表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モフモフの魔導師  作者: 鶴源
44/689

44 フクーベにて

暇なら読んでみてください。


( ^-^)_旦~

 フクーベに到着して馬車の従者に報酬を払おうとしたが、従者は「王女様に傷を治してもらって金までもらったら商人の名折れ」と言い張って、頑として受け取りを拒否されてしまった。


 倒したフォレストウルフの牙や皮を素材として売れば馬車代になるので問題ない!と言い張られ、それならばと互いに笑顔で別れた。

 冒険者ではないが、高く引き取ってもらえる素材ではないことくらいわかる。だが、引き下がらないと判断し今回は厚意に甘えることにした。


 フクーベまで来れば気付く者もそうはいないだろうとある程度緊張も解け、時間もまだ昼過ぎでどうしたものか思案していた。


 …と、王女様から提案が。


「昼ご飯を食べよう!街のご飯、久しぶりに食べたい!」

「かしこました。優良店を調査致します」

「アイリス。勘繰られちゃうから普通に話して!」

「そう仰られるなら…善処致します」

「だから堅いって!」


 街ゆく人に声をかけ、美味しい料理店がないか尋ねたところ、幾つか親切に教えてくれた。薦められた店に行ってみることに。



 ★



「すっごく美味しかったね!」

「この店の料理は間違いなく王都でも人気になります」


 訊いた甲斐があった。教えてもらった店の料理は驚くほど美味しかった。店内が満員なのも納得。王女様もケプッと息を漏らしお腹をさすっている。


 食後のお茶を飲みながら周囲に聞こえないよう小声で尋ねてみる。


「王女様。まだ日は高いですが、これからどうされますか?」

「とりあえず一度森に行ってみたいと思ってる!」

「わかりました。その前に宿を確保しておきますか?」

「そのほうが安心だよね。そうしようか」


 話がまとまったところで、後ろのテーブルに座る獣人が声をかけてきた。


「お前ら、森に行くのか?」


 振り向くと、身体中傷痕だらけのゴリラの獣人が1人で酒を飲んでいる。醸し出す雰囲気が明らかに只者ではない。


 警戒しつつ答える。


「…そうだが、それがなにか?」

「森に行く用件はなんだ?」


 酒を煽りながら訊いてくる。気になるような言葉を発してしまっただろうか?小声なのによく聞こえるものだ。この獣人は、明らかに危険な風貌なのに不思議と嫌な感じを受けない。


「探し物だが…」

「なら森に住んでる『ウォルト』って獣人に訊け。そいつは森に詳しいぜ」

「獣人のウォルト…。その者はどこに?」

「住み家までの地図を描いてやる。持ってけや」


 店員に「書くモン寄こせ」と注文したゴリラの獣人は、さっと紙に地図を描いて「ほらよ」と手渡してきた。

 この獣人は、口調は乱暴だが根は親切なのかもしれない。なにかしら罠の可能性もあるけれど、私はともかく王女様の素性はバレていないはず。


「すまない。感謝する」

「気にすんな。ところで、お前…王都の騎士だな?」


 …やはり気づかれていたか。


「なぜわかった?」

「その防具を見りゃアホでもわかる。ボバンは元気か?」

「貴方は…団長の知り合いなのか?」

「あぁ。ちっとだけな」


 変わらず酒をグイグイ飲んでいる。


「さっさと行かねぇと日が暮れるぞ。俺を信用するならだけどな」

「ゴリラのおじちゃん!ありがとう!」


 王女様が大きな声で礼を告げると、周りの客は失笑し獣人の男はプルプル震えて怒っているように見える。おかしなことを言っただろうか?


「誰がゴリラだ!どっからどう見ても狼だろうがっ!!」

「「えっ!?!」」


 驚きを隠せない。


 狼…?百歩譲って熊の間違いではないのか…?


「お前もか!……まぁいい。さっさと行けや」


 手で追い払うような仕草を見せて視線を外す。私達は若干の気まずさを残しつつ店を後にした。



 ★



 2人が店を出るのを見届けた【狼】の獣人マードックは思案する。


 カネルラの王女と騎士が動物の森になんの用だ…?まぁ変なこたぁしねぇだろ。

 クエスト絡みで王都にゃ何遍か行ったことがある。王女ってのは遠くから見た。そうでなくても耳のいい獣人にゃさっきの話が丸聞こえだったがな。

 とりあえず王女はどうでもいい。んなことより、あの女騎士はまぁまぁ強ぇ。アイツと絡ませると面白れぇことになりそうだぜ。


 サマラに薬を盛られて、アイツに強ぇ奴をけしかけんのは厳しいと思ったが…今回は人助けっつうヤツだ。相手がカネルラの王女なら仕方ねぇってことよ。ククッ!


 あとは女騎士次第だ。強ぇ奴とぶつかりゃ嫌でもアイツの本能が牙を剥くだろ。もっと強くなりゃ最終的に俺の夢に協力させてやる。


 今回は、まず思い通りにゃいかねぇだろうが……もしそうなりゃ面白ぇってな。



 ★



 渡された地図を頼りにウォルトという名の獣人の住み家を目指す。その道中、私と王女様は反省していた。


「アイリス。私は初対面の相手に中々の失礼をかましてしまったの…」

「王女様。私もそう思っていたので同罪です…」


 あんなゴツい狼の獣人がいるなんて誰も思わない。どう見ても熊かゴリラにしか見えなかった。


「凄い体躯だったよね。狼でもあんな獣人がいるんだね。よく見るとちょろっとタテガミがあったんだけど、気付かなかったよ」

「私はゴリラか熊だと思いました。まさか狼だとは。そもそも、狼にタテガミはなかったと思うのですが…」


 獣人が種族を間違えられることを嫌うことくらい知っている。


 落ち込みながら描いてもらった地図を頼りにウォルトの住み家に向かうと、時間はかかったけれどすんなり辿り着いた。


「本当に森の中に住んでるんだ!凄いね!」

「家も周囲も綺麗に手入れされています。獣人の住み家には見えませんが…」


 ウォルトとはどんな獣人だろうか?おかしなことをするようであれば……と物騒なことを考える。


 玄関の前に並び立って、ドアをノックしようとしたら背後から声がした。


「ボクの家になにか用ですか?」

「「ひゃうっ!」」


 驚いて振り向くと、黒いローブを着てモノクルを付けた白猫の獣人が小首を傾げて立っていた。


「誰かニャ?」とか言いそうな顔をして。


 話しかけられるまで気配を感じなかったことに驚きつつも、冷静に自己紹介をする。


「私はアイリスと申します。獣人のウォルトさんに用があって参った次第です」

「私はリスティアっていうの!私もウォルトさんに用があって来たの!」


 白猫の獣人はニャッ!と笑った。


「ご丁寧にありがとうございます。ボクがウォルトです。中でゆっくり話を聞きます。どうぞ」


 笑顔で家に招き入れる獣人に、『まさか…ああ見えて虎の獣人とかいうオチがある?』とあらぬ疑いをかけてしまう。

 ただ、「どうぞ」と言われて入らぬのも失礼かと、若干警戒しながら家に入る。居間に通されると、テーブルで座って待つよう促され王女様とともに静かに台所に消えたウォルトさんを待つ。


 周囲を見渡すと、綺麗に片付いた家の中は獣人の住み家とは思えぬ雰囲気で、王女様と揃って「意外だ…」といわんばかりの表情を浮かべる。

 王城にも警備員などで獣人がいる。私の知る限り、男の獣人はガサツで物を片付けたりするのが苦手だというイメージなので、住み家が綺麗に片付いているだけでも意外性抜群。

 しかも、信じられないほど柔らかな雰囲気を醸し出す獣人。年齢はかなり若く見えるけれど、どうだろう。


 考えを巡らせていると、両手にコップを持ったウォルトさんが戻ってきた。


「口に合えばいいんですが」


 いい香りがするお茶を差し出される。漂う花の香り。それとは気付かれぬよう毒見も兼ねて先に口を付ける。香りが口の中から鼻腔に広がってなんとも言えずホッとする。味も抜群で美味しい。


「もの凄く美味しいです。花茶でしょうか?」

「カラムという花の葉なんですが、香りがよくて煎じて飲むと緊張を解く効果もあると言われています」


 笑顔で答えてくれるウォルトさんは、話し方も丁寧で穏やか。王女様も続くようにして口を付けた。


「すっごく美味しい!お城にもない味…!ムむぐぐっ…」

「オホホホ!余計なことを言ってはいけませんのことよ!」

「…?」


 焦って変な言葉遣いになりながら王女様の口を押さえた。小首を傾げたウォルトさんが確認してきた。


「ところで、ボクに用ってなんですか?」


 逆にリスティア様が尋ねる。


「ウォルトさん!【タコウソウ】が在る場所を知らない?この国では動物の森にしかないって聞いたの!」

「知ってるよ」

「ホント?!持って帰ってあげたい人がいるの!私達に場所を教えてもらいたいの!」


 花茶を飲みながらタコウソウとはなんだったか?と記憶を探る。どこかで聞いた気がするけれど思い出せない。


 ウォルトさんは、訊かれたあと王女様を見つめている。正確には見つめるというより確認しているような視線を送っていて、王女様も真剣な眼差しをウォルトさんに向けている。まるで目で会話しているかのよう。


「わかった。リスティアちゃん。ココからは結構離れた場所なんだけど」

「リスティアでいいよ!遠くても自分で行きたい!無理かな?」

「無理じゃないけど、体力が持たないかもしれない」

「アイリスもいるし大丈夫だと思う。場所だけ教えてもらえれば自分達で行く!」

「う~ん…。道が説明しにくいから…。もしよければ明日にでも道案内しようか?」

「いいの?私達は助かるけど」

「わざわざこんな所まで訪ねてくれたんだ。なにか力になれたら嬉しいよ」

「じゃあ、早速だけど明日お願いできるかな?あまり時間がないの!」

「構わないよ」


 口を挟む暇もなく話は終わってしまった。おそらくウォルトさんは悪い獣人ではないと思うけれど…信用していいのだろうか…。下手すると、後で金銭を要求してくるのではないか?


 思考を読まれたのか「見返りを要求したりしません。安心して下さい」と苦笑いのウォルトさんに言われてしまい、顔を赤らめながら己を恥じた。


「ところで、2人はこの後どうするの?」

「フクーベに戻って宿に泊まろうと思ってるの!」

「そっか。ココに泊まっても構わないよ。部屋は余ってるし、明日は朝から行ける」

「泊まっていいの!?じゃあ泊まりたい!」

「王…じゃなかった、リス…ティア、それはダメだと…思う」


 さすがにウォルトさんの前で王女様やリスティア様と呼ぶワケにもいかず、変な話し方になってしまう。


 いくら人がよさそうといえ、初対面の獣人の家に王女様を泊めるのは危険すぎる。私が単独であれば、なにか起こっても対処できると思うが。


「えぇ~!泊まりたい~!」


 王女様は初対面の獣人の家に泊まりたいと言い張る。この時点で、私にもウォルトさんが危険な人物でないことは理解できているのだ。

 なぜなら、王女様には初見で人の悪意を見抜く不思議な能力がある。私の知る限りでは百発百中。それでも万が一はある。


 悩んでいると、ウォルトさんが口を開いた。


「リスティア。アイリスさんにはなにか考えがあるんだ。我が儘を言っちゃダメだよ」

「えぇ~!?そんなぁ~!」

「君達からすればボクは素性の知れない獣人だろう?ちゃんと警戒しなきゃ怖い目に遭うかもしれない」

「そうかもしれないけど…お互い様だもん。私達も素性は知れないし」

「たとえそうでも、アイリスさんは安心できる行動を選ぼうとしてる。わかるね?」

「うん」


 なんということだ…。かなり優しくではあるけどあの王女様が叱られている。しかも、至極当然のことを言って…。

 ウォルトさんは常識があって人柄のいい獣人だと思える。我ながら単純だと思うけれどお願いしてみることに。


「ウォルトさん。口に出したことを直ぐに覆して申し訳ないのですが、こちらに泊まらせて頂いてよろしいでしょうか?」

「アイリス!いいの?!」


 王女様は目を輝かせているけれど、それほどに泊まりたい理由がなんなのかはわかりかねる。


「いいんですか?なにか事情があったのでは?」

「正直に言うと助かります。かなり遠くから来たので実は疲れていまして。この時間では街に戻る前に暗くなって危険ですし」


 ウォルトさんはふっと微笑んだ。本当に優しい表情を見せる獣人。


「大変でしたね。遠慮なく休んで下さい。晩ご飯もボクが作ります。それまでお風呂にでも浸かってゆっくりして下さい」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて一晩お世話になります」

「やったね!」


 承諾してくれたことにホッとして、花茶を頂こうと口に含んだところで王女様の口から予想もしない一言が。


「お風呂があるなら入りたい!ウォルトさんも一緒に入る?」

「ブゥゥ~ッ!!ゲホッ…!ゴホッ…!」


 盛大にお茶を噴き出してしまった。鼻に入って奥が痛い!この方は突然なんてことを言い出すのだろう。さすがに予想できなかった。


「リスティア…。冗談でも女の子がそういうことを口にしちゃダメだよ」

「えぇ~!?冗談じゃないのに!」

「余計ダメだよ」


 咳き込んで苦しみながら王女様が再度叱られている光景を目にして、やはり常識があって信用できる獣人だと感じた。

 



 その後、若干ウォルトさんのことを気にしながら王女様とともに湯浴みをして汗を流す。

 木の香りが漂う綺麗な浴室は、凄く心地よくて心が落ち着く。内鍵も付いていてしっかりとした造り。カンテラの明かりが浴室全体を柔らかく照らす。


「すっごく気持ちいいね~!このお風呂、最高かも!」


 王女様はお湯に浸かって笑顔満開。広めの浴槽は並んで浸かっても充分余裕がある。


「本当に…素晴らしいお風呂です。木の浴槽なんて初めて浸かりました」

「ウォルトさんと一緒に入りたかったな!」

「さすがに容認できません。心臓に悪いので驚かせるのは程々にお願いします」

「心配しないで!もちろんアイリスも一緒だから!」

「王女様の命令であっても絶対に無理です」

「えぇ~?」

 

 お風呂から上がると、ウォルトさんは夕食の準備を終えていた。とても美味しそうな匂いが漂っている。

 

「口に合うといいんですが」


 テーブルに並ぶ料理は見たこともない料理。なのに、とても美味しそうで正直言葉が出ない。


「わぁ~!すごく美味しそう!」

「ウォルトさんが作ってくださったのですか?」

「はい。召し上がって下さい」


 私達は椅子に座って有難く頂く。


「美味し~い!こんな料理食べたことないよ!」

「もの凄く美味しいです…」

「ありがとうございます」


 驚くほどに美味しい。この料理を獣人が作ったなんて…かなり失礼だけど信じられない。


 見たこともない美味な料理に舌鼓を打った私達は、満腹感とともに眠気に襲われて長旅の疲れを癒すようにフカフカのベッドでぐっすり眠った。

読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ