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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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467 お届けものです

 ウォルトが早朝から駆けてやってきたのは久しぶりの王都。


 今日訪れた目的は、リスティアに手紙の返事を渡すため。魔伝送器も一緒に。時刻はまだ午前中。訓練中毒のテラさんは家にいないはずだし、ダナンさんやカリー、シオーネさんも同様のはず。…という予想を立てて直接王城にやってきた。


「むっ!アンタはフクーベのウォルトだな」

「お久しぶりです」


 前回と同じ騎士トニーさんが立哨してくれていたのは幸運だった。ボバンさんかアイリスさんに会いたい旨を伝えると、「呼んでくるから待っていてくれ」と言ってもらえた。


 待っていると現れたのは…。


「ウォルトさん。お久しぶりです」


 アイリスさんだった。一段と逞しさが増して、強者のオーラを漂わせている。


「ご無沙汰してます。お忙しいのに急に呼び出してすみません」

「いえ。本日、団長は多忙で。今日はどうしたんですか?」

「リスティアに渡してもらいたいモノがあって。渡して頂けますか?」


 飾り細工を施した小箱を手渡す。


「お預かりします。あの…ウォルトさん…」

「なんでしょう?」

「テラの槍を作ったと聞いたんですが」

「はい。素人なんですがお世話になってるお礼にと思って作りました」

「あの……テラの槍を見て思ったんですが…」


 なにやら言い辛そう。まさか……騎士団でテラさんが恥ずかしい思いをしてるとか…?素人の作った槍を使って恥をかいていたら申し訳なさすぎる。


「気にせず言って下さい」

「私の剣を…作ってもらえないでしょうか?」

「えっ?」


 意外なお願い。


「やっぱり無理ですよね…。我が儘を言ってすみません…」

「全然構わないですし、むしろやりたいんですが、ボクの作った剣でいいんですか?素人ですよ?」


 モノづくりはなんでもやりたい。でも職人には敵わない。アイリスさんの剣はきっと業物だ。


「是非お願いしたいです。代金はちゃんと支払いますので」

「お金は必要ないです。ただ、希望に添える剣に仕上がらないかもしれません。…そうだ。もしアイリスさんがよければ、細かい要望を知りたいので休みの日に住み家に遊びに来てもらえませんか?急ぎなら今から細かく教えて下さい。覚えて帰ります」

「訪ねます。急いではいないので」

「いつでもお待ちしてます」


 念のため細かい要望を記した手紙を書いてくれたら作って届けることを伝えた。かなり遠いのに無理して訪ねる必要もない。


 アイリスさんは微笑んで頷いてくれた。



 ★



 ウォルトから受け取った小箱を王女様に届けるため、リスティアの部屋を目指すアイリス。


 ウォルトさん絡みの案件は王女様にとって最も優先される事項。『なにをしていても直ぐに教えて』と言われている。さすがに会議中などは控えるけれど。

 今日は舞踊や作法の稽古事の日だと認識している。自室にいらっしゃるだろうか?部屋のドアをノックすると、「はぁい」と気の抜けた返事が帰ってきた。


「アイリスです。本日届けられた白い預かりモノをお届けにあがりました」


 こちらに駆けてくる音がする。


 ウォルトさんに関することを伝えるときは、白猫からとった『白』に関することを入れた言葉で伝えている。

 コレも王女様の要望。誰かが部屋にいても怪しまれずに判別できるように。でも、かなり不自然な台詞。


「ありがとう!入って!」

「失礼致します」


 招かれて中に入り、促されて椅子に掛ける。言う通りにしないと『王女の権力を発動しちゃうよ!』と脅される。要するに『いいから座れ』ということなのだけれど。


「預かりモノってなに?」

「こちらです」


 預かった小箱を手渡す。


「箱だね。なにか言ってた?」

「いえ。渡して下さいとだけ」

「冷たいね!でも嬉しい!早速開けてみよう!」

「はい」


 王女様はそっと小箱の蓋を開ける。2人で中を覗き込んだ。


「手紙と……コレはなんだろう?」


 王女様が手にしているのは、掌に収まるサイズで円盤状の小さなモノ。白い魔石とボタンが付いていて織った布で綺麗に装飾されている。


「多分だけど魔道具っぽいね…」

「おそらく…」


 私の勘が告げている。女性的な可愛らしい見た目に反して、とんでもないモノなんじゃないか…と。


「他に魔石が入ってる。手紙を読んだら意味がわかるんだろうね!」

「おそらく」


 上機嫌の王女様は、魔法封蝋を解いて手紙を読み始めた。大きな瞳が左右に動くのを黙って眺める。やがて目の動きは止まり、王女様は満面の笑みを浮かべた。


「さすがウォルト!使ってみよう!」

「魔道具なのですか?」

「ふふっ。使ってみてのお楽しみだよ!」


 王女様は手に取った魔道具の白の魔石に指で触れる。…が、なにも起こらない。


「心静かに待とう。あっ!浮かれて忘れてた!」


 王女様は急いで部屋のドアに向かい内鍵を掛けた。

 

「準備よし!」


 さらに待ってみると……。


『久しぶりだね。リスティア』

「えぇぇぇっ!?」


 魔道具から声が聞こえた。これは…ウォルトさんの声…?どういうこと…?


「久しぶり!アイリスが届けてくれたよ!直ぐに使ってみた!」

『森を駆けてたから気付くのに遅れてゴメン』

「いいよ!この魔道具はもの凄く嬉しい!作ってくれてありがとう!」

『どういたしまして。なにかあれば直ぐに連絡できるから便利だと思ったんだ。親友へのちょっとした贈り物だよ』


 ちょっとした贈り物…?聞いたこともない魔道具を…。ウォルトさんはどうかしてる。


「手紙もありがと!読ませてもらった!」

『ボクもありがとう。嬉しかったんだ』

「ふふっ。ところで、箱に一緒に入ってる魔石はなぁに?」

『魔伝送器には空間魔法の魔力が必要で、予備の魔力を込めておいた』


 空間魔法…?聞いたこともない。


『魔力が切れたら『精霊の加護』を魔石に付与すれば、空間魔法の魔力に変換できるように細工を施してる。その魔石を使って補充すればいい』

「なるほど!誰にも頼まなくて済むね!」

『話すと結構魔力を使うから、少しずつ溜めるのをお勧めするよ。『精霊の加護』は誰かのタメにあるだろう?一気に使っちゃいけない』

「うん!そうする!」


 自然な気遣いは王女様も嬉しいに違いない。


『リスティアをイメージした生地を織って装飾してみたんだ。気に入ってくれるといいけど』

「凄く気に入ったよ!ありがと!」


 生地も織るの…?なんでもありすぎる…。そういえば、テラにあげた槍のカバーも自作だと言っていた。


『もしボクに連絡したいことがあるときは、テラさんやダナンさん、アイリスさんにも貸してあげてほしい』

「もちろん!」

『ありがとう。あと、この魔道具を考案した人は世に広めたがってないから内緒にしてくれると助かるよ』

「それも任せて!」


 きっと欲のない職人に違いない。個人的には世紀の発明と呼ばれてもいいと思う。ウォルトさんの魔法があってこそ完成する可能性大だけど。無欲な人の周りには、無欲な人物ばかり集まってくるのだろうか。


「あっ!そうだ!宮廷魔導師の件は着々と進んでるからね!」

『無茶はダメだよ。興味はあるけど、リスティアはなにをするかわからないから心配してるんだ』


 まさにその通りだけど、ウォルトさんに心配だと言われるなんて…。


「だ~いじょうぶ!ちゃんとした手段で見れるようにするから!」

『ホントかなぁ』

「ホントホント!楽しみにしてて♪」


 その後、少しだけ話して通話は切られた。短い会話でもかなりの魔力を消費するらしい。魔法に詳しくないけれど非常識な魔道具なので当然だと思う。


「はぁ~!この魔道具は…控え目に言って最高だね!」

「常識外れにもほどがあります」

「ボバンやダナン、テラやシオーネにも教えておいてくれる?いつでも貸すから私に言ってって!」

「かしこまりました。お伝えしておきます」


 驚きの余韻を残したまま、一礼して王女様の部屋を後にした。




 ダナンさんとテラ、そしてシオーネに声をかけて、団長の執務室に集まってもらった。さっきまでの出来事と王女様の伝言を伝える。


「そうか。わかった」

「御仁は流石ですな」

「予想もできないことを軽々こなしますね!」

「私とダナンさんのこともそうだけど、聞けば聞くほど凄い人だよね」


 直に見ていないからか、それともウォルトさんをよく知っているからなのか、皆は反応が薄い。絶対に『ふぅ~ん』みたいな軽い反応で片付けられることではないのに、コレが普通だと思える。


「驚かないのですね」

「様々なことに使える凄まじい魔道具だが、ウォルトがいてこそだろう。そんな魔法は宮廷魔導師でも付与できまい」

「間違いないでしょうな。空間魔法など耳にしたこともありません。高位の魔導師のみが知り、おそらく使われている素材も希少なモノでしょう」

「でも、闘気回復薬について教えてもらえるかもしれませんね!」

「それはできない。直に会って頼まなければウォルトに対する礼儀を欠く。製造法も言葉だけでは到底理解できないだろう」

「それはそうですな」


 団長は度重なるシノさんとの揉め事で国王様から無期限の接触禁止令を出されている。なぜなのか不明だけど、ウォルトさんに会いに行くにはシノさんを連れて行く必要があり、許可が下りないことには動けないらしい。


「いつ許可が下りるのですか?」

「まだ難しい。シノを見かけると腹が立って仕方ない」

「子供ですか。仲直りしましょう」

「アイツ次第だ。これ以上、城の皆に迷惑はかけられないからな」


 一時期2人は城内の皆からトラブルメーカーとして呆れられていた。食堂のマールさんだけが張り切って鍋を打ち鳴らしていたけれど、陰で『はた迷惑な二長』との異名が付いた。


「私が聞いてきましょうか?テラと一緒に」

「いいですね!」

「ダメだ。騎士団長として礼を尽くさねばならない」


 …偉そうに言うならさっさと仲直りすればいいのに。結局、団長も意地っ張り。


「回復薬のことはさておき、お前は休みをとって会いに行けばいい。カリーもお前なら乗せてくれるだろう」

「近々行くつもりです。依頼したいことがあるので」

「その時は私も行きます!久しぶりに普通に休みます!」


 毎回強制で休暇を取らされるテラは、最近では訓練場に忍び込むこともなくなった。「次見つけたら即刻クビにする」と宣言されているからで、騎士団の訓練予定表にはテラの休暇も記されている。見かけたら即刻通報するようにと。

 そこまでしないと休まない勤労騎士だけど、休みの日も訓練しかしていないはず。家でジッとしている姿が想像できない。そんなテラに自発的に休みを取らせことができるのは、きっとウォルトさんだけ。


「私も行きたいです。ウォルトさんとゆっくり話してみたいです。ルビーも懐いてますし」


 基本的におっとりした性格のシオーネは、今やすっかり騎士団に馴染んでいる。ただ、雰囲気とは裏腹に戦争の凄惨さと過酷さを知る唯一の女性騎士で、私達にはない芯の強さを感じる。

 騎士としての1番の特徴は、ダナンさんと同じく英霊であるから体力が無尽蔵であること。闘気操作や技量は未熟でも、闘うとなれば非常に粘り強く、シオーネを戦闘不能にできる者は騎士団にも少ない。

 自分の力を最大限発揮しながら、あらゆる手段を駆使して最後まで諦めず闘い抜く姿勢は戦争から学んだことらしい。私は、彼女の精神を尊敬している。

 とにかく真面目な性格で、着々と技量を上げている。テラにとってはよき友人でありライバル。最も訓練に付き合わされているちょっと可哀想な同僚。


「今度3人で訪ねることにしようか」

「賛成です!」

「是非お願いします」

「シオーネもたまには休まないとね」

「そうそう。シオーネも倒れるよ~」

「ふふっ。倒れないし、テラには言われたくないよ」


 実はシオーネも訓練を休まない。「疲れないのに休む必要がないので」という理由で普通に許可されている。


「ウォルトさんに頼んで、寝なくても大丈夫な身体にしてもらおうかな~」

「さすがに無理でしょ。どうやるの?」


 シオーネは…まだ甘い。回復魔法をずっと身体に巡らせるとか、一時的かもしれないけれど魔法でなんとかするだろう。それが非常識獣人。


「なんとかするよ。なぜならウォルトさんだから!」

「無理だと思うけど」

「ふっふっふ!答えは会えばわかるよ」

「楽しみにしておこうかな」


 テラの言う通りね。会えば毎回驚かされる。私は久しぶりに休暇が楽しみになった。

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