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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
462/715

462 魔法否定派のお話

「魔法否定派?」

「はい。魔法を否定する活動をしてる人達がいるんです。昔からみたいですけど」

「『魔法は危ない!』『生活を脅かす!』って主張してます!」


 ウォルトは住み家でウイカ、アニカと修練していた休憩中に魔法否定派について聞く。


「国民の生活から魔法を排除しよう…っていう反対運動かな?」

「簡単に言うとそうです。私達も『魔法に頼ってはいけない』って言われました」

「大勢でギルドに詰めかけて『魔法使いは魔法を捨てるべきだ!』って主張してたんです!そんなに過激ではないんですけど、ちょっと異様で!」

「なるほど。魔法で嫌な目に遭った人達なのかもしれないね」


 魔法は国民の生活を豊かで便利にするれど、犯罪や悪事に悪用する者もいるのは事実。そうでなくても、魔法が『人を怠けさせる』と捉える人がいるのは理解できるし、主張していいと思う。


「様々な理由があるっぽいです。治癒魔法に対する不信感だったり、戦闘魔法の危険性を訴えたり、単に昔ながらの生活を送ることにこだわってるとか」

「どれもわかる気がするよ」

「でも、強要するのは違いませんか?なんていうか、『この世から魔法をなくしてしまえば万事上手くいく!』みたいな主張は納得いきません!魔法が世界を乱してるみたいな言い方は!」

「そうだね」

「ウォルトさんが反対運動で『魔法を捨てろ』と言われたらなんて答えますか?」

「「捨てません」の一言で終わりだね。捨てる選択はないよ」


『なぜお前の言うことを聞かなきゃならないんだ?』って反抗すること間違いなし。ただし、真に自分が納得できる理由があれば、いつでも魔法を捨てる。


「でも、『必要ないだろう?』って言われると、そんな気もしたりするんです」

「それはそうだね。不便になるだけで生活はできる」


 原始の獣人もそうだ。何百年と同じ生活を送っているはず。実際、昔はそうだったワケで。


「今回ちょっと不思議だったことがあります!」

「不思議なことって?」

「反対派の中に、自称ですけど元宮廷魔導師がいたんです!」

「へぇ~。自分も魔法を操るのにそう思うなんて深い理由がありそうだね。どんな主張してた?」


 カネルラの頂点に君臨する魔導師が魔法を否定するなんて意外だ。


「強く主張してました。アニカ、手伝ってもらっていい?」

「了解!いくよ!」


 なにをするんだろう?


「俺は……魔法のせいで散々な人生だった!人生を返してほしいっ!」


 ウイカが急に寸劇のようなことをやりだす。真似してくれてるのか。


「よっ!いいぞっ!もっと言え!」


 アニカは周囲の活動家ってことかな?

 

「一切遊びもせず、年中魔法のことばかり考えて頭がおかしくなりそうだった!誰に褒められるでもなく、自己満足のタメに人生の大半を無駄に費やした!研究の成果なんて…アリはしないんだっ!」

「ろくなもんじゃないな!」

「魔法なんてこの世に必要ない!」

「そうだそうだっ!!」

「人の人生を狂わせる…まさに魔の法だ!頼らなくても人は幸せに生きていける!」

「…と、こんな感じでした♪」


 見事な再現に思わず拍手してしまう。姉妹で役者になれるんじゃないか。


「なにか嫌気がさしたんだろうね。ただ、理由は知らないけど逆恨みも甚だしいな」

「ですよね!魔導師を辞めたければ、辞めればよかったのに!自分の意志の弱さを魔法のせいにするなんて筋違いですよ!」

「その通りだと思う。嫌になったのなら、誰がなんと言おうと直ぐに辞めればいい。選択はできるんだから。誰かに強制されていたなら、闘ってでも辞めるべきだ」


 嫌いだったのなら捨てればいい。それができなくても全て己のせい。魔法は『覚えてくれ!』『使ってくれ!』なんて頼んだりしない。


「反対するのは自由ですけど、魔法は人の役に立つと思ってます」

「魔物討伐でもクエストでも、戦闘魔法は大きな役割を果たしてます!」

「道具と同じで、正しく使えばこそだけどね。魔法で眠らせて身ぐるみを剥いだり、詐欺を働く者もいる。いいことばかりじゃないのは事実だ」


 議論しても結論は出ない気がする。何事も善し悪し。魔法の有無はどちらが正しいという問題じゃない。人の心は移ろいゆくもの。元宮廷魔導師も昔は純粋に魔法が好きだったのかもしれないし、ボク自身も魔法を嫌いになる可能性はある。限りなく低いと思うけど。


「私は魔法のおかげで人生が変わったので、否定的な意見には賛成できません。今の私があるのは魔法に出会ったからです」

「また会ったら言い返すかもしれません!『魔法がいらないと感じても強制しないで!』って!私は魔法が好きです!」


 2人の熱い気持ちが伝わってくる。


「考え方が違っても、自分の意見を持つことは大切だと思うからいいんじゃないかな。ただ、相手の話を聞くことが大事だね。ボクもできる限り心掛けてる。恥ずかしながら、できてないんだけど…」

「ふふっ。ずっと黙って聞いてたんですけど、私達魔法使いが誰彼構わず魔法を広めようとしてる様な口振りなんです」

「自分の修練で精一杯なのにね!広めるなんて無理だよ!」

「それは確かに勘違いだね」


 魔法は、長い年月をかけながら緩やかに発展を遂げてきた。誰でも操れるモノじゃないし、後進の育成には時間がかかる。魔法を普及できたとしても、急に世界が変わったりしないと思う。


「いろいろな人が反対をアピールする中で、印象に残ったのは女性魔導師の言葉でした。アニカもだよね?」

「うん。ちょっとだけ悲しかった」

「女性魔導師がいたの?」

「元、みたいでした。その人に言われたんです。「魔導師なんて早くやめたほうがいい。女性に尊厳なんて存在しない。いずれ身も心もボロボロになる」って」

「貴女達の希望はやがて絶望に変わる。そうなる前に早く魔法を見限りなさいって。優しく言われたんですけど」


 男尊女卑の風潮で傷を負った人かもしれないな。魔法なんてなければよかったのに…って恨んでもおかしくない。2人を心配しての言葉なんだろう。

 でも、やっぱり魔法自体に責任はない。魔法使いを辞めるかは自分が決めること。酷い扱いを受けてもアニェーゼさんの弟子のように魔法を磨き続けている人もいる。


「なんて答えたの?」

「無理ですってハッキリ答えました。あの人は苦労したんでしょうけど、受け入れられないです」

「私達は頑張ります!って伝えました!」

「力無く笑ってくれたよね」

「多分悪い人じゃなかった。止めようとしたのは善意だと思う!」


 今度アニェーゼさんに会いに行こう。2人と会話してもらって、いろいろなことを教えてもらいたい。多くの経験を積んでいる大魔導師に。ボクは気の利いた台詞も言えない。魔導師のことを知らなすぎる。


「最終的にギルドでも言い合いになったんです。他の魔導師も一方的な物言いを受け入れられなくて怒ってました」

「揉めたりしなかった?」

「慣れてるみたいでした!最後は子供のケンカみたいになってましたよ!」

「クウジさんがギルマスだったときは、悉く論破したらしいです。なんと言われても魔法の必要性を説いて返したみたいで」

「すごすごと帰っていったみたいです!今回はクウジさんがいないから、かなり元気がよかったらしくて!」

「ウォルトさんも上手く話を纏められそうです」

「まず無理だよ。ボクは直ぐ感情的になる。ウイカ達みたいに冷静でいられない」


 偏屈で面倒な獣人だという自覚あり。


「じゃあ、ケンカになりますか?」

「状況による。ただ、強制されるのは御免だね。魔法否定派の人達が魔法禁止法を制定したとしても、ボクは魔法を使うことをやめない。仮にそうなったらもっと奥地に隠遁して魔法を修練するか、カネルラから出ていくことになるかな」

「ウォルトさんらしいです!」

「絶対に真似しちゃダメだよ。ボクは半分世捨て人だからいいけど君達は違う」

「冷たいこと言わないで下さい」

「師匠として「ふっ…。お前達も付いて来るか…?」って渋く言うとこですよ!」

「そんなこと言えないよ」


 ボクにファルコさんのような渋さは皆無だし。


「なんでですか?!」

「お別れになってもいいんですか!?」


 テーブルに手を着いて、グッと前に乗り出す2人。


「どこにいてもアニカとウイカは大切な人に変わりない。行き先も報せるけど、我が儘に付き合わせるのは心苦しいんだ」

「私達が決めますけどねぇ~」

「ウォルトさん並みに頑固かもですねぇ~!」

「なんで?」

「「弟子だからです」」


 即答に苦笑いしかできない。師弟だとしてもそんなところは似てほしくないな。否定派の話はこのくらいにして、ちょっと訊いてみよう。


「今度サラさんの師匠のアニェーゼさんのところに行ってみない?」

「一緒に行きたいです」

「凄い魔導師でした!」

「えっ!?もう会ったことあるの?」


 姉妹は揃って頷いた。


「サラさんに誘われて一度だけ。凄く優しくて、包容力のある格好いい大魔導師でした。サラさんが憧れてるのもわかります」

「いろんな話もできて、同居人の皆さんも凄い魔導師ばかりでした!歓迎してもらえて楽しかったんです!」

「そっか。だったらボクだけ行ってくるかな」

「なに言ってるんですか」

「ダメですよ!「ウォルトも連れてきて頂戴」ってアニェーゼさんに言われてるんですから!」


 それなら問題ないよね?あるかな?


「3人で行くことに意味があるんです!」

「師弟として挨拶に行きましょう!私達がいてこそできる話もあるはずですから!」


 心の声に返答ありがとう。


「確かにそうだね。一緒に会いに行こう」

「「やったぁ!」」


 アニェーゼさんの病の経過も気になる。


「アニェーゼさんは、ウォルトさんの治癒魔法で元気になったって笑ってました」

「今のところ気になるところはないみたいです!」

「よかった」

「ただ、ギュネさんやレスティーナさんに質問攻めされるかもしれません」

「なんで?」


 心当たりがない。


「ウォルトさんからもらった獣人の秘薬で回復したことになってました。サラさんとアニェーゼさんが、魔法のことを黙っておく理由として」

「なるほど」


 住み家に戻ってから文献も調べてみた。特効薬や秘薬じゃないけど、効果のある薬は作れたかもしれない。どんな薬なのか質問されても答えるくらいならできそう。苦し紛れの理由っぽいけど、弟子の皆さんは信じてくれたのかな?


「ちょっと話が戻りますけど、魔法を使えることでいいことばかり起こらないことは理解してます。私みたいに、自分の魔力に苦しめられる人もいるかもしれません。でも、助けられたのも魔法です。アニェーゼさんもそうです。治癒院でも回復した患者の沢山の笑顔を見てきました。やっぱり世の中に魔法は必要だと思えるんです」

「私もです!ウォルトさんの魔法がなかったら2年前にオーレンと一緒に死んでました!でも、助けられるまでの時間を稼いでくれたのも一生懸命覚えた『火炎』で…。クローセも救えたしやっぱり魔法に助けられてます!」

「少しずつ世界が広がってます。アニカとも、昔より仲良くなれたよね」

「そうだね!心変わりがない限りずっと魔法が好きだよ!きっと死ぬまで!」

「それでいいと思うよ」


 ボクも魔法が好きだ。考え方は人それぞれでも、惑わされず自分らしく生きていきたい。ウイカ達もそうなのかな。


「何事も表裏一体で、表を裏も知ってこそ深く理解できる。ボクも否定派の意見を聞いてみたいな」

「気になるならまだ教えましょうか?アニカ、いい?」

「お任せあれ!」


 ウイカは1つ咳払いする。また再現してくれるのか。


「私は…魔導師に遊ばれて捨てられました!魔法を学ぶ男なんて皆クズです!」

「ひどいわっ!!なんてことをっ…!」

「………」

「悪い魔法をかけられてたんですぅ!凄いイケメンに見えてぇっ!」

「きっと女性を毒牙にかけるタメに魔法を学んでいるんだわっ!不潔で不純よっ!」

「………」

「どう思いますか?」

「そういうこともあるよね…」


 ボクは余計に魔法を使えることを言いたくなくなった。

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