543 占いは好きですか?
今日は【森の白猫】勢揃いで、冒険者として久しぶりに活動した。…といっても薬草採取をこなしただけ。
ギルドでクエスト達成の報告を終えると、ウォルト主導で食材の買い出しを済ませ、オーレン達の住居へ向かう途中でアニカが声を上げた。
「あっ!噂の占い師だ!」
指差した先には炉端に占いの看板を立てて椅子に座ったお婆さんがいる。小さなテーブルの上に綺麗な水晶玉を置いていかにも占い師。
「ウォルトさん!あのお婆さんの占い、よく当たるって最近評判なんですよ!占いって信じますか?」
「他人に占ってもらったことがないから、なんとも言えないなぁ」
「だったら試しにどうですか?」
占い料金は…1回100トーブか。結構高いけど今日のクエスト報酬でも余裕で足りる。
「占ってもらおうかな」
いい機会だから一度は経験してみよう。列に並んで静かに待つ。皆は列から外れて隣で付き添ってくれてる。見た感じだと1人あたり5分くらいかな?結構待ったところで、いよいよボクの番。
「占ってもらっていいですか?」
「100トーブ、前金だよ」
料金を手渡すと向かい合わせの椅子に座るよう促される。
「なにを占ってほしいんだい」
「そうですね…」
「女性運とかどうですか!」
なぜかアニカが答える。ボク的には女性との出会いに運は関係ないと思うけど。
「別に訊かなくても大丈夫…」
「アンタは女難の相がでてる。近くにいる女達に困らされるだろう」
水晶玉に両手を翳しながら占い師が答えた。近くにいる…って4姉妹のことかな?でも困らされたことはない。まぁ常套句のような気がする。
「気にしておきます。では、改めて数日中に雨は降りそうですか?」
「降るよ。3日…いや、4日後かね」
「今年の農作物は豊作ですか?」
「例年と大差ないよ」
「まだ訊いてもいいですか?」
「いいさ」
「近い内に、動物の森に魔物が大量に発生したりしますか?」
「しないね。そんな兆候はない。…アンタは、自分のことを一切訊かないねぇ」
「もしかして、人の運勢を占う専門ですか?」
「なんでも占うから別に構やしない」
「じゃあ、次で最後です。今のボクの感情を当ててもらっていいですか?」
「そういうのを待ってたんだよ………んっ!?」
水晶玉を覗き込んで驚いた表情。眉間に皺を寄せてボクを見る。
「正解は、『純粋に占ってほしかっただけで、色が知りたいワケじゃない』です」
少しだけ後ろがざわつく。
「…アンタ……何者なんだい…?」
「ありがとうございました」
「ちょっと待ちなっ!」
「お婆さん!次はアタシね!早く占ってよ!」
「…っ!」
席を立ちオーレン達と合流して歩き出す。少し離れた場所でアニカに訊かれる。
「もういいんですか?」
「大丈夫。占いじゃなかったから」
「そうなんですか?!」
「ちゃんと占ってくれるなら、どんな方法でも悪い結果でも黙って聞こうと思ったけど、アレは占いと呼べない。でも、面白いモノを見せてもらえた」
「面白いモノってなんですか?」
「あの水晶玉は魔道具なんだ。人の感情を色で視認できる。そして、あのお婆さんは魔導師だね」
「へぇ~!なんでわかったんですか?」
「並びながら聞き耳を立ててたら、的確に心情を当ててた。でも、細かくわかるわけじゃない口振りで、話術で上手く聞き出してる。ボクの嗅覚と同じで、怒りとか喜びとかの感情だけが判別できるんだ。水晶玉に手を翳したとき魔力が漏れてたし中心に色も視えたよ」
目の前でずさんな魔力操作はさすがにバレる。もっと上手く隠蔽しないと指摘されてしまいそう。ただし、あのお婆さんは相当な魔導師だ。魔力を見ればわかる。
それと、感情はおおまかにしか読み取れないのに別のモノを読み取っている。ボクには関係ないからあえて言うまい。
「感情だけわかれば、あとは上手く話を誘導するだけですね!」
「そうだけど難しいと思う。人気があるということは、よく当たるし的確なアドバイスをしてるってことだから、その点でお婆さんは凄い」
話術は占い師の必須技能。相手を気分よくさせていい方向へ物事を導くのは腕の見せ所だと思うし、占い師の本分じゃなかろうか。ただ、ボクの場合は知識と技術に裏打ちされた占いを見たかっただけで、見事な話術もいい結果も求めてない。
『無効化』で魔力を遮ったから、最後は水晶になにも映らなかったはず。ただ、素直に反応したのは人らしいと思った。詐欺師なら平然と嘘を吐いただろう。ボクから見たお婆さんは、占い師というよりベテランの相談役。
「占い通りに雨は降るでしょうか?」
「降らないと思う。適当に答えてたね」
「ということは、農作物も?」
「経験か勘だね」
「あちゃ~!一度は占ってほしかったんですけど、種明かしが済んじゃいました!」
…と、黙っていたオーレンから意外な提案が。
「アニカ。ウォルトさんに占ってもらえよ」
「は?なに言ってんの?」
「ウォルトさんは占えますよね?」
「できるよ」
「「えぇっ!?」」
「素人だけど知識だけはあるんだ」
孤独だった頃に師匠の文献で覚えて、暇なとき天候や運勢を占ってる。占うのは結構面白いし、自分で楽しむだけだから責任もなくて気が楽。
「前に住み家に行ったとき、占いっぽいことやってるの見たことあったんで」
「じゃあ、私とお姉ちゃんを占って下さい!」
「お願いします」
「いいけど、本で覚えただけの占いだよ?自慢じゃないけど当たらないんだ」
「「それでもいいです!」」
「ミーリャもそうなんですけど、女性は占いが好きみたいですよ。俺にはなにが面白いのか全然ですけど」
「黙れ!占うことがミーリャの下着の色くらいしか思いつかない変態は黙ってろ!!」
「そんなの占ってどうすんだ!」
「ヨダレ垂らして興奮しとけ!」
「ざけんな!」
ボクはウイカとのんびり会話、オーレンとアニカはいがみ合いながら住居に到着した。とりあえず先に食事にしよう。今日は、薬草と一緒に摘んだハーブをたっぷり使ったペンネルにしようと思う。
ミーリャも来てくれるみたいだから、お酒に合いそうな肴も作ろう。暑くて汗をかいたから、塩気が若干強めの肉野菜炒めがいいかな。
代わる代わるお風呂に入ってもらって、その間に料理を作った。
「薬草採取しかしてなくても、クエスト終わりのウォルトさんのご飯は格別だね」
「だよね!疲れも吹っ飛ぶ!お酒も美味しい~!」
「美味しいです!」
「ミーリャ…。クエストの途中で背筋凍らなかった…?変態の気配を身近に感じたとか…」
「そんなことなかったです」
「アニカ、ふざけんなよ!いい加減にしろ!」
食事を終えて、後片付けも終えたら早速占ってほしいと言われた。オーレンの言った通りでミーリャも占うことに。
「本来は外で占うんだけど」
「じゃあ外に行きましょう!」
「結構遠くまで行くことになるよ?家の中でもできる」
「しっかり占ってほしいので!」
ウイカとミーリャも頷いてる。
「じゃあ、行こうか」
フクーベの街を出て、動物の森の入口付近にやってきた。
「この辺りでいいかな。星がよく見える場所がいいんだ。街は明るいから」
「へぇ~!ロマンチックな占いですね!」
「あくまでボクの拙い占いだし、出た結果は客観的に伝えるけど大丈夫かな?悪い結果が出ても、軽い気持ちで受け止めてくれたら…」
性格上、都合よく改竄して伝えられない。すぐにバレるだろうし、占ってほしい内容がわからないから事前に伝えておこう。
「大丈夫です。どんな結果でも受け止めます」
「ウォルトさんが誤魔化せない人なのは知ってます!」
「信憑性には欠けるけど真面目に占うよ。誰から占おうか?」
「はいはい!私からお願いします!」
「アニカからだね。両手を貸してくれる?」
「こうですか?」
差し出された両手をそっと掴んで詠唱する。
『占星』
アニカの身体に魔力を通して、足下に魔法陣を展開し生年月日や生誕地の情報を火、水、風といった魔力で刻み込む。
「アニカの占いたいことを教えてくれるかい?」
「私は大魔導師になれるでしょうか!」
声に呼応するように魔法陣が淡い光を放つ。オーラのように粒子が煌めき緩やかに色を変える。オーラの色や状態の変化から結果を読み解くのが占星魔法。
太古から存在している星の力を借りる占いで、家の中や明るい場所ではオーラの色が違って見える。だから夜空の下で占うのが最良。
「アニカは……大魔導師になれるよ」
「やったぁ!何歳くらいですか?」
「年齢まではわからないけど、揺るぎない結果が出てる。なにかを変える必要もない」
努力、運、才能など、絡み合う要素から判断すると、達成する未来しか想像できない。
「嬉しいです!」
「現時点での占いの結果だから、やる度に変わるんだけど」
「わかってます!でも、このままでいけるよう頑張ります!」
やる気が漲ってる。悪い結果が出なくてよかった。
「他にも占ってほしいことあるかな?」
「ん~と、冒険者じゃなかったらどんな仕事が向いてたかわかりますか?」
「アニカに向いてるのは……学者か研究者だね」
「が、学者ですかっ?!絶対向いてなさそうですけど!」
「占いではそう出てるね」
結果が学術の分野に突き抜けてる。ボクも意外だけどあくまで占いの結果。個人的な感情は抜きにして客観的に答えてる。
次はウイカを占う。同様に準備して…と。
「ウイカはなにを占ってほしい?」
「ウォルトさんに出会ってなかったら、ずっとクローセにいたんでしょうか?」
「……20~25歳頃に大きな転機が訪れて村を出た。自発的に」
「気になりますね。でも、今が幸せだからたらればです。ちなみに、私に向いてる仕事も教えてください」
「……鍛冶とか大工だね。技術を活かす職業に向いてる」
「自分でも意外です!でも興味はあります!」
そうだったのか。知らなかった。
続けてミーリャも占う。
「ミーリャ。手を握ってもいいかな?」
「もちろんです」
「オーレン、いいかい?」
「いいですよ」
断りを入れてから、いざ…。
「オーレン!ちょっとこっち来て!」
「なんだよ?今からミーリャの占いが始ま…」
「いいから来いっ!」
「わっ!なんだよっ!」
ウイカとアニカがオーレンを連れて離れていく。
「どうしたんだろう?」
「気を使ってくれてるんです。私が訊きたいのは、オーレンさんとこの先も一緒にいれるのかってことなので察してくれたんだと。あと、相性がいいのかも気になります」
なるほど。悪い結果が出たらオーレンは気にしそうだ。なんとなくわかる。占いの結果は…。
「……結構、波乱が多そうだね。でも、結びつきが強いから簡単に関係が壊れたりしない。相性は、よくも悪くもないよ」
「付き合っていくうえで、気をつけたほうがいいこととかわかりますか?」
「…束縛するか、逆に放任するといい結果になりやすいみたいだ。中途半端が1番よくない」
「浮気されたら、どう対処するのがいいんでしょう?」
「…徹底的にやるほうがいい。筋を通させないと、気持ちが定まらなくて同じことを繰り返す」
「ふふっ。ウォルトさんの占いは結構辛口ですね」
「出たままの結果を伝えてるだけだからね。ボクの意見は違うけど占いではそう出てる」
ミーリャの占いを終える頃、オーレン達は戻ってきた。
「ミーリャはなにを占ってもらったんだ?」
「オーレンさんとの相性とかです」
「結果はどうだった?!」
「私的にはバッチリでした♪」
「やっぱりな!」
ミーリャにとって占いの相性なんて参考程度でさほど重要じゃないのかもしれない。
「そんな風に楽しんでいいと思います」
「自分に都合のいいことは歓迎して、都合の悪いことは回避するのが占いの面白さです!」
久しぶりに心を読まれた。
「あまり占いが当たると怖いよね」
「もはや予言になっちゃう!」
「確かにそうだね。わかるよ」
仮に百発百中だとしたら、なにもかもつまらなくなる。
「占った結果を伝えるだけなら誰でもできる。結果に自分なりの解釈を加えて物事をいい方向へ導くのが占い師の仕事なんじゃないかな」
「ウォルトさんみたいな占い師もいると思います」
「真摯に結果だけを伝えて後は本人次第!…でもいいと思います!私は楽しかったです!」
「それならよかった」
腕を磨けばより正確に占ったりできるんだろうな。ボクは人を導いたりできないから、ズバリ的中させてみたくもある。
「ウォルトさん。ついでに俺も占ってもらえませんか?」
「いいよ」
「結局お願いするのか!意味わかんないとかバカにしてたくせに!」
「別にいいだろ!」
オーレンに準備を施す。
「なにを占おうか?」
「俺は、転生とか信じてる派なんですけど、自分の前世が何者だったのか知りたいと思って」
「なるほど」
ボクが惹かれる分野だ。前世が存在するかはカネルラでも諸説あるけど、とても気になる。前世については初めて占うけど星は答えてくれるだろうか。
………コレは…。
「どうでしょう…?」
「…答えは出たんだけど」
「ハッキリ言って大丈夫です。俺はどんな結果でも受け止めますよ」
「そう…?その……かなり凄い……」
「かなり凄い?!やっぱりどこかの剣豪とかですか?!」
「こらっ!自惚れんなっ!」
もの凄く言い辛いけど…。
「いや…。かなり凄い……巨漢の奥さんに窒息死させられた…不運な男…だね」
「…は?」
「最期は……大きなお尻を顔に載せられて、息ができずに大往生した……」
「…ぶふぅ~っ!ぎゃはははっ!オーレンに似合いすぎっ!大往生じゃん!」
「あははっ!予想外だね」
「うふふふふっ!大きなお尻って…!」
3人は大爆笑。気持ちはわかる。ボクもこんな結果が出ると思わなかった。
「ちょっ、ウォルトさん!いくらなんでも冗談キツいです!理由がわからないし!」
「理由もハッキリ出てるんだ…。東洋のコーリャンって国で暮らしてた男性で……浮気が原因の夫婦ゲンカの末に…お尻に敷かれて享年37歳で…」
「詳細すぎますって!嘘だぁ~っ!」
「「「あはははははっ!」」」
天啓のように見事な結果が出た。まるで、知ってほしいといわんばかりの勢いで…。
「ま、まぁ、ボクの占いは当たらないから、そんなに気にしなくても…」
「きっと当たってます!おかしい~!」
「は、腹がっ…ちぎれるっ…!オーレン!あまり笑わせないでよっ!」
「ふふふっ…!ふふふふふっ!オーレンさんは女性のお尻に敷かれて…!ふふふっ!」
「ミーリャまで…!最悪だぁ~っ!」
占いって怖いな…。頼まれたからってなんでも占うものじゃないことを学んだ。そして、結果に正直すぎるのもよくないことを。




