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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
558/715

558  そりゃドン引きされるよね

「ウォルトさん、ただいま!」

「おかえり」


 今日はウイカが住み家を訪ねてきた。素早くハグをしてきたので、受け止めて頭を撫でる。「フクーベで流行ってます」とハグを教えてくれたのはウイカだ。でも、堂々とやっている人は一度も見たことがなかったりする。


「今日は1人?」

「治癒院帰りです。2人は晩ご飯の前に来ると思います」

「そっか」


 リンドルさんが勤めていた治癒院で治療の勉強をしていたウイカは、ボクが見学に行った日から行くのをやめて別の治癒院で学んでいる。

 ボクの言動が原因のはずなのに、「ウォルトさんのおかげで重要なことに気付けました」と逆に感謝されてしまった。リンドルさんも治癒院を辞めてしまったらしいけど、交流は続いているとのことでホッとした。いずれ治癒院を作ったら合流したいと思ってるみたいだ。


「ウォルトさんに相談があって来ました」

「ゆっくり聞くよ。お腹は?」

「空いてます。一緒に作りたいです」


 今日は刻んだ肉と野菜を(マイ)と一緒に炒め、鍛錬ついでに森で手に入れた卵も絡めよう。チャーハンと呼ばれる料理でネネさんから教わった。強火力で一気に炒めるのが美味しく作るコツらしい。

 

「美味しいです。パラパラでふわっとしてて、塩気もちょうどいいですね」


 アニカほどではないけど、ウイカも沢山食べてくれる。食べっぷりが気持ちよくて作り甲斐がある。


「お代わり下さい」

「待ってて」


 ゆっくり食事を終えて今日は紅茶を淹れる。


「相談ってなんだい?」

「義肢装具についてです」


 義肢装具は、失ってしまった手足の代わりとなる装具で義手や義足のこと。

 

「怪我や事故で身体の一部を失ったり、先天性で欠損されてる方が治癒院に来ることがあるんですけど、義肢装具は人目が気になるって悩んでる人も多くて」

「気になるだろうね」


 街で見たことのある義手や義足は人工的な作りだ。大部分は木製で繋ぎに鉄製部品を使ってることが多く、遠目でもわかるほど目立つ。


「服や包帯で隠してる人も多いみたいです。そこで相談なんですけど、見た目を元の身体に近づけるような装具を作るにはどうしたらいいでしょうか?」

「使う人に合った装具を作る必要があるから、材質もそうだけど肌の色や質感を合わせたり、獣人なら毛皮も付けたりする形になるだろうね」


 イメージはできるけど、細かい調整と加工が必要になるのは間違いない。何度も修正を繰り返す必要がある。見た目も機能もだ。


「やってみたいんです」

「装具を作るってこと?」

「はい。無謀でしょうか?」

「そんなことない。モノづくりは誰でもできる」


 魔法だけが治療じゃない。寄り添って人の心を救うのも立派な治療行為だと思う。義肢は技工士じゃなく治癒師が作ってもいい。

 むしろ、患者と長く会話して細かいところまで気を配れる治癒師の方が希望に添うモノを作れるんじゃないだろうか。


「占いでも言われましたけど、クローセにいた頃から技術を磨く仕事に興味があったんです。だから身に付けたいと思って」

「そういうことならボクも協力させてもらいたい」


 助力できることで後押ししてあげたい。


「凄く助かります」

「どんな装具を作りたいとかある?」

「まず義指を作りたいと思ってます。仕事や怪我で指が欠けたり失う人が多い気がします」

「作るだけなら難しくないと思う。試しに作ってみようか」

「お願いします」


 離れに移動しよう。工作の類は全て離れでやることにしているので、材料も工具も離れに置いてある。作業机に並んで座り、孤児院の人形劇のタメに作った人形を手に取った。


「この人形の腕や足みたいに木を削って指の形を作る。関節部分を付けたら完成だよ」

「確かに形が指っぽいですね」

「まず、やってみせるよ」


 木材を手に取り、ささっと魔法で削り出して部品を作る。


「こんな感じだね。工程を端折ってるけど、実際やるときは手作業でいいんだ」

「はい」


 ドワーフ魔法を駆使してるから、このやり方はまだウイカには教えられない。


「本物の指に近づける技法は幾つかあると思う。薄いゴムを貼り付けて、皮膚や肉の質感を再現するのが簡単かな」

「色付けしたら本物に近くなりそうですね」


 意見を出し合いながら作ってみる。モノづくりは他人の意見を聞くと面白い。なるほどと思わされる。ボクは限られた人としか交流しないから色々な分野で視野が狭いという自覚あり。


「ゴムって樹液を採って作るんですよね?」

「そうだよ。森に結構生えてるから教えようか」

「お願いします」


 森で樹液を採ってきて、アイデアを出した義指の試作品を作ってみる。


「木型にゴムを張るより塗って層を作る方法がよさそうだね。細かい皺の感じも出せるし、指の太さも微調整できそうだ」

「不器用でも作れそうです」

「ウイカは器用だと思うよ」

「ありがとうございます」

「石膏で型を取るのが1番だと思うけど、ココにはないからなぁ」

「型を取るならゴムを流し込んだ方がいいですよね」

「ありだね」

「柔らかく固められるなら質感も近くなると思います。重くならないよう、あえて密度はスカスカにしたりして」


 やっぱりウイカには鍛冶や職人が向いてるんじゃないか。アイデアが豊富だ。試行錯誤して作業すること1時間ほど。ちょっと思っていたことを口にする。


「ウイカ。ちょっといい?」

「なんですか?」

「ちょっとだけ…離れた方がよくないかな…?」


 ずっと肩が触れ合う距離で作業してる。作業机は結構大きいのにあまりに近いような…。


「近くで見たいです!ダメですかっ!?」

「ダ、ダメじゃないよ」

「どうしても離れろと言うなら離れますけど!」

「離れたいワケじゃないんだ。ちょっと近すぎて、ウイカの作業の邪魔になると思っただけで…」

「だったらいいです♪私は大丈夫なので!」


 余計なことを言ってしまったみたいだ。憂いかはお淑やかでほんわかした雰囲気を纏ってるけど、怒ると怖い。4姉妹の中でも怒らせてはいけない筆頭。

 サマラとアニカとチャチャには結構怒られることも多くて、見慣れているから怖くない。普段怒らないウイカに怒られると萎縮してしまう。そんな姿を見せてくれるのも友人だからだとわかってるけど…困ったな。

 ウイカに限らず4姉妹はそれぞれいい匂いがして、あまり近いと気になってしまう。昔はそれほど気にならなかったのに不思議だ。徐々に匂いが強く、そして好きな匂いへと変化してる気がする。

 自分の嗜好はさておき、添い寝ならすぐに寝るからいいけど、さすがに眠るワケにはいかない。


 邪念を捨てないと…。よし…。口呼吸だ。



 そうこうしていると、オーレンとアニカが来てくれた。作っているモノを2人に説明する。


「冒険者にも怪我や戦闘で身体の一部を失った人は多いから、義肢の種類が増えるといいよな」

「特に女性は気にするから!」

「だよね。冒険では気にしなくても、日常生活ではオシャレとかしたいと思うの」


 そんな人達の心に寄り添うモノを作りたいと願うウイカはきっといい治癒師になれる。

 あぁでもない、こうでもないと4人で意見を出し合って作り上げるのは充実感があっていい。


「結構いい感じじゃないかな!」

「俺もいいと思う」

「考えたやり方で作ってみるね」


 試作品の構想は固まった。作ってみて問題点を感じると思うけど、失敗しても全て糧になる。恐れずに作ってほしい。ウイカは集中して作り始めた。アニカも邪魔にならないよう隣で静かに見つめてる。


 

「ふぅ~!できたぁ!」

「お姉ちゃん、おつかれさま!」

「初めてにしちゃいい出来だろ」

「よくできてると思う」


 荒削りでも丁寧な仕事で作られていて、細かい修正は必要だけど初めてにしては充分合格点だと思う。魔法で保温していた花茶を飲みながら一休み。集中した後は甘味も添えて。


「やっぱり職人って凄いですね。ウォルトさんはどんな義指を作りたくなりましたか?」

「ボクが作りたい義指は魔道具になる。複雑な構造じゃないから、ちょっと作ってみようか」


 右手の人差し指に『強化盾』の魔力を纏わせ、魔力を保持したまま指を引き抜いて型を作る。


「その時点で普通の人には無理です」

「あくまで作り方を見せるタメだよ」


 保持したままの魔力の型にゴムの樹液を流し込む。ミスリルの端切れを骨代わりに中心に納めて、周りを固める肉代わりにゴムを使う。魔法を使えば乾かすのも速い。型の魔力を消滅させれば作業完了。


「できたよ」

「形はかなり指っぽいです。どの辺りが魔道具なんですか?」

「魔力を操れる人なら動かせるんだ。こんな風に」


 義指を掌に載せて関節部分を動かしてみせる。


「どうやってるんですか…?俺には想像もできないんですけど」

「魔力をミスリルに伝達して操作してるんだ。伝導率が高くて動きを阻害しないからね」

「魔導師なら自在に動かせそうです!」

「魔法が使えない人でもいい面はあるよ。たとえば…」


 義指を載せたまま掌をひっくり返しても、吸い付いたように離れない。


「魔力を上手く使えば簡単に皮膚に固定できて外れにくい。こんな風に」


 掌に義指の根元をくっつけて、ウイカに引っ張ってもらっても離れない。


「そう簡単に外れませんね」


 ウイカは静かに考え込んでる。


「ボクのやり方はほんの一例だよ」

「勉強します。また教えて下さい」

「ボクでよければいつでもいいよ」

「もう1つ教えて下さい。『同化接着』は、皮膚と義指を同化できますか?」


 その発想はボクにもあって、過去に色々と試したこともある。


「可能だよ。ただし、外すときは肉を切ることになるけど」

「「「こわっ!」」」


 若干引かれる。


「皮1枚だけならほとんど痛みもない。ちょっと見てて」


 指先の皮と義指を同化させてぶら下げる。


「本当にギリッギリで同化してますね。凄い魔法操作です」

「外すときは皮を剥かなくちゃならないけど」


 ペリッと剥がしてみせる。さほど痛みもない。


「肉とゴムを同化させて違和感はないんですか?異物感というか」

「ないよ。接着してる部分は2つの中間に変質してる感じになるんだ。痛みもないし、どんなモノでも技量次第で身体と融合できる」

「試したことあるんですか?」

「………」

「ウォルトさん?どうしました?」

「いや…。言ったら引かれるんじゃないかと思って…」

「気になります。教えて下さい」


 アニカとオーレンも頷いてるけど、教えるのはどうかなぁ~。


「師匠の嫌がらせで、いろんなモノと同化させられたんだ。だから知ってる」

「えっ?!でも、ウォルトさんの身体は綺麗ですよね?肉を剥がした痕とかないです」


 毛皮に隠れてるだけでボクの身体は傷だらけだ。綺麗な身体じゃないし、わざわざ人に見せるようなモノでもない。


「師匠の魔法は、『同化接着』というより単なる『同化』だね。ボクはまだ詠唱できないけど、分離するのも自由自在だし、傷も綺麗に治すんだ」

「たとえば、どんなモノと…?」

「そこら辺にいた魔物とか」

「「「えぇっ!!?」」」

「半分同化してるのに噛まれたりして痛かった。同化しても痛みは別で、しっかり痛いんだ」


 ……笑顔で伝えたのに引いてる…。も、もうちょっと軽く話そう。


「他にも岩とか木と同化したね。猫面岩になってボクの要素は9割方なかったり。顔の皮をのぺ~っと広げて貼り付けたみたいな。端から見たら相当不気味だったと思う」


 ……マズいな。話術が下手すぎてどう話しても笑ってもらえない。吟遊詩人の才能がほしい。


「もはや拷問だと思うんですけど…」

「師匠を知ると当たり前に思える。一番キツいと思ったのは…」

「なんですか?」

「…言うのはやめとこうか」

「気になります」

「なにと同化させられたんですか!」

「俺も知りたいです」


 真剣な表情で茶化してるワケじゃないのは伝わる。皆なら教えてもいいかな。


「思い出すと最高に腹が立つんだけど…」


 3人がゴクリと生唾を飲む。


「便器だよ」


 腕の先だけだったけど精神的にキツかった。そして、盛大に引かれた。

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