424 覚えててくれたんだね
「むっふっふ!楽しみだぁ~!」
早朝からウォルトの住み家を目指して動物の森を歩く4姉妹。先頭を歩くサマラはいやにご機嫌。
「サマラさん、本当にいいんですか?」
ウイカの気持ちはわかるけども。
「いいに決まってる!というか、私が誘ったんだからね!」
「それはそうですけど」
「もしかして…嫌だった?無理やり過ぎた?」
そうだとしたら皆に申し訳ない。
「違います!嬉しいですよ!」
「私も嬉しいです。でも、いいのかなって」
アニカとチャチャも気を使ってくれてる。でも、本当に私の希望でただの我が儘でもある。
「もちろんだよ。付き合ってくれてありがと!」
歩きながら説明しようかな。
「私の20歳の誕生日に来てくれて嬉しいよ!」
「「「おめでとうございます」」」
自分で言うのもなんだね。
「ありがとう!ただの我が儘なんだけど、皆と一緒に過ごしたくて誘ったの。ウォルトも含めてね」
「私達も祝いたかったから誘うつもりだったんですけど、明日にするつもりでした。今日誘われると思ってなくて。…というか、気になるのはそこです。ウォルトさんと2人きりの方がよくないですか?」
ウイカの意見はよ~くわかる。
「それも考えた!悩殺して、ウォルトを褒め殺し】ならぬ照れ殺ししようかと考えたけど、誕生日にやりたいことではないことに気付いたんだな!やりたいことをよく考えた結果、皆と楽しく過ごしたかったんだよね!」
「ウォルトさんは家で待ってたら来てくれましたよ」
「そうかもね。でも、待ってるより行った方が気分がいいよ。待ちきれないから!」
「サマラさんらしいです」
「皆がいてくれたほうが楽しい!その上で、やりたいことをやることに決めたの!予定を空けてもらってゴメンね」
「一緒に祝うことに変わりないので、サマラさんがよければ全然構わないです」
「付き合ってもらってるから、プレゼントとかいらないからね!そのためにも呼んだの!」
皆、気を使ってくれる妹だから。
「そういうワケにはいきませんよ!」
「そうです。私もアニカさん達も皆さんからもらったんですから。ウイカさん、お願いします」
「うん」
ウイカが包装した小箱を手渡してくれる。
「私達、妹から長女へのプレゼントです。大したモノじゃないんですけど」
「ありがとう!今すぐ開けていい?」
「むしろお願いします。遅くなるほどハードルが上がるので」
箱を開けると綺麗な小瓶が入っていた。蓋を閉めていても微かに香る。
「香水?」
「はい。サマラさんに似合いそうな匂いの香水を皆で選びました」
「ありがとう!凄く嬉しいよ!」
本当に嬉しいなぁ。大事に使わせてもらおう。
「ちなみに…正直に答えてほしいんだけど」
「なんですか?」
「私って…体臭強い?」
獣人は人間に比べて匂いが強い…ってウォルトは言ってる。私もそう思うけど自分の匂いはわからない。もしかすると…臭いとかありえる。
「そんなことないです」
「いい匂いです!モフりたくなります!」
「私の方が体臭は強いですよ。気になるなら兄ちゃんに訊けばいいと思います。なんでも答えてくれます」
「なんか、最近ハッキリ口に出してくるよね」
「私達のせいなんです」
「心を読みすぎました!ちょっと照れくさいです!」
「開き直って妙に清々しい顔してるんですよね。嬉しくて悪い気はしないのに、これじゃない感が凄くて」
ふ~む。やっぱり私達は姉妹だ。話し合ってなくても感覚を共有できてるような気がする!
「よし!今日はその辺もツッコんでみようかな!」
住み家に到着するのも会話しながらだとあっという間だ。そして、まだ朝早いのに『早起きだニャ~』とか言いそうに笑顔を見せて待ち受ける白猫の幼馴染み。
「行くよっ!」
「負けません!」
「『身体強化』!」
「勝負です!」
同時に駆け出して、全速力でウォルトに飛びつく。
「わぁぁぁ!」
「「「「ただいま~!」」」」
ふっふっふ。私の勝ちだ!
「まだまだ鍛え方が足りないよ!一番乗り!」
「くぅっ…」
「まだまだこれからです!」
「くっそぉ~!悔しい~!」
ただ、皆もかなり速い。出会った頃よりも遙かに強力なライバルに育ってる!
「おかえり。本当にハグ好きだね」
女性4人に抱きつかれたこの状況で、能天気な台詞を吐くウォルトは本っ…当に鈍い。しかも本気だからタチが悪い。でも、知ってるんだからね。
「ウォルトも好きでしょ?」
「4姉妹だけだね。あと、ヨーキーか」
「他の人でも大丈夫かもよ?」
「そうかもしれないけど、やりたくはない。皆とハグすると心が温かくなるんだ。…サマラ」
「なに?」
「誕生日おめでとう」
「ありがとう!自分のは忘れてるのに覚えててくれたんだね!」
ウォルトは苦笑い。
「自分の誕生日には興味がないよ。今日は会いに行こうと思ってた。まさか会いに来てくれるなんて」
「ココに来て皆で祝ってもらおうという私の我が儘なんだな!」
「そっか。ゆっくりしてくれると嬉しい」
さて、早速お願いしよう。
「まずは皆で朝ご飯が食べたい!」
「わかった。準備するよ」
ウォルトはほぼ『妖怪もてなし猫』だから、今日はなにかしら料理も作ろうと考えていたはず。ただ、朝食を作る予想はしてなかったはずだ!裏をかいていくよぉ~!
カフィと紅茶と花茶を片手に、4姉妹で会話しながら料理ができるのを待って、ウォルトも一緒に朝食を頂く。
「うんまぁ~!上達が留まることを知らないね!」
「大袈裟だよ」
決して大袈裟じゃない。こんな朝食を毎日食べられたら、1日が楽しくて仕方ないはず。後片付けは、ウイカとアニカが手伝いに向かった。チャチャも食器を運んだりしてテキパキ動いてるのに、「サマラさんは主役です」と座らされた。
………退屈だね!
皆が揃ってさぁ確認。
「ウォルト。もしかして私にプレゼントがある?」
「あるよ」
「欲しい!」
「わかった。ちょっと待ってて」
プレゼントを取りに向かった。
「サマラさんは凄いです」
「私はそんなにハッキリ言えません!」
「予想できても口には出しにくいですよね」
「普通はそうだよ。私の場合は先にもらって後はゆっくりしたいタイプだから!」
先にもらえると嬉しいテンションが続いて楽しく過ごせる。人それぞれだと思うけど。
「誕生日おめでとう」
「…コレ、なに?」
予想もしなかったモノを渡される。掌に収まるサイズの一風変わった機械のような物が4つ。紫、白、赤、黄の魔石が並んで埋まってボタンが付いている。
「魔伝送器だよ」
「魔伝送器ってなに?」
「離れていても会話できる魔道具なんだ」
「「「「えぇ~っ!?」」」」
なにそれ?!聞いたこともないけど!?
「サマラは4姉妹で話すのが好きだろう?」
「まぁね!」
「いつでも連絡できるように作ってみた」
「試してみていい?」
「もちろん」
使い方を聞いて私が外に出てみる。この魔道具に興味しかない。紫は私、白はウイカ、赤がアニカで黄色がチャチャをイメージしたとウォルトは言った。話したい人に対応した魔石に触れると、受け手側の魔石も光って気付く仕組みらしい。ボタンが付いていて押しながら話すと声が向こうに届くみたい。
まずは、ウイカからいってみよう。白い魔石に触れてみる。少し待つと…
『サマラさん。聞こえますか?どうぞ』
ウイカの声だっ!凄いっ!
「聞こえるよ~!凄いね!」
『こっちもハッキリ聞こえます。凄いです』
アニカとチャチャも呼び出したけど、スムーズに応答してくれた。住み家からかなり離れてみても感度は変わらない。全部の魔石に触ると全員と同時に話せる。急いで住み家に帰る。
「コレ、めっちゃ凄い魔道具だよ!」
「ボクも初めて見たときは驚いた」
「ウォルトって…天才だね」
「考えたのはボクじゃない。勝手に真似して作っただけで。凄いのは考案した人だ」
「作れるだけで充分凄いと思うけどなぁ」
「魔法もそうだけど、いくら模倣しても凄くない。磨き続けることは凄いけど。真似をすることしかできないのがもどかしいよ」
『残念ニャがら…』とか言いそうに苦笑してるけど、純粋に凄いと思う。
「ところで…なんでこの魔道具にはウォルト用の魔石は付いてないの?」
「いらないだろう?サマラと皆が話せるように作ったんだ」
「いるよ!ウイカには悪いけど、白い魔石の担当はウォルトでしょうが!」
「私もそう思います」
「ほらぁ!だよね~!」
「ですよね。私は別の色がいいです」
さすがウイカ!わかってくれてる。
「改良してもう1個増やして!さもなくばもらわないよぅ…?」
普通なら激怒されてもおかしくないことを言ってもウォルトは笑ってくれる。心の広い幼馴染み。単に甘いだけとも言う。
「改良するのは直ぐにできるけど、ボクの分は素材の加工が必要になるから、なるべく早くじゃダメかな?」
「それでいいよ。ただ、作ったら直ぐに呼び出してね!」
「了解」
コレで皆といつでも連絡がとれる!凄く嬉しいプレゼントだ!
「魔力の消費が激しいから、しょっちゅう使えないのが難点なんだけど」
「切れたらウイカとアニカに頼むよ」
「「任せて下さい!」」
「ウイカもアニカもまだ使えない魔法なんだ。いずれ教えるけどね。2人でも魔力の補充ができるよう考えるよ」
「「お願いします!」」
「この魔道具、どんな仕組みなの?」
「空間魔法って呼ばれる魔法を利用してる。魔法で空間を繋げて魔力を通じて話せるんだ」
「説明されても全然わかんないや」
「詳しく話すとかなり長くなるけど、聞く?」
「大丈夫!」
そこら辺の魔導師では使えない魔法だよね。それだけわかった。
「とにかくありがと!このプレゼントは、すっごく嬉しい!」
「よかった」
「それと、全員にお願いがあるの」
「なに?」
「「「なんですか?」」」
「よかったら、今から皆で冒険に行きたいんだけどダメかな?」
身体動かして冒険したい。
「ボクはいいけど、なんでまた?」
「最近身体を動かしてないのと、【白猫と淑女】でなにか活動したいなぁってね!」
「いいですね」
「賛成!楽しそう!」
「私もです。今日はナイフしか持ってきてないから、兄ちゃんの弓貸して」
「いいよ。ところで、【白猫と淑女】ってなんのこと?」
あれ?アニカ達は言ってないの?
「私達とウォルトが組んだパーティー名だよ!たまにしか組めないけどね!」
「なるほど。【白猫】の部分はいらないと思うけど…」
「1番重要なんだよ!リーダーなのにわかってないなぁ!」
「ボクがリーダー?!いつの間にっ?!」
「そりゃそうでしょ。だって白猫と淑女なんだから。白猫が先でしょ?」
「屁理屈だ。淑女と白猫でもいい」
「今日は私の誕生日!細かいことは言いっこなしだよ♪」
「それもそうか」
「簡単に納得するね」
「楽しんでくれるならそれでいい。サマラには笑顔が似合うからね」
出たぁぁっ!キザじゃないけど、自然に褒め殺してくる!いや、やっぱりちょいキザぁ!嫌じゃないけど尻尾振れちゃうでしょうが!
「昼ご飯も作って行こうよ!」
「わかった。準備するよ」
「やったね♪」
行く前からわくわくするなぁ。冒険者になるつもりはないけど、皆との冒険は楽しいの知ってる。
誕生日だなんだといろいろ考えたって、結局は楽しくやりたいだけ。私にとっての一番は、妹達とウォルトと一緒にいることだった。準備してもらって上げ膳据え膳が普通の誕生日かもしれないけど、自分のやりたいことをやらせてもらう方が嬉しい。
「あとね、お願いがもう1個あるの」
「なんだい?」
「夜はチェリブロの花見がしたいな。森の中でできそうな場所はないかな?」
今が咲きどきで満開の季節。夜に見るのも乙なんだよね。真っ暗でもウォルトがいればなんとでもなる。
「ボクの知ってる場所が森にあるよ」
「それは凄くいいですね」
「今日は祝い酒を飲みますよ~!」
「楽しみです」
賛成してくれて嬉しい。
「今日の予定は決まったね!まずは…冒険からだ!」
ウォルトがお弁当を準備してくれて、お出かけ準備完了。
「サマラはどこに行きたいとか希望はある?」
「ないけど、できればダンジョンがいいな。私達が攻略できて面白い所がいい」
久しぶりに行きたかっただけで、どこに行くかはウォルトに任せよう。面白いダンジョンなんて存在しないと思うけど、ちょっとだけ考え込んだウォルトはニャッ!と笑った。
「皆で攻略できる変わり種のダンジョンがあるよ。場所もそんなに遠くない」
ウォルトの先導で森を駆ける。1時間ほどで目的地に辿り着いた。普通なら走り続けて1時間は遠いよね。でも、ウォルトのことをよく知る私達にとってはコレが普通だけど。
「着いたよ」
「入口が見当たらないんだけど」
見回してもどこにもない。
「ココだよ」
ウォルトが手を翳すと、ガラスが割れたように空間にヒビが入る。
「なに?!」
直後、弾けるように割れて人が通れるくらいの狭い入口が姿を現した。
「普段は魔力で遮られて視認できないんだ。【道化遊園】と呼ばれるダンジョンだよ」
「ほぇ~!名前からして面白そう」
「一応注意しておくけど、普通のダンジョンとはかなり趣向が違う。油断すると危険だ」
「わかった!皆も準備はいい?」
「初めて来ました。行ってみたいです」
「めっちゃ楽しみです!」
「どんな魔物がいるんでしょう」
「よぉし!攻略開始だね!」
私達はダンジョンに足を踏み入れた。




