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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
43/706

43 王女リスティア

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

「久しぶりに城の外に出たぁ!アイリス、付き合ってくれてありがとう!」


 大手を振って城下町を歩くリスティアは、並び歩くアイリスに礼を述べる。


「いえ。あの状況で断れるほど、私の心臓は強くありません」


 苦笑するアイリスは、カネルラ騎士団で唯一の女性騎士であり団長ボバンに次ぐ実力者と云われている。

 金髪のショートカットに整った容姿を持ち、王都には男女問わず表立たないファンが多数いる。生真面目な性格に加えて愛想がないのが玉に瑕だが、逆に「そこがいい」という者も。



 私は、城内で巡回の任務に就いていてリスティア様に声をかけられた。「今から動物の森に行くんだけど、アイリスも一緒に行ってくれない?無理なら1人で行くから大丈夫だよ!」と笑顔で言われてしまったのだ。

 普通なら子供の冗談と思うだろうが、王女様を知る者は冗談ではないことを知っている。数多の目を掻い潜り、城を脱走するような王女様なのだ。

 魔物の住む森に1人で向かわせることなどできない。私に断るという選択肢はなかった。


「帰ってもボバンやお父様達に怒られないようにするから心配しないでね」

「ありがとうございます」 


 王女様は心中を見透かしたように微笑む。リスティア王女様は、この年齢にして聡明。さらに人の上に立つ者のオーラのようなモノを感じる。

 私のような者が烏滸がましいが、女王にすらなれるのではないかと思える。望むべくもないことだが、それほどの器だと感じさせる御方。

 

「アイリス。まずは服を買いに行こう!この服は目立ちすぎるし、汚したら間違いなく大目玉くらうからね!」

「わかりました。どこがいいでしょうか…?私は、あいにくそういった店に疎くて…」

「知り合いの店に行くから大丈夫だよ!」


 勝手知ったるといった感じで歩を進める王女様。脱走癖があるといっても、城下町に来た回数は片手で数えられるだろう。けれど、おそらく一度訪れた場所は忘れない。

 その後、衣料店で軽装を購入し、王都に戻ってくるまでの間ドレスを預かってもらうことになった。

「アイリスも着替えたら?」と提案されたが、守護者として防具は外せないと断らせて頂く。


 王女様が服を着替えて王都を歩くと多くの国民に声をかけられる。ドレス姿でなくとも王女様と認識できるようだ。私と一緒にいるから目立つのもあると思うけれど。


「王女様、今日は買い物かい?」

「リスティア様!流行の菓子が入ってるよ!」

「王女様~!またお城の話を聞かせて~!」


 老若男女、種族を問わず親しげに話しかけられ、1人1人に対して丁寧に受け答えしながら笑顔満開で王女様は歩く。

 コレなのだ。王女様には国民に愛される才能がある。誰もが真似できるモノではない。カネルラの王族は過去から現在に至るまで国民を大事に扱ってきた。ゆえに好意を持って受け入れられている。

 そんな中でも、私の知る限りリスティア様ほど愛される者は存在しない。まさに天賦の才。


「ねぇ、アイリス。『動物の森』にはどうやって行けばいいかな?」

「王女様…。知らずに来たのですか?」


 呆れたように聞き返すと、「テヘッ♪」と舌を出して笑顔で誤魔化した。


「まず、最も森に近い街へ向かいましょう」


 森へは王都から直接向かうこともできるが、王女様と共に徒歩で移動する距離ではないので馬車乗り場に案内する。


 到着すると、ちょうど1台の馬車が停泊していた。そこで気付く。


「王女様…。申し訳ありません…。着の身着のままで来たので持ち合わせがありません…」

「心配しないで!こんなこともあろうかとお小遣い持ってきたからね!」


 王女様は懐から小銭入れのような物を取り出し、フフン!と自慢気に見せてくる。このために事前に準備していた…と思うと、国王様達が気の毒に思えた。


 馬車の従者に行き先を告げると、「問題ないよ」とのことで、『動物の森』に最も近く利便性もよいフクーベの街を目指し出発した。





 王都からフクーベまでは馬車で4時間ほどの移動になる。


 のんびり馬車に揺られながら、道程を半分ほど進んだ森の中で、リスティア様に確認していなかったことを尋ねる。


「王女様。1つ確認してもよろしいですか?」

「ん?どうかした?」

「今回、なぜ『動物の森』に行きたいと思われたのですか?」

「それはね…手に入れたいモノがあるの!」


 王女様は満面の笑みを浮かべる。


「手に入れたいモノ?手に入れたら直ぐ戻られるおつもりですか?」

「そのつもりだよ」

「了解致しました」


 深く詮索することはせず、馬車の後ろに流れる景色を眺めていると急に従者が叫んだ。


「お客さん!魔物に囲まれた!気を付けろ!」

「なに!?」


 素早く馬車から飛び出して周囲を警戒する。周囲を見渡すと4頭のフォレストウルフに囲まれていた。


「従者!貴方は戦えるか?!」

「大丈夫だ!馬は守れると思う!」

「前方は頼む!」


 馬車に積まれた食料が狙いか。はたまた馬や乗客か。どちらにしても関係ない。気合いを入れて精神を集中する。馬車に乗っている王女様を守りながら戦わねばならないが、焦りはない。


 フォレストウルフは、ジリジリと距離を詰めてくる。2頭同時に跳びかかってきた。


 右から来た魔物の首を一瞬で斬り飛ばすと、逆方向の魔物には手甲を噛ませて無防備な腹に剣を突き刺す。魔物が口を離して、地面でジタバタ悶えているところで冷静に首を刎ねた。


 残る2頭は、前方で馬に襲いかかるのを傷を負いながら従者が守っている。前方へ駆けると、まず1頭の首を刎ね飛ばす。最後の1頭も従者に覆い被さっているところを薙いで真っ二つに両断した。


 周囲を警戒し、脅威がないことを確認したのち従者に近づいて労う。


「貴方のおおかで助かった。感謝する」

「こっちは商売なんで当然でさぁ。お客さんは騎士みたいだけど強いねぇ」


 幾つか噛まれた傷が散見されるが、そこまで深い傷ではなさそうだ。手持ちの薬で治療しようとして、王女様が馬車から降りて我々の元に歩み寄る。


「2人に多大なる感謝を」


 王女様は従者の傷に手を翳した。すると、傷は少しずつ回復してなにもなかったかのように元通りになる。

 眼前の不思議な出来事に従者の男は驚きを隠せずにいたが、ふと王女様の顔を見て気付く。


「もしかして…リスティア王女様では?」


 王女様はニコリと笑って頷き、従者は感動したようにお礼を告げるが、「動かないで」と制して全ての傷を治す。

 ペコペコと頭を下げ続ける従者に、もう一踏ん張り頼む旨を伝えて我々は再度馬車に乗り込んだ。


「アイリス。左腕を見せて」


 先ほど左腕を噛ませた際、手甲でガードされていない部分も噛まれ出血していた。


「私に治療は必要ありません」

「ダメ!お嫁に行けなくなったらどうするの!?」


 王女様が治療を始めると、みるみる傷が癒えていく。やはり凄い…。


 聞いたところによると、王女様の能力は魔法の『治癒』に似ているが、実際は全くの別物で魔法ではないという。カネルラ王族に代々受け継がれてきた【精霊の加護】の力で、現王族では王女様しか使えない。

 失礼を承知で申し上げるなら、お転婆な王女様であるけれどまるで聖女のようにも感じる。王女様を見ていると…神に愛された者なのだと実感する。


「はい。治ったよ」

「ありがとうございます。私のような者に貴重な御力を。お手数をお掛けしました」

「アイリス」 


 凜とした声が響く。一瞬、『誰?』と思ったほど。顔を上げると王女様は真剣な眼差しを私に向けていた。


「貴女は私の命を救ってくれました。民の命を守ったことは騎士として誇るべきこと。己を卑下しすぎです。胸を張りなさい。そして、私の力も民を守るタメにある。貴女も例外ではありません。私は貴女自身を貶めるような発言は許せません」

「はい。心得ておきます」


 王女様の言葉に下唇を噛んだ。そうしないと泣いてしまいそうだったから…。この…まだ幼い王女様には本当に敵わない。この方を守れてよかったと…自分を誇ろうとそう思える。

 王女様はまだ10歳。だが、王族として表舞台に立つとき大人顔負けの一面を見せる時がある。


 いつだったか冗談交じりに言っていた。「今はまだ、ただの子供でいたいの」と。


 言い終えると、フニャッとした顔で「お嫁に行くときは私も式に出席するからね!」と一言付け加えた。その言葉に不覚にも笑ってしまう。本当に凄い王女様だ。


 その後、馬車に揺られること2時間。私達はフクーベの街に到着した。

読んで頂きありがとうございます。

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