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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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559 ギルティ

「よっしゃ!ゲンロク、昼飯にすっぞ!」

「おうよっ!」

「ウォルト!頼むぜい!」

「わかりました」


 ウォルトは、フクーベの大工ゲンゾウの仕事を手伝いに来ている。離れを建てたときにも助言してもらって、お礼をしたいとずっと思ってた。

 久しぶりに訪ねたら仕事が忙しそうだったので手伝うことに。ゲンゾウさんとカンナさんにお願いして、料理も作らせてもらえることになった。


「ウォルト。ご飯まで用意してもらって悪いね」


 調理していると、ウォリックを抱いたカンナさんに話しかけられる。


「好きでやってます。ウォリックの世話も大変だと思うので、たまにはゆっくりして下さい」

「あぅっ!」


 ボクの名前から字を取ったウォリックは元気にすくすく育ってる。ゲンゾウさん達に似て眉がしっかりしてて、キリッとした風の顔が可愛い。指を近づけると小さな手でキュッと握ってくれた。


「アンタはなんでもできて、いい旦那になるよ」

「そうでしょうか」

「あんまりやり過ぎちゃいけないけどさ。ゲンロクも見習ってくれるといいけど、まぁ期待するだけ無駄だね」


 話しながらも手は止めず、料理を作り終えて皆で食べる。椅子に座らず床に直接座って、皆で囲む低くて円形のテーブルはちゃぶ台というらしい。

 足が折り畳める仕様になっていて、円になって食事をすると雰囲気が違っていい。顔もよく見えるし、四角のテーブルより繋がってる気がする。


「美味えっ!飯屋より数段美味えぞっ!」

「美味しいよ。凄いねアンタは」

「あぅ~っ!」


 離乳食も口に合ってくれたかな。


「だっはっは!珍しくウォリックも満足げじゃねぇか」

「珍しく…?お義父さん…どういう意味…?」

「おっと、そんなことよりウォルトも食えよ!」


 見事に誤魔化した。

 

「ちょっと気になったんですが、ゲンゾウさんの家系は東洋にルーツがあったりしますか?」

「なんでそう思うんでい?」

「このちゃぶ台とか、床に敷いてる畳が東洋っぽいと思って」


 畳は茶室に敷かれることは知ってる。干し草のいい香りがして、床より柔らかい座り心地。


「東洋に興味があるんか?」

「あります。西洋とは違う趣があって、料理もたまに作ってます」

 

 ボクの場合、暗部のことを知りたくて東洋に興味を持った。最近では魔法も系統が違うから気になっていたりする。


「俺の先祖は東洋から流れてきたらしいぞ。家具なんかは使っててしっくりくる。カネルラじゃ珍しいけどな。嫁さんは「変だ!」って言い切ったもんよ」


 そういえば、ゲンゾウさんの奥さんには会ったことがない。


「お袋は今頃なにしてんだろうな?」

「知らん。その内帰ってくるだろ」


 今、家にはいないのか。


「お義母さんは自由な人なんだよ」

「そうなんですか?」

「アタシも何回かしか会ったことないんだ。この間は生まれたばかりのウォリックを見て、直ぐにどこかに行っちゃってさ」

「昔っからだ。ふらふらして根なし草みてぇな暮らしがいいんだと。俺にゃさっぱりわからねぇ。根っこを張ってドンと生きりゃいいのによ」

「長ぇときは何年と帰ってこねぇもんな。けど、大事なときには絶対いる。あれだけは不思議だ」


 家族の形はそれぞれ。離れていても家族は家族ということ。スケさん達もそうだ。


「よっしゃ!飯食ったらまた作業するぞ!」

「おぅ!」

「後片付けは私に任せてウォルトも行きな。美味しかったよ」

「あぅっ!」

「お願いします。ウォリックもまたね」


 作業場に戻って、木材の切り出しや加工を手伝う。ゲンロクさんには伝えてないので、魔法は封印。ノコギリや他の道具を使った手作業で行う。


「ウォルト。お前さんはホントに器用だな」

「職人になったらどうだ?ノコで木を真っ直ぐ切るだけでも難しいってのに、なにやらせても難なくこなす。力もあるし」

「ありがとうございます」


 丁寧な作業を心掛けてるからかな。力については人間よりは強いだけ。鉄工には鉄工の、木工には木工の難しさがあってやり甲斐がある。


 今日のノルマを終えると、ゲンロクさんは酒を買いに行くとのことで、ご機嫌で街に繰り出した。「待てぃ!」とカンナさんにスリッパを投げられながらも、華麗に躱して走り去る。仕事終わりのお酒くらいは楽しんでもよさそうな気がするけど。


「今日はありがとよ。かなり捗ったぜい」

「少しでも力になれましたか?」

「充分すぎらぁ!だっはっは!」

「親子2人でこなすには大変な仕事量ですね」

「人を雇ってる時期もあるけどよ、なかなか上手くいかねぇもんだ。忙しいのは苦にならねぇし、親子だけの方が気兼ねなく文句も言い合えるってもんよ!」

「気を使わなくていいのは楽ですね」

「あんま厳しくすると直ぐに辞めちまうし、厳しく言わなきゃ危ねぇ仕事だ。腕も上がらねぇ。ちっとでも耐えられたら違うんだがなぁ。身体がキツいってのもあるけどよ」


 笑いながら肩をグルグル回す。


「余計なお世話だと思うんですが、よかったら使ってもらいたいと思って、魔道具を作ってみたんです」

「魔道具?なんでぇ?」


 持参した布袋から取り出して手渡す。


「見た目はノコギリだが…それにしちゃあ柄が長いな。あと、重い。魔道具っぽくはねぇけど」

「あえて普通の道具っぽく作ってみたんです。こうやって使うんですけど」


 受け取って軽くノコギリを振ると、刃だけが高速で動き始める。

  

「なんだぁ?!」

「こうやって…」


 角材の切れっ端を押さえて刃を当てると、高速で前後しているので簡単に切断できる。力はまったく入れてない。


「たまげたぜ…。どんな仕組みなんでぇ?」

「柄の部分は二重になっていて、中の部分には動いてる幅だけの隙間があります」

「そりゃそうだろう。けど、どうやりゃこんなに動き続けるんだ?」

「柄の両端の部分に、『反衝撃』という魔法を付与してます。正確には魔石を加工して取り付けてるんですが」


 一度振ることによって片側に衝撃が加わり、反発した力で振り子のように逆側に動く。そして反対側でも同様に反発して弾かれ、動き続けるだけの単純構造。


「そんな魔法があるたぁ驚きだ。どれ、一丁やってみっか」


 ゲンゾウさんは実際に使ってくれた。刃の止め方も教える。といっても、刃を地面に軽く押しつけるだけ。


「こりゃ便利だ。けど、普段の仕事じゃ使うこたぁねぇよ」

「ですよね」


 職人は道具にもこだわりがあって、自分の腕が鈍るようなこともしない。わかってて作った。


「けど、有り難くもらうぜい」

「いいんですか?」

「新しいことに使えるかもしれねぇ。せっかく作ってくれたモンなら、活かす道を考えろってな。見てくれは頑固でも頭は柔らかくいねぇとよ!」

「使ってくれると嬉しいです」


 少しでも仕事が楽になればと作ったけど、無駄になる可能性が高いのはわかってた。気を使わせてしまったかな。


「あのバカの弟子なのに、全然やることが違うモンだ」

「師匠ならもっと凄い魔道具を作れます」


 不器用なのに、魔法絡みだけはなんでも得意という不思議。魔法で作業させたら右に出る者はいない。でも、手作業は子供以下だし、作る魔道具も構造は大雑把。効果の大半は付与された魔法の凄さだ。大きな力の前では、細かい技術なんて無意味だと思わせる魔法使い。


「誰もがたまげるモノを作るだろ?とんでもねぇ石を作れるんだから」

「そうですね」


 ゲンゾウさんは師匠から賢者の石をもらってる。作ったのが師匠なのかは不明でも、可能性は高い。


「職人が認める達人ってヤツだ。世間じゃ変人扱いされるレベルじゃねぇか?」

「本人は気にも留めないと思います」

「だろうな。あと、アイツは使う側の気持ちを汲まねぇ。自分はなにもできねぇからわからねぇんだ。お前さんは、もっといいのが作れるのにわざと抑えてコレだろ?使い慣れた道具に近づけるならこんなもんかってな感じでよ」

「そうですね。そこは気をつけてます」

「道具は使ってもらってこそだ。アイツはよ、「楽なノコギリを作ってくれ」って言おうもんなら、岩でも切れるノコギリを作るとみたぜ!そんなもん誰もいらねぇってんだよ!だっはっは!」

「あり得ますね」


 本当に的確な読みだと思う。早く2人の会話を聞いてみたい。


「そういえば、師匠はこの場所に来たんですよね?」

「おぅよ。あそこに太い木が並べてるだろ?昔は乾かすとき壁に立て掛けてた。それが全部倒れて何人か下敷きになっちまったってワケだ。運び出しで来てもらってた手子もな」


 ゲンゾウさんが指差した先には、かなり大きな材木が並んでる。下敷きになったらタダでは済みそうにない。


「あんときゃ人生で一番焦ったかもしれねぇ。アイツがいなけりゃ、ゲンロクは生きてたとしてもあんなに元気じゃねぇよ。手伝ってくれた仲間もな。商売もやめてた。だからよ……死ぬほど感謝してんだぜ…」


 上を向くゲンゾウさん。


「けどよ……それを上回るくらい腹が立ってなぁ!まったく困ったやっちゃ!」

「大恩があっても、簡単に吹き飛ぶくらいムカつく性格なので仕方ないです」


 気持ちがわかりすぎる。


「だっはっは!ちげぇねぇ!今度ゆっくり話しながら酒でも飲もうぜ!一晩で足りるかわかんねぇけどよ!」

「是非。2人の思い出がある住み家で飲みましょう」

「おうよ!ちなみに、お前さんはあの木を魔法で持ち上げられるか?」

「できると思います」


 並べてある材木の傍で『無重力』を付与する。


「コレで簡単に持ち上がります」

「マジだな…。重さがまるっきりなくなっちまってらぁ」


 大木をゲンゾウさんが軽々持ち上げる。


「他にも幾つか手段はあって、師匠はこうしたんじゃないですか?」


『風流』で風を下から送り込み、上手く浮かせたところで『破砕』で軽く吹き飛ばす。師匠なら風の魔力操作だけかもしれない。


「思い出したぜ。そんな感じでどかしたな」

「複雑に重なった材木を、二次被害なく効果的に動かすにはどうすればいいか。一瞬で判断して魔法操作したはずです」

「頭は切れるんだよな。言うことは幼稚なくせによ」

「知識が桁違いでしかも賢いです。ボクが思うに、知能の高さは群を抜いてます」

「身体を使うことはからっきしだけどよ」

「器用で肉体も強かったら、もはや完全無欠の化け物です。ボクが神なら与えてはいけないと思うでしょうね」

「かっかっ!そりゃそうか!」


 動かした木を元に戻して、そろそろお暇しようと考えていたら、遠くからカンナさんが駆けてくる。鬼の形相で、誰が見てもわかるくらい怒ってる。

 

「カンナ!どうしたってんだ?!」

「お義父さん…!アタシは…もう我慢ならないんだよっ!今回ばかりは好きにさせてもらうからねっ!」


 カンナさんは作業場に駆け込んだ。


「おい!カンナ!ちょっと待てって!おい!…なんだってんだ?」

「なんでしょう…?」


 後を追うように息を切らしたゲンロクさんがやってきた。


「ゲンロク!テメェ、なにやらかしたんだ?!」

「はぁ…。はぁ…。バレた…」

「バレたぁ?なにがぉ?言ってみろ!」

「俺が……花街に行ってたのがバレた。ツケの取り立てに来たみてぇだ。すれ違いだ」


 もしかして、借金(ツケ)を払うために酒を買うと嘘を吐いて行ったのか?


「はぁぁ?!懲りずにまたやったんか!?何遍同じことすりゃ気が済むんだ!このバカ野郎!呆れてモノも言えねぇ!」


 話から推測すると、毎回許してもらってたけど遂にカンナさんの堪忍袋の緒が切れた…ということっぽい。


「親父には言われたくねぇよ!お袋が帰ってこないのも、半分は親父の花街通いのせいだろうが!ガキの頃はいっつもケンカばっかしてよ!歳取って行ってねぇからって、偉そうに言うんじゃねぇ!」

「こんの野郎…!言わせておけばっ…!」


 取っ組み合いのケンカが始まった。仲裁は得意じゃないけど、とりあえず止めるべきかな。似た者親子の争いはどちらにも非があるような気がする。ドワーフもそうだ。


 双方を宥めながら間に割って入るも、なかなか興奮が治まらない様子。いっそ2人とも眠らせようか。


「…アンタ~~!」


 作業場からカンナさんが出てきた。


「カンナ!話を聞けっ!仕事の付き合いだったんだよ!花街に行っただけで、なにもしてねぇって!酒飲んだだけだっ!」

「嘘吐くんじゃないよ…。こちとら花街の相場は知ってんだ。払ったツケの金額からすると…相当お楽しみだったんだろうがっ…!ニコニコして払わされる身になれ!何回目だと思ってんだ!」


 …言い逃れできないな。


「信じてくれ!嘘じゃねぇんだよ!」


 流れてくるゲンロクさんの匂いは…有罪(ギルティ)…。


「もう堪えない…。アタシは…アンタを殺していい男を探すことに決めたんだよっ!」


 カンナさんは背中に手を回す。身体の前に戻したときにはノコギリを握りしめていた。エプロンの紐にでも差してたのか?しかも…。


「落ち着けっ!話せばわかるっ!」

「問答無用だよ…このクソ助平大工が!死ねっ!」


 カンナさんがノコギリを振り下ろすと同時に、刃が高速で動き始めた。持ってきたのはよりによってボクが作った魔道具。


「な、なんだぁ!?どうなってんだ?!」

「どうやら…神様がアンタを切り刻めって言ってるみたいだね…。天啓ってヤツだ。バラバラにして…魚の餌にしてやるから覚悟しなっ!」


 ニヤリ…と嗤うカンナさんから狂気を感じる。ゲンロクさんは殺されてしまうかもしれないな。


「やめろぉ~!俺が悪かった!謝るっ!!許してくれっ!もう行かないからっ!!」

「カンナ!勘弁してやれ!頼むっ!」

「黙れっ!股にぶら下げてるだらしない息子を…2人まとめてちょん切ってやろうかっ!」


 追いかけ回されるゲンゾウさん親子。もはや標的はどちらでもいいのか、カンナさんはノコギリを振り回して大暴れ。


「ひぃぃ~!」


 転んだゲンロクさんの股の間にノコギリが振り下ろされる。辛うじて的が外れた。


「ちっ…!外したかっ!」

「ま、まともじゃねぇ!」

「待てこらっ!」


 どちらの味方もできないけど、ボクの魔道具は人殺しの道具じゃない。一旦矛を収めてもらおう。


「カンナ!大人しくしろっ!」

「離せ~っ!」


 ゲンゾウさんが後ろから羽交い締めにしたところで、カンナさんに魔法で眠ってもらう。ゲンロクさんは……どこかへ姿を消していた。逃げ足の速さからして、やっぱり初めてじゃないな。


「ウォルト。助かったぜい」

「眠らせただけです。あとはお任せします」

「あぁ。よく話し合わねぇとな。お前さんも気をつけろよ」

「なにをですか?」

「嫁さん以外の女に入れ込んだら痛い目を見るぞ」

「覚えておきます」

「やらかしといて助言ってのも恥ずかしいったらねぇな!だっはっは!」


 もし番ができたとして、浮気するつもりはない。だけど、今の出来事に加えてサマラとキャロル姉さんのタマ潰しの光景が鮮明に脳裏に蘇って、そんな場面が訪れても絶対にやらないと肝に銘じた。

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