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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
530/715

530 怒れる者達

 本日、ウォルトはフクーベの治癒院を訪れることになった。以前からリンドルに「治癒院に来てくれ」と誘われていて、ウイカを通じて行きたい旨を伝えると「是非来てほしい」と返事が。


 何度か誘ってもらっているので、一度は行ってみようと思っていた。治癒師の魔法を見れるのなら見てみたいと。




「リンドルさん。お邪魔しました」


 丁寧に挨拶してフクーベの治癒院を後にしようとしている。


「ウォルト!ちょっと待ってくれ!」

「なんでしょう?」

「まだなにも見てないだろう!?もう少しいてくれ!」

「お断りします」


 治癒院にウイカと一緒に向かい、「治癒師の仕事を見学させてもらえませんか?」とお願いしたところ、「暇だと思ってるのか?」「邪魔だ」と一蹴されてしまった。 

 挙げ句の果てに、「獣人が覚えられることなどなにもない。今すぐ帰れ」と。獣人がなんの用だ?と顔に書いていた。冷やかしも大概にしろ…と。おおよそ予想通りだった。静かに治癒院を出て、奴らの要望通りに帰る前にリンドルさんに挨拶して現在に至る。



「君は薬に精通してると説明してあるんだ!今後の治療のタメになると!君の知識を伝えればわかってもらえる!」

「これ以上はウイカの迷惑になります」

「ならない!彼女は知ってるのだから!」

「何度でも言いますが、迷惑になります。彼女は勉強させてもらっている身で、我が儘を言える立場じゃない。彼女の邪魔をしたくないので」


 ウイカにはちゃんと伝えている。行く前から顛末は予想できていて、ボクは直ぐに帰ることになるだろうと。「わかりました」といつもの笑顔を見せてくれた。「ウォルトさんの好きなようにしてください」と。有り難かった。

 これ以上ボクが無理を言うことで、彼女が変な奴と付き合っていると思われて治癒院で学べなくなったりしたら目も当てられない。今なら興味本位で変な獣人が来た…くらいで済むはず。


「君にとっていい経験になるはずだ!多少のことは我慢してほしい!彼等は直ぐに君の実力に気付くから!」


 聞き捨てならない言葉に激しく耳が動く。


「なぜボクが我慢する必要が…?」

「甘く見ていても君の知識を知れば考えは一変する。交流すれば君も薬や治療の知識が蓄えられて、今後に活かせるはずだ」

「治癒魔法や薬の調合を見たいとは思いますが、譲れないモノがあるので」

「なんのことだ…?」


 ラットの恋人であるのに知らないはずはない。言う必要はないだろう。


「誘ってもらったことは嬉しかったです。治癒院に見学に来たので、満足してもらえましたよね」

「う……う~む」

「ウイカのことをよろしくお願いします。そして、二度とボクを誘わないでください」


 リンドルさんの気持ちには応えた。これ以上は許容できない。


「私は……がっかりしたよ」

「そうですか」

「君にじゃない。治療行為というのは、選ばれた者しかできないと勘違いしている者がいる。魔法が使えたり、薬を調合できたり。人を救うには特別な力が必要で自分達はそんな力を持っていると」

「努力して手に入れた力で誇れる能力だと思います」


 知識と技術を身につけたのは弛まぬ努力の賜物。尊敬に値する。特別だと思うのも自由だ。


「だが、君がラットを救ったように無資格でも人を救える者がいる。治療の裾野が広がれば救える者も増えるんだ」

「理想を目指して突き進んで下さい」


 リンドルさんの言ってることはおそらく世のタメになる。ただ、その考えには添えない。


「こうなることがわかっていたのか?」

「高度な知識を必要とする分野で獣人は蔑まれている。ご存知ですよね?」


 治療について熱く語っているときのリンドルさんはいつも本音だった。ボクを薬師に誘ってくれたときもだ。匂いでわかる。

 ボクも興味はあったし、心意気が嬉しかったから来たんだ。たとえ一瞥の視線を浴びることになろうと。だから気が済んだ。


「ボクは嘲笑や軽蔑を我慢できるようなお人好しじゃないんです」

「そうか…。残念だ…」

「では、失礼します」


 ふぅ…。自分の気が済むようにやって、予想できていたのに激怒するのはさすがに違う気がする。

 獣人というだけで蔑まれると、本当に腹が立って感情を抑え込むのが難しいな。さっさと帰って森の新鮮な空気を吸おう。


「ウォルト。少し待ってくれないか?もう一度…」

「治癒師達に無理な交渉をするつもりならお断りします。違うなら聞きますが」

「違わない…」


 リンドルさんは勘違いが激しくて少し強引だけど、責任感もあって患者を想う治癒師。ただ、ボリスさんと同じタイプの人間でもある。相手の気持ちを考えず理想を声高らかに語るタイプだ。


「ボクに期待するのは金輪際やめて下さい。薬師になったとしても救いたい者にしか薬を渡さない獣人なので」

「私はそう思わない」

「買い被りです。たとえば、さっき「帰れ」と言った人が瀕死の状態で倒れていたとして、ボクが助けると思いますか?」

「助けるはずだ。助けない選択はできない」

「ボクは助けない。特別な力を持つのなら自分で治せばいい。通りすがりの獣人になど頼らずとも生きていけるはず」

「穿った考えだ。君の本質がそうだとは言わないが、今の意見だけ聞けばそうだ。冷静ではない」


 確かに冷静ではないけど、穿った見方をしてるつもりはない。


「もっと言えば、特別な力を持つからこそ分け隔てなく治療ができる。自分以外は、貴族も犯罪者も、たとえ王族であっても等しく凡人だと見下しているから」

「それは極めて偏見で間違っている!断じて治癒師はそんな人種ではない!」

「偏見には偏見で問題ないと思いますが」

「治癒師と獣人に違いはない!この国…いや、この世に同じく生きる者であり、平等なのだっ!」


 この人は…本気で言ってるのか…?匂いは届かないけど、勢いからすると本気に聞こえる。であれば相容れない。


「ただの獣人と治癒師が平等だと考えてるんですか?共通点は共に命は1つしかないことだけなのに」

「違う!なにも変わらない!少なくとも私は獣人に偏見などない!ラットの恋人だぞ!」


 笑えない冗句だ。どの口が言ってる。


「貴女も同じ穴の狢です」

「なんだと?!なぜそう思う!?」

「もう忘れたんですか?さっき言いましたよね。治癒師の偏見を受け入れて我慢しろと。そして、ボクの偏見はおかしいと」

「うっ…」


 頭がおかしいのか?それとも理解力がないとバカにしてるのか?とにかくムカついて仕方ない。


「「獣人に覚えられることなどない」「帰れ」とまで言われて、なぜ我慢する必要がある?立場が平等だと思うなら「お前達は何様だ」と治癒師に言うのが筋だ。違うか?」

「それは……」

「我慢すれば獣人でも治癒師から知識を恵んでもらえるという意味だと解釈した。下から行け、媚びを売れと。蓄えるだとか、今後に活かせると人を騙すようなことをぬかすな」


 黙ってしまったけど図星ということでいいな。無言は肯定とみなす。最初から本音を言えばいいのに回りくどい奴だ。


「いかに言葉を取り繕おうと本音が隠せてない。自分も含め治癒師を特別な存在だと認識している」

「そうではない…。誰だって…最初は人に教わる…。そのタメには…下手に出ることも必要だと言いたかっただけで…」

「適当に誤魔化すな。教わるにしても奴らは御免だ。学びたいと思えば頭を下げて教えを請う。どうしても頭を下げさせたいなら力尽くでやってみろ」

「私は……誤魔化してなど…いない…」

「お前の理屈は理解できない。それ以前に本音を語らない者を信用しない。お前とボクが平等だとほざくなら、まず人の話を聞け」

「…っ」


 踵を返して歩き出す。憤怒が溢れそうだ。ラットの恋人で人となりを知らなければ話す気すらしない。怒りを堪えるのが精一杯。

 彼女が言う平等は理想論。現実はそうじゃない。どこまでいっても優劣は存在するし、よくも悪くも差別する意味で偏見がある。

 ボクは偏見を持ってる。善悪の話じゃなくて誰もが持っているはず。それが軋轢を生むのであって、ないと言い張るのは妄言。正したり、ぶつかりあったり、時には肯定する。そして許せたり許せなかったりする。当然だろう。


 獣人を軽く見ている人なのに、なぜボクに期待してくれたのか?1人でも多く薬師を増やしたいにしても、候補は他にいくらでもいるだろうに。星の数ほど人は存在する。

 今後は薬師や治癒師に誘われることはない。真剣に「誘うな」「期待するな」と二度もお願いしたんだ。まだ誘われるようなら…ボクの要望など端にも棒にもかからず無視して構わないと判断したということ。

 その時は絡んで来れないようにしてやる。ラットの恋人であろうがウイカの恩人だろうが関係ない。ボクの理屈であり言い換えれば偏見。


 


 その日の夜、ウイカが住み家に来てくれた。まったりお茶を飲みながら会話する。


「ウォルトさん。治癒師の人達になにも言えなくてごめんなさい」

「言わないでくれてよかったよ。ボクこそゴメン」

「なんで謝るんですか?」

「ボクが治癒院に行くと迷惑をかけると思ってたんだ。それでも、一度は行きたいという我が儘に付き合ってくれて感謝しかない」


 ウイカにとっては頼れる治癒師の先輩達だろう。付き合いを継続して腕を磨いてほしい。おかしな知り合いだと思われてしまっただろうなぁ。


「私はあの治癒院に行くのをやめます!」

「もしかして…ボクのせいで…」

「ウォルトさんのせいじゃありません!嘘を吐いてますか?!いくらでも匂いを嗅いで下さい!はい!どうぞ!」

「い、いや…。吐いてないけど…」


 紛れもなく本音の匂いだ。そして、ウイカにしては珍しいくらい怒っている。


「治癒師の一面しか見てなかったんだと反省してます…!立派な治癒師である前に、人としてどうなんだって話です!」

「なにがあったんだ?」

「内緒です!ただ怒ってます!あの人達に対して!」

「それはわかるけど、せっかく治癒師の勉強をしてたのに…」

「治癒師を目指すのはやめません!他の治癒院にいきます!リンドルさんが独立宣言したので、そっちでお世話になるかもしれません!」

「えぇっ!?なんで急に?」


 あの後、一体なにがあったんだ…?


「今日は添い寝もお願いします!怒りで眠れそうにないので!落ち着くように!」

「う、うん。いいよ」


 ウイカは関係ないと言うけど、おそらくボクの行動が怒りの原因。気が済むならやってあげたい。そして、本当に自分勝手だけど決めた。


「ボクはこれからも治癒魔法を磨く。君に少しでも教えられるように」

「凄く嬉しいです。ずっと教えて下さいね。でも、贖罪の気持ちでは嫌ですよ」

「違う。ボクがそうしたいんだ。彼らより治療について教えられるような獣人になりたい」

「お願いします」


 笑顔のウイカにそっとハグをした。



 ★



 ラット宅を仕事終わりのリンドルが訪ねていた。


「おい、ラット…」

「なんだよ」

「もっと毛皮をモフっとさせてくれ…」

「無茶言うな。毛皮はいつだって限界だ」


 なに言ってんだコイツ。家に来るなり「モフらせろ」と言いだして、俺の返事など聞かずうつ伏せの背中にずっと顔を埋めてモフっている。仕事してたってのに、ウザいったらない。


「ラット…。すまん…」

「気持ち悪いな。ハッキリ言え」

「私は……お前の唯一の友達を怒らせてしまった…」

「…なにしたんだよ?」


 ウォルトとの話を聞く。


「…といった経緯だ」

「そうか。で、なんでお前は落ち込んでんだ?」

「お前とウォルトの仲に影響がないと言い切れない…。私のせいで…」

「気にすんな。お前を嫌ったとしても俺には関係ない。割り切る奴だ」


 この展開は予想できた。ウォルトも治癒院に興味はあったはず。いつかは行くだろうと思ってた。


「それだけじゃない…。私はウイカに悪いことをした…。ウォルトのことが好きだと知っていたのに…。治癒師達からウォルトを嘲笑する言葉を並べられて…彼女は激怒したんだ。「無知な獣人のくせに格好つけて」とか「家で毛繕いだけしておけばいい」という幼稚な物言いに、ウイカは「私の大切な人を馬鹿にしないで!」と数人掛かりでないと止まらないくらい暴れてな…。怒った姿を初めて見たが…あまりの激しさに誰も止められなかった…」

「お前は悪くないだろ…と言いたいが、元凶はお前だな」

「あぁ…。そして…私も激怒したんだ」

「はぁ?」

「2人を傷つけ…自分の醜さと傲慢さを知った…。同僚にも、私自身にも腹が立って仕方ない…。だから自分が理想とする治癒院を作ってやり直す…」


 なぜそうなるのか意味不明だ。アイツは結末が見えていながら治癒院に行ったはずだ。リンドルが他の奴らと大して変わらないことも知っていたはず。ウォルトと縁を切ればいいだけ。それを望んでいるはず。


「私は…お詫びも兼ねてウォルトに伝えたい…。本当に君の力が必要なんだ…と」

「やめろ。しつこいな。誘うなって断られたんだろうが」

「けれど…治療の世界に誘わなくてはならないと突き動かされる…」


 アイツの力を本能で感じたか?もしそうなら大したモンだが…。


「だったら好きにしろよ。けど、俺は手伝わないからな」

「なぜだっ!?恋人が悩んでるんだぞ!」


 コイツ…やっぱり半分芝居だな。協力させるタメにだろうが姑息な奴だ。


「俺が言ってもアイツの気持ちは動かない」

「頑固なのはわかった!確たる考えを持ち、人の意見に左右されないことも!だからこそお前の助けがなければ誘えないんだ!私はウォルトの信用を失った!」

「知るか。そもそも本当に反省してんのか?」

「してる!だからこそ私の治癒院には同志を集める!何者であっても等しく扱う心を持った治癒師や薬師を見てもらえば、きっと本気だと理解してもらえる!」

「だったら、ウォルトに見せられると思う治癒院ができたら俺に言え。無理やりでも連れて行く」

「頼むぞ!時間はかかるかもしれないが、私はやってみせる!」


 かなり面倒くさいが、親しい俺にしかできないだろう。ウォルトは『こうだ』と決めたら、視野が極端に狭くなって頑固猫になる。そこに行き着くまでならいくらでも方向転換できる柔軟性を持っているが、聞いた限り今回は許容範囲を超えてる。

 過去の経験を踏まえた自分の理屈を持っているのに、獣人を嘲笑されるという一瞬で沸点に達する本能を刺激されたら誰も防げない。そんな頑固者をなんとか動かせたとしても…。


「俺が頼んでもチャンスは1回だ。忘れるな」

「わかった!」

「このくらいでいいだろう…なんて甘い考えは見透かされる。お前が思ってる何倍もアイツは賢いぞ」

「わかっている!しつこいぞ!」


 返事はいいが軽く考えてやがるな。全く本気だと思えない。……ふざけやがって。


「いい加減にしろよっ!勢いだけの軽い気持ちでアイツに絡むんじゃねぇ!こうなったのは誰のせいだと思ってんだっ!」

「失礼なことを言うな!私は至って真剣だっ!」

「適当なこと言いやがって…。お前のやったことは、悪意がなくても最悪の事態を招きかねない!ちゃんと考えろ!大概にしやがれ!」

「なんだとぉ~!お前の怒りは意味不明だ!」


 コイツはなにもわかっちゃいない。


「獣人を知れ!まずそこからだ!教えてやるから耳かっぽじって聞け!」

「友達がいないお前より、治癒院で山ほど交流している私の方が詳しいと思うがな!」

「ふざけんじゃねぇ!お前が獣人を知ってりゃウォルトは怒ってねぇんだよ!俺ならアイツが来る前に周りの奴に釘を刺しておく!「絶対余計なことを言うな。まず話してみろ」ってな!それだけで絶対に結果は違った!お前は今頃笑ってたろうよ!」

「なっ…?!」

「獣人のことも仲間のことも、どっちも軽く考え過ぎだ!なにも知らねぇガキみたいに理想と我が儘ばっか言ってんじゃねぇよ!ちゃんと足下を見ろ!わかったか!」


 久しぶりにデカい声を出したぜ。ふぅぅ……。一旦落ち着け…。


「俺の恋人で、お前をいい奴だと思ってるからウォルトは堪えただけだ。面と向かって獣人という種族を蔑む行為は殺されても仕方ない。どんな奴でも激怒する」

「噂には聞いていたし、人間と違うのはわかっていたが…軽蔑が殺意を抱くほどの怒りを買う行為だとは知らなかった…」

「アイツは丁重に頼んだのにやられた。相当タチが悪い。腸が煮えくり返ってたはずだ。その上で我慢ができるか。お前が火に油を注いでんだよ」

「同僚達は冗談のつもりもあったらしい…。下手に出れば見学くらいは…と」

「なんでアイツが下手に出なきゃいけない。誘ったのはお前だろうが。呼んどいて後は人任せか?ふざけんなよ」

「ぐっ…。その通りだ…。気が回らなかった…」

「冗談も本気も関係ない。患者であろうが治癒師であろうが、そんなこともどうでもいい。獣人相手に絶対にやってはいけないこと」

「私が浅はかだったのは認める…」

「だから他の種族は獣人に面と向かって言わない。思ってもいないからお前は言ったことがないだろうがな」

「獣人だからと見下したことは……ない…つもりだったんだ」


 コイツが獣人を下に見てないことは知ってる。だが、勢いと自分の考えを押しつけてばかりで人の内面を見抜く力がないくせに、とにかく勘違いが激しい。


「アイツは威圧感もない優男に見える。治癒師どもは舐めてたんだろ。お前と違って知っていながら蔑んでる。数も優位で魔法も使える。たとえ獣人が暴れようと倒せるって挑発だ」

「私の無知がウォルトを危険にさらしていたのか…」

「勘違いすんなよ。命拾いしたのはお前らだ。アイツはお前らを皆殺しにできる」

「そうは見えないが、お前が言うのなら真実だろうな…」


 今のアイツの強さは、おそらく昔とは比べものにならない。ティーガ達のように単純な暴力だけじゃない。巷で怪物と呼ばれる魔導師の正体だ。

 俺は、リンドルが無事だったことにホッとして危機感のなさに怒ってる。一歩間違えたら殴り殺されていてもおかしくない。魔法ってヤツで焼かれてもおかしくないのに、勝手で的外れなことばかりのたまう。運がよかっただけだと気付いてすらいない。クソ鈍すぎだ。


「お前の作った治癒院が同じことを繰り返せば、その時こそアイツは止まらない。俺もお前も、雇った奴らも纏めて御陀仏だ。わかったか」


 リンドルはコクリと頷いた。ホントにわかってんのか…?


「もう一度訊くぞ。お前は本気でウォルトを治療の世界に携わらせたいのか?」

「気持ちは変わらない」

「だったら甘い考えを捨てろ。俺も協力はする。けど、一度失敗してるから壁は高いぞ」


 壁を乗り越えたなら、コイツの言う治療の世界は広がるかもしれない。そこらの奴にはできない治療を簡単にこなす魔法使いだ。だが、同時に爆弾を抱えることにもなる。アイツは患者に対しても我慢なんてしないからだ。治療の分野は間違いなく獣人に向いてない。


「私は心を入れ替えて、必ずお前の助言を活かしてみせる」

「なにがお前をそんなに駆り立てる?ウォルトが薬師になったところで、なにも変わらないぞ」


 アイツは高い志を持たない。自分勝手にやったことが他人に影響を及ぼしているだけで、本当に世のタメになるのはリンドルのように理想を掲げて実行に移す奴が増えることだろう。


「さっきも言ったが、よくわからない。感情の赴くまま…というヤツだ。神の思し召しとは、こんな感覚だろうか」

「おかしな話だが、お前にしかできないことなのかもな」


 ウォルトに縁がある治癒師はおそらくリンドルだけ。


「まぁな!私にしかできないだろう!」

「調子に乗るなっつってんだろ!お前が事前に俺に言っとけばアドバイスできたんだ!この事態を招いたのはお前のせいだってわかってんのか?!」

「そ、その通りだ…。すまない…」

「ウォルトを怒らすようなことを言ったことを反省しろって言ってんじゃねぇ!知らなかったことはやってもしょうがない!調子に乗って勝手に突っ走るふざけた性格を反省しろって言ってんだ!」


 今日は1日かけて説教してやる。獣人以上に勢いで生きているリンドルを更生させるいい機会だ。

 これ以上ウォルトを刺激されると本当に取り返しがつかなくなる。今の状態なら少し時が経てば冷静に話せるはずだ。


 獣人の性質を教えていなかった俺にも責任がある。この機会に叩き込んでやろう。これから先、獣人に関わった時にリンドルがひどい目に遭うのを防ぐためにも。

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