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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
554/715

554 終の住処

 ウォルトは朝からリスティアに連絡した。


「伐採の申請ってどうすればいいの?」

『伐採していいよ!』

「そうじゃなくて、ちゃんと確認してから…」

『だからいいってば!国内の環境保護は私も任されてるからね!担当なの!』

「知らなかったよ」

『驚いたでしょ!だから切っても大丈夫!』

「ありがとう」


 まだ子供なのに、全権じゃないとしても任されてることが凄い。更地を元に戻すのに伐採の許可を貰いたくてリスティアに連絡した。理由を説明してあっという間に話は終わり。

 キャミィには帰る前に事情を説明してる。「後先考えずにやってしまったわ」と反省してたけど、凄い魔法だったし豊かな森に木が増えただけ。


「他にも許可をもらわないといけないんだ」

『誰に?』

「木の精霊だよ」

『なるほどね~。そんなこと考えてるのウォルトだけだよ』

「知り合いが多いし、結構な数を切らなくちゃいけないからね」


 バラモさん達と知り合う前なら躊躇しなかったけど、今は無差別に木を切り倒すのはどうかと思う。


『そんなに生えたの?』

「ちょっと見てみる?小さく空間の切れ目を繋げるから、中を覗いてみて」

『わかった!』


 覗き穴程度の空間の切れ目を、窓がよく見える位置に発現させる。このくらいなら向こうで急に誰かに見られても大丈夫だろう。


『…すっごい!窓の外が全部森になってるね!』

「さすがエルフの大魔導師としか表現できない凄い魔法だったよ」


 一番驚いていたのは、ボクらじゃなくて蟲人達。寝てたらいきなり木が生えてきて、天変地異かと思ったらしい。誰だってそう思う。事情を説明したら理解してくれた。


『武闘会に出てたフレイの妹ってことは、かなり凄い魔導師なんだね』

「ボクが言うことじゃないけど、彼女より凄い魔導師はそういないと思う」

『ウォルトは言っていいと思う!』


 外見はリスティアと大差ない子供なのに、舐めてかかったら一瞬で消し炭にされること必至。長所も短所もモフモフ好きなこと。そんなエルフ。

 それはさておき、まだ朝なのもあってリスティアは忙しいらしい。稽古事や会議も控えてるみたいだ。少し世間話をして通話を終えた。


 さて、次は…。




『切ってもよかろう!』

『軽っ!』


 精霊の意見を聞くために、ウルシさんに会いに来た。相談したら即答だった。


『木を切るのは人族にとっては当たり前の行為で、生活を支える貴重な資源じゃろうが。知っとるぞ』

『理解があって助かりますが、結構な数を切るんです』

『儂がダメじゃと言えば切らんのか?』

『切りません』


 無理なら別の方法を考えるつもり。


『心意気は受け取った。別に切っても構わんが、できるなら移植してくれると嬉しい』

『それも考えました。根まで掘り起こしても大丈夫でしょうか?』

『大丈夫じゃ。お前が思う以上に木は逞しい!そう簡単には萎れんぞ!しかし、この森は立派すぎて思った以上に隙間がない。世界でも珍しい。移植するなら候補地を教えるぞ』

『お願いします』


 一瞬で動物の森の地図が頭に浮かび、幾つか円で囲まれた箇所がある。精霊魔法は便利だな。


『この円の場所は少し空いてるんですね』

『そうじゃ。コレで全てではないぞ。お主の住み家から近い場所を選定しておる』

『ありがとうございます。行ってみます』

『移植するときは気を付けろ!木は結構繊細じゃ!』


 さっきと言ってることが違う…。移植の注意点をしっかり確認しておこう。ウルシさんよりバラモさんの方がいいな。



 その後、直ぐに移動して久しぶりにウークに潜入した。もちろん『隠蔽』で姿を隠して。里に入って、脇目も振らずバラモさんの元へ向かうとちょうど誰もいない。目の前に立って『念話』で話しかけた。


『バラモさん。ウォルトです』

『ビックリしたぁ!』


 バサバサッ!と枝が揺れる。もうちょっとゆっくり話しかけるべきだったか…。悪いことをした。でも、エルフには姿を見られたくない。


『驚かせてすみません。教えてもらいたいことがあって来ました』

『なんだい?』


 事情を説明すると、バラモさんは移植の注意点を丁寧に教えてくれた。「ウルシは適当だから正解だよ」とも。今さら気付いたけど、精霊は繋がれるからウルシさんに聞かれてるんじゃないだろうか?…その時は、黙って怒られることにしよう。やっぱり適当だったし聞き流し作戦だ。


『…と、こんなところかな。大変だろうけど』

『タメになりました。やってみます』

『君の住み家に遊びに行ったときのことをキャミィが凄く嬉しそうに話していた。いい出会いもあったようだね』

『彼女の交流は広がる気がします』

『しかも、君が銀狼と縁を繋いでいたと思わなかった。私の知る銀狼は決して人に懐いたりしない』

『そうなんですか?』


 ペニーもシーダも出会ったときから友好的だったけど。


『だから驚いてる。おそらく君だったから縁を繋げたんだ』

『ボクだから?』

『細かいことを気にしないだろう。何者であっても特別視しない』

『ボクにも特別な人達はいますよ』

『特別なのは、家族や友人とフィガロだけか』

『間違いないです』


 理解ある精霊だ。お礼を告げてバラモさんの精霊魔力も高めておいた。「やりすぎだって!漲るから!」と言われてしまったけど、オッちゃんに会わせてもらったお礼も兼ねてコレくらいはさせてもらおう。


 帰って移植に挑戦してみよう。




 住み家に戻り、更地に立つ立派な樹木を眺めながら、上手くいってくれることを願って詠唱する。


『圧縮』


 かなり小さくなるまで魔法で圧縮する。バラモさんが言うには木はどこまで圧縮しても耐えられるらしい。その後、『無重力』で重さをなくす。この方法なら持ち運びは簡単。

 水分が必要なので、根の部分を水で満たした小瓶に浸して準備完了。数本をリュックに梱包していざ出発。ウルシさんが教えてくれた最も近い地点までは、駆けても10分程度。到着すると確かに余裕がある。


「まずは…」


『大地の憤怒』の応用で、土を起こして穴を掘る。掘った穴に木を立て『圧縮』を解除すると、危うく倒れそうになったので『捕縛』で上手く固定しながら綺麗に埋め戻す。

 水平に発現させた『強化盾』でしっかり地面を叩きながら転圧して、最後に魔法で水を撒く。『水撃』に『成長促進』を混合して与えると、生き生きとした姿になった気がする。


「上手くいってくれたかな」


 コツは掴んだからこの調子でいこう。持ってきた木を次々移植する。無事に1回目の移植を終えてからふと思う。 父さんならもっと綺麗に移植できるだろうと。庭師を生業としている父さんなら森の景観に沿った美しい移植ができそう。自分自身いまいちセンスがない気がする。

 でも、バラモさんに聞いた適度な間隔や他の木との相性は頭に入ってる。ないものねだりはやめて、丁寧に考えながらボクにできることをやろう。

  

 住み家と何往復かして、1つ目の候補地は埋まってしまった。鍛錬を兼ねてどんどん行こう。抜いて駆けて移植する…を繰り返していると、少しずつ更地が元の姿を取り戻してきた。

 最後に地ならしが必要だけど、コツコツやって成果が出る作業は好きだから苦にならない。今日中にできる限りやってしまおう。暗くなるのが先か、体力と魔力が尽きるのが先かわからないけどいい修練になる。せっかく新たに芽生えた命。この豊かな森でゆっくり過ごしてもらいたい。 


 せっせと移植を進めたものの、結局夜になるのが先だった。作業の進捗は全体の半分程度。今日は終わろうかと思ったけれど、気分が乗っているからこのまま突き進む。

 夜目が利くから支障はない。月明かりが森を照らしてくれるので明るさは充分。体力も魔力も余裕だし、人に会う可能性も限りなく低くて余計なことを考えずに済む。



「ふぅぅ…。疲れた…」


 朝日が昇る頃、全ての樹木の移植を終えて帰宅した。更地はすっかり元通り。離れの傍に生えた樹木はあえて少しだけ残した。単にその方が雰囲気がいいと思ったから。

 不眠不休で動き続け、魔力は残っているけど体力が限界。眠気も空腹も絶頂に達してる。一昼夜駆け回ったくらいで疲れるなんてまだまだ鍛錬が足りないな。

 ウルシさんが教えてくれた候補地も、移植できたのは5カ所ほど。更地の面積ではその程度でこと足りた。


 なんとか綺麗に埋めたかったけど、いい案はないかな…。……ダメだ。思考能力が低下してる。とりあえず…お風呂に入って寝よう。





「またまたびっくり!いつの間に元に戻ったの?!」

「夜通し作業したんだ。森の空いてるところに移植してきた」


 目を覚まして澄んだ空気を吸うために外に出ると、ハピーに驚かれた。


「なんでもできるね~。でも危なかったよ」

「なんで?」

「生えてきた木に新しい家を作ろうとしてたの。ついでに運ばれるとこだった!」


 蟲人は木に同化したような見事な家を作り上げる。擬態と言っても差し支えない完成度。発見されにくくするためらしい。


「危なかったね。やる前に声をかけるべきだった。ゴメン」

「いいよ!ちょっと残念だけど」

「残念?住む場所が足りないのか?」

「違うよ。家を作るなら若い木のほうがいいの!いい香りがして癒やされる!」


 へぇ~。もちろん知らなかった。


「だったら試しに増やしてみようか」

「どういうこと?」


 ハピー達の集落は住み家のすぐ傍の森の中にある。2人で近くに移動して提案する。


「この木と木の間に1本生やしてみよう」


 ちょうどよさげな隙間がある。根を張る間隔も充分確保できそう。


「ウォルトもできるの?」

「初めてだけど魔法は見せてもらった。上手く再現できるといいけど」


 キャミィの魔力色と魔力操作を思い出しながら、魔力を練り上げて詠唱する。


『大樹の海』


 にょきっ!と1本生えてきた。慎重に魔力を操作すると少しずつ天に向かって伸びる。この魔法はかなり魔力操作が難しい。改めてキャミィの凄さに気付かされつつ、よさげな高さまで木を成長させることに成功した。


「これでどう?」

「凄くいい香りする~!」

「引っ越してみたら?コツを掴んだからまだ増やせるけど」

「いいの?!皆を呼んでくる!」


 蟲人達の希望した場所に数本生やすと喜んでもらえた。魔法の修練にもなっていい。


 …そうか。こうすればいいんだ。


「ハピー、ありがとう」

「なにが?こっちの台詞なんだけど」

「今日はもう一度頑張ってみるよ」

「なんのこっちゃ?」


 やるべきことを終えると、水や食料の準備を整えて駆け出す。教えてもらった森の空白地帯を木で埋め尽くすタメに。終わる頃には魔法操作も上達しているはず。


 そして、夜。


「というワケで無事に移植したよ。しばらくは、駆けるついでに根付いたか様子を見ようと思ってる」

『おつかれさま!』


 許可をくれたリスティアに報告した。気にかけてくれてそうだったから。


『伐採じゃなくて移植かぁ~。そんなのウォルトだから思い付くんだよ』

「そんなことないよ。それに、時間がかかりすぎて自慢にもならない」

『ふふっ。環境保護で相談したいことがあったら話を聞いてくれる?』

「もちろん」


 自然を愛し保護に力を入れるのはカネルラのよき伝統だと思ってる。森に住み始めてから実感していて、子供の頃は正直どうでもよかった。今のボクが生活できているのは、間違いなく森の恵みのおかげ。この森が存在するから生きていける。


『動物の森関係で頼りにしてる!』

「それくらいしか役に立てないさ」

『精霊も喜んでたでしょ?』

「労われたよ」


 昨夜……正確には今朝の夢にウルシさんが出てきて、『やりおったな!たいしたもんじゃ!』と褒めてもらった。どうやら、移植候補地の近くに精霊の神木が立っていたらしく遠目に眺めていたらしい。

 バラモさんとの会話も聞かれていたようで、『儂に助言をもらわず、バラモを頼るとはどういうつもりじゃ!』と怒られもしたけど。『盗み聞きはよくないですよ』と軽く反抗したらより一層怒られた。だったらちゃんと教えてほしかった。ウルシさんは本当に師匠に似てる。だから憎めないんだけど。


「リスティアに渡しておくよ」


 空間の切れ目に手を差し入れると、受け取ってくれた。


『この紙、なに?』

「動物の森の地図だよ。移植した場所には印を付けてる。必要ないかもしれないけど地形が少し変わったから」


 絵が下手なので『念写』で魔力紙に焼き付けた。


『情報はいつ役に立つかわからないからね!いつも最新に更新しておかないと。ありがと!』

「どういたしまして」

『ウォルトは気付いてるだろうけど、この地図だと住み家が建ってるところが目立つよ』

「空から見下ろせるなら直ぐにバレるだろうね」


 全てじゃないけど、近場の隙間が埋まったことで地図上では余計に目立つ。そうでなくてもファルコさん達なら丸わかりだろう。

 鳥の獣人を除けば、動物の森では発見されることはないと思う。森の周辺には低山しかない。その辺りは師匠も計算尽くのはず。


『この地図は極秘資料だね!緊急時以外は誰にも見せないから安心して!』

「そんな大層なモノじゃないよ」

『あと、ありがと!』

「なにが?」

『ちょっとずつ木を生やす魔法を修練するつもりでしょ?緑を増やしてもらうお礼!』

「読まれてるね」


 普通の魔法と違って木が消え去るわけじゃないから、何千何万と詠唱できる魔法じゃないし消費魔力も大きい。でも、日々の生活の中で少しずつ詠唱しようと思ってる。ちょっとずつ前進すれば充分。


『種を植えて芽が出て年月をかけて逞しく育つのが一番だけどね!暑さにも寒さにも嵐にも耐えてこそ立派に育つんじゃないかな!』

「その年齢で言えることが凄いよ」

『まぁた子供扱いして!』

「だって子供だ。11歳だろう?」


 今回は我が儘と勢いで余計なことをやってしまった部分が大きい。精神的にはボクの方がリスティアより子供に違いない。


『事実だから仕方ないけど、ウォルトも大人っぽくないよ!』

「精神年齢は成長してないかな。きっとこのままで死ぬんだ」

『私より先に死んじゃダメだからね!』

「それは無理だよ。歳も上だし先に逝く自信がある。リスティアにお願いがあるんだ」

『話の流れ上、嫌な予感がするんだけど…』

「他の友人や家族にも頼むつもりだけど、ボクが死んだら森で野晒しにしてくれないか」


 我が儘だとわかってるけど、いつかお願いしようと思ってた。


『やだ!なんでそうなるの!?』

「森に生かしてもらったから、最期は森の栄養になりたい。1つの夢だね。墓もいらなくて適当に捨て置いてくれるだけでいい。何日かで消えてなくなるから」

『うぅ~…。考えたくもないよ…』

「ゴメンね。でも、親友だから隠したくない。ずっと考えてたけど頼むのはリスティアが初めてだ」


 魔物が跋扈する森に住んで、いつ死んでもおかしくないからこそ元気な内に頼んでおきたい。


『…もうっ!そんな風に言われたら断れないよ!その時は任せて!』

「ありがとう。でも、嫌ならやらなくていいんだ。言ってたなくらいに覚えててくれたら」

『私が見つけたら絶対そうする。もう決めた』

「ありがとう」

『その代わり、もし私が先に死んだらウォルトの魔法で送ってね。絶対に。約束だよ』

「わかった。リスティアが望むならそうする。でも……考えたくないな…」

『そうでしょ!希望を伝えておくことは大事だと思うけど、いくらなんでも急すぎるよ!』


 それからしばらくリスティアに叱られた。「いくら親友でも、子供だと思ってる相手に自分が死んだときの話をしちゃダメ!普通、大きくなるまで待つでしょ!」と当たり前のこと言われた。


 確かにその通りで大反省…。

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