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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
528/715

528 獣人の若人

「いい天気だな」

「ついに…やる日が来たぜ!」

「ワタシ達の…記念すべき日だ!」


 朝早くからフクーベを出て、俺達は動物の森に向かう。歩きながら確認する。


「オタ。ちゃんと飯は持ったか?」

「任しとけ。リュックに詰めてきた。っつうか、アッチャが作りゃいいのになんで俺なんだよ。先に言っとくけど死ぬほど不味いかんな」

「動物の森ってどんな感じなんだろ~?」

「人の話を聞けや!このバカ!」

「聞いてるよ!女だから料理が得意ってワケじゃない!ねっ?キリもそう思うでしょ?」

「どっちかというと女の方が得意だろ」


 身体がデカくてちょっと抜けてる猪の獣人オタと、お調子者の羊の獣人アッチャは幼馴染みだ。


「考えが古いって。獣人の男も料理する時代がそろそろ来るから!」

「グフフフッ。適当なこと言ってんじゃねぇよ」

「俺もそんな時代は来ないと思う」

「キリは頭いいから上手くなりそうだけどなぁ~。オタはバカだから無理だろうけど」

「んだと!お前に言われたくねぇよ!学問所じゃ俺よりバカだったろ!」

「獣人のくせに昔のことをグダグダ言うな!」


 いつもの下らない会話で落ち着くぜ。


「それより今日は油断すんなよ」

「しねぇよ」

「ワタシは余裕だと思ってる!ウチらのバランスは最強でしょ!オタはパワーとブサイク担当で、キリは賢さ担当!」

「アッチャの担当は?」

「おいキリ!まずは俺がブサイクってとこにツッコめや!」

「ワタシは可愛さと強さ担当!あとモフモフか!」

「ははっ。そりゃいい」


 オタは言わずもがなアッチャも俺より強い。他人の心配してる場合じゃない。俺達は、これから初めて冒険ってヤツをやりに行く。


「しっかし、成人しねぇと冒険者になれねぇルールはおかしいだろ。人間も獣人も同じ年ってのがな。獣人は10くらいでいいぜ」

「もうちょっとなんだから四の五の言わず我慢しなさいよ。バカ猪」

「うるせぇ!」


 オタの気持ちもわかる。けど、俺はそこに文句はない。


「死んでも自分の責任になるのが、カネルラじゃ15からだ。冒険者は簡単に死んじまう仕事だからしゃあないだろ」


 俺らはまだ14。あと1年経ったら揃って冒険者になるつもりだ。


「フィガロなら俺らの年でも相当強かったろ!」

「フィガロは化け物だ。俺らとは違う」

「グフフフッ!俺は…いずれ超えてやるぜっ!」

「男の獣人は誰でも同じことを思ってんだよ」

「ワタシも超えるけどね!まずはオタをぶっ飛ばす!」

「やれるもんならやってみろ!」


 うるっせぇなぁ。けど、コイツらがいるから俺も冒険者を目指す気になった。


 俺は袋鼠(カンガルー)の獣人。力もそこそこで、これといった特徴はない。跳躍が得意ってくらいで、あとは普通ってやつだ。頭がいいって言われてっけど、獣人じゃなんの足しにもならねぇ。他の奴よりマシって程度。


「ケンカすんなよ。俺らは魔物とやりにきたんだ」

「冒険者になったら一気に上に行くぜ!まずはそこら辺の魔物をぶっ倒して頭に入れときゃあとが楽なんだろ?」

「負ける気がしないんだけど!」

「魔物を舐めるなよ」

「知らねぇよ!かかってこいってんだ!」

「同じく!」


 …ったく、しょうがねぇ奴らだ。


「おいキリ。森に着いたぜ。こっからどうすんだ?」

「まずはあまり奥に行かずに魔物を探す。薬草採りってのが新入り冒険者の基本らしいが、お前らはやんないだろ」

「そんなのつまんない!誰でもできるじゃん!」

「アッチャの言うとおりだぜ。俺らは力試しに来たんだ!草なんか採ってどうすんだよ!」

「だから魔物の雑魚から狩る。今の俺らがどこまでやれるか試すぞ」


 森に入ってしばらく歩き回ってみる。


「なにもいねぇな」

「匂わないね。今日は日なたぼっこ?」

「頻繁に遭遇しないだろ。山ほどいるなら狩人は大儲けだ」

「…おい。そんなこと言ってる内に初っ端の奴が出たぜ」

「なに?」


 狐型の魔物がこっちを向いて唸りを上げてやがる。フォクスロットってヤツか。知り合いから聞いた風貌そのままだな。さほど大きくもない。


「とりあえず1匹みてぇだぜ」

「よし!やるよ!」

「油断するなよ」


 オタとアッチャが跳びかかる。


「コノヤロ…!」

「結構すばしっこい!」

「ガァァッ!」

「あっぶね…!」


 2対1でもてこずる。森では魔物の方が動きがいい。それでも、アッチャが組み付いて動きを封じオタが殴る戦法でなんとか倒した。


「ちっとてこずったが動きが読めてくるぜ」

「けど余裕だったね!」

「そうは見えなかった」


 息切れしてるしな。


「つうか、お前も手伝えや!」

「俺は他の魔物が潜んでないか警戒してた。次はオタがやれ」

「マジかよ。面倒くせぇな」

「その次はアッチャだ」

「えぇ~。待つの向いてないんだけど」

「相手が多ければ全員でいくしかねぇけど、コレも立派な作戦だ。今の内からやっといて損はない」


 先に冒険者になった奴らに聞くと、怪我する奴は油断でやられるのがほとんどらしい。とんでもなく運が悪くない限り獣人なら逃げれる。けど、すぐ調子に乗るのが獣人の欠点で1番怪我すんのも獣人っつってたな。 


 その後も、フォレストウルフやハウンドドッグに遭遇するも、どうにか倒しきる。単体なら俺達でもなんとかなるもんだ。


 昼前に飯休憩にする。


「まっずぅ~!コレ、人の食うモノじゃない!」

「オタ…。とんでもなく不味いぜ。とりあえず焼いただけか」

「うっせぇな!ハナから言ってんだろ!俺に頼んだお前らが悪ぃんだからな!嫌ならテメェで作りやがれ!」

「アッチャ。お前の言う時代が来るかもな」

「でしょうが!男もちょっとは料理くらいやれないとダメだって!っつうかやれ!…ぐっ…まずいぃ~!!」

「黙って食えや!」


 飯の匂いにつられる魔物もいると聞いたが…この飯は魔物すら殺すかもな。


「ちっとションベン行ってくらぁ」

「いちいち言うな!汚い!」

「テメェも冒険者になりゃあこうなるんだよ!男も女も関係ねぇ!わかってんのか!?」

「ワタシは言わないし!」

「いいからさっさと行ってこい」


 ノソノソと俺達から離れていくオタ。


「ねぇ。結構いい感じじゃない?」

「今のところはな。俺らの実力でも雑魚なら倒せるのはわかった」

「まだまだイケるって!もっと奥まで行っ……」


「ぐあぁぁっ…!」


 突然オタの声が響く。驚いてアッチャと声のする方へ向かうと、茂みに倒れたオタの足に獣用の罠が食いついている。


 急いで駆け寄った。


「オタっ!!大丈夫か!?」

「くそっ…!いってぇ…!こんなとこに罠なんか仕掛けやがって!!」

「トラバサミか…。狩人か猟師の仕掛けた罠だな。とりあえず外すぞ。アッチャ、手伝ってくれ」

「あいよ!」


 足首を挟むようにモロに食い込んでる。出血も酷い。


「触るから痛むぞ。気合い入れろ」

「……ぐうぅぅっ!!」


 2人がかりでトラバサミをこじ開け、なんとか外した。けど、まともに歩けそうにないことくらいわかる。


「包帯だけ巻いとく。お前はデカすぎて担げなねぇから、俺とアッチャで街まで肩を貸す。歩けるか?」

「やるしかねぇだろ!」

「よし。いくぞ」


 俺らが冒険者なら傷薬の1つも持ってるだろうが持ってねぇ。さっさと連れて帰る。


「重っ…!オタ、ちょっと瘦せなさいよ!」

「うるせぇ!ブス!」

「冗談言ってる場合か。それと静かにしろ。あまり騒ぐと……」


 …風上から流れてくるこの匂いは。


「ちょっと急ぐぞっ!!」

「なんだよ!?」

「魔物だ!」


 血の匂いに誘われたか。それか騒ぎすぎだ。


 1匹や2匹じゃない。しかも、匂いが濃くなってやがる。なんの匂いかわからねぇ。もたもたしてる暇はない。


 ……ちっ!思ったより速い。


「キキッ」


 あっという間に追い付かれて囲まれた。猿のような獣…?いや、魔物だな。


「全部で4匹いるね。でも、ちっこいよ」


 確かにガキのような見た目。俺らよりかなり小さい。


「こんなもん蹴散らすぜ!手負いでも負ける気がしねぇよ!」

「…そうだな。コイツらを殴り殺して、ゆっくり帰るか」

「賛成!いくよ~!」


 




 正直、予想外だ。魔物を舐めすぎたか。


「はぁ…はぁ…。なんなんだコイツら!」

「すばしっこいし…しつこい!」

「キキィッ!」


 俺らを囲んだ魔物はバカにするように動き回る。逃がさねぇと言いたいのか。


 コイツらはやべぇ…。見た目は猿のガキみてぇなのに、動きが速くて力もありやがる…。俺らの攻撃は軽く躱して、爪でがっつり切り裂いてくる。しかも本気じゃねぇ。完全に遊ばれてる。

 このままじゃジリ貧だ。オタは満足に動けねぇし、口じゃ強がってるがアッチャもビビってる。こうなったら…。


「おい。俺が囮になる。お前らは街まで気合い入れて駆けろ」

「なに言ってやがる!一番弱ぇくせしやがって!」

「まともに動けない奴よりマシだ。今ならお前も倒せるぜ。アッチャ、頼むぞ」

「逃げたくないし!」 

「ヤベぇってわかってるだろ?やれることをやれ……ちっ!」


 息を合わせて魔物が襲ってくる。コイツらは、群れで狩りをする奴らに違いない。


「ぐあっ…!があぁっ!」

「きゃあぁ!痛いっ…!」

「おらぁっ!」

「キキッ!キキッ!」


 ニヤけながら光のない目で見てきやがる…。1人も逃がさねぇつもりか。


「くっそ…。ボ~ッとしてきやがった…」

「しっかりしなよ!デカいくせに!」

「アッチャ。今度こそ行け」


 血も止まってねぇから当然。俺が死んでもコイツらに死なれるのは勘弁だ。…どんだけ弱かろうが魔物ごときに負けるかよ!


「キキッ!」

「ぐあっ…!いってぇ…なっ!うぉらぁ!」

「ギャッ!」


 爪が腕に食い込んだ。けど、顔面をまともに殴ってやったぜ。骨を切らせてなんとやら…ってな。


 頭を踏みつけて潰す。あと3匹だな。


「オタ!アッチャ!早く行けっ!」

「キィッ!」


 やべっ…!油断した!


「があぁっ…!」


 挟み撃ちされて、爪が腕と背中に食い込む。


「クッソが………舐めんなっ!」

「キキッ!キキッ♪」


 殴りかかっても距離をとって嘲笑う。痛すぎてまともに立ってられねぇ。せめて傷薬くらいは持ってくるべきだった。


「キッキ♪キィッ!」

「キキッ!」


 クソがぁ…!おちょくりやがって……ムカついてしょうがねぇぜっ!ただでやられてたまるかよ。動ける内にとっ捕まえて……道連れにしてやる!


「うおぉぉらぁぁっ!」

「キッキッ♪……ギギッ!?ギッ…ィ…」

「なんだっ?!」


 いきなり視界に人影が飛び込んできた。急に魔物の動きが止まり、身体が斜めにズレる。


「キキィッ!ギャッ…!」

「ギィ!…」


 残りの2匹の首も飛ぶ。 目の前に現れたのは…暑そうな服を着た白猫の獣人。変な片眼鏡を付けて手に剣を持ってる。誰だ、コイツ…。


「アンタ……誰だ?」


 何者か知らねぇけど、斬る剣の動きが見えなかった。冒険者か…?背負った鞘に剣を戻して、ジッと俺達を見てくる。


「一応訊くけど、治療が必要か?」

「…薬かなんかあるなら、アイツらの傷をなんとかしてもらえねぇか…?」

「わかった」


 オタは気を失ってるし、アッチャも傷だらけだ。引き受けてくれて正直助かる。白猫の獣人が近寄って手を翳すと、オタの足の傷が治っていく。


「おい、なにしてんだ!?なんで傷が治るんだよ!?」

「『治癒』の魔石だ。魔法を込めてある。コレを互いに使ってくれ。傷に近づけるだけでいい」


 魔石をアッチャと俺に渡してくる。翳すと傷が癒えて痛みも引いていく。


「すごいね…」

「こんなモンがあるのかよ…」


 聞いてはいたが、生まれて初めて魔法ってヤツの凄さを知る。


「この傷はトラバサミか。君達は冒険者じゃないのか?」

「俺らはまだ成人してない」

「そうか。猟師は森に罠を仕掛ける。場所がわかるように印があるから覚えておくといい。あの木に色の付いた鋲が打ってるだろう?傍に罠が設置されてる目印だ」

「そうなのか…。知らなかった…」

「回復薬も渡しておく。飲めば体力も戻る」


 渡された薬を飲むと確かに力が戻った。


「白猫の兄さん…。ありがとうな。けど、俺らは金も持ってねぇんだ。魔石や薬ってのは高いんだろ?」

「お金はいらない。それより、かなり血が流れてる。よかったら食べてくれ」


 渡された握り飯みたいなもんを食うと、めちゃくちゃ美味ぇ。


「もう傷は大丈夫だ。あっちの方角へ進めば直ぐに森を抜ける。言わなくてもわかるだろうけど」

「あぁ」

「森を抜けるまで付いていく」

「そこまでしてもらわなくていいぜ。もう充分だ」

「乗りかかった船だ」


 瘦せた身体でオタを軽々と肩に担ぐ。オタの身長(タッパ)はそれほどじゃねぇけど、重さは大人並みだってのに…。この白猫……瘦せてんのにすげぇな…。


 

 20分くらい歩くと森を抜けた。


「もう魔物は出ない」

「アンタのおかげでマジで助かった。ありがとう」

「ありがとう!マジで格好よかったよ!ワタシは惚れそうだった!」


 白猫の兄さんは苦笑いしながら森に帰っていく。


「おいオタ。起きろ」

「……うっ。…ココどこだ?」

「森を抜けた。足も治療したから動けるだろ。フクーベに帰るぞ」

「…痛くねぇ。なんでだ?」


 事情を説明しながらもらった回復薬を飲ませて飯も食わせてやる。「美味ぇ!」を連呼しながら食ってるから心配いらねぇな。


「そんな気の利いた獣人がいるんか?夢見てたんじゃねぇのか?」 

「マジだよ!夢見てたのはアンタだし!」

「夢ならお前の傷は治ってない」


 ……しまった!


「キリ、どうかしたの?」

「やべぇ…。名前聞くの忘れてた」

「ホントだ!早く言えっつうの!」

「そんだけ手際がいいっつうことは冒険者だろ。もうちょっとすりゃ会うこともあらぁ」

「…そうだな」


 冒険者でもないのに剣を持ってる獣人なんかいねぇよな。それに、獣人にしちゃ変な格好だった。誰でも知ってるだろ。


「その時は稼いだ金で酒を奢ろう!」

「そうしようぜ!俺は顔も見てねぇけどな!」

「あぁ」


 俺らは獣人だ。恩は忘れねぇ。また会ったらなにかしら礼をしなきゃ気が済まねぇ。


「ちっとヤバかったけどよ、面白かったな!」

「罠にかかった奴が言うな!死にかけ猪!」

「なんだと、コラァ!」


 フクーベに向かいながらいつもの光景にホッとする。


「あの猿みてぇな魔物、いずれ殴り殺してやっからな!」

「シミアっつって群れで狩りをする魔物らしい。獲物を嬲る癖があってタチが悪いんだと」

「数が多いほどヤバいって言ってたよね!」

「やっぱ冒険者じゃねぇかよ。マードックの兄貴といいやっぱすげぇな!」

「兄貴とか勝手に呼んで、アンタ殺されるんじゃないの?」

「うるせぇ!尊敬っつうヤツだ!格好よすぎんだよ!」


 オタがたまたま王都の武闘会のチケットを当てて、遊びがてら3人で【獣人の力】の闘いを見てきた。最高に興奮した。互いに首を持って、一歩も退かずに殴り合うマードックの闘いを見て「冒険者になるしかねぇ!」と俺らは決めた。アッチャは多分ノリだ。


 自分が獣人でも力が弱い部類なのはわかってる。それでも、毎日死ぬ気で鍛えりゃなんとかなるだろうと思いながらやってんだ。けど、違う強さを見た。エッゾのように得物を使って相手を倒すのはダセぇと思ってたのに、間近で見てシビれた。

 剣で魔物を一瞬で屠るのも強さだ。殴り倒す強さにこだわる必要はねぇ。俺も剣ってヤツを使ってみたい。


「金貯めとくか」

「急になんだよ?俺に奢んのか?」

「んなワケねぇだろ。剣を買う」

「いいじゃねぇか!お前にゃありだろ!」

「さては白猫兄さんに憧れちゃったね!」

「そんなんじゃねぇよ」


 やってみたいと思えた。ただそれだけだ。

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