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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
448/716

448 壁登り2回半宙返り

「みんな、また来てね!」

「いつでも来いよ」

「また来るよ!」


 ミシャさんとハルケ先生に別れを告げて、買い出しに向かう。向かうお店はちょっと遠い。道すがら会話する。


「ミーナさん。そういえば、ズーなんとかって病気のとき大変だったの?」

「大変だったよ~!まったく動けなくなっちゃってさ!町の獣人が全滅!あのランもだからね!」

「ウォルトの作った薬で治ったんでしょ?」

「そう!あっという間だった!ホント凄い猫だよ!」

「薬を作れるようになるなんて思わなかったよね」

「思わなかった。トゥミエを出てからとんでもない獣人になってる」

「だよね~」


 獣人にしては賢い、くらいに思ってた。でも実際に成長したらそれどころじゃない。


「でも、「人には言うな」ってハルケに言われてる。「相手の同意を得ないで自家製の薬を飲ませるのは違法」なんだってさ。知らんけど」

「集落とかの自分達で作る薬もダメなの?」

「どうでもいい。人間が考えたことでしょ、

…あっ!ごめんね!ウイカ達には嫌な言い方しちゃった…」

「いえ。私達も、冒険のときとか自分達で使った回復薬を他人に飲ませたりしてるので」

「いざという時は気にしてられないです!命が大事です!」

「多分、質の悪い薬で被害が出たり悪い商売する奴を捕まえるタメですよね。ハルケさんが言わなかったのも、獣人が作ったって言うと飲まない人がいたからでしょうし」


 チャチャも獣人なのに賢くて、ウォルトに似てるんだよね。


「よく知らないけど、ハルケが捕まったりしたら町民が困る。だから黙っとくけど!」

「その時は私が衛兵をぶっ飛ばすよ!」

「「「ダメです」」」

「むぅ…。3対1か…」

「あははっ!さーちゃんを抑えてくれる妹達は逞しいね!でも、大人になった!」

「そうかな?」

「そうだよ。初めて会ったときは全然言うこときかなかったもんね!」

「覚えてないなぁ」


 記憶力は悪くないと思ってるけど、子供の頃のことはあまり記憶にない。


「そういえば、サマラさんとウォルトさんってどうやって知り合ったんですか?マードックさんの友達だったからですか?」

「言ったことなかったっけ。ウォルトと先に知り合ったのは私だよ。マードックが後」

「どんな出会いだったんですか?」


 それはハッキリ覚えてる。


「教えてもいいけど、バカバカしいからちょっと恥ずかしいんだよね…」

「すごく気になります」

「そこまで言うなら教えようかな。あのね、壁ってあるでしょ?」

「壁?家とかのですか?」

「そう、壁。5歳だったと思うけど、壁を蹴って宙返りって遊びをしてたの。その時は塀だったけどね」

「壁を蹴って…宙返り?」


 ウイカはピンときてないね。やったことないか。


「こうやって…」


 ブロック塀があるからやってみせる。駆け上るように壁を蹴って、後方に1回転して着地した。


「こうやって遊んでて、どこまでイケるか試してたんだよね。で、3回転に挑戦したんだけど回転が足りなくて顔から落ちちゃって」

「「「えぇっ!?」」」

「地面が土だったからよかったけど、鼻血出ちゃって通りすがりの獣人の子供がスッとハンカチを貸してくれたの」

「それがウォルトさんだったんですね」

「そう。でも、よく見たら自分の方がボロボロなのになにも言わずに立ち去ってさ。気になるよね」

「その後、どうなったんですか?」

「ハンカチを返したくて探したら直ぐに見つかった。そこからウォルトにしつこく絡んで今に至る!簡単に言うとこんな感じ!」

「昔から優しかったんですね」

「どうだろう?でも、私は嬉しかったんだよね。あと、話してウォルトはいいヤツだって思った。…そうだ!本人に聞いてみよう!」


 またまた魔伝送器でウォルトを呼び出す。


『母さんになにかされた?』

「なにもしてないわ!失礼な!」


 今度は早かった。きっとまた呼び出されるのを予想してたね。


「あのさ、皆と話してて思い出したんだけど、私と初めて会ったときハンカチ貸してくれたよね?」

『貸したね』

「あれなんで?自分も怪我してたでしょ?」

『目の前で女の子が宙返りして顔から落ちたのは衝撃的な出来事だったよ。泣くと思ったけど愉快そうに笑った。それを見て、なぜか心が軽くなったんだ。お礼みたいな感じで自然に手が出た』

「へぇ~!初めて聞いたよ!」

『初めて言うからね。あの後、サマラはボクのことばかり聞いてきて宙返りに一切触れなかった。お礼を言ってハンカチを返したから全部忘れたんだ。今も思い出すまで完全に忘れてたろう?』


 全員笑ってる。私のバカさ加減が露呈してしまった…。


「でもさ、あの宙返りがあったから仲良くなれたよね!」

『きっかけなのは確かだけど、ボク的にはサマラがしつこく話しかけてくれたからだと思ってる。ありがとう』

「どういたしまして!」


 それを言ったらハンカチを貸してくれたこともそうだけど。…と、意外な発言が飛び出す。


『でも、ボクはサマラのことをあの事件より前から知ってた』

「そうなの?」

『母さんは覚えてると思うけど、町にボアが侵入してランさんが止める事件があったんだ。ボクが6歳のときだね』

「あった!ランが殴ってボコボコにしたやつ!皆で鍋の肉にしたんだ!」

『そう。ボクと母さんで騒ぎを見てた。その時にランさんと一緒にボアを殴ってる小っちゃな女の子がいた。それがサマラだった』

「3歳だし、さすがに覚えてない」

『全然倒せそうになかったけど、凄く勇敢だと思った。後で「危ねぇだろうが!」ってランさんに拳骨食らってたけど』


 また皆に笑われた。


「もう!じゃあね!また呼ぶから!」

『ちょっ…』


 これ以上はよくない気がする!


「ウォルトさんは記憶力がよすぎますね」

「ホントなんでも覚えてる!訊かないと答えないけどね!」


 そうこうしてると店に到着した。


「材料あるかな~♪」


 ミーナさんはウキウキで材料を探し始める。私も手伝おう。皆にも手伝ってもらう。ジッとしてるのは落ち着かないよね!

 ミーナさんと3人で探してもらおう。私はなにが必要なのか知ってるし、なによりミーナさんが楽しそうだしね。


「イケそうだよ!なんとか手に入った!」

「よかったね」

「やっぱり、この店は品揃えが違う。ココにしかないモノがあるから!」


 フクーベでも揃えるの大変なんだよね。トゥミエで揃うことが不思議。


 あれ…?


「今日は活きのいいアレがいないね?「ぴぎぃ~!」ってヤツ」

「アレは相手が本当に疲れてるときに必要なだけで、そこまでじゃなきゃ生きてなくても大丈夫!」

「そっか」


 満足した表情で店を出る。


「ところで、さーちゃんは家に帰らなくていいの?」

「後で行く。父さんの話が長くなるから」

「お喋りだからね~。アタシは自覚あるけどリカントはないもんね~」

「ウチの父さんは、なんであんなにチャラいんだろう?」

「ストレイと混ぜたらちょうどいいけど、お互いのよさがなくなりそう!」

「確かに」


 しかも、被害を被るのはストレイさんの方だよね。よさが消えちゃうもん。


 




 家に帰って早速調理を始める。まず、ミーナさんから一言。


「皆に言っておかなくちゃいけないんだけど、秘伝のスープは他の人に教えちゃだめだからね!ウォルトにもダメだよ!」

「「「はい!」」」

「皆は特別!私は本当に娘だと思ってるから!」

「「「ありがとうございます!」」」

「よし!始めよう!わからないことはなんでも聞いてね!」 


 いよいよ調理開始。私は知ってるからお手伝い。


「こうやって叩きつけるように豪快に切らなきゃダメ!綺麗にとか思わなくていいからね!」

「小っちゃくまとまっちゃ効果ない!躍るように、ご機嫌に!鼻歌歌うくらいがいいね!」

「味付けと服装は大胆に!」


 3人は真剣に聞いてる。不思議なことに、秘伝のスープはミーナさんが言う通りに作らないと本当にできない。

 すまし顔で静かに作ったことがあるけど、見事に失敗して普通のスープができた。でも服装は関係なかった。私は皆を補助する。覚えがいいのは、それだけ真剣だってことだね。


「3人とも凄い!教え甲斐がある!」

「ミーナさんは第2のお母さんです」

「頑張ります!」

「兄ちゃんを…シビれさせます!」

「その意気だよ!あの子をやっちゃって!」


 それから小1時間。じっくりことこと煮込んだスープを試食することに。


「本当に無臭です」

「綺麗な色だよね!」

「どんな味なんでしょう?」


 一匙掬って口に運ぶ。


「ん~!美味しいです!」

「ウォルトさんの料理にも負けないです!」

「今まで飲んだスープで一番美味しいかもです!」

「疲れも吹っ飛ぶから!」


 一応教えとこうかな。


「あまり疲れすぎてると、痺れながら泡吹いて倒れるから気を付けてね」

「そう!死んだりしないけど見た目はかなり怖いよ!」

「あと、ウォルトでも匂いには気付かないと思う。結構敏感なマードックでも気付かなかった」

「「「へぇ~」」」

「まーくんにも相当会ってないなぁ。元気なの?」

「元気だよ」

「まーくんも昔から可愛かったね!」

「そんなこと言うのミーナさんだけだよ」

 

 マードックは昔から生意気だった。私がウォルトに絡みだしてから、「どんなヤツだ?」と付いてきてそこで知り合った。昔から過保護なんだよね。でも、普通に友達になったのにはちょっとだけ驚いた。

 ミーナさんにはウォルトの唯一の男友達だと認識されてて可愛がられてたけど、恥ずかしいのか舌打ちばかりして反抗してた。マードックは子供扱いしてくるミーナさんが苦手だったはず。あの頃のイメージのままなら今でもそう。でも、私は知っている。


「ミーナさん。断言はできないんだけど」

「どしたの?」

「マードックの初恋相手はミーナさんだよ」

「な、な、なにぃ~!?ホントにっ?!」

「マードックって不細工だけどモテるの。何人も彼女がいたんだけど、基本的にお喋りで明るい人だった。元々そういう好みなのか、ミーナさんの影響のどっちか。今の彼女は私の友達で静かな娘だけどね」


 本人は認めないだろうけど兄妹だからわかるんだな。別に知りたくないけどね!


「息子の友達を虜にしてたなんて…。私は罪作りな女だね…」

「きっと、マードックさんにとっては優しくて綺麗なお姉さんだったんですね」

「包容力が凄かったんじゃないですか!」

「ずっと憧れなのかもしれません」

「そうかなぁ~!……はっ!実は、ウォルトもランのことが好きだったり…」

「それはないと思うよ」

「だよねえ~!一応本人に確認してみよう!」


 本日3回目の呼び出し。


『どうしたの?』

「ウォルト!正直に答えなさい!小っちゃい頃、ランのことが好きだったの?!」


 答えることなく、ゆっくり魔石の光が消えた。全員苦笑い。再度、繋いでみる。


「こらっ!ウォルト!」

『なにさ?』

「正直に答えなさい!ランが好きだったの?!」

『違うよ。なんでそうなるのさ』

「アンタも大人の獣人の魅力にやられてたのかと心配してね」

『ちょっとなに言ってるかわからない』

「ということは、アタシのことしか好きじゃなかったのか~!」


 再び魔石の光が消えて、私達は大笑いしてしまった。

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