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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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426 お花見とあらぬ疑い

 住み家に戻って直ぐにウォルトは料理の準備にとりかかる。


「ちょっと時間がかかるから、皆でゆっくりしてて」

「ほい」


 待ってる時間は、4姉妹でウォルトのベッドに寝転んだり住み家の変化を探索したりしながら料理ができるのを待つ。


「堂々とやってるけど、私達の気持ちに気付かないウォルトの鈍さって凄いよね」

「最近やりたい放題なところはあります」

「ココも我が家みたいなものです!」

「むしろ、気付けと思ってます」


 ふむ。

 

「とりあえず、他の女性の気配はないのかな」

「ないと思います。親しい知り合いは増えてないみたいです」


 定期的に皆と話してるけど、女性騎士とかに加えてカネルラの王女様まで親友らしい。人脈どうなってるの?まぁ、会って話してみたいけど!王女様もライバルだったら楽しすぎるでしょ!


「準備できたよ~」


 待ってました!お腹は目一杯空いてる。お花見に行くぞぉ~!


 すっかり暗くなった森を歩く。場所はそんなに遠くないらしい。魔法で小さくした料理とお酒は手分けして運ぶ。


「楽しみ~!」

「気に入ってくれるといいけど」


 アマン川沿いを上流に向かって歩くと、突然立派なチェリブロが現れた。大木で1本なのに存在感が凄い!枝の先まで満開に咲き誇ってる。


「凄いチェリブロだね!こんな大きいの初めて見た」

「とても立派です」

「見たことないです!」

「このチェリブロは歴史を感じますね」


 ん…?枝が微かに揺れてる…けど、風は吹いてない。横を見ると、ウォルトがチェリブロに向かって微笑んでる。ほんの微かに魔力を纏ってなにかしてるのかな?まぁ、なんでもいっか!


「準備して花見を始めよう」

「待ってました!」


 茣蓙を敷いて料理とお酒を並べたら準備完了。魔石を使った柔らかい照明で、周囲を明るくしてくれた。チェリブロが綺麗に映し出される。


「サマラさん!誕生日おめでとうございま~す!かんぱ~い!」

「「「乾杯!」」」

 

 アニカが音頭をとってくれる。料理もお酒も美味しくて、もう最高!いくらでも食べれるし飲めるね!


「幸せすぎて、もう死んでもいいよね!」

「ダメですよ」

「なに言ってんですか!」

「ホントにいいんですか?とっちゃいますよ?」

「嫌に決まってる!」


 こうやって皆で騒ぐの楽しいなぁ!


「ウォルトも飲んでる?」

「お酒は飲んでないよ」

「うっすぅ~いの作ろうか?」

「飲むなら住み家に帰ってからにするよ」


 笑顔でお茶をすする。柔らかい口調だけど、裏腹にヒゲと耳の動きで断固たる意志が確認できた。

 少し前にアニカが悪い奴に攫われたって言ってた。ウォルトが助けたらしいけど、私達になにかあったらいけないと思ってるんだろうな。本人は認めないけど、昔から優しい幼なじみなんだよね。自覚がないだけで。


「ねぇ、ウォルト」

「なに?」

「私達のこと、どう思ってるの?」


 妹達の会話が止まる。


「どうって?」

「ウォルトにとって私達ってどんな存在?」

「ボクの大切な人達だよ」

「具体的には?」

「具体的に?どう言えばいいのかな…。失いたくない大切な友人で、我が儘を許してくれる友人で、心温まる友人で…」

「うん」

 

 どこまでいっても友人なんだね。まだまだ道程は遠い!


「もしボクに恋人ができるなら、皆みたいな人がいいな」


 ニャ!と笑う。


「「「「えぇぇぇ~!!!」」」」


 ウォルトの耳がパタンと閉じた。


「私達でいいの?!」 

「皆みたいな人がいい」

「そ、それは本音ですか?!」

「噓ついてるように見える?」

「いえ!私達って、見た目も性格も違いますよね?!」

「性格や容姿は違って当たり前だよね?それぞれによさがあるし」

「私なんか、まだ子供だけど!?」

「そう思ってるのはチャチャだけだ。成人してボクにとっては大人だ」


 動揺が治まらない内にウォルトが続ける。


「ちょっと驚きすぎじゃないか?皆はモテるだろう?それくらいボクでもわかる」


『ニャに言ってんだか』って顔で、のんびりお茶をすすった。めちゃくちゃ驚いたよ…。まさか、そんなこと思ってたなんて…。ウイカ達も驚いてる。


「………」

「どうしたの?」

「なんでもない…」


 ウォルトが照れてるけど、なんで?珍しく心が読めない。


「なに?教えてよ」

「いや…。改めて考えると、ボクが偉そうに言うことじゃないなって。口に出すことじゃなかった」


 …こんニャろめ!なにもわかってない!


「なに言ってんの!逆だよ!逆!もっと言っていくの!どんどんプリーズ!」

「褒められて嫌なワケないじゃないですか」

「さすがに怒りますよ!ウォルトさんの分からず屋!」

「このニブチン!」

「えぇぇっ?!ご、ゴメン…」


 しゅんとしちゃった。言い過ぎたかな。4対1で、理由もわからず怒られてるんだもんね。いつものことだけど。


「こっちこそゴメンね。ウォルトの言葉って、お世辞じゃなく褒められてるのがわかるからどんどん言ってくれた方が嬉しいの。怒ってるワケじゃないよ」


 皆も頷いた。


「そうだったのか。よかった」

「あのさ、いい機会だから言っておこうと思うけど」

「なに?」

「ウォルトって自分がモテないと思ってない?」

「モテないよ。サマラは知ってるだろ?」


 獣人にはモテたことないからそう思うだろうね。大きくなる前に街も出てる。


「違うんだな。ウォルトは結構モテるんだよ」

「………」


 まぁた『ニャに言ってんだか』って言いたそうだね。


「ウォルトさんはモテますよ」

「間違いなく!」

「私もそう思う」


 めちゃくちゃ混乱した顔してる。『信じたいけど信じられニャい』みたいな。


「あのね、獣人にモテるかっていわれるとそうじゃないかもしれない。でも、種族が違えばわからないでしょ」

「そんなことあるかな?ボクにはモテる要素がないよ」

「ウォルトが思うモテる要素ってなに?」

「逞しいとか優しいとかかな。あと、容姿がいいとか金持ちだったり」

「なるほどぉ」

「ボクはなに1つ持ってない。だからモテない」


 いい笑顔を見せてくれるけど、そうじゃない。


 緊急4姉妹会議開催!堂々とこそこそするぞ!


「ふ~む。参ったね」

「そうですね。ウォルトさんらしいですけど」

「いい機会なので自覚してもらいたいですよね!」

「兄ちゃんはモテたくないんでしょうね。欲がないというか」

「まさにそれ。どうでもいいって割り切ってる」

「でも、少しずつ前進してる実感はあります。この調子なら意識してもらえる日も近い気がしてます」

「自然が1番かもです!なぜなら頑固猫だから!本人が変わらないと話になりません!」

「変にイジるとヘソ曲げるかもしれません。そうなったら長い停滞です。ちょっとずつでも進む方がいいと思います」

「的確な意見だね。そもそも私達は焦ってないもんね。よし!今日はここまでにしておこう!焦りは禁物!」


 待たせたウォルトに謝っておく。律儀に耳を閉じてた。


「急にいろいろ言ってゴメンね。気にしなくていいよ」

「モテるなんて生まれて初めて言われたから、嬉しかったよ」

「言っとくけど、おだててないから」

「わかってる。そんなこと言ってくれるのはサマラ達だけだし、だから信じたくなる」


 ぐっ…!表情が可愛い…。酒の力もあって暴走してしまいそうになる…。いかんいかん。努めて冷静に。


「あとね、ウォルトは私達に心を読まれてると思ってるでしょ?」

「そうだね。的確に言い当てられてる。皆に隠し事はできない」

「その通りなんだけど、話の流れと表情から見抜いてるだけで、心の内をいつでもお見通しってわけじゃないからね」

「えっ?!」

「だから、妄想というか思ってることをなんでも口に出すと後で恥ずかしい思いをするかもだよ」

「なるほど。気を付けるよ」

「自然が1番ってこと!」

「そうだね」


 手放しで褒められると嬉しいけど、思ってくれてるだけでもいい。その方がウォルトらしいし、皆もそう思って…くれてるね。笑顔で頷いてくれてる。

 その後も仲良く談笑していると、いい具合に酔いが回ったアニカが、思い出したように話し出す。


「あっ、そうだ。サマラさんとチャチャには言ってなかったんですけど…」


 神妙な顔してる。なにかな?


「ウォルトさんは……クローセで女性にキスされて喜んでましたっ!」

「な、な、な、なぁにぃ~っ!?!?」

「え、え、えぇぇ~っ!?」


 衝撃の事実発覚。ここ何年かで1番驚いたかもしれない!誰にキスされたの?!


「ちょっ…!アニカ、その言い方は語弊があるよ!喜ぶとかそういうのじゃ…」


 焦って否定するウォルトの肩を掴む。


「いてっ…!」

「語弊ってことは事実なんだね…?詳しく聞かせてもらおう…。幼馴染みとして…」


 反対の肩を黒い目のチャチャが掴んだ。


「兄ちゃん…。やっぱりモテてるじゃん…。すっとぼけモテ猫め…」

「違うんだって!2人とも怖い!なんでそんなに怒ってるんだ!?ちょっと、ウイカ、アニカ!詳しく説明してくれないか?!いてててっ…!」


 ウイカもいい感じに酔っているのか、ヘラヘラしてる。


「ウォルトさんは3人に情熱的なキスされてましたよ」

「しかも、嬉しいのを誤魔化そうとしましたよね♪騙されてませんよぉ~!」


 なんだってぇ~!いきなり7姉妹になるのは予定外すぎ!


「ウォルトが、知らない間に女に現を抜かすような男に成り下がってたなんて…。見抜けなかった」

「違うって!サマラ、チャチャ!ボクの話を聞いてくれ!いやらしい話じゃないんだ!」

「ゆっくり聞こうか…」

「嘘はダメだよ…。直ぐにバレる…」

「嘘なんか言わないって!いててっ!」


 私とチャチャは、黙ってウォルトの説明を聞く。どうやら、村の小さな女の子達に懐かれてるみたい。そりゃそうだ。優しくてモフモフしてて、料理上手なうえに楽しくて綺麗な魔法を操るからね。


「こういうことなんだ。アニカ達の言う通りだけど、変な話じゃない」

「なるほどねぇ~」

「よく聞いたらなんてことない話だね」

「だから語弊があるって言ったろ。ウイカとアニカの冗談なんだ。ね?」


 アニカはニンマリ笑った。


「ウォルトさんは結婚の約束もしてました!有耶無耶にしてましたけど!」

「だからそういう言い方はダメだって!」

「ウォルト~!小さい女の子を騙して~!」

「兄ちゃん!弄んだの~?!」

「違うんだ!そんなつもりはない!」


 その後も騒いでめっちゃ楽しかった。皆で花見するのは最高!気になってたから、帰る前に「なんで木に向かって魔力を纏ってたの?」って訊いたら、「最近知り合った友人なんだ」と意味不明なことを言われた。「少しの間、お騒がせします」って伝えてたらしい。なんのこっちゃ?





 何事もなく住み家に戻って、入浴や髪の乾燥を終えてあとは寝るだけ。皆にお礼を言いたい。


「今日はありがとう!最高の誕生日だった!」

「私達も楽しかったです」

「来年も花見しましょうね!」

「毎年やりましょう」


 私は恵まれてるなぁ。ただの我が儘娘なのに。


「そろそろ寝ようか!明日は仕事だぁ!」

「今日は皆の部屋割りはどうするの?」


 住み家に戻ってからうっすぅ~~~い水割りを飲んで、おバカっぽい雰囲気を醸し出すウォルトが聞いてきた。しっかりほろ酔い状態。


「4姉妹で客室に寝ようと思ってる!」

 

 今日は皆と語り合いたいからお願いした。さすがにウォルトには聞かせられない内容だからね。


「そっか。ごゆっくり」


 ……あれ?あれれ…?


 ウイカ達も気付いた顔してる。自然に微笑んでたけど……ホッとした表情のあと、一瞬だけ残念そうにヒゲが動いた。見逃さなかったよ。


「じゃあ、おやすみ」

「ちょっと待った!」

「どうしたの?」


 皆と顔を見合わせて同時に頷いた。


「やっぱりウォルトも一緒に寝ようよ!別に添い寝してとは言わないからさ!」

「えぇ?!たまには4姉妹だけで寝たほうがいいよ」

「いいから、いいから!」

「さっきと言ってることが違うけど…」

「全てお見通しじゃないけど、私達はウォルト自身が気付いてないことにも気付くの!とにかく一緒に寝るよ!」

「ボクが気付いてない?難しいこと言うなぁ。なんのことを言ってるんだ?」


 ウォルトの背中を押して寝室に押し込むと、直ぐに寝てしまった。その後、いつものごとく皆で添い寝して眠った。


 起きてから眠るまで最っ高に幸せな誕生日だった!

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