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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
450/715

450 優猫に会おう

 会話していると夕方になってしまった。


「また来るからね!」

「おう。いつでも来いや」


 久しぶりの実家を存分に楽しんだサマラと妹達はまたウォルトの家に向かう。


「リカントさんには会わなくてよかったんですか?」

「いいの!どうせ女の話と自慢話しかしないから!娘にする話じゃないよね!チャチャは会いたかった?」

「大丈夫です。私もまた来ますし、チャラい男の人は苦手なんで」

「ひどっ!」

「会わずに帰るサマラさんもなかなかです。でも、男親にはあまり会いたいと思いませんよね」

「そうなの。人運びだと今日は帰ってこない可能性もあるしね」


 お父さんを待たなかったのには別の理由もあるけど。ウォルトの家に辿り着いて、ドアをノックするとミーナさんが出迎えてくれた。


「おかえり!」

「「「「ただいま!」」」」

「ランに会えた?」

「会えたよ。全然変わってなかった」

「筋肉は?」

「全員見せられた」

「あはははっ!1回はしょうがないよ!二度目からは上手く逃げてね!ストレイも帰ってきたよ!」

「会いたい!」


 私はストレイさん好きなんだよね。ウォルトとはタイプが違うけど、昔から優しくて温かい獣人だから!居間に向かうと、大きな茶猫がお茶を飲んでる。


「ストレイさん!久しぶり!」

「サマラ…。久しぶりだな…」


 笑った風の表情。あくまで『風』なんだけど、この感じが凄く好きなんだな!


「チャチャも…よく来た…」

「は…はい!」


 チャチャもクラッときてるね。猫顔の可愛さにやられちゃうよね。ストレイさんは大柄で渋さもあるし、モフモフ度もウォルトより上だ。

 猫顔でウォルトと笑顔が似てる。猫の獣人は何人も見たことあるけど、男は結構邪悪な顔してる奴が多いのにこの親子は柔らかい。最近のウォルトはよく笑うようになった。昔はストレイさんみたいに微かに笑うだけだった。今はニャッ!と可愛く笑うけど。


「みんな…。ウォルトのことを…よろしく頼む…」


 大きな身体でペコリと頭を下げる。口数は少ないのに温かくて優しい。そして、ミーナさんのよい夫でもある。ウォルトもストレイさんみたいになりそう。


「私達に任せてよ!」

「ご心配なく」

「こちらこそです!」

「私達の方がお世話になってます」

「ストレイ!4姉妹はもう私達の娘だから!」 


 その言葉にも頷いてくれる。嬉しすぎ。


「ねぇ、ストレイさん。私、大人になった?」

「立派な…大人だ…」

「ありがと♪」


 …と、チャチャから質問。


「ストレイさんは、サマラさんとの思い出とかあったりしますか?」

「む…。サマラとは…よく昼寝してた…」

「アタシはその姿しか記憶にない!」

「なんでストレイさんとサマラさんが?」


 そう思うよね。


「遊びに来て、ウォルトが寝てると起きるまで暇だから私も寝てたんだよね!ストレイさんはモフモフしてるから、モフらせてもらったら直ぐ眠くなってさ!」

「そのあと結局ストレイも寝ちゃってね!」

「そうそう!あの頃は迷惑かけてごめんね!」


 回数だけで言えば、ウォルトよりストレイさんの方が添い寝してる。


「構わない…。気にしてない…」


 ミーナさんが提案する。


「ウイカとアニカとチャチャは、1回もストレイをモフったことないでしょ?今日は特別にモフっていいよ!」

「おい…ミーナ…」

「なによ?嫌なの?」

「そうじゃない…。サマラは…子供だった…。皆は…大人だ…」

「そんなの気にしないって!ねっ!」


 ちょっと困ってたストレイさんだったけど、「背中なら…」ということで、上着を脱いでモフらせてもらうことに。


「すっごい気持ちいいですぅ…」

「こりゃいかんですねぇ~!」

「ふわぁ~~!本当のモフモフって、こういうことなんですねっ!」


 チャチャが興奮してるのは珍しい。毛皮に顔を埋めて満足そう。よし!私もやる!


「この感触、懐かしい~!」

「そうか…」


 ほんの少し毛が硬くなってる気がするなぁ…。でも、やっぱり懐かしい!


「最後に…アタシだ!」


 ミーナさんが思う存分猫吸いして、ストレイさんは服を着る。気になっていたことを聞いてみようかな。


「ストレイさんとミーナさんに聞きたいんだけど」

「なんだ…?」

「なに?」

「ウォルトは、なんで獣人なのに魔法を使えると思う?」

「わかります。気になりますよね」

「私は今言われて気になりました!」

「不思議には思ってました」


 2人は『ニャんだろう?』って顔で揃って首を傾げる。


「ストレイと話したことあるけど、心当たりはない!ただ、ストレイの先祖に人間がいたらしいから遠い遺伝かもって話になった!あくまで『いたらしい』だけどね!」

「ミーナさんの先祖には?アイヤさんならわかるかな?」

「聞いたことないな~。母さんも知らないと思うよ」


 ミーナさんもアイヤさんも容姿は人間っぽい。私と同じだ。どちらかというと、ミーナさんの先祖に人間がいると思ってた。人間に近い容姿の獣人は人間の先祖がいると云われてるからね。でも根拠はないらしい。


「そっか。謎なんだね」

「よくわかんない!」

「ありがと。別にウォルトはウォルトだから」

「本人も気にしてないですし」

「細かいことを気にしないのが、ウォルトさんですよ!」

「兄ちゃんの魔法は、才能じゃなくて努力で磨いてるから遺伝でもなさそうな気がしますよね」

「父さんが生きてたらわかったかもしれないけどね~。そういえば、同じ名前の魔導師が巷で噂になってるんだよ」


 それって…。


「もしかして、白猫お面の魔導師サバトのこと?」

「さーちゃん達も噂を知ってるの?」

「もちろん。ちなみにサバトの正体はウォルトだよ」

「う、うっそぉぉ~!?ホントにっ?!」


 私達は揃って頷く。2人は『そんニャばかニャ…』って驚いた顔してるけど、知らなかったんだね。意外だった。


「見たことないようなとんでもない魔導師って噂だけど…」

「そうだよ。だって、ウォルトより凄い魔導師はカネルラにいないもん」

「間違いないと思います。そして、武闘会に現れたサバトは、目立ちたくなくてお面を被ったウォルトさんです」

「お祖父さんの名前を借りたって言ってました!マードックさんと、もう1人の獣人と出て優勝したんですよ!」

「兄ちゃんは常識破りの魔法使いで、とにかく凄いんです。アイヤさんは兄ちゃんがサバトだって気付いてました」

「アタシは気付かなかった…。だって、「ただの魔法が使える獣人だ」っていつも言ってるんだよ?」


 そっか。なるほど。ウォルトが魔法を使えることは知ってるけど、ちゃんと見たことはないんだ。言われたことを信じてるだけで、ウォルトもわざわざ自慢しない。親に見せる理由もないし。


「ウォルトって自分に自信がないでしょ?今も変わってない。だから、自分の魔法は大したことないと思い込んでるの。騙してるワケじゃないよ」

「勘違いなんです。普通の魔法使いは魔伝送器なんて作れないです。かなり高度な魔法が必要で、ウォルトさんは自分で魔法を付与してます」

「私とお姉ちゃんは冒険者ですけど、ウォルトさんに並ぶ魔導師は見たことないです!ダントツなんです!」

「ただ、魔導師って呼ばれることを嫌がります。魔導師になるのが目標らしくて、まだまだって言うのが口癖です」


 ウォルトの魔法について知る限り説明すると、真剣に耳を傾けてくれた。


「知らなかったな…」

「びっくりしたけどウォルトらしいよ!」

「昔から変わってないよ。有名になって困りまくってた。二度と目立ちたくないって反省してるの。だから私達も誰にも言ってないんだよ」

「あはははっ!自分でやったくせに!しかも、白猫なのに白猫のお面って!しょうがないなぁ!」

「誰も中身が白猫だとは思わないだろうってことだったらしいけど、そこだけ成功してるんだよね。でも、ウォルトの魔法を知ってる人には全員バレてる」

「そっか!まぁ、驚いたけど問題ない!」


 コレだけは言っておきたい。


「ミーナさんとストレイさんに言っておきたいんだけど」

「なに?」

「ウォルトの魔法は人を幸せな気持ちにする。優しい魔法っていうのかな?そこが1番凄いと私は思う」

「子供から大人まで笑顔にする魔法使いで、私とアニカの目標です」

「是非見てほしいです!ウォルトさんらしい魔法なので!癒されたり興奮したりで、気持ちが忙しくなりますよ♪」

「感動もするんです。兄ちゃんは、誰かのタメに惜しみなく魔法を使うので」


 全員正解!


「うぅ~っ!今度来たときに見せてもらおう!ところで、皆は今日帰るの?泊まっていく?」

「そうしたいけど、全員明日仕事なんだ。その内、休みを合わせて泊まりにくるね!」

「そっか!残念だけどしょうがない!楽しみに待ってる!」

「ウォルトも一緒に来れたらいいけど、そうなると恋バナはできないね~」

「そうなのよ!難しい問題だ!」


 その後、少しだけ話してストレイさん達と別れた。



 トゥミエを出たところで皆と相談する。決まったところであの男に連絡だ…。


『どうしたの?』


 何度目かわからないウォルト呼び出し。普通なら「いい加減にしろ!」って怒ってもおかしくないし、私なら激怒してる。

 でもウォルトは怒らない。なぜなら、親しい人と子供に関してはもの凄く寛大だから。多分、夜中や体調が悪いときに呼び出しても怒らない。


「突然だけど、今日泊まりに行っていい?」

『いいよ。来るかもと思って準備はしてた』

「勘がいいね~」

『それほどでもないよ』

「じゃあ、今から行くよ」

『了解』


 コレが私がお父さんを待たなかった理由。遅くまで待ってたり帰ってこなかったりすると、森の住み家でゆっくりできない。今日という1日の終わりにはウォルトといたいからね!というワケで、満場一致で決定した。お父さんには悪いけど今度埋め合わせしよう!


「今日は遠くまで付き合ってくれてありがとね!」

「楽しかったです」

「私も!」

「ランさんにもストレイさんにも会えて嬉しかったです」


 住み家に着くまでの会話のネタはなんにしよう?まずはこれかな。


「ストレイさんのモフモフ……ヤバかったでしょ?」

「はい。子供のサマラさんが直ぐに寝てた気持ちがわかりすぎます」

「毛布よりフカフカで柔らかかったです!」

「魔性の毛皮です。衝撃でした」

「私はまだ小さかったから、正面から抱きついて猫吸いしまくってたよ」

「人間の私でもなんとなくウォルトさんに匂いが似てると思いました」

「毛皮の匂いって落ち着くんですけど、ストレイさんは別格な感じしました!ウォルトさんも歳を重ねたら近くなるんですかね~!」

「とりあえず…兄ちゃんには内緒にしておきましょうね」


 その後も、ウチのお母さんの筋肉について語ったりしながら住み家に向かった。意外なことにチャチャは憧れてしまったみたい。





「「「「ただいま!」」」」

「おかえり」


 ウォルトの住み家に辿り着いた。夜も遅いけど歩いてお腹も空いた。というワケで夜食を頂く。

 

「うんまぁ~!」

「ん~!」

「沁みます~!」

「凄く美味しいよ!」


 時間も考えてくれて、軽めのさっぱりした料理だけど美味しい!最高だ!アニカだけがっつり食べてる。夕ご飯も結構食べたのに本当に強靭で凄い胃袋。正直大食いでは勝てない。


「トゥミエの皆は元気にしてた?」

「してた。ミーナさんとストレイさんに、サバトの正体がウォルトって教えたけどよかった?」

「大丈夫だよ。事実だしいずれバレそうだから」

「言わずにバレたら怒りそうだもんね」

「間違いない。母さんは特に」

「もう1個、訊きたいんだけど。というか、お願いかな」

「なに?」

「ウォルトが書いた『フィガロの冒険』、チャチャがもらっちゃった♪」

「えぇっ!?なんで!い、いらないだろうっ!?」


 動揺しまくりだね。


「いる」

「いや、チャチャ…」

「家宝にするから欲しい」

「しなくていいよ!ダメだって!」

「話が凄く面白かったの。子供が書いたのに凄いなぁって」

「…褒めてくれて嬉しいけど、恥ずかしいよ」

「そっか。返してもいいけど、話はカズ達に聞かせていい?」

「なんでそうなるんだ?!」

「面白かったから。兄ちゃんが嫌なら私の胸に秘めておくけど、その代わり本は欲しいな」

「う~ん…」


 どう考えてもおかしな交渉。どちらにしてもウォルトに得はない。でも、噂の怖さを誰よりも知る猫の魔法使いだ。


「内緒にしてくれるならいいよ」

「ありがとう。本当に面白いと思ったの。また読み返したくて」

「大袈裟だよ」


 意外に満更でもなさそうな様子。きっと、あの部屋で一生懸命考えた話なんだろうな。


「うっ…。うぅっ…」

「サ、サマラ?!どうしたの!?なんで泣いてるんだ?!」


 今日はダ~メだぁ~~!完っ璧に涙腺緩んでる!また急に泣けてきた。どうにか誤魔化さなきゃ。


「…ごめんね!ウォルトが描いた泥団子みたいなフィガロを思い出しちゃった♪」

「小さい頃に笑われた時とまったく同じ理由だよ!まだ笑えるのか?!」


 言ったのは覚えてないけど、妹達は苦笑い。今日はホント涙もろくてごめんね。

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