5 安否
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
再び目を覚ましたとき、窓から差し込む光は赤みを帯びていた。夕方まで眠ってしまっまたことに気付く。
首を捻ると、さっき目を覚ましたときと同じようにウォルトさんが机に向かっているのが見えた。
「ウォルトさん…」
「…ん?目が覚めたかい?」
ウォルトさんは、なにかを机に置いて振り返った。今はフードを被ってない。
「すみません…。水を淹れてもらったのに…」
いつの間にかベッドのすぐ横に小さなテーブルが置かれていた。木のコップが載せられている。わざわざ用意してくれたのに申し訳なく感じた。
「気にしなくていいよ。それよりも飲めそうかい?」
「飲みたいです…」
「ちょっと待ってて」
私の背中に手を添えて、ゆっくりと上体を起こしてくれた。添えられた掌は大きくて温かい。獣人は皆そうなのかな。
身体のあちこちから痛みが襲ってくると思って気合いを入れてたけど、不思議と痛みを感じなかった。反応が鈍ってるのかな…?
「自分で飲めそう?」
「はい。痛くないです」
モフモフした手からコップを受け取ってそっと口に運ぶ。
「美味しい…」
「ずっと眠ってたから喉も渇いてるはずだよ。水差しで少しずつ飲ませてはいたけどね。久しぶりの水分で身体が喜んでるんだ。おかわりいるかい?」
「お願いしても…いいですか?」
微笑んだウォルトさんはもう一杯淹れてきてくれた。グイッと飲み干して、大きく息を吐く。
「ふぅ~…。なにからなにまでお世話になってすみません。今更ですけど…私達がなぜこんなことになったのか聞いてくれますか…?」
「もちろん。なんでも話してほしい」
頷いて、あの日の出来事を語る。
一通り話し終えたところで、ウォルトさんは少し悩むような仕草を見せた。
「アニカの話を聞いた限りでは、熊のような魔物はムーンリングベアだね。新人冒険者が討伐できるような魔物じゃない」
やはり…というか当然だと思えた。どう考えてもアイツは新人冒険者の手に負えるような魔物じゃない。
「苦し紛れに魔法を使って、その隙に逃げることができたんですけど……ただの幸運でした」
事実を苦々しい表情で語ると、ウォルトさんはふっと表情を和らげる。
「幸運なんかじゃないよ。君達が必死に闘ったからこその結果だ。突然現れた魔物に恐れず立ち向かって、自分達の力で活路を開いて生き延びた。胸を張っていいんだ」
微笑みながら告げられた言葉に唇を噛み締める。
私達の行動を……振り絞った勇気を肯定してくれる言葉に胸が熱くなってまた涙が溢れそうになる。
「ボクなら、ヤツと遭遇した瞬間に跳び上がって逃げ出してる。獣人だから逃げ足は速いしね」
苦笑するウォルトさんにつられてクスッと笑ってしまった。
「そうだ。動けそうなら一緒にオーレンの様子を見に行こうか?」
「いいんですか?気になります」
オーレンは私より酷い傷を負っていた。ウォルトさんを信用しないワケじゃないけど、この目で確認するまでは安心できない。
「少しだけ歩くよ。大丈夫?」
「大丈夫です」
ベッドから立ち上がっても痛みを感じない。かなり打撲や切り傷があったはずだけど…。特に、爪で抉られた足は歩くのも辛いほどの激痛だったのに。
「アニカ、こっちだよ」
呼ばれて手招きされた方へ向かう。
通された部屋に入ると、古いベッドの上にオーレンが横たわっていた。顔を除いて包帯だらけだけど、顔色もよく見えるし息づかいも力強い。確かに生きてる。
出血も止まっているみたいで、包帯は赤く染まっていない。その様子を見てまた安堵の涙が溢れ出す。
「オーレン…。よかった…」
隣に立つウォルトさんが微笑みながら頭を優しく撫でてくれた。掌が陽だまりのように温かくて、より涙が溢れる。
「わぁ!馴れ馴れしかったかい!?ゴメン!」
私より遙かに大きな身体でおろおろしてる。表情は「やっちまったニャ…」とか言いそうで、可笑しくなって涙を流しながら笑ってしまった。
「……アニカ」
微かに聞こえた。視線を向けると、ウォルトさんの声に反応したのか、ほんの少し目を開けてこちらを見つめているオーレンと目が合った。
「オーレン!」
「アニカ……。無事だったのか…。よかった……」
手を取ると、オーレンの目から涙が溢れて頬を伝う。
「うん…。うん…。オーレンも…。ありがとう…」
「気にすんなよ…」
ウォルトさんは微笑みながら静かに部屋を後にした。
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