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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
478/715

478 鳥の巣にて

「急に来てすまない」

「いえ。嬉しいです」


 ウォルトが朝から修練や畑仕事の日課を終えて、正午に差し掛かろうという時間にファルコが住み家を訪ねてきた。


 鳥獣人のファルコさんは魚も好物のはずなので、先日釣った魚を分けてもらったお礼にシルーロの肉をお裾分けして食べてもらう。


「美味すぎる…。なんだこの肉は…?」

「シルーロです。アマン川にいる魔物なんですけと食べたことないですか?」

「ない。だが、かなり美味いな」


 嘴を器用に使って味付けして揚げた肉を丸呑みしていく。いい食べっぷりだ。


「ふぅ…。ご馳走になった。美味かった」

「よかったです。ところで今日はなにか御用ですか?」

「急で悪いが傷薬を作ってもらえないかと思って来た」

「構いませんが怪我されたんですか?」

「俺じゃない。里の数人がな」

 

 鳥の獣人の里は高地にあると聞いた。薬師はいないのかもしれない。普段お世話になっているので力になりたい。


「自家製ですがいいんですか?」

「もちろんだ。ウォルトの薬は効果が高いし信用している」

「今から作ります。足りなければ在庫も全て持っていって構いません」

「すまん。助かる」


 森で共に素材を集め調合しているとファルコさんが呟く。


「凄いな…どこでそんな技術を?」

「薬学の師匠がいます。あとは文献ですね。誰にでもできます」

「そんなことないと思うが…。それにしても、なぜ薬が必要なのか理由すら聞かないんだな」

「友人が困っている。それで充分です」


 言いたくないことかもしれない。でも困っているから来たはず。恩に着せるつもりもない。


「そうか。実は…鳥の獣人の里に厄介な魔物が出現して困っている」

「厄介な魔物?」

「何度も里を襲撃されているが、撃退はできても中々討伐できない」

「なんという魔物ですか?」

「知らない。俺は過去に見たこともない魔物だ」


 鳥の獣人達が束になっても討伐できない魔物…か。


「正直俺達では討伐が難しい。ギルドに頼んで冒険者を派遣してもらうか悩んでいる」

「それがよさそうですね」

「だが、俺も含めて住人は里の場所を知られるのを嫌がっていてな。そんなこと言ってられない状況だが」

「なぜ嫌がるんですか?」

「わからんがいいことだと思えない。巣の場所を知られたくない鳥のように、おそらく本能的なモノかもしれん」


 あり得そうな理由だ。


「ボクでよければ里に治療に行こうと思ったんですが、そうなると難しいですね」


 必要があれば現地で調合できると思ったけれど。


「ウォルトなら構わない。お前の薬のおかげで俺達が飛べるようになったことを皆知ってる。何人もの恩人だ」

「大袈裟です。でも可能なら連れていって下さい」


 里の現状と討伐できない魔物のことが気になる。少しでも力になれるなら。


「傷薬ができました」


 話しながらも手は止めなかった。どうにか必要な数も準備できたし、他にも必要だと思う物を準備して里に向かおう。





「凄い景色です…」

「そうか?普通だろう」

「絶対違います」


 里までの移動は直線的で早く着くという理由でファルコさんがボクを抱えて飛ぶことになった。後ろから抱えられて空を飛んでいる。もちろん初めての体験。風が気持ちいい。


「まだ遠いんですか?」

「そうでもない」


 人を抱えていると思えないスピードで飛行するファルコさん。これでも安全に運んでくれてるんだろう。ストリームで見たときは相当速かった。


「魔物はどのくらいの周期で?」

「早ければ3日と間隔を空けずに来る。もう4回だ」


 相当粘着質な魔物だと予想できる。しかも、高地に所在する里に現れるとなると魔物は限定できそうだ。少なくとも飛行能力は備えているだろう。


「ソイツはどんな姿を?」

「なんとも奇妙でな……むぅっ!?」

「どうしました?」

「里でなにか起こっている!急ぐぞ!」


 里…?どこだ?見渡すとまだ遙か先の高台に集落が見えた。人が駆け回っているように見えるけど、ボクの視力では花の種くらいにしか見えない。ファルコさんは凄い視力だ。


 猛スピードでぐんぐん接近すると、やがて里の様子がボクにも視認できた。複数の鳥の獣人が魔物と戦闘を繰り広げている。

 背に蝙蝠のような大きな羽を広げ、逞しい獣のごとき四つ足の体躯に蠍のように鋭い尾。獅子のようなタテガミを備え、顔はまるで狂気を帯びた人間。歪んだ表情を浮かべている。文献に覚えがある姿。


「あの魔物はマンティコアです。遙か昔から存在し、古代種と呼ばれる魔物」


 古代種に出会うのは剣歯虎(サーベルタイガー)以来。


「古代種など知らんが……里で好き勝手はさせん!」


 ファルコさんの言う通りだ。だが、マンティコアは通称『人喰い』と呼ばれる古代種。世界各地の人族が古くから畏怖する存在。いかにマンティコアの力が脅威であるかを物語っている。


「がはぁっ…!ぐぅっ…」

「がぁっ…!」


 勇敢に立ち向かうも吹き飛ばされる鳥の獣人達。


「あ……ぁ…ぁ…」


 マンティコアの眼前に逃げ遅れた子供が残されている。


「グルルフ…!」


 涎を垂らすマンティコアに睨まれ、腰が抜けたのか尻餅をついたまま動かない。このままでは危険だ。


「…ちぃっ!」

「ファルコさんっ!全速力で飛んで、アイツに向かってボクを投げてください!」

「なぜだっ!?」

「あの子を助け出します!ボクを信じて下さい!」

「…俺もそのつもりだ!!いくぞっ!」


 さらに加速したファルコさんに抱えられながら集中を高める。


「わぁぁぁ~ん!」

「…ジュルッ」


 にじり寄る魔物は、いやらしい笑みを浮かべ子供を飲み込めるほど大きく口を開けた。


「ウォルト!いけっ!」


 失敗は許されない…。目が乾くほどのスピードで飛行しながら空中で詠唱する。


氷槍(ステイリア)



 ★



 ウォルトを放り投げたファルコが、空中で軌道を変え魔物に向き直ると、巨大な3本の氷柱が子供とマンティコアの間を隔てるように突き刺さっていた。


 なんだ…あの巨大な氷柱は…?どこから現れた…?なにが起こったのか理解できない。目を離した一瞬の出来事。


 魔物は後退りながら唸りを上げている。そして、腰を抜かして座り込んでいた子供を優しく腕に抱いているのは……見たこともない人間。ソイツは俺を見上げた。


「ファルコさん!皆に薬を!持ってきた布袋に『治癒』の魔石も入っています!怪我の酷い人から治療して下さい!傷に翳すだけで治療可能です!」


 この声は…。信じられないが……アイツはウォルトだ。どういうことだ…?なぜ人間の姿に…?


「後で説明します!今は皆を安全な場所へ避難させるのが先です!魔物はボクに任せてください!」


 そうだな…。話はあとだ。怪我人に駆け寄って言われたとおり魔石を翳してみる。すると淡い光とともに傷が癒えていく。


「ファルコ…。助かったぜ…。魔物が…いきなり襲ってきやがって…」

「喋るな。今は回復に集中しろ」


 傷が比較的軽度な者にも、魔石と傷薬を渡して治療を手伝ってもらうか。


「女と子供は今の内に遠くへ避難しろ!動ける男は俺を手伝え!」

「わかったわ!」

「おう!」


 協力もあって、徐々に回復していく男衆。


「くっ……いってぇ…!」

「これは…よく効くぜ…」


 幾度もの戦闘で疲労が蓄積しているところに、突然の襲撃では体力自慢の獣人でもたまったものじゃない。幸い命を落とした者はいないようだが。

 そんな中、人間の姿をしたウォルトに目をやるとマンティコアと対峙している。気味の悪い顔で見つめる魔物と、平然と視線を受け止め静かに佇むウォルトはどちらも動かない。


「ファルコ!あの人間は誰だ?!さっきのでかい氷は魔法だろ!?」

「……俺の友人だ。この薬と魔石をくれた…な」


 

 ★



 子供をしかと抱いたままウォルトは魔物を観察する。


 間に合ってよかった。初めて遭遇したけど、凄まじい威圧感を放っている。同じ古代種でも剣歯虎など比べモノにならない。

 文献には、マンティコアが過去カネルラに出現したという記述はなかった。飛行能力を備える魔物ゆえに他国から流れてきたのか。若しくは…出会った者を全て屠っているか。


 いずれにせよ、倒す必要があることに変わりない。眼前で子供を殺されるのは御免だ。


「お兄ちゃん…。誰…?」


 助けた男の子はまだ飛べないであろう小さな羽を震わせている。


「ファルコさんの友達だよ。危ないから大人達のところへ行ってて」

「…うん」


 ゆっくり地面に下ろしてあげると元気に駆けていく。怪我もないようだ。


「グガァァァ!」


 隙ありと言わんばかりに、マンティコアが振り下ろした鋭い鉤爪を『強化盾』で跳ね返す。すかさず魔法を放つつもりだったけれど、先に魔物が歪んだ笑みを浮かべ、あり得ないほど縦に口を開いた。

 キィィ…と口に魔力が集まり、同時に高まっていく。直後、ゴゥッ!と吐き出された熱線を即座に『反射』した。


「ギイィィッ…!」


 我が身を焦がした魔物は激しく身悶えた。魔物の背後に生える立派な木々が一直線に燃え上がる。まともに食らえばタダでは済まない威力の魔法。


『水撃』


 消火するためすかさず水魔法を放つ。大量の水の中に圧縮した水の刃を隠蔽しマンティコアを切り裂いたけれど、傷ついても倒れる素振りはない。


「……グルルルァァァァッ!」


 うるさく耳障りな咆哮。魔法は効いているようだけど、この程度の威力では無理か。それにしても表情が気に入らない。魔物なのに表情豊かで蔑むような顔がイラつかせる。

 捕食者として人を貪り喰ってきた驕りに見えてしまう。『餌が生意気に抵抗するな』と言われているようで不愉快極まりない。もしかすると、コイツが何度も里を襲撃していた理由は鳥の獣人達を嬲っていたんじゃないのか?


 満足いくまで遊んで…弱りきったところを美味しく頂くために。



『大地の憤怒』


 鋭い土の槍を数本隆起させると素早く身を躱された。連続で放つも俊敏な動きで全てを躱される。

 魔力反応を感知している風ではないから、危機察知能力が高い、若しくは単純に反応が速いのか。


「ギイィィィッ!」


 遠距離で素早く移動しながら、連発で熱線を繰り出してくる。ボクの背後には集落の家が並んでいるので、動きながら全てを『魔法障壁』で受け止める。

『反射』してもいいけど、これ以上木々を燃やすのは忍びない。考えなしに魔法を放つのは魔物ならではの凶行。

 放つ魔法をじっくり観察する必要はない。炎魔力を螺線状に固め、球体のように圧縮して魔物特有の発動法で放っているだけだ。種明かしは済んだ。


「グオォォッ!」


 魔物が突っ込んでくる。魔法を使えるのがお前だけだと思うな。


 障壁を解除した一瞬で手を翳し、同様の魔法を発動して浴びせると身体が燃え上がった。


「ギイィ!グァァァァッ!」


 自分の放つ魔法に耐性がないのは少し意外。確実に効いている。


「ギイィャア!!」


 漆黒の翼を広げ上空へと逃れるマンティコア。


「逃げるのか?」


 人語は通じないとわかっているけど、つい話しかけてしまう。空中で静止して、ボクを見下ろしながら腹立たしそうな表情。まるで言葉の意味を理解しているかのように。

 悔しいのなら逃げるような真似をしなければいい。ただ、この距離では魔法は躱される。チャンスを伺いつつ逃亡できる態勢…というのが魔物の狙いに思えた。

 古代種と呼ばれるだけあって賢い。逃がせば再び現れるだろう。あるいは他の集落が襲われる。コイツは今倒さなければならない。


 ボクにリオンさんやマードックのような投擲技術があれば……と悔やんだところでないものねだり。どうしたものか………そうだ。


「ファルコさん!お願いがあります!」

「どうした!?」

 

 名を呼ぶと低空飛行で直ぐに来てくれる。


「アイツに接近して魔法を浴びせます。ボクを掴んで飛んでもらえませんか?」

「いいぞ」


 ファルコさんは後ろからボクを抱えて飛び立ち、上空で魔物と対峙する。


「驚くほど軽いな…。なぜだ?」

「ファルコさんが飛びやすいように体重を魔法でなくしてます」

「そうか…。…ウォルト」

「なんでしょうか?」

「この闘いが終わったら話を聞かせてくれ」

「はい。必ず説明します」


 視線を切らずに見つめていると、徐々にマンティコアの傷が回復している。魔物特有の再生能力。過去に遭遇した魔物にも稀にいた。多少の傷では致命傷にならないということ。


 魔物は突然口を大きく開けて下を向いた。里を焼き尽くすつもりか。そうはさせない。


「里に向かって魔法を放とうとしてます!跳ね返します!」

「わかった!」


 ファルコさんの機動力で素早く魔法の軌道上に到達し、放たれた数本の熱線を『反射』で弾き返すも躱されてしまった。

  

 そうくるのは予測済み。これならどうだ。


「グルルァ!」

 

 弾き返すと同時に、箱型に魔力を展開して魔物を中に閉じ込める。

 

「羽ばたく鳥の美しさを知れ」

 

『雷鳥の筺』


「ギイィァァ…!」


 フレイさんから学んだエルフ魔法。雷魔力で形成された無数の鳥が所狭しと箱の中で乱反射してマンティコアを攻撃する。

 だが、流石の耐久性で凌ぎきられた。でも当然予想の範疇。ボクは魔導師ではないから威力が足りなくて当然で油断などしない。痺れで動きが鈍った今が好機。


飛燕(ファンローグ)


『気』と風魔力で形成した大型の燕を発現させる。上空から急滑降しながら広げた翼でマンティコアの首を切断した。漆黒の翼は羽ばたくのを止め、胴体と切り離された頭部と共に落下を始めた。


「倒せたと思いますが、確認に行きましょう」

「あぁ」


 ゆっくり地上に降り立つと、どす黒く変色したマンティコアの頭部は苦悶の表情を浮かべていた。ピクリとも動かない。どうやら息絶えている。


「倒せたようです」

「本当に助かった。お前にはなんと礼を言っていいのか」

「里の皆さんが弱らせていたからトドメを刺せただけです。ファルコさんがいたから空で仕留めることができました。ありがとうございました」

「…そうか」

 

 貴重な経験ができた。世界にはこんな魔物がいるのだと身を以て体験できたことは幸運。


「あんた、すげぇな!」

「凄い魔法だった!おかげで助かったぜ!」

「ありがとうございます」


 駆け寄ってきた数人に感謝を告げられ、なんとも照れくさい。やれることをやっただけで倒せたのはたまたま。高尚な理由があるワケでもない。眼前で友人の大切な人や幼い子供が死ぬのが嫌だっただけ。


「ウォルト。少し離れた場所で話そう」

「怪我人と焼けた森を治療してからでいいですか?」

「すまないが頼む」


 


 住人全員の治療と焼けてしまった森の回復を終えたあと、ファルコさんに真実を話して変装している理由を説明した。


 信頼できると思える人以外に魔法が使えることを知られたくない。獣人の魔法使いということで好奇の目で見られたくないのが一番の理由で、目立たずにひっそり生きたいから…と正直に話した。サバトの一件で、人の噂は信じられないほど速く広域に伝播することを知ってる。


「なるほど。よくわかった」

「里の皆さんを信用しないワケではありませんが、抵抗があります。ファルコさんにはいつか伝えようと思っていました」

「教えてくれて有り難い。上手く誤魔化しておくから心配しなくていい。俺は決して口外することはない」

「そうしてもらえると助かります」

「驚いたのは事実だが、ウォルトはウォルト。なにも変わらないさ」


 ふっ…と笑う表情が渋い。大人の余裕が相変わらず格好いいな。


「マンティコアの死体から幾つかの素材が獲れると思います。家を壊されたようなので復興の足しになればいいんですが」

「いいのか?討伐したのはお前だぞ」

「ボクには必要ないです」

「礼をしなければ俺の気が済まないんだが」


 話していると、さっき助けた子供が駆け寄ってくる。


「人間のお兄ちゃん!さっきはありがと!」

「どういたしまして。大丈夫かい?」

「うん!」


 頭を撫でながら思いつく。


「どうしてもお礼がしたいなら、少し子供と遊ばせてくれませんか?」

「礼になるワケないだろう」

「お礼に選ぶなら相手が好きなモノがいいですよね?ボクは子供と遊ぶのが大好きなので」

「…ふっ。仕方ないな」


 子供達と魔法を使って遊ぶと、楽しんでくれてるようでよかった。なぜか大人も集まってきて、クローセと同じ状況になったけど。


 里に住んでいると、中々魔法を目にする機会がないから珍しいんだろう。変装していれば堂々と披露することができるし恥ずかしさも薄れる。テムズさんに感謝だ。



 ★



 ウォルトが子供達に魔法を披露するのを、里の男衆と肩を並べて遠目に眺めるファルコ。


「ファルコ。アイツは何者だ?絶対、普通じゃないだろ。俺の知ってる魔法じゃない」

「俺の友人だ。そして里にとっては恩人だな」


 深く訊かないでくれると助かるが。


「違いねぇ。連れてきてくれて助かったぜ。魔法ってのはすげぇな。闘う他に治療もできるんだからな。魔法をバカにしてたけど心を入れ替える」

「化け物の首をぶった切ったのはシビれた。あの燕の魔法は最高にイカしてた。まるで獣人が操るような魔法だ」

「ふっ…。そうだな。お前らの言う通りだ」


 俺の友人は凄い男だ。俺自身が1番驚いているが。


「まほうは、おもしろい~!」

「はじめてみるけど、たのしい!」

「そう?ありがとう」


 今ウォルトが操っているモノが、ほんの少し前に凶悪な魔物を屠ったのと同じく魔法であると思えん。色鮮やかで暖かさすら感じる魔法は、皆の心を惹きつけて放さない。


 鳥の獣人には魔法など必要ない。頼らなくとも不自由なく生きていける。そう考えていたし、それが俺達の共通認識。だが、『便利だ』『格好いい』『怖い』と表現されている魔法が、人を楽しませることを初めて知った。

 心を高揚させる魔法を目にして、魔法も悪くないと思える。子供も大人も目を輝かせて笑みを浮かべている。闘いで傷ついた身体だけでなく心までも癒やし、焼けた森すら復活させるような魔法使いが存在するとは。



「お兄ちゃん!もっとまほう見せて!」

「いいよ。次は魔法の鳥を見てもらおうかな」

「「「わあぁぁぁっ!すご~い!」」」

「こりゃあ…見事なモンだ…」

「本当ね…」


 虹色の翼を持つ鳥が出現し優雅に空を飛ぶ。まるで生きているかのように。


「こんな魔法もあるよ」

「かっこいい~!もえてる!」

「こっちの鳥はキラキラしてきれいだよ~!」


 炎や氷で形成された鳥も現れ、里の上空を自在に飛び回る。子供達は大喜び。獣人ゆえに俺達の祖先である鳥に対する心情を理解し、模した魔法で楽しませているに違いない。なんと優しく粋な魔法か。


 今日の恩は決して忘れることはない。大袈裟ではなく里の危機を救い、直後に皆を笑顔にした男のことは里で語り継ぐ。たとえ本人の意思がどうであれ…だ。




「ありがとうございました」

「こちらこそだ。またな」

「はい。また」


 ウォルトを住み家に送り届けたあと、その足でフクーベのギルドに向かい、鑑定人を里に近い森まで連れ帰ってマンティコアとやらの死骸を見せたところ、目玉が飛び出そうなほど驚いていた。

「Aランクパーティー複数での討伐も困難なんだぞ!とても信じられん!」と力説されたが、意味がわからん。ただ、『お前達では無理だ』と言いたいのは理解できた。

 だが、「俺達が力を合わせて倒した。疑うのならお前達には譲らない。道具屋に素材を売るだけだ」と押し通す。


 実際、岩山の高台にある里には空を飛べなければ来ることなどできない。どの冒険者に確認しても頷く者などいまい。素材の他に魔物の研究にも使うらしく、死骸は高額で買い取られた。集落の修繕をしても余りある金額で。

 

 さてと……まずは魚を釣って友人に持って行くとしよう。そして、里の子供達が「魔法を使えるようになりたい!」と騒いでいることを伝えたらどんな反応をするだろうか。

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