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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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517 類似と既視感

 フクーベの治癒院で勉強中のウイカと、ミーリャ達と冒険中のオーレンとは別行動で森の住み家を1人訪れたアニカ。


 今日は、ウォルトさんにあることをお願いしにきた。住み家に辿り着いてドアをノックすると、ウォルトさんが中から顔を出す。


 素早くハグする。


「ただいま!」

「おかえり」

「今日は修練と冒険のお誘いに来ました!」 

「お茶しながらゆっくり聞こうか」


 招かれて台所に一直線。私とお姉ちゃんは、修練のあとでもない限り手伝わないという選択はない。疲れているときは「回復するのは大切だよ」と手伝いを断られる。

 ウォルトさんのおかげでお茶を淹れるのも上手くなった。他の冒険者にも褒めてもらえてるけどまだまだだ。


 お茶を淹れて居間へ移動する。


「冒険ということは、なにかクエストを受けたの?」

「ちょっと面白いクエストがあったので、受けてみました!内容は『宝探し』です!」 

「宝探し?珍しい依頼のような気がするね」

「指定されたダンジョンから宝を持ち帰るんですけど、それがなんなのかハッキリしてないんです!気になりませんか?Cランクのクエストなんで、めちゃくちゃ危険ではないと思うんですけど」

「気になる。目的を教えてもらえないなんて変わっ他依頼だね」

「そうなんです!ちょっと不思議なクエストです!」


 勢いよくテーブルに身を乗り出すと、ウォルトさんはふいっと目を逸らした。


 …ふふっ♪胸を強調するアピールが効いてる。最近、待望の成長が始まった。まだまだ大きくなるから楽しみに待ってて下さいね。

 この胸には、ウォルトさんの愛情が込もった料理から摂取した栄養が詰まってる!恩返ししないと!口に出さなくても好きなのはバレてますから~!


 ただ、適度なアピールでないと見てくれなくなるので匙加減が難しい。ウォルトさんは出会った頃から変わらず照れ屋だ。


「クエストはどこに行くの?」

「『月陽炎(カタフーニャ)』って名前なんですけど、知ってますか?」

「知ってるけど、宝の存在は知らなかったよ」

「一緒に探せますね!」

「場所が少し遠いから、弁当も準備しておこうかな」

「お願いします!あと、今日泊まってもいいですか?」

「もちろん」


 やったね!倒れるくらいまで修練を頑張ろう!多分お姉ちゃんは忙しくて来れないけど、サマラさんやチャチャも来ないのかな?


 夜まで1人ならドキドキ作戦を決行しよう……なんて考えていると、パッカパッカと軽快な音が聞こえてきた。


「蹄の音…?」

「友人が来てくれたみたいだ。アニカにも紹介するよ」

「ありがとうございます!」


 馬に乗った友人?若しくはチャチャが言ってたリリサイドとドナかな?どちらにしても会ってみたいから、一緒に玄関で出迎えよう!


「ウォルトさん。音がどんどん近づいてきますけど、止まる気配が…」

「いつもなんだ。ドアを見てて」

「ドアですか?………うわぁっ!」


 ビヨーン!と、ゴムのようにドアが室内側に伸びた。この形は馬の脚…?元に戻ったところでウォルトさんがドアを開ける。


「ウォルトさん!お久しぶりです!」

「ヒヒーン!」

「お久しぶりです。遠いところまでお疲れ様でした」


 私も外に出ると、白馬に跨がって槍を背負った女性がいる。


「休まずに来ました!……ん?」


 女性と目が合う。


「アニカ。こちらはボクの友人で、カネルラ騎士のテラさんだよ。騎馬はカリーっていう名前なんだ」

「テラさん…と、カリー…」

 

 ゆっくり歩み寄る。コレは…初めての感覚。


「テラさん。こちらは、ボクの友人で冒険者のアニカです」

「アニカ…」


 テラさんがカリーから下りて、互いに向き合ってからがっちり固い握手を交わした。


「テラさん。初めまして!冒険者のアニカです!」

「アニカさん。初めまして!新米騎士のテラです!」

「カリーも初めまして!綺麗な毛並みだね~!」

「ヒヒン!」

「立ち話もなんなので中へどうぞ!」

「お邪魔します!」

「いや…。アニカ…。それはボクの台詞…」


 ウォルトさんのツッコミはほっといて、テラさんとカリーを招き入れる。


 ビビっときた。私…いや、私とテラさんは瞬時に理解したのだ。私達は似たもの同士だと。




「ん~!美味しいです!相変わらず絶品ですね!お腹を空かせてきて正解です!」

「ヒヒン!」

「ありがとうございます」


 修練するつもりだったけど、王都から遠路はるばるテラさんとカリーが来てくれたから先に食事をすることになった。「ゆっくり話してて」とウォルトさんに言われて、料理を待っている間に自己紹介を済ませる。


「ウォルトさんの言ういつもお世話になってる騎士がテラさんだったんですね!」

「私の方がお世話になってるけど!アニカならわかるよね!」

「わかりすぎます!」

「だよね~!」


 ノリが合ってもう1人の自分を見てるみたい。性格だけならお姉ちゃんより似てる。年齢もお姉ちゃんと同じ歳らしくて、急に姉が増えたような感覚。


「今日はウォルトさんに用があるんですか?」

「修練の成果を見てもらいに来たの!」

「修練って、騎士のですか?」

「うん!槍と魔法ね!」

「テラさんは騎士なのに魔法使いなんですか?!すっごぉ~!」

「全然凄くないよ!どっちもまだまだだから!」

「まだまだが口癖になりますよね」

「なる。ならざるを得ないというか」

「わかります!」

「だよね~!」


 気持ちがわかるなぁ。カネルラ騎士でも刺激を受けてることがわかって嬉しい。ウォルトさんがお茶を淹れてきてくれた。


「アニカとテラさんの性格が似てると思ってたのは、勘違いじゃなかったかな」

「そうなんですか?」

「会ってもらいたいと思ってたんだけど、理由もないのに会いに行くのもどうかと思ってたんだ」

「水くさいですよ!ウチにはいつでも遊びに来ていいんです!ウォルトさんの友人なら誰でも歓迎しますから!」

「今度王都に行きます!」

「どんと来い!友達も一緒に来ればいいよ!」

「テラさんもフクーベに遊びに来て下さい!その時が楽しみです!」


 いやぁ。会話が楽しくて食が進む進む!それからしばらくして…。


「アニカ…。細いのにめっちゃ食べるね…。うっぷっ!苦しい…」

「ヒヒン…」

「私はもっと大きく育てないといけないので!」


 なにを、とは言わないけど!満腹でダウンしたテラさんを居間に置き去りにして、ウォルトさんと一緒に後片付けを軽く終わらせる。


「修練するかい?」

「もちろんやります!テラさんも一緒に修練しませんか!」

「やる~っ!やらいでか!」

「先に外で待っておくよ」

「了解です!」

「し、しまったぁ~!まだ直ぐに動けない~っ!」 


 ウォルトさんはそそくさと家を出て行く。


「テラさんは、なんで悔しがってるんですか?」

「アニカ…。私は悔しい…!」


 テラさんから『いつもの件』について説明を受ける。


「なるほど!何回もやり過ぎて読まれちゃってますね!」


 私の貫頭衣ドキドキ作戦と同じ轍を踏んでるなぁ。やることまでそっくり。


「最後まで言わせてくれないんだよ!慣れって怖いねぇ~!」

「そういうときは変化が必要です!ウォルトさんは学習能力が半端じゃないんで!」

「変化って…どんな?」

「そうですね…。目の前でいきなり着替え始めるとか!」

「ただの変態だよ!」

「テラさん…。あのウォルトさんの予想を裏切る必要があるんですよ?『み、見れニャい~!』の表情を見たくないんですか…?」

「それは見たい!」

「だったらやらなきゃ!女ならやってやれです!」

「…よぉし!次は策を練る!」


 お姉ちゃん達からは、私がこんな感じに見えてるのかぁ~。ちょっとおバカに映るね。とりあえず、テラさんもウォルトさんのことが好きなんだと直ぐにわかった。当然テラさんも気付いてるだろうし。だったら…4姉妹の三女として新たなライバルの出現を歓迎しようじゃないか!


「なにかあった?」


 心配になったのかウォルトさんが戻ってきてくれた。    


「なにもないですよ!いやぁ~、それにしても暑いですね!」

「ちょっ!?テラさん!?」

「どうかしましたか?」

「なんで急に服を脱ぐんですか!?」

「食後で暑いので」


 とぼけながら服を脱ぎ始めたテラさんを見て、ウォルトさんはめちゃくちゃ焦ってる。即実践に移す豪胆さに、『これは手強い』と思いながら笑いが止まらなかった。





「ぶはぁ~!疲れたぁ~!そして、やられました!」

「私も魔力切れで動けません!」

「水を持ってくるよ」


 2対1の模擬戦闘を終えて、ウォルトさんはカリーと一緒に住み家へ向かった。私とテラさんは大の字で空を見上げる。更地はウォルトさんがこまめに魔法で草刈りしてるから、ふかふかで気持ちいい。このまま寝てしまいそう。


「アニカ、ありがと!魔法での援護は助かったし騎士団ではできない戦法に気付けた!」

「こちらこそ!騎士の動きは冒険者と違って勉強になりました!」


 騎士と一緒に闘うなんて中々できない経験。


「起き上がれないくらいの完敗だけどね!」

「ウォルトさんは体力お化けですから!」

「だよねぇ。……今日は来てよかった」

「急にどうしたんですか?」

「アニカも……ウォルトさんのことが好きなんでしょ?」

「はい。テラさんもですよね?」


 やっぱりわかるよね。


「そう!負けないよ!でも、いい子なんだもん。変だけどなんか嬉しくて」

「私もそう思いましたし、もっと手強いライバルいますよ!」

「ウォルトさんはモテるよねぇ。絶対ライバルがいるってわかってた」

「後で詳しく教えますよ。一緒に泊まっていきませんか?」

「う~ん…。すっごく聞きたいけど、明日休みじゃないの。というか、私は訓練を休まないのが売りなんだ」

「じゃあ、今度王都に行ったら教えますね!」

「ありがと!ちなみに…何人?」

「現時点で私の他に3人います。全員強敵です」

「マジかぁ~!…気合い入るぅ~!」


 話してるとウォルトさんが戻ってきた。


「水どうぞ」

「「ありがとうございます!」」

「今からは魔法の修練に切り替えましょう。アニカもいるので少し高度になりますが」

「「はい!」」

「ところで、なぜ気合いが入ったんですか?」

「げっ!聞かれてました…?」

「気になったので。言いたくないなら大丈夫ですよ」

「今は内緒でお願いします!その内バレると思うので!」

「わかりました」


 喉を潤して、テラさんと一緒に魔法の修練を始める。


「アニカの魔法は凄いね!さすが冒険者だ!」

「テラさんも凄いです!」


 テラさんはウォルトさんにしか魔法を習ってないらしい。つまり、滅多に会わないから黙々と習ったことを反復してるということ。

 それなのに、かなり魔法が磨かれていて基礎がしっかりしてる。凄い努力家だとわかって尊敬しかない。


「武器を扱いながら魔法を狙ったところに飛ばすのって難しいですね!コツとかありますか?」

「発動する時の照準に誤差があるのだと思います。先ずは動かさずに飛ばすとわかりやすいです」


 テラさんから槍を借りて、ウォルトさんは常時設置してる木に括りつけた的に穂先を向けた。


「見てて下さい。『氷槍』」


 穂先から氷の欠片を飛ばし、見事真ん中に突き刺さる。


「すっごぉ~~!めっちゃ遠いのに!」

「この修練から始めるといいです。近くから始めて、命中したら少しずつ距離を遠くしていきます。次にゆっくり動きながら確実に当てるように」

「なるほど!修行しますね!」

「剣よりも長い分、魔法攻撃も幅広くなります。たとえば…」


 槍を真っ直ぐ天に掲げて、穂先で円を描くように回すと放射状に氷が飛散する。遠距離まで届く魔法。


「こんなこともできますよ」


 身体の前で地面に立てるよう垂直に構えた槍を、グルグル回転させる。すると、徐々に地面が削れ始めた。穂先から魔力の刃を伸ばしてるんだ。


「このまま…」


 ドーン!と前方に巨大な炎を放出する。


「どっひゃぁ~~!」


 テラさんの反応は大袈裟で面白い。サマラさんに近いかも!


「もう1つ見せますね」


 頭上に槍を持ち上げて高速でも回転させると、ゆっくり身体が浮き上がった。


「と、飛んでる!?」

「凄いです!」


 私達が見上げるくらいまで空に昇っていく。槍全体から風魔法を下方に向けて噴出してる…。自分には魔法が当たらないように断続的に調整して…。


「魔法騎士を目指すテラさんなら、直ぐにできるようになります」

「だから無理ですって!」

「あははははっ!頑張ってください!」

「アニカも他人事だと思って!わかるでしょ!」


 どこまでも私達と同じで笑ってしまう。誰に対しても安定の非常識。その後もいい汗を流して充実した修練を終えた。




 修練を終えて「汗をかいたから」とお風呂に向かうテラさんを呼び止める。ウォルトさんは晩ご飯を作りに向かって、なぜかカリーも後を付いていった。今は声は届かないはず。


「テラさん」

「どうしたの?」

「コレをどうぞ」


 あるモノを手渡す。あえて説明はしない。使うも使わないもはテラさん次第だ。私達はライバルだからね!

 


 居間で休みながら料理の完成を待つ。


「アニカ。料理ができたよ」

「わかりました!配膳します!」


 ウォルトさんと一緒に料理を運び終えるとテラさんが浴室から出てきた。


「ウォルトさぁ~ん」

「はい、どうかしましたか…………いぃっ!?」


 テラさんは、私とお姉ちゃん用の寝間着である小さな貫頭衣を着てる。私より身長が高いのに、わざと糸を解いて裾を短くしたギリギリを攻めた格好。前を手で引っ張って、ギリ下着が見えないくらい。後ろから見たらお尻が丸見え。


「この貫頭衣、かなり短くて~」

「ちょっ…!テラさん!なんでアニカの貫頭衣を?!いつも着替え持ってきてますよね!?」


 赤くなって目を逸らすウォルトさんは可愛い。眼福、眼福!


「今日は忘れたので、アニカに頼んで出してもらいました!ちょっと裾を引っ掛けてしまって~」

「それより大きいサイズもあるので、直ぐに着替えましょう!」

「コレでいいんですけど」

「ダメですって!熱出ますよ!」


 動かずに満面の笑みを浮かべるテラさん。慌てるウォルトさんの様子を見て満足げ。


 私は貫頭衣を渡しただけでなにも言ってない。それなのに、予想を上回る行動を披露してくれた。貫頭衣を編んでくれたウォルトさんに配慮して糸を解くのは私にはできない。大胆な行動に本気具合が伝わってくる。


 明日、皆に強敵(ライバル)の手強さを伝えなくちゃ!

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