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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
509/715

509 作戦会議?

 カネルラ王城。


 誘拐事件が解決した翌日、国王ナイデルと暗部の長シノは謁見の間にて対面していた。


「アヴェステノウルの犯罪者集団の制圧、ご苦労だった。感謝に堪えぬと皆に伝えてほしい」

「有り難きお言葉…」

 


 国王様より、暗部の長として直接労いの言葉を頂戴している。


「ときに、『猛犬』とやらは暗部の者が仕留めたのだろう?」

「はっ…。副長サスケが抹殺致しました…。捕獲できず…申し訳ありません…」


 虚偽の報告は心苦しい。


「構わぬ。彼の者には他国も甚大な被害を被っているとの報告を受けた。狂犬は制御などできぬ」

「その通りかと…」

「民に被害が出ることなく事態が収束したのは、其方達の尽力あってこそ。被害者であるボグフォレスも感謝の意を述べていた」

「当然のことをしたまで…」


 国王様はふっと微笑む。


「訊きたいことがある。知っていればで構わん。リスティアはどうやって此度の事件を知ったのだ?」


 やはり気になさっている。


「王女様には…城下町における情報収集手段があるかと…。詳細はわかりかねます…」

「わからぬのにあると言うのか?」

「そうとしか考えられません…。暗部は…王女様から情報を頂きました…」

「いかなる手段で連絡しているのか予想もできん。困ったことに答えてくれぬのだ」

「左様ですか…」

「独自のルートを築くことは行き過ぎなければ別に構わぬ。ただ興味がある。しかし、リスティアは頑固で俺達には教えないと決めているのか貝のように閉口する」


 ハッキリと聞いたワケではないが、王女様はウォルトが作った魔道具を使っている口振りだった。つまり、王女様にとって極秘事項であるということ。


「其方に頼みがある」

「なんなりと…」

「リスティアには親友と呼ぶ人物がいる。その者について、調査してもらえぬか?任務に余裕がある時で構わない」

「親友…でありますか…?」

「うむ。おそらく1人ではないが、今回の事件にもその者達が関係している気がしてならないのだ」

「かしこまりました…」

「詳細な調査は必要ない。リスティアが勘付いて、より強固な壁を作らせることにもなりかねん。どこに住む誰なのか、その程度で構わない」

「御意…。私個人が…秘密裏に調査致します…」

「頼む」


 謁見の間を後にする。国王様の要望は予想の範疇。気にならない方がどうかしている。


 そして…いい機会を頂いた。






 野暮用を終わらせ暗部の詰所に戻り、与えられた任務について説明するタメに、見張りを除き部下を待機所に集合させた。


「サスケ…。俺は…今日王都を留守にする…。国王様の勅命だ…。不在間の指揮を執れ…」

「了承できかねます」

「なんだと…?」


 即答で否定するとはどういうつもりだ。


「王女様の親友の調査については、宰相経由で詰所に連絡を頂きました。俺が向かいたいと思います。既に協議を済ませています」


 椅子に座る部下達が頷く。


「ナイデル様は…直接俺に頼みたいと申された…。意に反することはできん…」

「宰相経由で正式に要望が下りてきたということは、『シノさんが王都を離れるのはよくない』又は『実行者がシノさん限定になる伝え方をしてしまった』と国王様が思い直されたからです」


 部下達はさらに頷く。黒ずくめの奇妙な連動…。


 ……サスケめ。最もらしい理由を盾に根回しを…。小賢しい奴だ…。既に意見聴取も済んだ雰囲気。

 暗部は時間を貴ぶ。全ての行動において即断即決が基本。時間を無駄にするのは愚行に他ならない。俺の不在間であっても、下の意見を纏めて最終的に意見を擦り合わせるのはいつもの手法。なんらおかしくない。


「お前達の意向は汲む…。が…今回は俺が行こう…。調査について…なによりリスティア様に気取られることを気にしておられた…。全責任は俺が持つ…が、万一にも王族間の関係悪化の火種となるワケにはいかん…」


 誇張でもなんでもない。


「なるほど…」

「そう言われると…シビアな任務か…」

「相手はあのリスティア様…。やはり、シノさんに任せるのが得策かもしれない…」


 かなり小声だがいい反応だ。さぁ……副長はどう出る?


「シノさんが仰っていることは理解できます。お伝えしていなかったのですが…」

「なんだ…?」

「実は、王女様の親友について既に目処が立っています。ほぼ確定していると言っていいかもしれません」

「ほぉ…」


 白々しい台詞を吐く。正体を知っているのだから当然。


「国王様からの御依頼であり、迅速に報告すべき事項です。確定ではありませんが、俺が最も早く調査できると思います」

「お前は…なぜ知っている…?」

「昨日の誘拐事件で奔走している最中、気になる人物に数名遭遇しました。明らかに雰囲気の違う者と。その中にいると推測します」


 ぬぅ…。小癪な。最もらしい理由を考えたな。しかも、嘘は吐いてない。ウォルトにも直に会っている。そして、今さら俺が「知っている」とは言えない。どういうことだ…?と場を混乱させてしまう。サスケは先手を打って俺の手を封じてきた。


「それなら可能性は高いな」

「副長は張り込みも行っていた。親友とやらと遭遇している可能性は充分」

「洞察力に優れているし、信憑性は高いだろう」

「となると最善か。シノさんにも休んでもらえる」


 小声で盛り上がる部下達。ハッキリ話すのがサスケくらいしかいない暗部では、ボソボソ喋る者ばかりでとにかく聞き取り辛い。まぁ、俺が言えた義理じゃない。


「お前の情報を…俺に渡せ…。とりあえず…昨日の疲れを癒やすのが先決…。北の猛犬の相手をしたんだからな…」

「おぉ!」

「シノさんが…労るような発言を…」

「怪しいな…。明日特訓か…?」


 呟けば聞こえないと思っているんじゃなかろうな…。


「渡しても構いませんが、言葉だけでは正確に伝えられません。誤認する可能性が高くなるので、やはり俺が行くべきだと思います」


 長の発言に堂々たる意見具申。あぁ言えばこう言う。だからこそ副長であるワケだが。


「副長の言う通りだ」

「写真でもあれば違うだろうが、不確定要素は減らすべき」

「シノさんに限って間違いはないと思うが、より確実な選択をするのが俺達暗部だ」


 くっ…。サスケ寄りの意見が多い。自分でも不利なのはわかっている。宰相から依頼が来た時点で俺が行く必要がない。しかも、相手は右腕のサスケ。これ以上は不信感を強めかねない。


「シノさんが自分を労ることも大切です。昨日は俺がいなかったせいで負担をかけてしまいました。慣れない仕事もこなしたはずです」

「甘く見るな…。あの程度で…疲れなど溜まらない…。それに…お前に触発されたんでな…」

「触発とは?」

「カネルラのタメに身体を張り…街を駆け巡る…。詰所にいて…指示と現場に顔を出すだけで『長だ』と言われても…お前達も納得すまい…」


 これならどうだ?


「トビさんが帰ってきたな…」

「あぁ…。シノではなく若い頃のトビさんが…」

「久しく目にしていない『凶刃トビ』が見られるかもしれん」


 ……なんだ、その二つ名は。初めて聞いた…。そんな二つ名を持つ者は絶対調査に向いてない。


「そこまで言うのであれば、シノさんにお任せします。俺達で持ち場を守りますので、全力で任務をこなしてください」


 むっ…?


「興奮して暴れすぎないよう」

「とりあえず無事に帰還することです」

「体型が目立つので気を付けて」


 謎の助言…。


 それにしても……おかしい。サスケの奴……いやにあっさり身を引いた。なにを企んでいる?


 コンコン…と、詰所の入口で見張りに付いているはずの部下が壁を叩いた。


「どうした…?」

「国王様からの伝言が届きました。お伝えしてよろしいですか?」


 国王様から…?


「構わない…」

「では、お伝えします。『先程シノに依頼した件については、なかったこととしてもらいたい。騒がせてすまない』とのことです」

「王女様の親友捜索の件か…?」

「その通りです。こちらからも確認しました」

「そうか…。わかった…」

「伝言は以上です」


 部下は見張りに戻り、サスケを見ると覆面の中で笑う。


 なるほど…。やってくれたな…。真の狙いは自分が依頼を受けて邂逅を阻止するのではなく、単純に時間を稼ぐこと。リスティア様が国王様の思考と行動に気付き…阻止に動くまでの時間を。この推測が間違っているとは思わない。


「別件が入るかもしれない」

「既に発見されたか」

「暗部が動く必要はなくなりましたね」

「あぁ…」


 サスケといえども、リスティア様と直に連絡が取れるはずはない。ウォルトの作った魔道具というのは、おそらく稀有なモノ。親友だという2人の連絡手段のはず。つまり、ここまでの流れを読み切っていたということ。大した策士だ。


「王女様の親友がいかなる人物か知りたい気はしますが、我々が知るべきではないという判断でしょう」

「…さぁな」


 いけしゃあしゃあと…。サスケの「断固阻止する」という言葉に嘘偽りはないと認めざるを得ない。

 国王様本人による依頼取消という誰もが納得せざるを得ない理由を用意し場を納めた。

俺の苦手とする謀略では、一枚上手だと認めよう。


 再び部下が部屋に入ってくる。


「シノさん。緊急要請です。西都マリノにて不穏な動きありとのことで実情の調査と然るべき対処を、との命です」

「わかった…。マリノの担当は…ウロだな…。伝書鳥でも伝令でもいい…。可能なら衛兵からも情報を得るように伝えろ…。他の者は…出向準備を整えつつ待機…」

「「「了解しました」」」

「サスケ…。一時お前が指揮をとれ…。俺は…国王様の元へ向かう…」

「わかりました」


 詰所を出て国王様の元へ向かう。


 どこの輩か知らんが、カネルラで好き勝手はさせん。俺は、今回の誘拐事件で結果的に猫の手を借りてしまったことを恥じている。


 実力は認めるが、事件は本来暗部と衛兵が連携して解決すべきだった事案。たった1人の獣人が迅速に事件を解決したことに、憤りにも似た感情を抱いている。

 アイツは自己の事情で動くことを希望し、リスティア様の希望もあって俺も認めた。行動に非はない。暗部は然るべき行動をとっていただけ。

 危険分子を排除し、男児を無事に救出したのだから感謝を告げられて然るべきだろう。失敗していたなら相応の責を被る必要があるが、そんな理由で怖じ気づく男ではあるまい。


 国王様に拝謁しながら、二重間諜(スパイ)かのような気分だった。日陰者が日陰者の存在を隠すなぞ面倒過ぎる。アイツはこれから先も同様の行動を起こす可能性が高い。何者にも帰属せず、自由奔放に己の理屈を押し通すのが獣人。


 そんな奴だと知っているが、誰にも知られず生きていけると考えているなら大間違いだ。凡庸な獣人でないことを自覚してもらう必要がある。

 暗部に引き入れて教育し、俺の配下として働いてもらう。面倒事も減って戦力も増す。いいこと尽くめ。


 ……我ながら少々理屈っぽい。


 要するに俺はアイツを倒す。コレだ。

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