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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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497 獣人の遊び

 今日は、リリサイドとドナの母娘がウォルトの住み家を訪ねてきた。


「ウォルト!あそびとべんきょうしにきた!」

「いらっしゃい。ドナは偉いね」

「なんでえらいの?」

「ボクは勉強が嫌いだったんだ」

「べんきょう面白いよ?」

「じゃあ、先に勉強しようか」

「がんばる!」


 会う度に上手く話せるようになってる。スケ三郎さん達のおかげだろうな。


「リリサイドも久しぶりだね」

『久しぶりね。おかげさまで元気よ』

「森の暮らしで困ってない?」

『全然。快適すぎて退屈ね』

「そっか。中に入って。冷たい飲み物を出すよ」


 居間に移動して水とジュースを差し出す。


「おいしい!」

『冷たくて美味しいわ』


 人心地ついたら勉強を始めよう、と思った矢先、ノックもなしに玄関のドアが開いた。


「ウォルト!ただいまぁ~!」


 この声は…。玄関に向かうとやっぱりサマラだった。


「おかえり。連絡してくれたらよかったのに」

「ちょっと暇ができたから遊びにきただけ!午前中だけね!……ん?誰か来てるの?」

「ドナとリリサイドが来てくれてる。知ってるかな?」

「知ってる!チャチャから聞いた!」


 サマラは笑顔で中に入り、居間にいる2人に話しかける。


「おぉう!リリサイドは綺麗な毛並みだね!ドナも可愛い!」


 サマラの興奮とは裏腹に2人は驚いた表情。


「リリサイド。ドナ。彼女はボクやチャチャの友達だよ」

「狼の獣人のサマラだよ!よろしくね♪」

「サマラ…」

「そう!サマラ!ドナはなにしてたの?」

「べんきょうしようとしてた…」


 サマラの勢いにドナも引いてるな。


「べ、勉強!?この年齢でっ?!マジでっ!?」


 目を見開いてボクを見てくる。


「ホントだよ。ドナは言葉や計算を覚えてるんだ」

「そっかぁ…。偉いなぁ……よし!私も一緒に勉強していい?」

「サマラがいいならいいよ。ドナもいい?」


 コクリと頷いてくれる。じゃあ一緒に教えることにしよう。






「あはははっ!サマラ、おもしろい!すごくバカ!」

「なんだとぉ~!」

「だってドナでもわかるよ!」

「くぅ~…!言い返せないっ!」


 まさかの展開。ボクは、チャチャと同じでサマラも教える側になってくれると思ってたけど、ドナと一緒に学ぶ側についた。仲良く並んで座り問題を解いてる。


 簡単な計算問題を出してみたところ、ドナは正解でサマラは間違えた。ボクにはわかる。サマラは至って真面目にやってると。普通に間違えたんだ。


「ウォルト!つぎのもんだい!」

「わかった」


 次も同レベルの問題を出題してみた。


「む、むぅ~…」

「はい!ドナ、できたよ!」

「なにぃ~~!?ちょ、ちょっと待って!」


 しゃかりきに計算するサマラ。鉛筆を動かせばいいってもんじゃないけど…。


「…できた!答えは…馬が5匹で、猫が8匹だ!」

「不正解だよ」

「あはははっ!うまは7ひき!」

「ドナが正解」

「やった!サマラにかった!」

「だっはぁ~!頭が爆発しそう!ドナは凄い!やるねぇ~!」

「ありがと~♪」

「ちょっと休憩しようか。サマラはカフィがいい?」

「甘い紅茶でお願い!キンキンに冷やして!」

「ドナもおなじの!」

「了解」


 サマラの真意はわからないけど、一緒に勉強することで打ち解けて仲良くなってる。人との距離を縮めるのが上手いと感心してしまう。


「はい。冷たい紅茶だよ」

「頂きます!……美味ぁ~~い!」

「あははっ!うまぁ~いね!」


 真似するドナは可愛い。静かに座って見守ってくれてるリリサイドにも水を淹れた。


『ありがとう。面白い娘ね。ドナも楽しそう』

『サマラは真面目にやってるけどね。あと、リリサイドが話せることがバレたよ』

『嘘っ!?なんで?!』

『サマラはチャチャ以上に魔力に敏感なんだ。多分もう気付いてる。ちょっと待って』


 サマラに聞いてみる。


「サマラ。リリサイドが話せるの知ってた?」

「今さっき気付いた。ウォルトに魔力を飛ばしてたもんね。そうだと思ったよ。言わないつもりだったけど」


 ドナと戯れながら軽く答える。


『ねっ?』

『あの娘……凄いわね…』

『彼女はチャチャとは違う意味で凄いんだ。でも、口は固いから心配いらないよ』

『そう…。バレたならちゃんと挨拶しておこうかしら』


 リリサイドが立ち上がる。嫌な予感がして、バッ!と振り返った。


「サマラ!貫頭衣を持ってきてくれないか!?」

「へっ…?貫頭衣…?なんで急に…って、えぇぇ~?!」


 サマラが大きな目を見開いてリリサイドの方を見てる。やっぱり人型に変身してるな…。振り向いておいてよかった。


「ウォルト?どうしたの?」


 揶揄うような口調で背後から聞かれる。


「なんでもないよ」

「こっちを向いて」

「ダメだって!サマラ!ボクは見れないから貫頭衣を頼むっ!」

「はっ…!わかった!」


 サマラが貫頭衣を持ってきて、リリサイドに着せてくれた。


「残念だわ」

「ボクを揶揄うのにいきなり変身しちゃダメだって」

「サマラ。私はリリサイドよ。ドナの母親なの。よろしくね」


 まったく話を聞いてない…。


「よろしく!リリサイド、めっちゃ美人なんだね!」

「そう?ありがとう」

「おかあさんはびじん!サマラも!」

「あははっ!ありがと!ドナもだよ!」


 リリサイドにもテーブルについてもらって、のんびり会話する。


「サマラも平然としてるわね。私が怖くないの?」

「全然怖くないよ。多分闘っても勝てるし」


 サマラらしい返答。自分が倒せるものは怖くない理論。


「ふふっ。ウォルトの友達には隠すだけバカらしく感じるわね」

「隠さなくていいよ!私達は、ほら……いろいろと慣れてるからね!わかるでしょ?」

「そうね。よくわかる」


 ボクは全然わからない。


「でも、ウォルトが言ってもいいと判断した人だけにしといたほうがいいかも。ここに来る人でもいろいろだから。私はたまたま気付いたけどね」

「そうするわ」


 しばらく休憩したところで確認しよう。


「ドナ、もう少し勉強するかい?」

「サマラとあそびたい!」

「いいよ!私はそっちが得意だからね!」


 更地で遊ぶことにして外に出る。


「ドナ~。私は力持ちなんだよ~」

「そうなの?」

「面白い遊びがあるんだけど、ドナには怖いかもね~!」

「ドナ、こわくないもん!」

「じゃあ、やってみようか。ウォルトにお願いがあるんだけど」

「なに?」


 やろうとしてることを説明される。


「できるけど、サマラは大丈夫?」

「大丈夫!任せて!」


 ドナとサマラはかなり離れた場所まで移動する。


「じゃあ、いっくよぉ~!」

「こっちはいつでもいいよぉ~」


 結構遠いけどサマラならいけるな。


「ねぇ、ウォルト。サマラはなにをするつもりなの?」

「ドナを投げるって」

「は?」


 ドナを肩の上に担ぎながらサマラは助走を始めた。一瞬で最高速度に達する。


「よっしゃ!ドナ、いっけぇ~!」


 サマラはおもいきりドナを放り投げた。大きく手足を広げたドナが、綺麗な放物線を描いて頭からボクらの元へ飛んでくる。


「きゃはははっ!」


 楽しそうな笑顔。度胸があるというかなんというか。小さな頃のサマラと言動がそっくりなんだよなぁ。


『捕縛』


 タイミングよく前方に大きな魔力の網を張ってドナを受け止める。バフッ!というより、ズバーン!と音が聞こえてきそうな勢いで、網に突き刺さるように飛び込んできた。

 柔らかく展開してるし、勢いを上手く殺せたから衝撃はないはず。起き上がったドナは笑顔で目を輝かせている。


「きゃははっ!サマラ、すごい!おもしろかった!」

「はっはっは!そうでしょ!」

「もう1回やる!」


 走ってサマラの元へと帰っていく。


「こんな遊び笑えないわ。獣人って滅茶苦茶なのね」

「別に獣人の遊びじゃないよ。でも、獣人は投擲も上手い。サマラは力に余裕があるからほぼ狙ったところに来る」

「次行くよぉ~!今度は高くいくから~!そ~れっ!」


 2投目は高く舞い上がった。それでも、狙い通り飛んでくる。少し角度を変えた『捕縛』の網で受け止める。


「きゃははっ!」

「ドナ。大丈夫なの?」

「だいじょうぶ!いたくないし、とぶのきもちいい!お母さんもやる?」

「私はいいわ。ゆっくり遊んできなさい」

「うん!」


 また投げようとするサマラから要望が。


「ウォルト~!次は跳ね返して~!」


 跳ね返す…?……あぁ、そういうこと。


「わかったよ~」


 三度飛んできたドナを今度は魔力の網じゃなく魔法陣で受け止める。勢いをしっかり殺しきったところで…。


「わぁ~~っ!」


 魔法陣の反発力で発射するように打ち出すと、ドナはサマラの元へ舞い戻る。華麗に受け止めてくれた。


「方向も距離もバッチリ!さすがだね!」

「ウォルトもすご~い!」

「よし!ドナ、次の遊びをやるよ!」

「あい!」


 仲良く走ってくる2人。


「ウォルト。魔法で足場を作ってくれない?」

「いいけど、どんな感じで?」

「段々に設置する感じ!」


 サマラの要望通り、空中に幾つかの小さな魔法陣を展開する。強度は足場には充分。結構な高さまで足場を要求された。


「ねぇねぇ、サマラ。どんな遊び?」

「見てのお楽しみ!」


 サマラは足場をどんどん上に跳び移っていく。かなり高い場所まで軽々到達する。


「じゃあ、ドナ!いっくよ~!とう!」


 一番高いところから飛び降りて、回転したり捻ったりしながら見事に着地した。


「決まった!」


 初対面の時、顔から落ちたサマラの宙返りが脳裏に蘇ってつい笑みがこぼれる。


「かっこいい!ドナもやる!」

「ドナは危ないから低いところからね!無理すると、顔から落ちるよ!」


 説得力がありすぎる。


「ほっ!はっ!やっ!」


 ドナも身体能力が高い。直ぐに宙返りできるようになった。万が一、落ちたときのために魔法で受け止める準備も必要なさそう。


「ドナ、やるじゃん!」

「これおもしろい!」

「そうでしょ!魔法がなくても宙返りできるよ、ほら!」

「ドナもまけない!」


 獣人が遊ぶのはひたすら身体を動かすだけでいい。サマラはよく知ってる。あれこれ考えてしまうボクとは違うな。結局、ドナが疲れるまでサマラは一緒に遊んでくれた。


「ドナ。そろそろ終わりにしよっか」

「えぇ~!?もうちょっと遊ぼう!」

「仕事があるから今度また遊ぼう!それに、私は帰る前にウォルトのご飯が食べたい!」

「ドナもたべる!」

「準備するよ」


 住み家に戻ると、ドナが「サマラとお風呂に入りたい!」と言い出した。サマラも快く了承して、入浴中に食事の支度をすることに。

 チャチャもそうだったけど、本当の姉妹のように仲良くしてくれる。きっとウイカやアニカもだろうな。みんな優しい。


 順調に調理を進めていると、突然サマラの声が聞こえてきた。


「ほ、ほんとにぃ~~!?」


 えらく驚いてるな…。ドナの洞穴生活で驚くようなことでも聞いたのかな?もしくはリリサイドの年齢とか。


 気にすることでもない。料理に集中しよう。湯浴みを終えた2人が戻る前に調理を終えた。


「うんまぁ~い!」

「うんまぁ~い!」

「美味しいわ」


 サマラには骨付き肉と冷製スープ。ドナにも骨付き肉とニンジンの和え物。リリサイドには、ニンジンの煮物と丹精込めて育てた生のニンジン。

 

「サマラ!ドナのニンジンもあげる!」

「大丈夫!食べていいよ」

「サマラは…ドナのニンジン、たべたくないんだ…」

「そ、そんなことないよ!1個もらうね!…うん、美味しい!」

「でしょ!ウォルトのニンジンはおいしいよね~!」


 狼の獣人であるからか、サマラは肉が好物で野菜が好きじゃない。普段は可能な限り手間をかけて柔らかく煮てエグみをとって味付けてるから美味しいはず。

 ただ、ドナとリリサイド用のニンジンは素材の味を活かしてる。美味しくないだろうけど野菜は身体にいい。食べたくなくても大人はいい見本にならなきゃ。


「そういえば、サマラはなんでお風呂で大きな声を出してたんだ?」

「ぶっ…!聞こえてた…?」

「驚いてる声だけ聞こえたけど」

「それはねぇ~、キノコのこと!」


 なぜかドナが答えてくれる。


「キノコ?」

「うん!ウォルトの……むがっ!?」

「こら、ドナ!内緒って言ったでしょ!!」


 サマラが慌ててドナの口を掌で塞いだ。ボクの…なんだろう?


「…ぷはっ!そうだった!サマラとやくそくしたからナイショ!」

「そっか。内緒のことは言っちゃいけないからね。守らなきゃいけないよ」

「うん!ドナ、いわない!ウォルトのまほうもナイショ!お母さんにいわれた!」

「ありがとう」


 食事を終えると、皆でフクーベに帰るサマラを見送る。


「また来るよ!ドナとリリサイドもまたね!」

「またあそぼうね~!」

「また会いましょう」

「待ってるよ」

「ウォルト、ハグして!」

「うん」


 そっとサマラを抱きしめる。


「遊びに来てくれたのにゆっくりできなかったね」

「気にしないで!楽しかったよ!」

「今度はもてなすから」

「楽しみにしとく!」


 サマラは駆け出してあっという間に見えなくなる。時間ギリギリまでいてくれたのかな。


「サマラはウォルトの番なのね」

「違うよ。幼馴染みだ」

「おさななじみってなぁに?」

「子どもの頃からの友達ってこと」

「じゃあ、ウォルトもサマラもチャチャもスケさぶろうも、ドナのおさななじみ!」

「そうだね」


 気が抜けたのか、それともお腹が膨れたからなのか、ドナは眠そうなので住み家でちょっとお昼寝。起きるまでリリサイドと居間でお茶することに。


「ねぇ、ウォルト。なにもしてないのに私は獣化しない。貴方がなにかしたんでしょ?」

「貫頭衣に魔力を巡らせてるんだ。リリサイドの変身の魔力をね。魔力が切れるまではずっとそのままでいられる」

「なんでそんなことを?」

「上手くいけば街に行くときに使えるだろう?魔力糸で編んだ服を着れば、もっと長時間変身を持続することも可能になる」


 メリルさんにも助言をもらって、既に編んでいたりもする。ボクの予想では数日は持続可能。


「なるほどね。人型の姿が好きなのかと思った」

「どっちもリリサイドだよ」

「どちらかといえば?」

「う~ん……。どっちかなぁ…」

「ふふっ。軽く答えればいいのに。ところで、貴方の知り合いのグラシャンに会ってみたいわ」

「いいのかい?」

「それも見越して試したんでしょう?ドナにも街を経験させたい。こっちから会いに行く」

「わかった。そういえば、グラシャンは世界に最低でも30頭は健在らしいよ」

「どうやって調べたの?」

「知り合いに聞いてもらったんだ。間違いない情報だと思う。何人かは友人だと言ってたし」

「森に住んでるのに、どんな情報網があるワケ?」

「君達グラシャンは精霊の存在を知ってるだろう?木の精霊の友人がいるんだ」

「呆れた…。精霊と話せる獣人がいるなんて…」

「普通だよ」

「貴方にとってはそうでしょうね」


 近い内にカリーに会いに行こうか。ドナは王都に行ってどんな反応をするのかな。

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