願いします」


 年齢はクレスニさんと同じくらいかな?長い髪に片目が隠れてる。


「とりあえず中へどうぞ。お茶を淹れます」

「お邪魔する!」

「うるさいぞ、ムスタング」


 それぞれに飲み物の希望を訊いて、カフィや紅茶を淹れた。


「うまっ!いいカフィ豆だな!」

「違うぞ。淹れるウォルトの腕だ。久しぶりだけど相変わらず美味い」

「ありがとうございます」


 マルソーさんは1人黙ってカフィを飲む。ボクの予想だと、ムスタングさんとは性格が合わないんじゃないだろうか。マルソーさんは人見知りらしいし、基本的に寡黙な人だ。


「ウォルト。急にお願いして悪かった」

「大丈夫です」

「コイツがどうしても会わせろとうるさくてな」

「誰だって気になるだろ。ずっと炎1本でやってきたお前が、いきなり他の魔法も操るようになるなんて考えられない」


 クレスニさんは炎の魔法を磨き終えて次の段階に移行した。そう思うのはボクだけなのかな?


「他は誰も気にしてないだろ」

「炎だけで闘う姿をどれだけ見てきたと思ってる!だから威力や操作が激変してることに気付く!今のお前はそこらの魔導師と大差ない!」

「俺の希望でこうなったから後悔してないんだっての」

「納得いくか!俺がウォルトに会いたかったのは、お前を元に戻してもらうタメだ!」

「はぁ…。何遍も言わせるな。今のままでいい」

「よくないんだよ!」


 ムスタングさんはボクを見る。


「お前がどんな手を使ったのか知らない。とにかくコイツの炎魔法を元に戻してくれっ!頼むっ!」


 頭を下げられても、それはできない。


「クレスニさんがこのままでいいと言ってます。貴方が決めることじゃないと思うんですが」

「…なんだとぉ~」

「頼まれて魔力回路を整えたとき、強い意志を感じたんです。だから、クレスニさん以外に言われても元には戻しません」


 他の人がやるのは止められないけど。ボクはクレスニさんの意志を尊重したい。


「この…分からず屋の若造めっ!」

「分からず屋は貴方だと思います」


 なにか理由があるんだろう。ただ、お互い他人のことに首を突っ込むのはほどほどにするべき。


「ムスタング。お前がウォルトに魔法戦で勝ったら、元に戻してもらうことにする」

「なにぃっ!?…二言はないな?!じゃあ、そこの更地で早速やるぞ!」


 ピューッ!と飛び出したムスタングさん。行動が早い…。


「ボクは魔法戦をやるなんて一言も言ってないんですが…」

「勝手なことを言ってすまない。ただ、伝える前にこんな状況になってしまったが、今回連れてきた目的でもあって、お願いしようと思っていた」

「目的が…ボクとムスタングさんの魔法戦ですか?」


 ちょっと意味がわからない。


「それでアイツは全て納得するはず」

「魔法戦をやってなにか変わりますか?」

「普通にやってくれるだけでいい。ウォルトも驚くことになるだろう。アイツの魔法には絶対に一見の価値がある」

「とても気になります」


 クレスニさんが言うのだから、凄い魔法に違いない。初対面の魔導師と魔法戦をやるのは気が引けるけど、驚く魔法は是非見たい。


 …となると選択の余地はない…か。






 更地で待ち受けるムスタングさんは、既にやる気満々。魔力が揺蕩っている。魔法戦は好きだし学ぶことばかりなので、ボクも当然やる気はある。一体、どんな魔導師なのか。


「ウォルト!悪いが勝たせてもらうぞ!」

「やってみなければわかりません」


 もちろん負けるつもりはない。


「いくぞ…」


 ムスタングさんの魔力が高まっていく。なにが来る?


 …………………。


「こらっ!ウォルト!」

「なんでしょう?」

「なぜ攻撃を仕掛けてこない!」

「なぜって……いくぞと言われたので待ち構えてます」


 怒られるようなことかな?


「ふっ!若いのに余裕がある!だが、俺の凄さを見たいなら魔法を放て!」

「見たいので、こちらからいきます」


 先制攻撃は滅多にやらないけど、まずは軽い魔法から詠唱してみよう。


『火炎』


 炎がムスタングさんの眼前に迫る。


「…その程度か」


 スッと手を翳して『魔法障壁』を展開すると…。


「…えぇっ!?」


 とんでもなく分厚い巨大な障壁が発現した。壁というより立方体に近い。


「こんなに強固な障壁は初めて見ます…」

「はっは!そうだろう!そうだろう!」


 凄い防御魔法だ…。無詠唱での発動といい、一目でわかる強固さといい、魔導師の中でも並外れているに違いない。クレスニさんの言う通りだった。見る価値がありすぎる魔法。

 

「コレで終わりじゃないぞ!」


 薄い『強化盾』を連続で数枚発現させると、横に倒し浮かせて高速回転させながら飛ばしてくる。大きく身を躱しながら観察すると、縁を刃物のように鋭利に尖らせている。触れたら切断されてしまうだろう。


「障壁で受けるんじゃなくて躱すとは素早い。本当に魔導師か?」

「じっくり見せてもらいたいので。こちらからもいきます」


 マルソーさんに教わった『操弾』で、あらゆる方向から攻撃してみる。


「見事な魔法だが、その程度では俺には通用しない!」


 障壁を変形させて全て受けきられた。ボクとは魔力操作が違って、もの凄く勉強になる。そんなやり方があるのか。

 

「さすがはクレスニが認めた魔導師だな!その若さで大したものだ!」

「ありがとうございます」

「だが…俺が勝つ。アイツには…最強の矛として復活してもらわなければならない!」


 ボクの頭上に細かく『強化盾』の箱を展開し、雨のように降らせてくる。魔法とはいえ岩のような硬さ。当たったらただでは済まない。

 防御魔法である『強化盾』を攻撃に使う発想と感性が素晴らしい。頭が固い魔導師にはできない芸当。


「本当に素早いな!」

「ありがとうございます」


 ここまでで気付いたこと。


「もしかして、ムスタングさんは防御魔法しか操れないんですか?」

「やはり気付くか」

「クレスニさんが自分に似てると言っていたので」


 そこまで教えられたら鈍いボクでもさすがに気付く。


「アイツの炎魔法はこの世に唯一無二。俺の障壁もな。最強のコンビになる…はずだった。それなのに…アイツは最強の武器を捨ててしまった!」

「捨ててはいないと思います。クレスニさんは、あのレベルまで再度磨き上げるはずです」

「どれほどの時間が必要になるか…。もったいない!」

「貴方達にはボクが知らない事情があると思います。でも、クレスニさんは多彩な魔法を操る道を選んだ。その意志を尊重します」

「俺は認めないっ!」


 一瞬でボクを取り囲んだのは、強固な『強化盾』。四方と上空を塞がれて逃げ場はない。箱の中の猫状態で『雷鳥の筺』を彷彿とさせる。


「もらった!」


 ムスタングさんが魔力を操作すると、『強化盾』が押し潰そうと迫り来る。


『無効化』

「なにっ!?」


 一瞬で壁を消滅させた。


「なんて奴だ…。その若さで『無効化』だと…」

「本当に凄い魔法操作です。尊敬します」


 展開する場所が遠いほど、そして数が多いほど発現させるのが難しい。いとも簡単にやってのけたけど、血の滲むような修練を重ねているのがわかる。


 この人も尊敬すべき魔導師。だからこそ、正々堂々この人の障壁を打ち破ってみたい。手を翳して詠唱する。


『火焔』

「むぅっ…!」


 魔法を受け止めてもびくともしない。この程度の威力では2割も削れないか。


「少々驚いたぞ!だが、まだまだだな!」

「確かにその通りで、勝負はこれからです」

「なにっ?」


 魔力を上げながら炎を放出し続ける。


「ぐぅっ…!まさかっ…!」


『火焔』は少しずつ障壁を削っていく。とにかく硬くて、ボクの知る純粋な『魔法障壁』では師匠の障壁に次ぐ強固さ。やはり世の魔導師は凄いと改めて感じる。

 ムスタングさんが言うように、ボクはまだまだひよっこ魔法使い。けれど、心は静かに燃やしてる。込める魔力を圧縮しながら放出し、どんどん威力を高める。


「な…!くっ…ぅっ…!」


 ムスタングさんも魔力を放出し続けている。押し返されるようでは話にならない。少しでも師匠に近づくには、1つずつ目の前の壁を乗り越えなければ。


「貴方の障壁を打ち破りたいです」

「最強の盾が……若造の魔法に負けるかっ…!」

 

 試すときがきたかもしれない…。二段階魔力圧縮の威力を。集中して魔力の圧縮に圧縮を重ねる。洗練された闘気のように。


「ぬぅあっ…!なにをする気だっ…?!」


 …いけっ!


「ぐわぁぁっ!!」 


 一瞬で障壁は砕け散り、爆風でムスタングさんは吹き飛んだ。身に纏うのが間に合わなかったか。


「大丈夫ですかっ?!」


 駆け寄って抱き起こすと、しっかり息はある。気を失ってるだけでホッとした。障壁が砕けた瞬間に『火焔』を消滅させたけど、所々火傷してる。直ぐに『治癒』での治療を開始した。



 ★



 ウォルトの住み家を後にして、クレスニはムスタングと2人で動物の森を歩く。


「納得したか?」

「あぁ!せざるを得ないだろ!負けたからなぁ!」


 マルソーはウォルトの住み家に置いてきた。来る道中でムスタングと反りが合わないのがわかった。同行を無理強いするのはよくない。きっと、ウォルトに変な魔導師が接触しないよう気を使って来てくれたんだろう。感謝しなければ。


 木漏れ日の中を歩くのは気持ちいい。今日も、前回来たときと変わらず清々しい気分だ。ムスタングの傷は、何事もなかったようにウォルトが治療してくれた。すっからかんになった魔力も全回復。

 美味い食事までこしらえてくれて、相変わらずのもてなし好きだと笑ってしまった。どうやらムスタングの防御魔法に大満足だったようだ。


 俺とも手合わせしてくれたが、今の技量に合わせた気持ちいい魔法戦だった。ウォルトと魔法戦をやると、自然と限界を超える気がする。「学ばせてもらいました」とお礼を言われたけれど、こっちの台詞だ。


「お前との約束は忘れてないんだ」

「あぁ!」

「だが、以前の俺では最強の矛にはなれない」

「あぁ!そうかもなぁ!」

「そして、お前も最強の盾にはほど遠い」

「そうだよっ!久しぶりに砕かれた!いつ以来だ?!完敗だった!」


 俺とムスタングは古い付き合い。人見知りの俺と社交的なムスタングは、対照的な性格だが共に操る魔法が限定される欠陥魔導師とあって馬が合った。

「才能がない」「さっさと辞めろ」と言われ続け、蔑まれても魔法を辞めるつもりはなかった。バカにした奴らを見返すタメにがむしゃらに鍛えてきた。


 冒険者として活躍したくて互いに腕を磨き、「操る魔法が少なくても誰にも文句を言わせない魔法を操ればいい!」と修練を重ねた。そして、いつかカネルラ最強の矛と盾と呼ばれる存在になる。それが俺達の目標であり若い頃に交わした約束。


「俺は…ウォルトに出会って知った。1つの魔法を磨き続けるだけでは万物を貫く矛にはなれない」

「…まぁ、お前の言ってることはわかる」

「炎魔法も以前のレベルまで鍛える。他の魔法も磨く。時間はかかっても前より太く鋭い矛になる」

「そうか。俺は…このまま盾を極めてやる!」


 魔法戦を終えたムスタングは、俺とは違う反応だった。障壁を破壊されたことを悔しがり、「絶対に誰にも破れない障壁を張ってみせる!」とウォルトに宣言した。これからも一途に磨き続けると。


「お前は心配すんな!」

「なにをだ?」

「俺がお前の盾になってやる。ライアンさんみたいなジジイになる前には、修練を重ねて最強になれ!」

「…あぁ。頼む」


 有り難い提案に甘えることなく精進だな。


「ところで、ウォルトは何者なんだ?あの若さで大した魔導師だ。なんであんな辺鄙な場所に住んでる?」

「俺も詳しくは知らない。ただ、静かに暮らすのが好きらしい。言っておくが…」

「誰にも言うな…だろ?何回言うんだよ。信用しろ」

「破れば二度と会えない。だから念押しだ」


 ウォルトが言っている。本人は「騒がしくなればいなくなるだけです」と笑っていたが絶対に姿を消されるワケにはいかない。

 あの男の魔法はカネルラの至宝。表舞台に立たずとも、俺のように救われる魔導師が必ずいるはずだ。不用意な言動で追い込むなど許されない。


「俺も再戦しなければ気が済まない!今日はギリギリやられたが、次の魔法戦では華麗に防ぎきってみせる!」

「ギリギリ…?なにをバカなことを言ってる。アイツは半分の力も見せてない」

「そんなワケあるか!どんな化け物だ!アホか、お前はっ!」


 コイツ…本気で気付いてないのか?


「あのなぁ、ウォルトの最高威力の魔法はお前の障壁を簡単に砕く。あの『火焔』はかなり手加減してるんだぞ」

「う、嘘吐けっ!」

「嘘じゃない。前に見てるからな」


 端から見ていたら一目瞭然。ウォルトがどう思ってるか知らないが、前回見た『火焔』は倍近い威力だった。

 今日のは以前の俺より少し強いくらいで、なにかしらの技法を試してる風だった。複合魔法や全力の魔力弾を食らえば、ムスタングの障壁であってもひとたまりもない。

 ざっと50以上の魔法を操ると言っていた。ウォルトに全力を出させて、魔法戦で勝てる魔導師になるのが今後の目標の1つ。その先に最強の矛はある。


「もう1つ言っておく。防御魔法もウォルトの方がお前より上だ」

「なんだと?!さすがにあり得ない!」

「信じないなら別にいい。だが、俺がお前を揶揄うことはない」

「…っ。マジってことか…。俺は…燃えてきたぞっ!この野郎!」


 ははっ。普通なら断固認めないだろうが、ムスタングに信じざるを得ないと思わせるアイツはやっぱり凄いな。

  

 俺達が超えるべき高い壁。



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