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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
561/716

561 どうしても忘れるんだよなぁ

 本日、ウォルトの住み家を4姉妹が揃って訪ねてきた。


「うぅぅ~…っ」


 ウォルトはあまりの気持ちよさに思わず唸り声が出てしまう。


「ウォルト、気持ちいい?」

「かなり気持ちいい…」

「やったね♪」

「サマラさん!次は私がやります!」

「頼んだ!」

「こんなのはどうですか!」

「凄くいいよ…」

「やりました!次はお姉ちゃんかチャチャ、よろしく!」


 遊びに来てくれた4姉妹が、代わる代わる毛皮にブラシをかけてくれる。いつも髪や毛皮を乾かすお礼らしいけど、本当にブラシがけが上手い。

 ローブを脱いで椅子に座り、普段苦労している背中のブラシがけをやってもらうのは抗えない気持ちよさで、全身の力が抜けてしまう。


「目を瞑ってください」

「うん」


 ウイカは顔から頭を重点的にかけてくれる。気持ちいいなぁ~。自分でやるのとは全然違う。耳も倒れる気持ちよさ。


「兄ちゃん。腕を水平に上げて」

「うん」


 チャチャは両腕にブラシをかけてくれる。これまたいい力加減で気持ちいい…。


 ………。


「…ちゃん。兄ちゃん?」

「…はっ!?ゴメン、寝てた…」

「寝てていいよ。後で起こすし」

「いや…。皆がせっかく頑張ってくれてるのに……寝るなんて……すぅ……」

「ふふっ。おやすみ」






「…はっ!」


 いつの間にか自分の寝室のベッドに寝ていた。貫頭衣を着せて運んでくれたのか…。申し訳ないことをした。

 外では夕告鳥が鳴いてる。昼過ぎだったはずなのに、気付けばもう夕方。ぐっすり寝てしまってる。晩ご飯の時間だ。早く準備しよう。


 背伸びして起き上がり、部屋から出ると台所からいい匂いが漂っていて、楽しそうな4人の話し声も聞こえる。こっそり後ろから覗いてみると、手分けして調理しながらテキパキと動いてる。働き者の4姉妹は、それぞれの役割をこなしながら助け合うことも忘れない。


「寝ちゃってゴメン」


 驚かせないよう静かに呟く。


「起きたの?ゆっくり寝ててよかったのに」

「今日の晩ご飯は、私達に任せてください」

「腕によりをかけますね!」

「たまにはいいでしょ?」


 今さら加わっても、出来上がった味を崩してしまうかもしれないな。


「お願いするよ。ありがとう」


 言葉に甘えて任せることに決め、居間に移動して椅子に座り静かに待つ。


 ………………暇だ。


 5分と保たず暇に耐えられなくなる。こんな時は、大抵魔法の修練か魔導書を読むんだけど……どうするか。


 よし。『割芯』の修練をやろう。多重発動に必要な技術を習得する『割芯』の修練は、いつでもできるし予定がない時の方がいい。どうしても軽く頭痛が残るから。今のボクが同時に発動できる魔力は3つまで。これを4つにするのが当面の目標。

 体内で時間をかけて魔力を練り上げ複合するのは可能だけど、瞬時にかつ別々に操れると魔法の幅が一気に広がる。なかなか上達しないけど、まずは発動から磨こう。



「ウォルト~!そろそろご飯できるよ~…って、なにしてんの?」

「魔法の修練をしてるんだ…」

「ふ~ん。頑張ってね!もう少々お待ちを!」

「うん…。ありがとう…」


 ボクがこなしているのは、円と三角と四角を空中に同時に描く修練。3種類の違う魔力を同時に発動して描いてる。あと1つ加えるのがかなり難しくて、できそうでできない。痒いところに手が届かない感覚でなにかが足りない。

 師匠が見せた多重発動も4つ同時は覚えがない。でも、あの人は軽く5つはいけると思う。もっとかな。そうこうしていると晩ご飯が運ばれてくる。


「できたよぉ~」

「美味しくできたと思います」

「力を合わせた自信作です!」

「いい感じですよね」


 作ってくれたメニューは、とても美味しそうなアヒージョ。熱々でオイルのいい香りが漂う。


「4姉妹の共作を召し上がれ!」

「うん。いただきます」


 具を一匙すくって、息を吹きかけながら口に運ぶ。凄く美味しい。


「美味しいよ」

「やったね!皆、食べよう!」

「「「いただきます!」」」


 楽しそうに会話しながら食べる4人を見て、こっちまで楽しくなる。いつまでも冷めないアヒージョを美味しく頂いた。


「ごちそうさま」

「満足?」

「大満足だよ。とても美味しかった」

「そうでしょう、そうでしょう。なんで美味しいかわかる?」

「なんでって言われても…皆の料理が美味しいからとしか言えない」

「それも正解だけど、別の理由もあるんだなぁ」

「別の理由?」


 なんだろう?食材はいつもと変わりない気がしたし、隠し味も効いてなかったような…。


「調理技術の話はしてないの!」

「心を読んでくるね」

「わからいでか!わからないなら教えてあげよう!今年は…チャチャがお願い!」


 今年は…?


「わかりました。まず…兄ちゃん、いい加減にしよう」

「なにが?」

「来たときからあまりに予想通りすぎて、4人の話が盛り上がったよ」


 4人揃って苦笑い。


「あのね、今日なんの日?」

「今日?カネルラの建国記念日じゃないし…」

「去年と同じこと言ってる。だったら、コレでわかるかな。兄ちゃんは……いま何歳?」


 ボクは………あぁぁぁっ!


「ボクの誕生日だ!」

「そうだよ!23歳の誕生日、おめでとう!」

「「「おめでとう!」」」


 そうか…。今年もすっかり忘れてた。


「ホント毎回平常運転で笑える!」

「いつ気付くかってかなり泳がせたんですけど」

「ウォルトさんは見事に泳ぎ続けましたね!」

「たまには自力で気付こうよ」

「誕生日に興味がないんだ。そうか…。今日で23か…」


 1年間生きていられたことは素直に嬉しい。


「というワケで、『気合いと愛情を込めて作ったから美味しかった』が正解だよ!」

「そうか…。ありがとう」

「どういたしまして。では、アニカ!お願い!」

「はい!」


 アニカは寝室に戻り、包装されたモノを手に戻ってきた。


「まさか…」

「私達からのプレゼントです!あと、来年まで待つは禁止ですからね!」

「そ、そっか…」


 受け取った感じだと、見た目の大きさに反して軽い。布とかの素材かな?


「開けてもいい…?」


 揃って頷いてくれる。慎重に包装を解くと木箱が現れた。これまた慎重に蓋に指をかけて、そろりそろりと持ち上げる。


「危険なモノが入ってるような開け方してるね」

「綺麗に取っておきたいから慎重になってるだけだよ…」

「その速さだと日が暮れますよ?」

「日が変わるまでに開ければいいからね…」

「ガバッといっちゃいましょう!一気に!」

「今回は無理かな…。傷付けたら申し訳なさすぎる…」

「兄ちゃん!こっちがドキドキするからやめてよ!」

「ボクも動悸が治まらない…」


 呆れられてもボクはこういうことに慣れてないんだ。自分が開けたいように開けさせてもらう。


「ふぅ…」

「見る前からめっちゃ疲れてるじゃん」


 なんとか蓋は開いた。意を決してゆっくり中を覗き込むと…。


 ブルルルルッ!


「ニャァァァァァッ!」

「「「「うわぁぁぁっ!」」」」


 テーブルに置いていたボクの魔伝送器が震えた。驚いて大きな声を出してしまう。


「いきなりなにっ?!驚かせないでよ!」

「ビックリしました。心臓に悪いです」

「この家には大きな猫がいます!」

「驚きすぎだよっ!箱を開けるだけなのに、どれだけ緊張してるの!?」

「ゴメン…」


 魔伝送器を見ると…呼び出しているのは母さんだ。手に取って魔石に触れる。


「どうしたの?」

『ウォルト!誕生日おめでとう!忘れてたでしょ!?』

「ありがとう。完全に忘れてたよ。よく覚えてたね」

『アタシをなんだと思ってるんだ!アンタを生んだ母親だぞ!バカ息子!』

「忘れてたよ」

『なぁにぃ~!生意気なっ!まぁ、いいでしょう。今日は4姉妹に免じて許してあげよう!いるんでしょ?』

「いるよ。今年も誕生日を祝ってくれてる」

『この幸せ者め!たらふく祝ってもらいなさい!今日という日に生んだ感謝を忘れなさんな!じゃあねっ!』


 ブツッ!と通話は切れた。元気そうでなにより…としか言い様がない。


「ミーナさんは優しい母親だよね」

「たった1人の偉大な母さんだ。調子に乗るから言わないけど、心から感謝して尊敬してる」


 そんなことより箱の中身はなんだろう?改めて覗き込んでみる。


「コ、コレはっ…!最新のメーカトルだ!」


 そっと箱から取り出して眺める。


「また大きく変わってる…。もの凄く嬉しいよ…。皆、ありがとう…」


 メーカトルはいわゆる世界地図。未だ全容が掴めない世界各地の情報を収集して定期的に更新されている。新たに発見された大陸だったり、島だったりという情報を加えて、最新の情報で編纂された後、各国に配布される。ボクが最後に見たのはフクーベに住んでた頃。何年ぶりだろう。


「喜んでくれてよかった!」

「ウォルトさんはロマンが好きなので」

「実はミーナさんにもアドバイスをもらいました!」

「兄ちゃんはこういうのも好きなはずって教えてくれたの」

「そうだね…。小さな頃から好きで…」


 今は思わないけど、フィガロに憧れてたから色々な国や地域に行ってみたかった。想像を膨らませるのが楽しくて、メーカトルばかり見てた。

 最近では気にもしてなかったけど、実際に最新の地図を見ると昂る。どんどん世界が広がってると実感できる。


「普通に出回ってるから、プレゼントとしてはどうかとも思ったんだけどさ」

「いや。街にも行くようになったけど、メーカトルのことは思い出しもしなかった。深層心理を見透かされたようで凄く嬉しい」


 色々な感情を思い出させてくれた。高価だとか希少じゃなくても、考えて心に響くモノをもらえるほうが嬉しい。


「本当にありがとう。大切にする」

「どういたしまして」


 久しぶりに空想の旅に出てみよう。皆の誕生日にはお返ししないと。


「それなんだけどさ、ちょっと提案があるの」

「まだなにも言ってないよ」

「言わなくてもわかってるって。あのさ、私達は4姉妹じゃん?」

「そうだね」

「皆で1つのプレゼントをしたよね?だから、私達にお返しするなら一度にお願いしたいの。事前に話し合ってる」


 サマラ以外の3人は笑顔で頷く。


「一度にって…同じ日ってこと?」

「そう。お返しするなとは言わない。言っても聞くとは思えないからね!でも、皆で集まって同じ日に祝うってありだと思うんだよ。私達もそれぞれ忙しかったりする。でも、たった1日ならほぼ確実に全員が集まれるし」

「ボクはいいけど、皆はそれでいいの?」


 揃って頷く4人。


「だったら、その日に最初からボクも加えてくれてよかったのに」

「そうだけど、今年まではいいじゃん!驚かせたかったの!」

「そっか。その日が近づいたら教えてほしい。お返しも準備したいし料理も作りたい」

「早めに教えるよ!そんなことより、お祝いだから軽く飲もうよ!」

「そうだね。久しぶりに飲みたい。薄くしたお酒なら大丈夫だと思う。今日のボクは、体調も万全で気分も絶好調だから」


 強いお酒でもすいすい飲める気分だ。



 ★



「本っ…当に期待を裏切らないよねぇ~」

「ふふっ。可愛いですよね」

「ウォルトさんにハズレなし!」

「兄ちゃんらしくて落ち着きます」


 サマラは若干呆れた。


 何滴かのお酒を混ぜたジュースを飲んで直ぐに眠りに落ちたウォルトは、椅子の背もたれで反り返って後ろに首が折れてる。今日はイケる!って自信満々な顔してたから可笑しさしかない。


「このまま変に起こすと…」

「出てきちゃうかもしれませんね…」

「キザなアイツが…!」

「あの兄ちゃんもどきは嫌いです」


 1年前、突如現れたキザ猫は皆に大不評。私ですら面倒くさいと思う。ただ、アレはウォルトの本性じゃなくて別人格だという認識。


「この姿は他の人じゃ見れないよね。私達の前だからこうなるんだよ」

「お酒が混じってることを嗅ぎ取って飲まないはずです」

「完全に心を許してくれてますよね!」

「もうちょっとお酒に強くなってほしいんですけど」

「そう?面白いと思うよ」

「心配ですよ。花街とかで飲まされたりしたら…怖くないですか?」

「可能性あるかなぁ?そうそう行かないと思うけど」

「嗅覚が役に立たない場所では、お酒に気付かないはずです。花街ではお香を焚いてますよね。しかも、数滴でこの有様ですよ?私は弱点だと思ってて」


 確かにリタならやりかねない…。どうもウォルトを気に入ってるっぽいし。


「チャチャの心配もわかるなぁ。そこは心配かも」

「私は意識がない状態でなにか起こってもそれは仕方ないと思う!その時はウォルトさんは悪くない!」

「そうなんですけどね。あまりに弱すぎるから心配しちゃうんです」


 当の本人は、幸せそうにムニャムニャ言ってる。いい夢を見てそう。


「私達がそうならないようにしないとね。眠らせてから無理やりってさ!」


 私は見てなかったキャミィの魔法について聞いたり、銀狼のペニー達の話もしながらウォルトが起きるのを待つ。チャチャが水桶を持ってきたけど、今回は宥めてとりあえず床に待機中。毎年恒例になっちゃいけないからね!


「ん…がっ…」


 珍しくおじさんみたいな声を出してウォルトが起きた。


「おはよ!」

「………」


 キョロキョロするだけでなにも言わない。


「まさか…」

「出てきますか…?」

「直ぐに眠らせる準備はできてます…」

「桶もありますし」


 激しく瞬きしたウォルトは、申し訳なさげに笑う。


「また寝てたね。毎回やってしまってゴメン」


 どうやらただ起きただけみたい。


「皆に感謝しかないよ」

「いきなりどしたの?」

「コレも皆からのプレゼントだと思う。前に両手を出してくれないか?」

「両手を?こう?」


 意味不明だ。


「皆のおかげで、こんなことができるようになったよ」

「…わっ!」


 私達の手の中に、いきなり大きな花束が。全部違う花で種類も色も違う。


「どういうこと?」

「今までも、同じように魔法の花を咲かせることはできた。でも、この魔法は異なる4つの魔力を操って同時に発現させたんだ。夕方の修練ではできなかったのに急に閃いた。それぞれにお返しができて嬉しいよ」


 意味がわかんないけど、どうやら凄いことみたい。


「ウォルトが嬉しいならそれがなにより!」

「楽しかったですね」

「私達が力になれたなら最高です!」

「ちょっとキザかも…。本当に兄ちゃん…?」


『キザだったかニャ?』って顔してる。そんなウォルトは、シャキッとしてからお酒の肴を作ってくれた。

 大好きなことだと知ってる私達は、存分にお酒と料理を楽しんでお風呂に入り、仲良く添い寝することに。当然ウォルトに拒否権はなし。


 ふっふっふ…!いかに寝付きのよさが自慢のウォルトでも今日は寝過ぎて直ぐに眠れまい。存分に興奮して添い寝を堪能するといいよ。


 こんなに理解があるのは私達だけなんだからね!

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