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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
533/715

533 査問と暴露

 ウォルトの住み家に4姉妹が勢揃いで訪ねてきた。


 ボクは知っている。予定にない突然の4姉妹集合は……ボクにとってよくないことが起こる前触れだと。




「…というワケで、今からウォルトを問い詰めるよ!」

「「「おぉ~!」」」


 なにが『というワケ』なのか。4姉妹は訪ねて来るなり一致団結。飲み物でも…と思った矢先、有無を言わさず居間で椅子に座らされた。問い詰められることをした覚えはないけど。


「ウォルト。ネタは挙がってるんだからね。嘘は一切認めないよ」


 裁判で例えるならへっぽこ検事っぽいサマラ。そして、陪審員っぽい3人の妹がボクを包囲するように座る。まずはさわりだけ確認してみようか。


「ちょっといいかな?」

「だまらっしゃい!問い詰めるのは私達の方だよ!」

「そ、そっか」


 皆を怒らせるようなことしたかな…?とりあえず心当たりはない。


「なんでこんなことになったか心当たりがない顔してるね」

「まったくないんだ」

「いいでしょう!今から根掘り葉掘り質問する内にわかること!」


 なんなんだ一体?


「ウォルトは昔から真面目で優しいね」

「どっちも違う」

「奥手で、そんでもって照れ屋でさ」

「そうかもしれない。自分では言いたくないけど」

「そんなウォルトが……フクーベの花街に行ったらしいね…?」

「なんで知ってるんだ?」

「まだこっちが質問してる途中でしょうがっ!」

「ご、ゴメン」


 凄く怒ってる…。余計な口は挟まず大人しく聞こう。


「私の知り合いが花街に入っていくウォルトを見かけたんだよ。獣人の女性2人を脇に侍らせてね…」

「それはリタさんとクーガーさんで…」

「皆まで言わなくてもわかってるの!」

「そ、そうか」

「おそらくなにか事情があってのことだよね。そうでしょ?」

「クリープ症に罹った子供を診るのと、薬を作って届けるタメに行ったんだ。それだけだよ」


 遊びに行ったワケじゃない。そうだとしても店に入ったりしないけど。


「知ってたよ…。えぇ知ってましたとも!わざわざリタに確認しに行ったからね!」

「じゃあ詳しい事情はわかってるんだろう?なんで怒ってるんだ?」


 サマラだけでなくウイカもアニカもチャチャも怒ってる雰囲気。怒られるようなことはしてないつもり。

 

「逆恨みで病気になった子供達の治療、お疲れさまでした」


 急に丁寧な口調に変化するサマラ。


「どういたしまして。好きでやってます」


 こんな返しでいいのか?


「でしょうね。順調に回復して3人とも元気になっていましたよ。可愛い子達でした」

「よかったです」

「ココまでの話は美談です。ウォルトさんはとてもいいことをしましたね。未来ある子供の笑顔を守りました」

「ありがとうございます。そんな大層なことじゃないですが」


 この茶番はいつまで続くんだ?


「でもね……気になるのはそっからだよ」


 サマラの雰囲気が変わる。強者のオーラだ。


「リタから「お礼に遊んでいかない?」って言われたよね…?」

「言われた。そんな気分じゃないから断ったけど」

「そんな気分だったらお願いしてたの?」

「うっ…。いや…」

「もし花街で遊ぶなら…お金を払ってもリタを指名するって言ったらしいね…?」


 なんだ…?めちゃくちゃ怖い…。……はっ!ウイカ達も黒い目をして見てる!なぜだ!?とりあえず説明しよう。


「仮にそうなったとしたら、知らない人に相手されるより知ってるリタさんの方がいいという希望であって…」

「ふぅ~~~~~ん」

「「「へぇ~~~~~」」」

「特に深い意味はないというか…」

「なるほどねぇ~~」


 サマラは顎に手を当てて思案し始めた。


「ウォルト君。私は悲しいよ」


 誰かの真似か?


「君とは長い付き合いだ。出会ったとき、私が3歳、君は6歳だったね」

「そうだね。サマラは覚えてないみたいだけど」

「もう10数年の付き合いになる。ウイカもアニカもチャチャも2年くらいの付き合いだ。そんな私達が……ポッと出のリタに負けたら悔しいよっ!バカウォルト!」

「えぇっ!?」


 どういうことだ?リタさんにサマラ達が負けてる…?


「意味がわからない。悔しがる要素あるかな?」

「あるとも!花街に行って指名するなら私達4姉妹の内の誰かに決まっておるだろう!違うかね!?」

「いや…。前提として皆は夜鷹じゃないし…」

「そういう問題じゃない!」


 言ってることが支離滅裂だ…。ウイカ達も激しく頷いてるけど、ボクの味方はいないのか?絶対にサマラがおかしなことを言ってると思う。


「まさかの敗北で自分に腹が立ったよ…。スタイルは負けてるけども!あと包容力もか!」

「それは個人の受け取り方だと思う」

「冷静だねぇ~!こっちはそんな余裕ないんだよっ!!負け狼だ、こんニャろう!」

「勝ち負けじゃないだろ。そもそも皆はボクの中で別格の存在だ。それじゃダメなのか?」

「別格とか言っても実際選んでないじゃん!いぃ~だっ!」


 ぶ~!ぶ~!と大合唱。


「皆は花街にすらいなかったんだから、選びようもないだろ?リタさんは仕事に真面目だってサマラが教えてくれたんじゃないか。だからお金を払ってお願いするなら彼女がいいだけで、実際にお願いすることはないよ」

「じゃあ、クーガーはいたから選んでいいの!?」

「クーガーさんはそもそも選択肢にない。知らない人かリタさんの2択で考えた」

「むぅ~…。じゃあ、もし私達が全員夜鷹だとしたらどうするの?リタより私達を選んでくれるんだよね?」

「うっ…。そのつもりだけど…」

「ウォルトは誰を選ぶの?もちろん仮の話ね」

「それは…」


 誰か1人を選んでしまうと「そういう目で見てるのか」と怒られそうだし、選ばなくてもやっぱり怒られそう。

 困ったな…。過去にないくらい頭を回してもまったく結論が出ない。そもそも4人全員が魅力的で選べない。全員がじろりと見てくる…。


「ゴメン…。1人を選べないよ」


 気持ちを正直に告げた。


「そっか。まぁいいでしょう!」


 納得してくれた風。どうやら正解だった?


「ウォルトはその日の気分で日替わり夜鷹がお好みってことだね♪」

「そういう言い方はよくない!遊び人みたいだ!」


 なんてこと言うんだ…と思いつつ、ちょっと場の雰囲気が和らいだ。話は終わりかな。


「それにしても、リタは中々口を割らなかったよ。口止めしたの?」

「してないよ。する理由もないし」

「ということは…ただ私を揶揄いたかったんだな。あんにゃろめ…」


 …と、ウイカから一言。


「ウォルトさん。もし逆の立場で、私達に選ばれなかったらどう思いますか?半分冗談だとわかってても、です」

「逆の…?そうだね…」


 ウイカ達が誰かに聞かれてたとして、ボクではなくていつも仕事で女性と絡んでるような男性を選んだとしても…特になんとも………。


「どうですか?」

「……凄く腹が立つ」


 選ばれなきゃ嫌だと我が儘を言うつもりはないけど…。


「ほらぁ!私達の気持ちがわかったでしょ!ウイカ、さすが!」

「任せてください」

「皆が冗談で言ったとしても凄く嫌だ…。こんな気持ちなのか…」


 アニカが笑顔で立ち上がる。


「ウォルトさんは私達を女性として見ることを遠慮してます!もっとガンガン来て下さい!」

「遠慮してるつもりはないよ」

「女性として見ると怒られるとか、困らせると思ってないですか!」

「それはある。怒らないのは知ってるけど、困らせたくないからね」

「そんな話をしても仲が崩壊したりしません!今や添い寝する仲じゃないですか!」

「そうだけど、超えてはいけない一線ってないかな?コレだけは言われたくない!とか、こう思われたくない!っていうラインが」

「ないです!」


 さすがにあると思うなぁ。なんでもありになってしまう。


「ねぇ、兄ちゃん」


 チャチャが口を開く。


「なんだい?」

「兄ちゃんって私達のこと好きだよね?」

「もちろん」

「私達もだよ。だからなんだって選ばれたいだけ。それが怒ってる理由なんだよ」

「好きな人に選ばれたい…か。言われてみればそうかもしれない。皆に選ばれたらボクは嬉しい」


 4人は揃って苦笑い。また変なことを言ってしまったっぽい…。


「ウォルトらしいけどさ、もうちょっと深く考えた方がいいよ」

「でも、それでこそウォルトさんです。だからこそ言えますし」

「そのままでいいと思います!ずっと変わらないのがウォルトさんです!」

「ハッキリ言ったのに兄ちゃんはしょうがないなぁ。ただ、あんまり分からず屋だとミーナさんが出てくるよ」

「えっ!?なんで母さんが?」


 急に魔伝送器が震える。噂をすれば母さんから呼び出し。


「はい」

『ウォルト~~!アンタはいい加減にしなさいよっ!』

「いきなりなんなのさ?」

『そろそろ4姉妹を困らせてるでしょ!』


 困らせてはいないと思う。


「なんでそう思うんだ?」

『母猫の勘だよ!鈍感息子の行動なんてお見通しなんだから!伊達にいつも皆と話してない!』


 母さんは毎日のように4姉妹の誰と話してる。短い時間であっても日課のように欠かさないらしい。

 ボクは腕だけ毎日のように実家に帰省して、母さんの魔伝送器に魔力を補充している。大きく空間を繋げると補充する分の魔力を失ってしまうからだ。

 空間魔法の消費魔力は膨大で、いい鍛錬になっているのか使える魔力量も着々と増加中。


「これからも皆をよろしくね」

『言われなくてもわかってるよ!皆が可愛くて仕方ないんだから!泣かせたらぶっ飛ばすからね!あと、ランがアンタの作ったご飯は死ぬほど美味いって艶々の筋肉で言いにきた!』

「褒めてくれてありがとうって言っといてくれ」

『それと、ハルケとミシャの子供が近い内に生まれそう!じゃあね!母の有り難い言葉を忘れなさんな!』

 

 ブツッ!と通話は切れた。ハルケ先生とミシャさんの子供が生まれたらトゥミエに会いに行こう。もちろん母さんには内緒で。


「ね?出てきたでしょ?」

「皆には敵わない。もはやボクより親子みたいだ」


 母さんは4姉妹のことが大好きで、皆も母親のように接してくれる。本当に有り難い。皆はボクにとっても最大の理解者で、森に住む偏屈獣人の人生ではこれほど素敵な女性達にはもう巡り会えないと思う。


「ん?ウォルト、どしたの?」

「いや…」


 軽々しく言うことじゃない。


「なにさ~?遠慮しなくていいよ!さっきアニカも言ったでしょ?」

「そうですよ!心の丈をぶちまけちゃいましょう!水くさいです!」

「…やっぱりやめておくよ」

「もの凄く気になりますね」

「兄ちゃん!もう一息だよ!怒らないから!」


 そういう問題でもないけど…。とはいえ、抵抗しても無駄かな。


「ただの我が儘なんだけど」

「なに?」

「皆と変わらず一緒にいたいと思ったんだ。この先も…」


 ボクのように狭い世界で生き続けるワケじゃなく、いずれ誰かと番ったり、大魔導師としての道を歩きだす。それぞれの幸せを掴むであろう皆に言うことじゃない。


「いいねぇ~!実にいいよぉ~!」

「え…?」

「そういうのを待ってました。ウォルトさんはまた殻を破りましたね」

「殻を?ボクが?」

「ちゃんと前進してます!心配いらないですよ♪」

「前進?」

「今までで1番嬉しい台詞かもしれない」

「そうなのか?」

 

 笑顔になってる。なんだかよくわからない。


「そういう話は大歓迎!もし、私達の気持ちがそうじゃないとしても、ウォルトの気持ちを否定したりしないからどんどん放り込んでよ。正直な気持ちなんでしょ?」

「そうだけど、こういう気持ちを『重い』って言うんだろう?重荷になりたくないんだ」

「私は気持ちが軽くなりましたよ」

「やる気が出まくりです!」

「兄ちゃんが我慢することじゃないよ。未来がどうなるかなんてわからないんだから」


 場の雰囲気が一気に軽くなった。不思議だ。


「ところで、話を最初に戻すようだけど、ウォルトって私達にいやらしいことしたいと思うことあるの?」

「結構ある」

「「「「えぇぇっ!!?」」」」


 しまった…。目を見開い驚いてる。遠回しには伝えてたけど堂々と認めちゃダメだったか…。

 ハグや添い寝をされると触りたくなるし、見る目も変わる。どうせ考えがバレるから嘘は吐きたくなかったんだけど。


「聞かなかったことにしてくれないか?」

「できない!その辺り詳しく聞かせてよ!」

「う~ん…。口にすることじゃないと思う」

「このお預けはキツいです」

「凄く気になりますよぉ~!」

「兄ちゃん!ちゃんと教えなよ!」

「そこまで言うなら教えてもいいけど、さすがに引くと思うよ?」

「「「「大丈夫!引かない!」」」」


 いい機会だと捉えよう。


「ハグしてるときとか、皆の寝間着姿を見てるときは興奮する。添い寝や風呂上がりも」

「へぇ~。お風呂を覗きたいとか触りたいとか思うの?」

「覗きたいとは思わないけど、触りたいと思う。でも、理性はあるから安心してほしい」

「添い寝しても先に寝るもんね」

「寝付きがよくて正直助かってるんだ。悶々とせずに済むから」

「めっちゃ正直に答えてくれるじゃん」

「嫌じゃないならちゃんと答えようと思って」


 こういう獣人だとアピールしておこう。いい機会だからもっと警戒してくれていい。元々の距離感がおかしいんだ。恋人でもない男女がしょっちゅう抱き合って、さらに添い寝までするのは普通じゃないはず。

 今や自分も落ち着く行為だから構わないと思いながらも、皆と長く付き合っていきたいからこそ適度な距離感は大切だと思う。


「私にもドキドキしてくれてますか?」

「ウイカはいつも控え目で、ハグや添い寝の仕方もそうだけど凄くドキドキする。ボクが好きな匂いがするから」

「私の胸はどうですか?!」

「本能に訴えかける破壊力だよ。油断すると見つめてしまいそうになる。アニカは無防備すぎる」

「私はどう?」

「チャチャは成長とともにドキドキすることが多くなってる。予想外の行動も多くて、平静を装うのに苦労してるんだ」

「ウォルト!私は?」

「幼なじみだけど、一緒にいても全然落ち着かない。大人になって色気も増した。天真爛漫とのギャップでドキドキさせられてる」


 その後も根掘り葉掘り聞いてくる。なんというか…研究材料にされてる気分だ。


「そろそろいいんじゃないかな?」


 幻滅されるんじゃないかってくらい正直に答えてる。なぜか皆の目が輝いてるけど、興味本位だな。

 素直な感情を吐き出せたのはよかった。心の内だけでいやらしい気持ちを抱えてるより、ハッキリ伝えた方が気が楽。どう感じるかは皆に委ねよう。


「じゃあ、今からウォルトが本当に興奮するのか実証に入るよ!」

「「「賛成~!」」」

「今日は帰ってくれないかな」

「なんでよ!」


 そんなの決まってる。


「さすがに恥ずかしいんだよ」

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