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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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439 過去一の大物

 ウォルトは住み家の外で物思いに耽る。


「部屋が手狭になってきたなぁ」


 織り機や楽器や蓄音機をもらって置くのに場所をとるし、魔道具作りも始めて住み家の作業部屋が手狭になってきた。


「いい加減、師匠にも怒られそうだ…」


 師匠は魔法以外になにもできないし、趣味もない人だ。魔法の他にできるのは、薬の調合と魔道具製作くらい。だからモノが増えない。

 薬を余計に作り過ぎることもなかった。無駄を嫌う人だから倉庫もない。料理もできないから台所も狭い。こだわりのあるお風呂だけが異常にゆったり空間。そして、部屋を狭小にしている最大の原因は完全にボクの私物。

 

「よし。決めた!」


 これを期に隣に小さな離れを建てよう。倉庫というか納屋のような大きさでいい。ボクが作業するのに使えて、家を追い出されても住めるようベッドが置ける広さがあれば他になにもいらない。

 

 善は急げ。久しぶりにゲンゾウさんに相談しよう。





 フクーベのカエデ材木を訪れた。来るのはカンナさんの出産以来。


「あら!ウォルトじゃない!」


 名前を呼ばれて振り向くと、赤ちゃんを抱いたカンナさんの姿。心なしか痩せてる。


「ご無沙汰してます」

「久しぶりだねぇ。なにか用事?」

「ゲンゾウさんに話があって来ました。その子はウォリックですか?」

「そうさ。アンタのおかげで無事に生まれたんだ。抱いておくれよ」


 そっとウォリックを預かる。どうにか泣かないでくれた。顔を近づけて耳とヒゲを動かすとニパッと笑ってくれる。赤ちゃんは可愛いなぁ。


「アンタは子供好きなんだね。顔に書いてるよ」

「子供は可愛いですよね」

「そうさ。名をもらったから可愛がっておくれよ」

「今さらですけど、ボクの名を取ってよかったんですか?」

「いいのいいの!アンタは逞しくていい男だし、ゲンゲンゲンゲンって……もういいだろ!そんなにゲンが付く名前なんてないんだよ!」


 確かにゲンに合わせた名前を考えるのも大変かもしれない。ゲンゾウさんも特に気にしてるワケじゃなさそうだった。


「ボクは逞しくないです。カンナさんが軽かっただけで」

「そんなこと言うのはアンタだけだよ。わたしゃかなり太っちょなんだからね」

「健康的です。それくらいがいいと思います」

「アンタは…天然モノだね。ウォリックにも見習ってもらおうか!あっはっは!」


 どうやらゲンゾウさんは作業場にいるらしい。カンナさん達と別れて向かうと、トントンカンカン作業する音が響いてる。覗いてみると、ゲンゾウさんとゲンロクさんが忙しそうに作業していた。


「こんにち…」

「テんメェ!違うっつってんだろうが!何遍言えばわかんだ!このバカ野郎!」

「なにが違うっつうんだよ!こっちの方が効率良いだろうが!クソ親父!」

  

 ケンカが始まった。胸ぐらを掴んで、今にも殴り合いに発展しそうだ。とりあえず声をかけて止めよう。


「お疲れ様です」

「この野……ん?おぉ!ウォルトじゃねぇか!」

「この間は世話になったな!おかげさんで無事に赤ん坊は生まれたぜ!」

「さっきウォリックに会いました。可愛かったです」

「そうだろそうだろ!…で、今日はどうしたんだ?」

「住み家の隣に離れを建てようと思ってて、ゲンゾウさんにアドバイスをもらえたらと」 

「なんでぇ、そんなことなら早く言え!ゲンロク!話はまた後だ!休んでカンナの手伝いしてこいや!」


 座る用に椅子を出してもらった。有難い。

 

「…で、どんなのを建てたいんだ?」


 とりあえず要望を伝える。広さはいらないけど丈夫で雨風に耐えれそうな離れを作りたい。


「なんでい。そんなら簡単だ。どうせならアイツの家よりでっけぇのを建てりゃいいのに」

「あまり刺激すると、帰ってきて直ぐに魔法で吹き飛ばされる可能性があるので」

「だっはっはっ!ちげぇねぇ!アイツならやりかねねぇな!」


『生意気なんだよ、羽虫が!』とか言って手を翳す未来が見える。

 

「ウチの倉庫を見てけ。同じ作りでいいなら簡単だぞ」


 案内されて資材庫を見せてもらう。確かにシンプルだけど頑丈そうな造り。柱や床、天井まで細かく組み方を教えてもらった。


「どうでい?イケそうか?」

「なんとか覚えました」

 

 こんなこともあろうかと、魔力紙を持ってきているので『念写』で写し撮る。


「一瞬かよ。たまげるぜい」


 必要なことを書き込めば設計図に早変わり。ゲンゾウさんに感謝だ。


「ところで、材料はどうすんだ?」

「使えそうな木切れを森でコツコツ集めて、魔法で融着させて作ろうかと」


 師匠は森の木を切り倒し木材として住み家を建てたと聞いた。そして、魔法で成長させて元通りに復元したと。今のボクには不可能だ。ココに来る前にちょっと試してみたけど、太く育った木を元に戻せるような技量はまだない。バラモさん達と友人になってから、むやみやたらに木を傷付けるのはよくないと思ってる。


「木材の端切れを持ってくか?寄せ集めりゃ、ちっせぇ倉庫くらい建つかもしれねぇぞ」

「いいんですか?」

「端切れは使い道がねぇからゴミになる。持って行ってくれるなら助かるぜ。こっちだ」


 案内された場所には端切れが山になって積まれていた。どれも新しい。


「どうだ?使えねぇか?」

「凄くいい木材です。本当にもらっていいんですか?」

「構わねぇよ。捨てる手間が省けるしな。運ぶのは魔法か?」

「はい」


 返そうと持ってきた丈夫なシートを広げて、可能な限り小さく『圧縮』しながら木材を載せていく。さすがにシートが重さに耐えられないので、最後に『無重力』を付与してから包んで終了。


「この量を一気に持っていけるのか。お前さんならなんでも仕事できらぁな」

「ありがとうございます。ゲンゾウさんの仕事をいつでも手伝うので遠慮なく言って下さい」

「なんかあったら頼むぜい!」


 丁寧にお礼を告げて、シートを背負い駆け出した。






 住み家に帰ると直ぐに構想を練る。いざ作るとなると楽しみしかない。シンプルな造りがいいなぁ。ちょっと変わった造りの家は特に人間が好む。獣人はシンプルな造りを格好よく感じる。余計なモノをそぎ落として無骨な感じがいい。


 …と、玄関がノックされる。訪ねてきてくれたのはチャチャだ。


「今日はなにしてるの?」


 顔を見るなりそんなことを言ってくる。


「なんでそんなこと聞くの?」

「顔が緩んでる。楽しいことをしてたか、しようとしてるでしょ」


 バレたら仕方ない……というか、隠すつもりもない。お茶しながら離れを作りたいと説明した。


「遂に家まで作るの?」

「倉庫みたいな小さなヤツをね。立派なのじゃないよ」

「私も手伝う」

「少しずつ作っていこうと思ってるから大丈夫だよ。まだ木材も揃えてないし」

「ふ~ん。噓だね」


 ギクッ…!


「材料も既にあるんでしょ?」


 鋭いっ…!


「な、ないよ」

「私達を相手に噓が通じると思わないで。楽しみにしてるから自分のペースで作りたいんでしょ?邪魔はしないよ」

「邪魔じゃないよ」


 図星ではあるけど。


「じゃあ手伝う」

「別にいいけど、修練とかの時間がなくなるよ?」


 皆の成長を妨げたくないのは本音だ。


「大丈夫。やったあとに手伝うから」


 チャチャは、腰に着けている小さな袋から魔伝送器を取り出した。並んでいる魔石に全て触れていく。


『チャチャ?どしたの?』


 ちょっと経って聞こえたのはアニカの声。


「すみません。冒険中ですか?」

『違うよ。装備の手入れ中だけど、なんかあった?』

「兄ちゃんの家にいるんですけど、私達に内緒で危ないことをしようとしてます」

『な、なんだってぇ~!それは一大事だ!』

「ちょ、チャチャ?!」

「ウイカさんにも伝えて下さい」

『はいよ!』

『途中から聞いてたよ~。あとでアニカと一緒に行くね~』

『私も聞いてた!仕事終わったらすぐ行くよ~!』

「よろしくお願いします」


 ウイカとサマラも聞いてたみたいだ。通話を終えてチャチャはボクを見る。


「楽しみなんだろうけど、1人で作ってる途中に事故が起こるかもしれないよね」

「可能性はある」

「多分心配いらないんだろうけど、屋根から落ちたりとか、柱が倒れたりするかもでしょ?兄ちゃんが作るからって絶対安全じゃない。私達がいれば助けられるかも」


 ボクの心配をしてくれたのか…。気持ちが有り難いなぁ…。じ~んとくる。

 

「ありがとう。嬉しいよ」

「自分のペースで作ってもらって、私達が交替しながらでも手伝う。見守るだけでもいい。それだけで安心感が違うんだから」

「そうだね。皆がいるときに少しずつ作っていくことにするよ」


 申し訳ない気持ちもあるけど、ボクもチャチャの立場なら同じことを言うかもしれない。それにしても、チャチャってホントに1番年下なのかな…?実はボクより年上なんじゃ…?


「そんなワケないでしょ」

「だよね」


 口に出してないんだ…。もう彼女達には勝てっこない。黙ってても会話できるんだから。思わず「『念話』使ったっけ?」って言いたくなる。


 話は終わって、2人で修練している内にアニカとウイカが来てくれた。仕事終わりのサマラも来てくれて、皆にはお詫びに気合いを入れた料理を食べてもらった。


 


「やっぱり広いお風呂は欲しいよね!」

「大きな台所も必須です」

「私は大きなベッドを置きたいなぁ~!」

「燻製を作れる釜とかあると、料理の幅が広がると思うんですよ」


 協力してもらいながら離れを作りたいと伝えたら、『どんな家を作りたいか』という話題で盛り上がってる。でも、まったく希望に添える気がしない。


「夢があるよねぇ~」

「考えるだけで楽しいです」

「ウォルトさんなら大抵のことはできますし!」

「私達の想像しないモノが付いてそうですよね」


 楽しんでるところに水を差すようだけど。


「ボクが作りたいのは、こぢんまりとした離れで隠れ家的な雰囲気なんだ。皆の期待には添えないよ」

「わかってるよ。私達が話してるのは、いつか住んでみたい家のことだからね!」

「そうだったのか」

「今の内に言っておけば、いつかウォルトが建ててくれるかもしれないじゃん!」

「無理だよ。大工じゃないんだから」

「そういう意味じゃないんだなぁ」

「どういうこと?」

「わかんなくてもいいの!でも覚えといてね!皆の総意だから!」

「わかったよ」


 泊まっていくと言ってくれたので、明日見送ってから材料の準備を始めよう。今日は、心配して直ぐに駆けつけてくれた皆に楽しく過ごしてもらいたい。

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