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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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536 エッゾの秘密?

「久しいな」

「お久しぶりです」


 珍しくエッゾが住み家を訪ねてきたので、ウォルトはとりあえずお酒と肴でもてなす。


「美味い」

「よかったです。急にどうしたんですか?」

「マードックから面白いことを聞いた。獣人の力とやらについてだ」

「いずれエッゾさんにもお伝えしようと思ってました」

「教えてもらいにきた…が、とりあえず腹が減って仕方ない。この程度の肴じゃ足りん」

「わかりました」


 作るのは大好きなので望むところ。エッゾさんは、ちょっと異常な気がする速さで料理を平らげていく。


「もの凄い空腹でしたか」

「ココに辿り着くのに2日かかった」

「えっ!?どこから来たんですか?外国からですか?」

「フクーベだ」

「なにかあったんですか?」


 エッゾさんの足なら1時間もかからないはずだ。


「憶測だが…お前は魔法で家に近寄れないよう細工していたか?」

「そんなことしてません」


 そんなことをしたら友人が来れなくなってしまう。やってやれないことはないけど効果は未知数。


「まぁいい。結果辿り着いたからな。…よし。早速頼むぞ」

「後片付けをさせてくれませんか?その間にお腹を落ち着けて…」

「必要ない。行くぞ」

「わかりました」


 エッゾさんには言うだけ無駄だとわかっているけど、ちょっとは休まないと……。



「ぐうぅぅっ…!なんだコレは…?!相当気分が悪いっ…!吐きそうだっ!」


 こうなるのが目に見えているワケで。


「少しだけ休憩しましょう。逃げも隠れもしないので」

「いいだろう…」


 …そうだ。黙って休憩するような人じゃないから頼んでみよう。


「エッゾさん。最近剣の修練をしています。意見を聞きたいので、ちょっと休みながら見てもらえませんか?」

「ほぅ…。面白い。見せてもらおうか。当然、手合わせでな」


 予想通りではある。


「真剣じゃなくて木剣ですよ?」

「わかっている。さっさと持って来い」


 住み家から持ってきた木剣を手渡し、構えて対峙する。


「…ククッ!構えが素人じゃない。お前はとことん愉快にさせてくれるな」

「ちょっとだけ教わったので」

「見かけ倒しじゃないだろうな…?修練の成果とやらを…見せてもらおうかっ!」


 凶悪に嗤いながら一気に間合いを詰めてきた。すかさず斬りつけてくる。


「くっ…!」


 一段と速くなってるっ…!斬撃も力強くて重いっ…!スザクさんやハルトさんとは一味違った剣筋だ。不規則というか、洗練とは違う豪快かつ予測不能な剣筋で軌道が読みにくい。なんとか切り結んで間合いをとりながら息を整える。


「面白い奴だ。お前は人を驚かせないと気が済まないのか?」

「エッゾさんが驚く要素はないと思いますが」

「魔法なしで俺の剣を捌くとは生意気な。オーレンの師匠というだけある。白猫流を…まだ見てやろう!」


 接近して再び切り結ぶ。スザクさん達から剣を学んでいてよかった。加減されているにしても、今のところ教えてもらった防御が活かせてる。

 押されるのは仕方ないとして、意識を切らさず反撃の隙を探してすかさず一撃を放った。


「シッ!」

「むぅっ…!」


 上手く隙を突いたと思ったけど躱されてしまう。やっぱり身のこなしが違うな。

 

「エッゾさんに見てもらいたいんです」

「なんだと?」

「獣人の力を剣に活かせないか考えてみました。まだ試行段階です」

「ほぉ…。見せてみろ」

「いきます」


 獣人の力を纏う。おそらく視認できていないだろう。


「では…」


 足に力を溜めて一気に間合いを詰めた。


「ぬぅっ…!」

「ハァァッ!」


 上段に袈裟斬りを繰り出す。


「速いが…甘いっ!」


 …と見せかけて回転して逆の胴を打つ。


「がはっ…!」


 脇腹に綺麗に入ってしまった。


「大丈夫ですかっ!?」

「…必要ない!」


 すかさず治癒魔法をかけようとして止められる。


「剣筋が見えなかった。まさか俺が躱せんとは。だが、確かに身体強化系の魔法ではない」

「武闘会以降も魔法は視えてるんですね」

「おかげで闘うのがかなり楽になった。今や魔導師が最も闘いやすい」

「獣人の力は、治癒魔法を使える者にしか視認できないので使った瞬間がわからないと思います」

「マードックから聞いた。この目で見るまで半信半疑だったがな。必ず修得してみせる。今のはどう力を扱った?」

「接近するときの一瞬と、フェイントから攻撃を切り替えた瞬間だけです。力に振りすぎると上手く身体が動かないので微調整しながら」

「現時点で俺が使えないのはわかるが、無理やり使うのは可能か?」

「ボクが触れて力を操作すれば可能です」

「ならば、お前を斬らせろ」


 やっぱりか…。予想通り過ぎる。獣人の力について教えるときは自分も痛い目を見ると思った方がいいな。気分を悪くさせられた者に反撃したいと思うのが獣人の常。


「ぐうぅぅっ…!くっ…!」


 エッゾさんの希望に添って力を操作する。


「そのままで攻撃してください」

「死ねぇぇっ!」


 怒りの形相で鬼のような連撃を繰り出してくる。全てを細かく『強化盾』で受け止めた。木剣で捌くのはさすがに無謀。

 しかし…本気で殺しにきてるな…。凶悪な顔で怒りが乗った剣筋は確実に急所を狙ってる。


「凄まじい力だ。俺の内包する力で間違いないんだな?」

「間違いないです」


 エッゾさんもボクより絶対量が多くて羨ましい限り。鍛えて着々と増えてるけど、右肩上がりの緩やかな増加。凡人は怠けるなってことだ。


「では、今からみっちり頼む」

「わかりました」


 マードック、リオンさんと同じ修練をエッゾさんにもやってもらう。


「はぁ…。はぁ…」

「大丈夫ですか?休みながらやりましょう」


 続けて修練するエッゾさんは汗だく。身体をほぼ動かしてないのに、どんなに体力のある獣人でも辛いことに変わりない。

 あくまで予想だけど、闘気と同じで体力や筋力、若しくは生命力といった獣人なら誰もが備える力で、現時点でのボクの予想は筋力。フクーベの街行く獣人で比較したら、身体が大きい獣人ほど備えている力の量が多かった。


「マードックとリオンに負けてられん。続けていくぞ」

「エッゾさん。試してみたいことがあるんですが、いいですか?もしかすると修得が早くなるかもしれません」

「やってみろ」


 魔力より闘気に近いと仮定した場合、修練も魔法から離れて闘気の修練法に寄せたら違う結果を生むかもしれない。

 ボクの場合、身に付けた魔法闘気から逆算して魔力を使わない闘気を修得した。それを参考にして修練法を考案してみた。


「エッゾさん。なにか感じますか?」


 微量の闘気を背中から流し込んでみる。


「気分は悪いが、さっきより数段マシだ」

「少し剣を振ってもらえますか?」 

「いいだろう」


 軽く素振りしてもらう。


「どうですか?」

「身体が重い。なんだコレは?」


 他人の闘気は馴染まないのか?それとも獣人だからか?テラさんやアイリスさん達に闘気の補充はできる。つまり、闘気を操れないから自覚がない拒否反応を示してる可能性ありか。


「では、コレはどうでしょう?異常があれば直ぐに教えて下さい」

  

 エッゾさんの体内で獣人の力と闘気を混合してみる。複雑な操作が必要だけど、どうにか交わった。


「なにをした?」

「違う力を混ぜてみました。辛いですか?」

「今はさほど感じない」

「このまま剣を振って下さい。ボクを斬っても構いません」

「いい心掛けだ。ハァァッ!」


「本当は斬られたくない」というツッコミはさておき、かなり俊敏な動きで攻め立ててくる。


「さっきと比べると楽すぎる」

「少しだけ見えた気がします」


 闘気は修練において不調を抑える緩和剤になり得る。相性がいいのかもしれない。


「さっさと混ぜた力を抜け」

「またキツくなりますよ?」

「俺は獣人にしか操れない力を極めたいだけだ。余計な気遣いは必要ない」

「そうかもしれませんが」

「いかに苦しもうと、だからこそ見えるモノがある。お前が1番知っているだろう。甘えて強くなどなれるか」

「確かに…。余計なことをしました」


 エッゾさんの言う通りだ。苦労して身に付けるからこそ技も魔法も自在に操れる。余計な手助けは無用。いらぬ世話というヤツだ。知った事実は自分の修練に活かそう。


 その後も修練を続ける。


「ほとんど身体を動かしていないのに腹が減って仕方ない」

「食事にしましょう。また作ります」


 飯を食べては修練、修正しながら修練、を繰り返し…。


「…今のは微かに動きました」

「ふぅぅぅ……。成果ありだな。ほんの微かにだが感覚を掴んだ。お前の操作に耐えるのにも多少慣れてきた」


 マードックよりもリオンさんよりも早く力を操作するに至った。操作感覚に優れているのかもしれない。


「凄い修得の早さです」

「下らんお世辞はいらん」

「ボクはお世辞は言いません」

「ククッ!なぜ覚えるのが早いかわかるか?」

「わかりません」

「マードックやリオンに勝つタメだ。いずれお前も切り刻んでやるからな」

「物騒すぎますよ」


 けれど本当に凄い。エッゾさんはボクに近いような人生を送ってきたと予想してる。獣人にしてはどちらかと言えば非力。マードックやリオンさんのように逞しい体躯を持たず、武器を持つことを選んだのは強さを追い求める性格だから。

 そして、強さを追い求める原動力は自分の弱さを自覚しているからだ。ハングリー精神はおそらく2人を遙かに凌ぐ。エッゾさんはケンカでもやられっぱなしだったボクと違って、反骨心で強さを追い求め今に至ったはず。底辺のボクは勝手に共感させてもらっていて憧れる獣人の1人。


「今日はもう充分だ。酒と飯を頼む」

「わかりました」


 4回目となる食事中に意外なことを言われる。


「ウォルト。お前、花街のリタに気に入られてるらしいな」

「そうみたいですけど、エッゾさんも知り合いですか?」

「遠い親戚みたいなモノだ」

「確かにリタさんも狐ですね」


 ちょっと豪快なところも似ているような。


「忠告しておく。魔法を使えると知られたくないならリタには関わるな」

「なぜですか?」

「勘が鋭いうえに、男を骨抜きにして話を聞き出す。アイツにかかるとどれだけ口が固かろうが関係ない」


 口を割らせる魔法のような話術を持っているのか。


「お世話になるつもりはないです」

「ならばいい」


 話し終えて食事を続けるエッゾさん。


「エッゾさん。ちょっと訊いていいですか?」

「なんだ?」

「…やっぱりなんでもないです」

「おかしな奴だ」


 会話中の匂いの変化で気付いてしまった。エッゾさんは…リタさんに好意を持ってるっぽいな。

 親戚というのは嘘だし、最後にホッとした心情も伝わった。根拠に乏しい予想だけど多分合ってる。あと骨抜きにされるのは真実みたいだ。


「そういえば、またマードックと獣の楽園の5階層まで行ったらしいな」

「行きました」

「次は俺にも声をかけろ」

「キリアンの次に行く予定です。ボク的にはリオンさんとエッゾさんもパーティーに入ってます」

「だったらいい。…よし。ご馳走になった。フクーベに戻る」

「ボクも一緒に行っていいですか?」

「別に構わん」


 エッゾさんと共にフクーベに向かうことにする。用事は特にないけど気になることがあるから。


 一緒に移動した結果、予想した通りエッゾさんが獣人には珍しい方向音痴であることに気付き、過去の言動も合点がいった。

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