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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
511/715

511 外からの刺激も必要

 ウォルトはチャチャの住む村ダイホウの豊穣祭りに参加することになった。


 チャチャが出店で料理を振る舞っていいか村長に提案してくれて、了承してもらえたから。「獣人の男の料理?大丈夫なのかい?」…と不安そうだったらしいけど、ダイゴさんやナナさんも援護してくれて、「そこまで言うなら」と納得してくれたらしい。料理の準備は大変だから正直助かると。


 せっかくもらえた機会。精一杯ボクが美味しいと思う料理を作ろう。豊穣祭りは昼の内に終わってしまうので午前中から準備を始める。 


「兄ちゃん。食材足りそう?」


 チャチャも準備を手伝ってくれる。村の人達は豊穣祈願を終えてから集まるらしい。


「充分過ぎるよ。ホントに使っていいの?」


 ダイホウの豊穣祭りでは、各家庭から持ち寄った食材を皆で調理して食べるのが通例だと聞いた。農家は野菜や穀物を、狩人なら肉といった具合に。


「もちろん。足りなくなるような気がしてる」

「さすがに大丈夫だと思うよ」

「始まればわかる。まずは煮物から仕込みするね」


 ダイホウでは決まった料理を順番に食べる風習があるらしい。ある意味コース料理のようだ。事前に作り方と順番を教わっているから難しくはない。


「兄ちゃんって、絶対に教えたとおり料理を作らないね」

「直ぐ自分好みにアレンジしてしまうんだ。ダメかな?まだ味は修正できるよ」


 教えてもらってる時点で味の想像ができるから、もっと美味しく改良できないか考える。でも、教えられた通りに作るのは嫌いじゃない。


「そのままでいいよ。美味しいのはわかってるから」 

「皆の口に合えばいいけど」


 ダメなら作り直そう。


「できたよ。足りるよね?」

「足りない。もう1つの鍋一杯にお願い」

「聞いた人数からすると足りる気がするけど」

「絶対足りない。私が合ってたら兄ちゃんに添い寝しまくるからね」

「追加で作るよ」

「むぅ…」


 真面目なチャチャも冗談を言ってくれるようになった。砕けてくれて嬉しくもあり、よくない傾向だとも思う。ボクだって男なんだ。理性を保とうにも限度はある。その後は、煮物の他に焼き物、揚げ物、蒸し料理と仕上げていく。


「なんでも作れるのは知ってるけど、兄ちゃんって好き嫌いはないの?」

「体質的に食べられないモノもあるし、苦手なモノもあるよ」

「苦手なモノって?」

「一番は(ビネグル)だね。酸っぱい匂いが苦手でむせてしまうんだ」

「鼻がいい兄ちゃんにはキツいかもね」


 話しながらも手は止めず、時間に余裕を持って料理が完成した。


「間に合った」

「お疲れさま。早すぎるくらいだよ」

「魔法で『保存』しておくから大丈夫」

「サマラさんやウイカさん達も後で手伝いに来てくれるって」

「そっか」


 村の人達が歩いてくる。祈願が終わったのかな。


「ウォルト兄ちゃんだ!」

「久しぶり~!」

「おつ~!」

「久しぶり。みんな逞しくなったね」


 カズもニイヤもサンも成長してる。狩りの勉強や手伝いをして、家計に貢献してるとチャチャから聞いてたけど成長が早いなぁ。


「ウォルト、元気だったか」

「今日は村祭りのタメにありがとう」

「ダイゴさんとナナさんもお久しぶりです」

「あぅ~!あ~ぅ!」

「はいはい。ウォルトのところに行きたいのね。ララを抱いてあげて」

「はい」


 ララちゃんも大きくなってる。目がくりくりして相変わらず可愛いなぁ。


「あ~!う~!」

「ララちゃん、久しぶりだね」

「あぅっ!」

 

 ヒゲを掴まれて痛い。でも可愛いから気にならない。


「ララ。今から兄ちゃんは忙しくなるの。お母さん達と待ってて」

「やっ!」

「ワガママはダメだよ」

「うぅ~…!」

「よければ、ナナさんの抱っこ紐を貸してもらえませんか?」


 お願いしてチャチャに手伝ってもらう。


「ララちゃん。コレでいい?」

「あぅっ!」


 紐でおんぶして子連れ猫になってみた。前で向かい合わせに抱きたいけど、火を使う調理中は危ない。


「ララちゃんが嫌がったらお願いします」

「わかったわ。我が儘な娘で悪いわね」

「兄ちゃん、似合ってるぞ」

「俺達よりララに好かれてる」

「さるねこ!」


 …と、老齢の杖をついた女性が話しかけてきた。


「ウォルトと言ったかね?アタシは村長のナッキだ。今日はアタシらのタメに、わざわざ料理を作ってもらって悪いねぇ」

「こちらこそ作らせてもらってありがとうございます」

「楽しみにしてるよ。なにもない村だけどアンタも楽しんで帰っておくれ」

「はい」


 祭りの会場はダイホウ村唯一の広場。ペニーとシーダと遊んだこの場所に、茣蓙やテーブルを持ち込んでいる。


「じゃあ料理を配るね~!準備できてるから取りに来て~!」


 チャチャが手際よく煮物をよそって渡す。ボクも隣でよそって渡す。全員に行き渡った。


「いい実がなるよう、獲物も獲れるように祈りは済んだよ。恵みを頂こうか」


 ナッキさんの音頭で皆が食べ始める。


「…こりゃうまい!」

「すっごく美味しい!」

「いつもの煮物と違うけど美味いな!」


 口に合ったみたいでホッとする。


「チャチャ!お代わりくれ!」

「ウォルト兄ちゃん!ルリにも!」

「久しぶりだね、ルリ。どうぞ」


 どんどんお代わりに来てくれる。あっという間に鍋1つ分を食べきった。2つ目も食べ尽くしてしまいそうだ。


「ねっ?足りなかったでしょ?」

「そうだね」

「あ~っ!う~っ!」

「ララちゃんも食べる?はい」


 柔らかい肉と野菜を匙で掬って、肩越しにララちゃんに食べさせる。


「…ぅ~…まっ!」

「ふふっ。ララは美味いって言いたかったのかも」


 作り置きしていた料理もどんどん食べてもらう。


「凄い勢いで食べてくれてる。よかったね」

「有り難いよ」

「ウォルト~!チャチャ~!」

「ん?」


 遠くからサマラとアニカとウイカが駆けてきた。キキーッ!と目の前で止まりきる。


「仕事終わった~!でも元気!」

「私達も冒険終わりました」

「お腹ぺこぺこです!」

「お疲れさま」

「お疲れさまでした。皆も食べてください」


 サマラ達は茣蓙を広げて一心不乱に食べ始める。お昼時だしお腹が空いてたんだろう。10分と経たない内に…。


「食べ終わった!」

「はやっ!ゆっくり食べていいのに」

「手伝いに来たのに悠長に食べてられません」

「しゃかりきに働きますよぉ~!」


 働き者だなぁ。皆が食べ終わるとほぼ同時に、村の皆が押し寄せてくる。


「なんでも作れるんだって?酒に合う肴を頼んでいいか?胡椒と肉を使った料理がいい」

「儂と婆さんは、柔らかく煮込んだ煮物がいいのぅ。歯が弱いもんで」

「私は野菜を沢山使った炒め物!肉は少しで!」

「はいはい。焦らないで。少し時間をもらうからね」


 チャチャが注文を纏めてくれるから助かるな。今からさらに楽しい時間が始まる。即興料理は作っていて楽しい。


「はい!野菜切ったよ!」

「皮を剥きました」

「できたのを持っていきます!」

「兄ちゃん、次は串焼き2つね」


 4姉妹がてきぱき手伝ってくれる。お願いしたとおりに食材を切ってくれるだけでも大助かり。味付けと調理に専念できて、かなり早く出せる。


「ララは可愛いね!ウォルトの背中が好きなの?」

「あぅっ!あ~うっ!」


 背負われてるだけでつまらないだろうに、静かにしてくれてる。可愛いなぁ。

 

「ウォルト兄ちゃん!甘いのが食べたい!」

「餡子じゃないお菓子がいいな!」

「待っててね」


 果実を載せて焼き菓子にしようか。クレープも作ろう。生地は事前に作ってきてる。やる気が漲るなぁ。休んでる暇なんてない。どんどん作ろう。


「美味すぎだ!こりゃ酒がすすむ!家から持ってくる!」

「凄い獣人じゃ。こんな飯は街でも食えんぞ」

「美人がお酌までしてくれて最高だなっ」

「お菓子、甘くて美味しい~!食べたことないけど凄く美味しい!」

「作り方を教えてもらおうかしら?」


 サマラやウイカ達は、料理を運ぶついでに酒を注いで会話したりして男性陣は鼻の下が伸びてるな。


「げへへっ………いたたたっ!」

「むふふっ………あぢぢぢぃっ!?」

「酔ってるからってお触りはだめだよ!次やったら腕をへし折るからね!」

「私は魔法で燃やしますよ」

「昼間っから元気で結構ですけど、我が家でお願いします!」


 サマラ達は酔って触ろうとしてきた男達の腕を捻り上げたり、軽く『炎』で炙ってる。顔には氷の微笑…。


「こらぁ~!3人は私のお姉ちゃんで、手伝ってくれてるんだから変なことするなっ!次やったら弓で脳天打ち抜くからね!」

「すまん、チャチャ!つい!」

「ついじゃない!酔ってても許されるワケじゃないんだから!酒を取り上げるよ!」


 チャチャは激怒。触ろうとしたオジさん達は、奥さんらしき人にも怒られて踏んだり蹴ったり。でも完全な自業自得。


「騒がしいねぇ。アンタ達のおかげでいつもより賑わって楽しいよ。大変だろうけどありがとさん」


 ナッキさんが笑いかけてくれる。


「ボクは楽しんでます。料理を作るのが好きなので、気分はお祭り状態です」

「あ~ぅっ!」

「はっは!ララも懐いてるねぇ。チャチャもそうだ。汁物をもらえるかい?青野菜を入れて塩味は薄めがいい」

「わかりました」


 出汁を効かせた汁物を作ってナッキさんに渡す。


「いい味だ。優しい味で美味いよ」

「ありがとうございます」


 食材もかなり減ってきた。もう7割方食べきってる。食べるペースも落ちてきてこの辺りで小休止かな。


「4人も一休みして甘味でもどう?」


 柑橘を載せたタルトを作ってみた。生地は作ってきてるから楽。


「もらう!…うまぁ~い!」

「美味しいです」

「甘酸っぱくて最高ですね!」

「生地も美味しい」

「よかった。ちょっと席を外すよ」

「ん?どしたの?」

「ララちゃんのオムツを替えてくる。多分おしっこしてるから」


 ちょっと前から背中が生温かい。


「えっ?!ララ、凄く普通にしてるけどホントに?」

「自分では見えないけど、こんな感じなんだ」


 後ろを向いて背中を見せる。「確かに…」と全員からお墨付きをもらった。


「気持ち悪くないのかな?がっつり漏らしてるけど」

「むしろ『なにか?』みたいな顔してますね」

「ドヤ顔になってます!ふてぶてしくて可愛い!」

「肝が据わってて動じないんですよ。泣かないから助かるんですけど、わかりにくくて。ゴメンね、兄ちゃん」

「全然いいよ。洗えば済むことだし」


 それが赤ちゃんだ。ローブは師匠の魔法で加工されているから、汚れは直ぐに落ちるし匂いも気にならない。


「直ぐに戻るよ」


 チャチャの家に移動する。


「ララちゃん。今からオムツを洗うよ」

「あうっ!」


 玄関でローブを脱いで軽く畳み、濡れてない部分にララちゃんを寝かせ、お尻や濡れてる部分を布で綺麗に拭き取る。


「せっかくだから魔法で洗おうか。見ててね」


 竜巻状に発現した『水撃』の中に布オムツを入れて、激しく踊らせるように洗う。


「ふおぉぉっ!」


 水の形を変化させて楽しませる。『隠蔽』で消してみせたり、水を球体にして生きてるように水中で動かすと楽しんでくれてるっぽい。


「もういいかな」


 充分洗ったあと『速乾』で乾かして、再度オムツを着けてあげる。


「あ~うっ!」

「ちょっと待っててね。ローブも洗うから」


 ローブも同様に魔法で洗うと楽しんでくれてるっぽい。水の膜で覆って透明な何者かが服を着て踊ってるように見せてみよう。


「きゃっ!きゃっ!」

「楽しい?」

「うぁ~っ!」


 また抱っこ紐で背負って玄関を出ようとしたら…。


「兄ちゃん!言うの忘れてたけど、またやったでしょ?!」


 チャチャが入ってきて問い詰められる。


「や、やってないよ!」


 ララちゃんに魔法を見せないよう口酸っぱく言われてる。でも、ボクは懲りずにやる。今回は現場を押さえられてないから、言い逃れできるはずだ。


「ふおぉぉおっ!」

「やっぱり興奮してる!毎回こうなるから直ぐバレるんだからね!しばらく寝なくなるんだよ?!寝せるのにどれだけ苦労するかわかってる!?」

「ゴメン…」


 ボクは魔法を見せるだけで、実際に苦労するのはチャチャやナナさん。さすがに反省…。でも見せたくなるんだよなぁ。


「とりあえず、料理が足りなくなってきたからお願い。早く戻ろう」

「それは大変だ。行こう」


 会場に戻って追加を作る。時間が経つと、作るのは肴と甘味だけに絞られてきた。それと酒を飲んだ後のシメの料理。


「盛り上がってるね」


 完全に出来上がって飲めや歌えやどんちゃん騒ぎ。サマラやアニカ達も誘われたのか村人と一緒になって飲み始めてる。


 ………。

 

「こんなに盛り上がってるの初めて見るよ。いつもは結構静かに飲んでるから。やっぱり女性陣が料理しなくて済むのは大きいね。一緒になって凄く楽しそう」

「あうっ!」

「ふふ。ララは知らないでしょ」

「う~あっ!」


 1人のオジさんが立ち上がる。


「ひっく…!よぉ~し!ノッてきた!一丁若い頃に鍛えた俺の裸踊りを見せちゃる!裸一貫の生まれた姿を見せてやるぞ……ぐぇっ…!」


 調子に乗ったオジさんは笑顔のサマラに背後からクイ!っと締め落とされた。


 破廉恥取締強化中。


「アンタ、強いねぇ」

「見たくないモノ見せられてもね。男だけの時にやればいいんだよ」

「はっはっはっ!逞しいねぇ。チャチャにも教えてやりな」


 隣でチャチャが微笑む。


「行動がアホすぎるけど、知らない人がいるのが刺激になっていいみたい。来てもらってよかった」

「そう言ってもらえるならまたやりたいな」

「夜はゆっくり休んでね。初対面の人ばかりだから気疲れしたでしょ?」

「さほど話してないからそこまで気疲れしてないけど…」

「してないけど?どうしたの?」

「なんでもないよ」

「兄ちゃん…?」


 チャチャがジト目で見てくる。隠そうとしても無駄か。


「ちょっと気分が悪いんだ」

「えっ?!村の人になにか言われたの…?」

「違うよ。なにもされてない」

「じゃあなんで…?」

「………」

「兄ちゃん?」

「料理も作らなくていいし、チャチャも祭りを楽しんできたらどう?」

「そんなのいいから、なんで気分が悪いのか教えてよ」

「チャチャなら言わなくてもわかるだろう?」


 空気を読めないボクでも、祭りに水を差すようなことを口にしたくないんだ。せっかく楽しい時間を過ごしてるんだから。



 ★



 豊穣祭りが終わって、チャチャはアニカとウイカの家にお邪魔して、白猫同盟緊急会議を開催してもらうようお願いした。オーレンはミーリャのところへ退避。


 心の内を正直に吐露する。


「やってしまったかもしれません…」

「どうしたの?」

「なにをやったの?」

「ウォルトさんとなにかあった?」


 心配してくれるお姉ちゃんズに、豊穣祭りの終盤で兄ちゃんから「気分が悪い」と言われたことを伝える。

 いつものように、表情から心の内を読んでみたけど、いきなりすぎて理由がわからなかったし、最後まで教えてくれなかった。


「知らない間に兄ちゃんの気に障ることをしたのかも…」


 ずっと気になってる。兄ちゃんは聞かれたことに答えなかったことがない。ララに魔法を見せたことを責めたのが嫌だったのかな…。よかれと思ってやってるのに、口うるさくてしつこいって…。


「私も帰る前に話したけど怒ってなかったなぁ。ウォルトは私達が相手でも気に入らなければ直ぐ顔に出る。でも出てなかったよ」

「私も感じなかった。ただ、少しだけ違和感はあったかも」

「私もちょっとだけ変な感じがした!でも、怒ったりしてるサインは出てなかったと思う!」


 お姉ちゃん達もわかってない。


「今日の出来事を振り返ってみようか。ヒントがあるかも」

「ずっとご機嫌そうでしたよね」

「確かに!『楽しいニャ!』って顔して料理を作ってた!オムツ交換に行くところまでしか見てないけど!」

「私もそう思ってたんです…。だから、いきなり過ぎて理由が…。気分が悪そうには見えなかったから、多分ですけど最後の最後に気に障ることがあったんじゃないかって…」


 皆で頭を捻る。


「ウォルトが言ったのって、どのタイミング?」

「サマラさんが裸踊りを阻止した後くらいです」

「私とアニカは村の人達と飲みながら話してた時だね」

「うん!ダイホウは面白い人が多かった!もっと女性陣と話したかったなぁ!」

「…………あぁぁぁぁぁ~~!」


 サマラさんが大きな声を上げる。


「気付いたんですか?!教えて下さい!」

「ちなみに、ウォルトの心境ってイライラでしょ?」

「はい。ヒゲと耳がイライラを表してました。でも怒ってはいない感じで」

「わかったかも!」

「サマラさん!もったいぶらないで!」

「チャチャ、落ち着いて。私達にとって悪い話じゃないから」

「どういうことですか?」

「私の予想が正しいか本人に確認しよう」


 サマラさんが魔伝送器で兄ちゃんを呼び出す。


『サマラ、どうしたの?なにかあった?』

「あのさ、今日気分が悪いってチャチャに言ったんでしょ?」

『言ったよ』

「それって…私達が知らない男の人と仲良さそうに話してたからじゃないの?」


 …えぇぇぇっ!?


『…そうなんだ。男の人と話してる皆を見てイライラした。楽しそうな場で言うことじゃないから言わなかったけど。ボクも理由がわからないし』


 …それって。


「なるほどね。でも、私達には教えてよ。チャチャはウォルトを怒らせるようなことをしたんじゃないかって落ち込んでるんだよ」

『えっ!?勘違いさせたことを謝らないと…。直ぐに連絡する』

「一緒にいるから代わるよ」


 魔伝送器を渡される。


「兄ちゃん?」

『チャチャ、ゴメン。ボクの心中は言わなくてもわかると思ってて』

「私がいつも心を読むせいだから、兄ちゃんは悪くないよ。理由はわかった」

『黙っておくつもりだったんだ。気付かれたから隠せないと思ったけど』

「うん。それも私のせいだよ」

『ボクの気持ちの問題だから気にしないでほしい。自分でもよくわからないんだ』

「うん。ありがと」


 少し話して魔伝送器を切った。


「兄ちゃんは、村の男性陣と話してる私達を見て……妬いてくれたってことでいいんですよね?」

「そう。本人は気付いてないけどね。困った幼馴染みだよ。まぁ初めての感情かも!」

「嬉しいですよね。ウォルトさんは平然としてそうな人なんで」

「私達を特別だと思ってくれてるってことだよ!たとえ友人としてでも嬉しい!」

「兄ちゃんにも独占欲みたいなモノがあって、私達をそういう目で見てるって思うだけで……いいですね」


 暗い気持ちから一転、楽しくお酒を飲む。理由が判明して胸のつかえが取れた。兄ちゃんにもたまには刺激が必要なんだと学んだ。村の皆に感謝しなくちゃ。

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