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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
463/714

463 責任の所在

 今日は魔道具職人のメリルが住み家をウォルトの住み家を訪ねてくる予定。


 事前に連絡をもらっていたので料理は作っておいた。メリルさん持参の激辛食材を投入して完成。


「うっまぁ~!かっらぁ~!」


 試食すらしてない料理を褒めてもらうのは、嬉しいけどちょっと複雑な気持ちになる。


「最近、仕事の方はどうですか?」

「食うに困らない程度に仕事をしてる。ランパードさんが依頼してくれてね。あっふぅ…!魔伝送器の魔力補充をお願いできるかな?リリムとの会話も捗って仕方ない」

「もちろんです」


 受け取って魔力を補充する。メリルさんの魔伝送器にはオリハルコンを多めに使っていて、魔力の含有量もボクらのとは比べものにならない。


「そういえば、呼び出しがわかりやすいように改良させてもらいました」

「どうやったんだい……あっふぅ!」

「詳しい話は食べてからにしましょうか」


 料理の熱気だけで涙が出そうだ。湯気とメリルさんの息が目の粘膜を破壊しようとしてくる。

 

「ふぅ…。ごちそうさま。ウォルトは激辛料理店を開いた方がいい」

「絶対に流行らないと思います」

  

 涙、鼻水、苦情が止まらない気がしてならない。たっぷり水分を補給してもらったあと、改良した魔伝送器を見てもらう。


「なるほど。魔力で振動させるのはいいアイデアだ。作業していても気付ける。私のもお願いできるかい?」

「もちろんです」


 離れに移動してささっと改良を済ませる。モノづくりや織物に関しては、離れでできるように運び込んだ。


「いい離れだ。趣味丸出しの造りが実にいい」

「ありがとうございます。メリルさんに教えてもらいたいことがあるんですが」

「なんだい?」

「こんな魔道具を作りたいと思っています。知恵をお借りしたくて」


 道具というより装備だけど、作りたいモノをメリルさんに説明する。


「可能だと思う。作り方の予想はできてるだろう?」

「こんな感じの素材と、魔法付与で可能だと思うんですが……」

「そうだな。けれど、より効果が高い方法がある。こうして……」

「なるほど」


 さすがだなぁ。メリルさんは理詰めと斬新が同居してるような発想をする。しばらく意見を交わして構想は固まった。


「ウォルトは面白いことを考えるな」

「後に必要になると思ってて。メリルさんは、最近どんな魔道具を?」

「ボリスの奴に頼まれて、衛兵用の魔道具を開発中なんだ」

「どんなモノなんですか?」

「私は言ってもいいんだが秘密らしい。面倒な話だよ」


 衛兵が所持している装備が事前に判明していれば犯罪者も対処しやすい。情報の漏洩に気を配るのは当然か。


「アイツにはリリムの件で逆恨みして迷惑をかけた借りがある。今回だけは依頼をこなすつもりだ。なんにせよ、ウォルトにはバレるが」

「なぜですか?」

「魔力付与をお願いしたいからだよ。その時点でどんな魔道具なのか君には隠せない。ボリスはわかってて私に頼んでる。なのに、秘密にしろと言い張る」

「ボクは知り合いも少ないですし、一応は顔見知りだから信用してくれてるのかもしれないです。もちろん守るつもりですが」

「まぁまぁ難しいことを要求してきたから、アイツの年収くらいは報酬をもらわないと割に合わない」

「さすがに年収は払えないんじゃないですか?」

「冗談だよ。作ったことがないモノを試行錯誤して生み出すのは楽しい。魔道具作りの醍醐味かもな」

「わかります」


 そしてメリルさんは達成するから凄い。魔伝送器も世界を変えるような魔道具だと個人的には思ってる。本人は「大したことはないさ。世に出そうとも思わない」と笑ったけど、喉から手が出るほど欲しがる者もいると思う。ボクが知らないだけで、もう誰か作ってたりするのかな?多分ないと思うけど。


「メリルさん。今日は帰りに持って帰ってもらいたいモノがあるんです」

「なにかな?」


 住み家に帰って布袋を手渡す。


「激辛料理です。冷やしたあと魔法の容器に入れて密閉『保存』してあります。匂いも漏れないので獣も寄せません。家で食べてもらえると」

「本当か!?それは助かる!我が家でもウォルトの激辛料理が食べられるなんて最高だ!」


 大袈裟だなぁ。でも嬉しい反応。


「この魔石に『無効化』の魔力を付与してます。接触させるだけで元通りになるので温めて食べて下さい」

「今日の仕事終わりに頂くよ。私の尻は爆発するかもしれないけれど、死んでも本望だ」

「ダメです。幾つかの料理を分けて保存しているので適度に食べて下さい。『保存』は1ヶ月程度では切れません」

「お言葉に甘えてそうしよう」

「あと、コレもお渡ししておきます」


 魔石を手渡す。


「なんの魔石なんだ?」

「護身用の魔法です。身体に触れた相手を痺れさせます」


 使い方を教える…といっても、起動用の魔石を使って発動させるだけの簡単操作。


「魔物に襲われても戦闘不能にできます。牙や爪が触れる寸前に効果が出るので、少し怖いかもしれませんが安心して下さい。この魔石でも余裕を持って森を抜ける時間は効果が持続します」

「凄いな」


 少し前、ラヤンガヤのクルルから学んだ魔法。身体に魔力を受け入れられるなら、誰にでも使える。この魔石は友人には渡しておきたい。もう少し早ければ、アンジェさんにも渡せたけど今度会ったときに渡そう。


 元々ナバロさんやメリルさんのように、冒険者でもなく戦闘に慣れていない友人が住み家を訪ねてくれるのは心配していた。皆が「大丈夫だよ。来たくて来てる」と言ってくれて、厚意に甘えていた部分が大きい。使わなくても大丈夫かもしれない。でも、御守りとして持っていてくれるだけで安心できる。


「なんという名の魔法なんだい?」

「そうですね……『痺鱏(パラクルール)』ってところでしょうか?」


 完全に獣人魔法の名前だけど、教えてくれたクルルの名を入れたい。あの子が成長すれば遙かに凄い魔法へと昇華させてくれる。その時には格好いい名を付けてほしい。


「その感じだと、魔法を考案したのかい?」

「編み出したのはボクじゃないんです。本人がまだ世に出ていないので仮で名付けました」

「そうか。君のおかげでちょっと閃いた。また魔道具の製作が進みそうだよ」

「よかったです」

「魔石の効果を実証してみたいけれど、魔物に遭遇したくはないから複雑だ」

「ボクでいいなら相手をしますよ」

「本当か?動けなくなるんだろう?」

「魔物相手に使ってみましたが、まだ自分で味わってません。魔法には自分で浴びてこそ理解できることがあります」


 この魔法は1人では実感しようがない。だからいい機会だ。込めた魔法がどの程度の効果を生むのか実感できる。


「ウォルトには覚悟があるんだな」

「なんのですか?」

「普通、自分に被害がある魔法を浴びたくなどない。誰だってそうだ。でも、浴びて理解するという考えには同意できる。魔道具だって使ってみてこそだ」

「そうやって学ばないと、ボクは成長しないだけです。自分は痛い目を見ずに他人や魔物に浴びせるだけでは魔法を語れないので」


 実感してみないと魔法が与えるダメージや損害の程度が判定できないのは、ボクの技量が未熟なせいだろう。オーレン達にもできる限り正確に教えてあげたい。


「あっはっは!私は君のそういうところも好ましいよ!」

「ありがとうございます」


 優しいメリルさんはいつも肯定してくれる。キャロル姉さんもそうだ。とりあえず、外に出て更地で実証してみることに。


「魔石を使ってみるよ」

「準備ができたらボクもいきます」


 教えた手順で魔法を身に纏ったメリルさんに、接近するなり軽めに掌底を繰り出してみた。


「ガァッ…!」


 身体に触れる寸前、雷に打たれたような衝撃と共に掌が弾かれる。麻痺して動けない。


「大丈夫か!?」

「だい……じょうぶ……です…」


 地面に倒れたまま、どうにか自分の魔力を操作して相殺した。効いたなぁ。全く動けなかった。でも、魔法の力を実感できて満足。この威力なら森の魔物を麻痺させられる。


「もう1回試していいですか?」

「私は構わないけれど、大丈夫か?」

「大丈夫です」


 普通に触れようとしたり、殴りかかったりしても結果は変わらなかった。無効化でもされない限り、直接的な攻撃からは皆の身を守ることができる。魔法で攻撃されなければ大丈夫だ。『魔法障壁』も組み合わせて改良してみよう。身を以て効果を知ったことは大きい。


「ウォルトが真面目にやってるのはわかるが、ちょっと変態っぽかったぞ。痺れながらニヤけてる姿は結構不気味に映る。痛めつけられて喜んでる変人みたいで」

「そうでしたか」


 魔法の痛みや感覚に慣れてくると、解析するのが楽しくなってしまう。端から見ると気持ち悪いのか。人前では気を付けよう。


「とにかく有用な魔法だ。非常時には有難く使わせてもらう」

「そうしてもらえると嬉しいです。誤って使うと、しばらく人に触れないので注意して下さい。無効化は可能ですが」

「なぁ、ウォルト。私がこの魔石を悪用するとは思わないのか?」

「思いません」

「ちょっとお人好し過ぎないか?」

「仮に悪事に使ったとしたら罪を償ってもらいます。当然、渡したボクも共犯なので償います。魔法を使うのも金輪際辞めます」


 悪用できる魔法だと理解した上で譲るのだから、当然覚悟している。信じられる人にただ無事でいてほしいから気が済むように渡している。


「安心してくれ。私は絶対にやらない」

「メリルさんを信じてますし、ボクも教えてもらった技術や知識は悪用しません」


 せっかくの縁を下らない行動が原因で切りたくない。自分を高めてくれた人に対しての裏切り行為でもある。製作者の意図に沿わない使用法で使われるモノも多く存在する。それこそ犯罪に使われるモノも。

 魔道具や魔法を故意に悪用するのは、完全に使用者の責任で言い逃れはできない。けれど、製作者としての責任も持ちたい。だからこそ信用できる人にしか譲らない。悪用されたらボクの目が節穴だっただけ。罰を受けてもやむなし。


「愚問だったな。もし私の魔道具をボリスが悪用したら、火炙り八つ裂きの刑に処すことにしよう」

「罪が重いですね」

「まずないがね。アイツはクソ真面目な衛兵だ。国民を守りたいという強い意志を感じる。そこだけは好ましく思うよ」


 フクーベに戻るメリルさんを見送る。


 さて、引き続き教えてもらった魔道具を作ろう。





「ふぅ~!今日はこのくらいでやめておこう」


 夜も更けてきたところで、魔道具作りをやめることに。すると、作業机に置いてあった魔伝送器が震えた。呼び出しているのは…メリルさんだ。

 

「メリルさん。どうかしましたか?」

「ウ……ウォルト…。すま……ない…」


 消え入るような力ない声が聞こえる。


「どうしたんですか?!なにかあったんですか!?」

「もう……私は……ダメ……しれない…」


 よく聴き取れない。


「今どこですか?!直ぐに行きます!」


 なにが起こっているのかわからない。けれど、ただ事ではない気配。


「フクーベの……家に…」

「わかりました!直ぐに行きます!」


 以前、住所は教えてもらった。離れを飛び出して全速力でフクーベに向かう。家に到着すると玄関は開いていた。断ることもせずに中に飛び込んで名を呼ぶ。


「メリルさん!」

「……ウォルト」


 微かに声がする。……こっちか!足早に向かうと床に横たわるメリルさんが、お腹を押さえたままうずくまっている。


「メリルさん!大丈夫ですか!?なにがあったんですか!」


 そっと抱え起こすと、尋常じゃない汗をかいてる。外傷はどこにも見当たらない。内臓か。


「…来てくれたのか。…わざわざ…すまない」

「どこが痛むんですか!?」

「原因は……わかってる……」

 

 メリルさんがゆっくり指差した先は隣の部屋へと続くドア。ボクは原因を確かめるべく移動することに。




「いやぁ~。助かったよ!」

「無事でよかったです」


 治癒魔法と即席の薬で無事に回復したメリルさん。とりあえず一安心。申し訳なさげに言われる。


「懲りずにやっていくからよろしく頼む」

「二度と作らないので、もう起こりません」

「なっ…!?そんなっ…!」

「本当です」

「いくらでも謝る!すまなかった!だから…」

「ダ・メ・で・す」

「ウォルト~!後生だぁ~!脱げと言うなら脱ぐからっ!」

「意味ありません。ダメだったらダメです」


 メリルさんの懇願には耳を貸さない。ボクは決めたんだ。


 遡ること数分前。原因を究明するため、隣の部屋に入った瞬間、目を開けていられなかった。…というのも、目にしたのはテーブルの上にボクが渡した料理が並んだ異様な光景。熱々の湯気を放ちまるでマグラタさんの操る『溶岩』のようだった。


 そして気付いた。『全部、一気に食べようとしたんだな…』と。涙目で風魔法を纏い、熱々の料理を全て凍らせた。


「ボクは、『保存』しているから適度に食べて下さいと言いましたよ。なぜ全て食卓に並んでるんですか?今日の今日です」

「それは……その…」

「言い逃れできません。忠告を無視しましたね?」

「うぅ……」


 辛い料理は癖になるというのが常識らしい。だから、辛い料理を好む人はさらなる辛さを求めるのだとビスコさんも言っていた。

 つまり、麻薬のような魅力が激辛料理にはある。ボクは、知っていながら『喜んでもらいたい』という我が儘でメリルさんに料理を渡してしまった。まさか一気に食べるとは思わなかったけれど、可能性はあったんだ。


「刺激物と言っても過言じゃない料理を作って渡した責任があります。そのせいでメリルさんを殺しかけてしまいました」


 おそらく腑が灼けるように痛んだはずだ。汗のかきすぎで脱水症状を起こしかけてた。魔伝送器で呼んでくれなければ本当に危なかった。ボクが死にかけたのなら一向に構わない。でも友人はダメだ。


「ボクは今後一切料理を作りません」


 もはや料理と呼べないモノを食べて生きていく。師匠のように。ちゃんと宣言して逃げ場をなくしておこう。思っているだけだといつでも翻せる。


「それはダメだっ!もう二度としないと誓う!だから許してくれないかっ!」

「怒ってはいません。害を与えたのはボクの料理なので自分の気が済まないだけです」


 料理を失うのは辛いけど、そのくらい猛省しなくちゃならない。


「う……うわぁぁ~!ごめぇぇ~ん!」


 子供のように泣き出してしまったメリルさんを宥める。


「メリルさんは悪くないんです。泣かないで下さい」

「料理をやめちゃだめだぁ~!!そんなつもりはなかったんだぁ~!」

「誰も困りません。大丈夫です」

「ウォルトォ~!ダメだぁ~!」


 ボクの浅はかさがメリルさんに危害を加えてしまったんだ。退くワケにはいかない。


 …と思っていたけれど、メリルさんにひたすら謝罪されて料理を辞める宣言を撤回することになった。「ウォルトが料理をやめるなら、私は自決する!私のせいだからだ!」とまで言われてしまったから。あまりに鬼気迫る勢いで、匂いも本気冗談だったし撤回せざるを得なかった。

 一度だけチャンスをもらえたと前向きに捉えることにしよう。軽はずみな行動は、命を危険に晒すことを学んだ。

 その後、ボクが大丈夫と思えるまで激辛料理は住み家でのみ食べるという約束を交わした。メリルさんからの提案。


 落ち着いてお茶を頂く。というか、ボクが淹れた。口に運びながら、メリルさんがポツリと呟く。


「どうすれば強靭な胃袋を手に入れられるのだろう?」

「懲りてませんね」


 思わず苦笑いが漏れる。


「もう充分反省した。これまでの人生で、初めて行動を悔い改めて心から反省した」

「初めてなんですか」


 それが本当なら凄い。


「ボリスの件ですら反省も後悔もしていない。迷惑をかけたという自覚はあって、謝罪はしているけれど反省はしてない」

「なるほど」

「自分の欲を満たしつつ、ウォルトを困らせない手段を模索する」

「難しいと思いますが」

「なんとかする。君の料理が好きだから満腹になるまで食べたいんだ」

「ボクも食べてもらいたいです」


 メリルさんは目的を達成しようと突き進む人だ。そして行動力がある。ボクも考えよう。命を奪いかけた料理をまた食べたいと言ってくれたメリルさんに、お腹一杯食べてもらえるように。

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