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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
435/715

435 銀狼の扱いは任せて

 フィガロの言動についてしばらく考え込んでいたウォルトだったが、我に返って謝罪する。


「すみません。あれこれ想像してしまって…」


 チャチャに言われたばかりなのに。


「兄ちゃん。考えるのは帰ってからにしたほうがいいよ。私が話に付き合うから」

「ありがとう」

「お気になさらず。貴方はフィガロの思考を読み解こうとしただけでしょう?」

「そうなんですが…」

「そんなことより、ペニーとシーダはしばらく里に戻らないかもしれません。おそらくココにいると思います」


 ギレンさんはある洞窟の場所を教えてくれた。2人がよく魔物と闘っている場所だと。おそらくダンジョンだ。


「行ってみます」

「いないかもしれませんが」

「急に来たので仕方ありません。その時は待ちます」

「寝るときは必ず戻ってくるのですが、確約はそれだけなのです」

「ありがとうございます」


 チャチャとともに住み処を出たところで、サヴァンさんと数頭の銀狼が待ち構えていた。


「サヴァン…。またやりたいの…?」


 チャチャが前に出る。


「クソ猿娘…。油断しなけりゃ、テメェなんかに負けるワケねぇんだよ!もっかい勝負しろや、コラァ!」


 負けず嫌いだな。だからこそ銀狼も強くなれる。それにしても、ギレンさんとペニー、サヴァンさんとシーダ。どちらの親子も性格が全然違う。まぁ…ボクと母さんもか。


「懲りないね。そこまで言うならいいよ。徹底的にやってやる!かかってこい!」

「俺の台詞だ、コラァ!」


 再びチャチャとサヴァンさんは激突した。



 ー 数分後 ー



「やめろぉ!このっ…!俺は銀狼だぞ!ははははっ!」

「そんなの知らないよ。参った?」


 さっきより時間がかかったものの、サヴァンさんを倒して羽交い締めにしたチャチャは、今度は後ろからがっちり抱きついて、片手でお腹の一部をくすぐっている。


「参るか!バカ猿がっ!やめろっ!」

「私は…銀狼を知り尽くしてる…。笑い死ぬまで続けるからね…」

「なんだとぉっ!?あはははっ!やめろ、この野郎っ!わはははっ!」


 端から見ると、じゃれ合っているようにしか見えない。観察力に優れるチャチャは、ペニーやシーダとの交流で銀狼の弱点に気付いてる。ボクがジョンを倒そうとしたときと同じ戦術。

 調教師に向いてるんじゃないのか…なんて考えてしまうな。くすぐられて怒っているのに、尻尾がパタパタ振れて喜んでいるようにも見える。


「ぐ…ぅ…ぅっ…」


 最後まで負けを認めず抵抗し続けたサヴァンさんは、抵抗する気力がなくなるまでくすぐられてピクリとも動かなくなった。


「猿をなめるなって言ったでしょ!これに懲りたら私達に絡むな!」

「ク……クソったれが…」

「兄ちゃん!行くよ!」

「う、うん」


 チラッとサヴァンさんを見ると、仰向けに倒れて手足を折り曲げている。ボクには降伏のポーズに見えた。





 教えてもらった場所まで歩いて、洞窟の入口に立つ。いかにもダンジョンのような佇まい。当然初めて来た。


「ココだよね」

「進んでみようか。チャチャは大丈夫?」

「大丈夫。なんでそんなこと聞くの?」

「サヴァンさんと2回も闘ってるから」

「あんなの闘った内に入らない。遊んだだけだよ。サヴァンは鍛え方が足りない!」

「途中からサヴァンさんのモフモフを楽しんでなかった?気のせい?」

「…………」


 沈黙は肯定とみなそう。獣人だってモフりたいときはある。


「とりあえず進むよ!」

「そうしよう」


 進むと魔物が現れる。さほど強敵じゃないけれど、見かけない魔物が多い。やはりダンジョンだと確信した。スムーズに5階層まで進んで、とりあえず小休止。おそらく6階層から大きく変化する。


「2人はいないね。今日はココじゃないのかな?」

「いるよ。微かに残り香がある。多分近い階層にいる」


 銀狼は大自然で生きている。水浴びしかしないだろうから体臭は強い。


「どんな嗅覚してるの…?」

「チャチャもよく嗅いだら…」

「わからないって」


 風が吹かないダンジョンでは匂いが残りやすい。休みを終えて7階層まで進むと、予想通りペニーとシーダがいた。遠くて聴き取れないけど会話してる。


「ペニー!シーダ!」


 チャチャが大声で呼びかけると、同時にこっちを見た。間髪入れずに全速力で駆けてくる。


「「チャチャ~!」」


 チャチャに飛びつくと思ったら、直前でしっかり止まりきった。学習してることに感心したけど、至近距離から飛びついて結局チャチャは倒れて尻もちをつく。2人は一段と逞しく成長してる。


「いててて…」

「久しぶりだな!ウォルトも!」

「俺達は元気だぞ!大きくなったろ!」

「久しぶりだね。逞しくなってるなぁ。今日は一緒に会いに来たんだ」

「そうか!」

「嬉しいぞ!」


 並んで尻尾を振る2人の頭を撫でてあげると目を細める。


「ペニー…。シーダ…」


 チャチャの声にギクッ!と反応する。


「チャ、チャチャは鍛え方が足りないな!」

「倒れたのは、お、俺達のせいじゃないぞっ!」


 2人はチャチャが大好きだけど、恐れてもいる。こんなところも調教師っぽい。


「そんなこと言わないよ。ちょっと並んで寝転んで。仰向けに」


 朗らかなチャチャの口調に、ホッとした様子のペニーとシーダ。


「仰向けってなんだ?こうか?」

「逆だよ。お腹を上にするの」

「こうだな!なにするんだ?」

「人に飛びついちゃいけないって……何度言えばわかるの!いい加減にしなさい!」

「「あははははは!」」


 間に座ったチャチャが、お腹を同時にくすぐる。


「あははは!苦しい!」

「あははは!押さえられてないのに逃げれないぞ!なんでだ!?」

「うりゃうりゃ~!」

「「あははははは!やめてくれ!!」」


 逃げたいけど動けないみたいだ。まるで魔術師のような拘束術。チャチャの天職は狩人じゃなくて調教師かも。しばらくして解放された。


「ふぅ…。チャチャには勝てないな」

「はぁ…。腹が破れて腑が出るかと思ったぞ」

「シーダには悪いけど、さっきサヴァンも同じ目に遭わせたから」

「別に悪くないぞ!父さんも笑ったか!」

「動けなくなるまで笑わせてやった」

「チャチャは銀狼の弱点に詳しいから、しょうがないぞ!」

「ちなみに、ギレンさんにはやってない」

「父さんが笑い転げる姿を見たかったな」


 2人は寛大だしチャチャも隠さない。互いに信頼関係がある。


「ところで、なにを話してたの?」

「腹が減ったから帰るかどうか話してたんだ」

「魔物はあまり美味くないぞ!」


 銀狼は料理ができない。それなら…。


「ご飯ならあるよ」

「「本当か?!」」


 こんなこともあろうかと、来る道すがらチャチャが獣を狩ってくれた。今日は弓を持ってないからナイフの投擲で。なにを使って狩らせても上手い。『圧縮』して持参したカーシの肉をリュックから取り出して元のサイズに戻す。


「焼いて皆で頂こう。香辛料は持ってきたからね。煙が充満するから一旦外に出ようか」

「「やった!」」


 帰りながらも魔物は出現するので、皆で協力しながら倒す。


「やっぱりウォルトとチャチャは強いな!」

「俺も闘うぞ!」

「いつもは手合わせしてばかりで、私達が皆で協力して進むのは初めてだね」

「そうだね」

「「嬉しいぞ!」」


 ふと、思いつく。


「ペニーとシーダに見てもらいたい魔法があるんだ」

「魔法を?」

「見せてほしいぞ!」

「2人が友達だから思いついた魔法だよ」

「「見たい!」」


 手を翳して魔法を発動する。


雷狼(ヴォルトルゥ)


「雷でできた狼か!」

「見た目はまるで俺達だぞ!」


 雷の魔力で作られた2頭の狼を発現させると、ほぼ同時に魔物も出現した。『雷狼』は魔物に向かって駆け出して跳びかかり、眩い光を放ちながら魔物を焦がした。


「「すっげぇ~!」」

「狼吼を見て思いついた魔法なんだ」

「格好いいぞ!」

「俺達にも教えてくれ!」

「確かに格好よかった。獣人の魔法って感じがした」


 その評価が1番嬉しい。


「教えてもいいけど、ペニーやシーダは自分が狼吼を纏って駆けた方が速いかも」

「それはそうだな」

「ウォルトはいいこと言うぞ!でも、そんなことできるか?」

「できるよ。あとで教えようか」

「「頼む!」」


 ダンジョンを出て、周りに気を配りながら捌いたカーシをこんがり焼いて、有難く頂く。


「ウォルトが焼いた肉は美味い!」

「最高だぞ!俺達の狼吼じゃ丸焦げになる!」

「うん。美味しい」

「よかった」


 ボクとチャチャはそれほど食べなくても大丈夫だけど、ペニーとシーダは食欲が凄い。1頭を軽く平らげた。


「よし!気合い入ったな!」

「また行くか!」

「雷の狼吼の修練はどうする?」

「そうだった!今日はそっちをやろう!鍛練は明日でもいい」

「そうだな!滅多にできないぞ!ウォルト、頼む!」


 ペニー達に狼吼を毛皮に纏うコツを教えよう。


「まず毛皮を硬くできるかい?矢を弾くときみたいに」

「できる」

「こうだぞ!」

「次に、そのままヘソの辺りに雷の狼吼を集める。お腹のお尻側に」

「こうか?」

「こうだな!」

「そう。次に、耳から狼吼を飛ばすつもりで尻尾に力を入れる」

「ふんふん」

「なるほどな!」

「できてるよ。腑を右に捻るようにして狼吼を左に捻る」

「よし、こうだ」

「ちょっと難しいな」


 その他にも幾つかの過程を説明する。伝えた通りに操作してくれた。


「あとは…前足の肉球を硬くしながら頭に狼吼を移動させるだけ」

「ん~…こうか?」

「…できたかもしれないぞ!」


 シーダが雷を纏う。


「やるなシーダ!俺も負けない!……よし、こうだ!」


 ペニーも成功した。


「できた!ウォルトの説明はわかりやすい!」

「他の皆にも教えてあげてほしいぞ!」

「ペニーとシーダが教えてあげると喜ばれるよ」


 他の銀狼は憎しみの対象である獣人のボクに狼吼を教わりたくもないだろう。使えるとも思ってないだろうし。


「俺達には難しいかもなぁ」

「上手く教えるのは無理っぽいぞ!」

「今じゃなくていい。焦ることはないんだ。何度も使っている内にきっと上手く伝えられるようになる」

「「そうかな!」」


 雷を纏ったままボクらの周りを駆け回り、チャチャに「危ないでしょ!」と叱られた。本当の姉弟みたいだ。


「私には全然理解できなかった。なんで銀狼でもないのに説明できるの?」

「チャチャの方が上手く説明できるよ。銀狼に詳しいから」

「無理だよ。大体、肉球を硬くするってなに?」

「そういう感覚でってことなんだけど」


 魔法と並行して狼吼も修練してる。銀狼がどんな感覚で狼吼を操っているのか徐々に理解できてきた。自分の感覚をペニー達の身体に置き換えて説明してるだけ。


「兄ちゃんも雷魔法を纏えるの?」

「ボクにはできない。銀狼の毛皮だからできるんだ」


 推測だけど、『硬化』のような狼吼を毛皮に纏っているから矢を弾ける。ということは、他の狼吼も伝達できる性質の毛皮だ。ボクにできるのは雷の魔力を纏うことだけ。身体から浮かせば可能だけど、魔法を密着させるのは今はできない。


「なぁ、ウォルト!俺達はかなり姿を消せるようになった!」

「見てほしいぞ!」


 ペニーとシーダの姿が徐々に透明になる。以前より上達していて、もう7割方消えてる。


「かなり上達してる。凄いよ」

「もうちょっとで見えなりそうだよね」

「「やった!」」


 きっと里の歴史に名を残すような銀狼になる。これから先、避けられない闘いがあるとしても誇り高く銀狼として立ち向かうだろう。そんなペニー達に助力できてるかな。


「ペニー、シーダ」

「なんだ?」

「どうした?」

「ボクらはずっと友達だ。困ったことがあればいつでも会いに来てほしい」

「私もだよ」


 ペニーとシーダは笑ってくれる。


「俺達もだ!」

「会いに来てくれ!なんでもするぞ!」

「ありがとう」

「頼りにしてるよ」

「そうか!」

「お互い様だぞ!」


 ボクらは互いにモフりモフられる。毛皮が気持ちいい。


「ところで、手合わせしたいぞ!」

「いいよ。そうしようか」


 せっかく会えたので、ダンジョン浅層の広い場所で魔物を倒しながら夕方まで手合わせをして過ごした。


「今日は疲れたな!」

「いつもよりキツかったけど楽しいぞ!」


 そんなことを言いながら、ボクとチャチャを背に乗せて歩いてる。


「私と兄ちゃんを乗せて辛くないの?」

「軽いから平気だぞ!」

「俺達が乗せるのは友達だけだし、乗せたくなるんだ」

「チャチャはまた一段と重くなったな!……ぐぇっ…!」


 背中に乗ったまま、チャチャの裸絞が炸裂する。これで二度目。


「シーダ…。女性に重いって言っちゃだめだって…何遍言わせるの?」

「お、思い出した!!く、苦しいぞっ!助けてくれぇ~!」


 確かにチャチャの体重は増えてるはず。太っているワケじゃなくて、目に見えて成長してるからだ。身長も少しずつ伸びてるから当然…なんだけど、女性に『重い』という単語は禁句。とりあえずチャチャを宥めてシーダを救出する。


「死ぬかと思ったぞ!もう絶対言わない!」

「シーダ。こういうときは「成長したね」って言ってあげるといいよ」

「そうか!わかったぞ!チャチャは重さが成長してる!」

「同じ意味なんだよ!こらっ!待てっ!」

「ヤバいっ!逃げるぞっ!」


 チャチャとシーダの追いかけっこが始まった。楽しそうで、ボクとペニーは笑って見守る。


「ウォルト。今日も楽しかったな」

「また一緒に修練したりご飯を食べよう」

「シーダと住み家に遊びに行く」

「待ってるよ」

 

 その後、再会を約束してボクらは笑顔で別れた。

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