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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
425/714

425 道化遊園

 サマラ一行がダンジョンに入ると、いきなり大きな扉が現れた。


「入口は狭いのに中が広すぎ!既に面白いんだけど!」

「もう?」

「この扉、どうやって開けるの?」

「教えたら面白くないよ」


 ウォルトはニャッと笑う。教えてくれる気はなさそう。皆で押してもビクともしない。重そうには見えないのに不思議だ。


「ウォルトさんは面白いダンジョンって言いましたよね」

「なにか仕掛けがあるかもです!」

「探してみましょう」


 4人であちこち探してみると…。


「こっちに小さな出っ張りがあります」


 ウイカがなにか見つけたみたい。


「こっちもです!押します!」

「「はやっ!」」

 

 アニカはせっかちだ。姉妹で性格が違うね。でも、私はアニカ派で気持ちがわかる!

 なにも起こらないのでウイカの方も押してみる。すると、鍵が開いたような音が鳴った。扉を押してみると軽く開く。


「開いた…。もしかして、いろんな仕掛けがあるダンジョンなの?」

「そうだよ」


 ウォルトはそれ以上話さず、可愛く笑うだけ。『楽しんでほしいニャ』って顔に書いてる。この冒険を望んだのは私だ。ウォルトに頼らずに進もう!


「よし!皆で力を合わせて攻略しよう!」

「「「おぉ~!」」」


 高い壁に挟まれた通路のような1本道を進むと分岐点に出た。丁字路で左右に分かれてる。


「どっちかな?」

「二手に別れて進んでみますか?」

「皆で行ってみませんか!ダメなら戻ればいいですし!分かれて罠にかかったら危ないです!」

「私もアニカさんに賛成です」

「そうだね!まずは皆で前進!私の勘で右に行ってみよう!」


 迷路のように複雑な構造のダンジョンを話し合いながら進む。特になにも起きないけど、前方に白いモフモフの大きな毛玉が鎮座してるのが見えた。


「なに…?ウォルトの抜け毛…?」

「あんなに抜けたらハゲができてるよ」


 最後列から冷静にツッコまれた。


「冗談だよ。気になるね」


 近付くとかなりのふわふわし。毛玉はかなり大きい。抱えたら気持ちよさそう。


「なにコレ…?」


 指でつついたり掌で触れてみたけど反応がないので、両手で持ち上げてみると見た目に反してずっしり重い。


「ぴぎっ!」


 突然、毛玉から太い腕が生えて殴りかかってきた。


「てぇぃ!」

「ぴぎぃ~!」


 すかさず全力チョップを食らわすと、しっかり手応えあり。いくら破壊力ありそうでも動きがのろ過ぎ。毛玉の魔物は消滅してしまった。


「見たこともない魔物で驚きました」

「へんてこでしたね!」

「油断させるような魔物が多いのかもしれないですね」

「そうだね!気を抜かずに進もう!」


 4人で協力して、仕掛けを解除したり進んだり戻ったりしながらダンジョンを攻略していく。途中、お腹が空いたのでウォルトのお弁当を食べながら小休止することに。


「お弁当は美味しいし、ダンジョンも楽しい!」


 あぁでもない、こうでもないと試行錯誤して進むから楽しい。自分だけなら直ぐに面倒くさくなって投げ出してる。


「このダンジョンは1人だと厳しいよね。ウォルトは単独で攻略したの?」

「そうだね。誘える人もいなかったから」

「でも、今は私達がいます!」

「兄ちゃん。いつでも誘ってくれていいよ」

「ありがとう」


 その後も冒険を続けていると、私が調子に乗って人食い宝箱に食べられそうになったり、全員揃って迫ってくる壁の罠に潰されそうになったりと大はしゃぎ。


「どっちも間一髪セーフ!」

「どっちもアウトです。人食い宝箱とは力比べで勝ちましたし、壁は完全に素手で破壊しましたよね?」

「ウイカ…。細かいことは言いっこなしだよ♪」

「つい言っちゃいました」


 宝箱は牙の付いた蓋を無理やり引きちぎって、壁は一部を殴り壊したけども!魔物はあまり出現しないと思いきや、いきなり魔物部屋に転移させられたりもした。出現するのは、へんてこで一風変わった魔物ばかり。

 しかも、階層の概念がなくてずっと同じ階にいる。要するにだだっ広い平屋建てのダンジョン。


「なんか道化遊園って名前が付いてるのがわかる気がする!危険もあるけど!」

「面白いです。鬱蒼としてなくて明るいですし、陽気な人が作ったみたいな」

「カネルラにこんなダンジョンがあるなんて知らなかったです!」

「なんていうか、『侵入者に楽しんでもらおう』みたいな意図を感じます」


 ウォルトが説明してくれる。


「ココは、世界に幾つか存在する【不思議迷宮(ヴレージョン)】の1つで、他のダンジョンもそれぞれ違って面白いみたいだよ」

「「「「へぇ~!」」」」


 初めて聞いたよ。ウォルトは動物の森に詳しいけど、逆に街のことをほとんど知らない。本の知識くらいだと思う。

 国が保護する動物の森は手付かずの場所も多いはずだから、本でも書いたら重宝されそうだけど、性格からしてまずあり得ない。「誰でも知ってるさ」ってとこかな。


「ちなみに、私達は夜には帰れそう?」


 前進してる実感はあるけど、そもそも出口があるのか問題。


「言っていいの?」

「いいよ!花見はしたいから!」

「わかった。多分そう時間はかからない」

「多分?」

「このダンジョンは入る度に構造が変わるんだ」

「なにそれ?!面白すぎでしょ!」

「だから、経験上あと少しだと思うけど断言はできない」

「とりあえず間に合いそうならなんでもいいや!」

「間に合いそうになければ、ボクがなんとかする」

「そうはさせない!なんとか皆で頑張る!」

「「「その通り!」」」


 白猫リーダーはいるだけで安心感が半端ない。いいところを見せたいのは皆同じだよね!私達の攻略時間すら予想してココを選んでるはず。だったら頑張ろうじゃないか!


 遊園とはよく言ったもので、大鎌の連続ギロチンだったり転がりながら追いかけてくる巨大な鉄球から逃げたりして、その後も大慌て。

 ウォルトは、ダンジョンに入ってから常に絶妙な位置取りで、私達の邪魔にならず直ぐ助けられる場所にいる。見ていなくても気配でわかる。ホントに凄いし知ってたけど賢い。ウォルトがいるから安心して冒険できてる。


「アニカがボタンを押すと、なにかしら罠が発動するね!」

「ボタンといえば私なので!」

「押しすぎ感はあるよ」

「作った人がいるなら、きっと喜んでますね」



 


 私達は豪華な扉の前に辿り着いた。無駄に装飾が凄い金銀に輝く大きな扉。


「お宝でもありそうな雰囲気だね」

「あまりそういうダンジョンはないみたいですけど」

「でも、遊んでくれたご褒美があるかもだよね!ボタン押した回数で変わるとか!多い方がより多く貰える!」

「アニカさんは自分の手柄にしたいんですね?」

「てへっ♪」

「さて、行ってみよう!」

「「「はい」」」


 扉を開けて中に入ると、道化師(ピエロ)がいる。派手なメイクと紅白の戯けた衣装に身を包んで、大玉の上に揺れることなく立ってる。


「誰…?」


 人に見えるけど、ダンジョンにいるってことは魔物…だよね?


「ヤァ!やぁ!いラッしャイ!久しブリのオ客さまダッ!」

「「「「喋った!?」」」」


 変な口調で陽気に話しかけられた。


「5人も訪ねテくれるナンて、嬉しイ限りダ!なァ、ウォルト!」

「ひさしぶりだね」

「ずいブン、久しブリじゃナイか!外のセカイでは、2年ブリくらいカナ?」


 まさかの知り合い?


「キミがイルからミンナ生きテるワケだ!」


 あっはっは!と、愉快そうに笑うピエロ。


「ねぇ、ウォルト。誰?」

「彼は……」

「ウるワしいオ嬢様方!ジョン=ドウでごザいます!ジョン、とお呼ビくださイ!」


 道化師は、喜劇のような口調でウォルトの言葉を遮り私達に礼をした。

 

「ご丁寧にどうも。なんでダンジョンに人がいるの?先客?」

「ジョンは魔物だよ。いや、人外の存在かな」

「魔物なの?!普通に喋ってるよ?!」


 どう見ても人にしか見えないけど。


「相変わらズつれナいナァ。ボクとキミの仲ジャないカ。何度もヤり合ったダロウ…?」


 急に気配が変わって背筋が凍る。突き刺すような空気にウイカ達も身構えた。


「そうだね。今日はどうするんだい?」

「ソウしたイけれド、悩むナァ…」


 ジョンはチラッと私達を見る。


「できるなら、今日はこのまま終われないかな?ボクは近い内にまた来る」


 顎に手を当てたジョンは首を傾げてる。しばらくして、ニッ!と笑った。


「だっタらイイヨ!イっておくケド、大サービス!」

「ありがとう。必ず来るから」

「キミがウソをツカないのハよくシッテル。では…おめデトウ!」


 パチンと指を鳴らすと、私達の前に幾つかの素材らしきモノが並んだ。


「ジョン。いいのかい?」

「いイヨ!迷宮ヲ楽しんデくれテ嬉しカッタ!またアイまショウ!ウォルトも、みンナもネ!」


 そう告げて、笑顔のジョンは一瞬で姿を消してしまった。そして、扉が出現する。ひとりでに開いて外の光が差し込んだ。


「終わり…ってこと?ところで、なにをくれたの?」


 一見するとカラフルな生地や鉱石のようなモノ。

 

「攻略した者への報酬なんだ」

「見たことない素材です」

「ギルドで鑑定してもらいましょう!」

「なにかに使えそうかな?兄ちゃんならわかる?」

「住み家にも幾つかあるけど、見当もつかない。訊いても教えてくれないんだ」


 最後は不思議な感じで終わったけど、満足感があるなぁ。外に出て胸いっぱいに空気を吸い込む。


「帰ってきたぁ!楽しかったぁ!」

「また行きたくなりますね」

「普通のダンジョンと全然違いました!凄くタメになったし、面白かったです!」

「最後のピエロは気になりましたね」

「そうだ!結局、ジョンって何者なの?」


 さっきは話を遮られてしまった。


「本人が言うには、道化遊園の創造主」

「ホントに?!」


 そんなの存在するの?


「ということは、簡単に言うとボスってこと?」

「そうだね。どんな構造であっても必ず最後は闘わなくちゃ外に出られない」


 あのピエロは相当強い。ゾクゾクする感覚だった。


「ウォルトは何度も闘ったことあるっぽかったね」

「来た回数は闘ってるよ」

「アイツは倒しても復活するってこと?」

「どうかな?ボクは倒したことがないから」

「「「えっ!?」」」

「どういうこと?!」

「5年くらい前に発見して、初めての攻略で殺されかけたけど、なぜか外に出してもらえた。それから連戦連敗なんだ。師匠の次に負けてる」

「殺されかけたのに何度も闘ってるの?」

「単純に負けたのが悔しかったんだ。あの頃は荒んでたし、とにかく無謀だった」

「そんなに強いの?魔法が効かないとか?」

「魔法は通じるけど不思議な術を操る。勝つにはまだ腕を磨かないと。ある意味ボクの師匠の1人でもある」


 ウォルトは普段獣人っぽくないけど、細かいことを気にしないところは獣人らしい。魔物が師匠とかおかしくない?


「ウォルトさんが勝てないのなら、全滅してたかもしれないです…」

「怖いね!」

「絶望的です」

「そんなことないよ。勝てると思ったから連れてきた。1人では無理でも皆と一緒なら確実に勝てる方法がある。危ない橋を渡らせるために連れて来たワケじゃない」


 ウォルトはノリと勢いの適当な獣人じゃないもんね。そう言うのならきっとそうだ。


「それにしても、陽気なピエロだった」

「風貌と口調だけね。皆にお願いがあるんだけど、ダンジョンの場所は内緒にしてほしいんだ。あぁ見えて人を選ぶから口外しないよう頼まれてる」

「だから入口を隠してるの?」

「隠蔽に気付いて突破できた人だけ歓迎するらしい。ボクは違ったけど」

「了解!」

「わかりました」

「誰にも言いません!」

「任せて」


 そもそも、私とチャチャは獣人だから場所を覚えてるけど、ウイカとアニカにはこの地点がわからないと思う。目印もないし余裕なく駆けてきた。でも、獣人だけでは魔法を使えないから入れない。結果、場所を覚えてもどうしようもない。


「ありがとう。助かるよ」

「それより、道化遊園について詳しく教えてよ」

「話すと長くなるからまた今度にしようか。今日は誕生日を楽しんでもらいたい」

「いや!気になるから帰りながら聞く!まだ陽が高いから歩いて帰ろうよ!皆もいいかな?」

「「「賛成!気になります!」」」

「わかった。それでいいなら構わないよ」


 道化遊園について色々と聞きながら住み家へ向かった。

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