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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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422 違う形で繫がっていく

「どうでしょうか?理論上は可能な気がするんですが」

「理論上は可能だろう。ただ、作るのはかなり厳しいな」


 ウォルトは住み家を訪ねてくれたメリルに作りたい魔道具について意見を訊く。メリルさんの視点でもやっぱり難しいみたいだ。


「素材はなんとかなると思うんですが」

「普通はならないぞ。入手困難だ。あふぅっ!あふっ…!」


 会話しながら幸せそうに激辛料理を頬張るメリルさん。いつも美味しそうに食べてくれて嬉しい。人間が食べる料理に見えないけど美味しいらしい。料理というより毒を作ってる感覚だから、気持ちは複雑だったりする。結構会話好きなメリルさんは、食事しながら話すのが好きだ。


「第一そんな魔法を…あふっ!…付与できる魔導師もいないと思う。ふぅ、ふぅ…。美味辛過ぎるっ…」

「そっちは目処がついてます」

「どっちかというとそっちの方が信じられない…。あふぅっ…!紹介してほしいくらいだっ!」


 いい機会だから伝えておこう。何度も話してわかっている。メリルさんは信用できる人だ。信じてくれなくても当然。


「信じてもらえるかわかりませんが、魔法を付与するのはボクです」

「そうだと思ってたよ。ふぅ…ふぅ…はっふぅ~…!」

「気付いてたんですか?」

「いつ言ってくれるのか楽しみにしてた…。あふぅっ…!いくらなんでもおかしい……辛うまっ!」


 忙しいなぁ。ゆっくり話すのは食べ終わってからにしよう。メリルさんが食べ終わるのを待って、食後に水を飲みながら話すことに。脱水症状になりそうなくらい汗かいてるけど大丈夫かな?汗をかくのは身体にいいらしいけど。


「ぷっはぁ~!大満足過ぎるっ!今回も最高に美味かった!ご馳走様!」

「お粗末さまでした」

「私は君なしでは生きていけない身体になってしまったぞ!」

「その言い方は語弊があります」

「いや、ない。君の激辛料理以外では満足できなくなってしまったのだ」


 褒めてもらって嬉しいけど、激辛料理を食べれないから味見もしたことがない。メリルさん好みの味付けでしか作れないから、特化してるのは確か。好みを細かく教えてくれて非常に助かってる。

 

「お礼に抱かれてもいいくらいだ」

「そういう冗談はよくないです」


 なんてことを言いだすんだ…。


「意外にいいモノを持ってると自負してるんだがね」


 胸を持ち上げない!目のやり場に困るからっ!


「ボクが魔法を使えることにいつから気付いてたんですか?」

「疑念を持ったのは、ランパードさんの屋敷で会ったときだよ。あの設計図はウォルトが魔法で描いたんだろう?」

「そうです」

「ランパードさんに呼ばれてる時点でおかしいんだ。会長が執務室で直に会うのはよっぽどの人物だけだからな。過去の出来事を思い返した結果、ウォルトは魔法使いだと思った。この家に初めて来たときのことも鮮明に覚えている」

「そうでしたか」

「魔法なら合点がいくことばかりだったし、リリムの変装もウォルトの魔法だろう。1人で訪ねるとずっと骨のままだ。そんなことからも推測できた」

「洞察力に感服します」

「誰にも言わないから安心してくれ。私はもはや君なしでは生きられないからな。内緒にしてるんだろう?」

「だから語弊がありますって!」


 女性は揶揄うのが好きだなぁ。


「2人で話しているのに語弊はないさ。私を女性として見てくれるのが嬉しくて、ついね」

「メリルさんは魅力的な女性ですよ」


 いちいち反応するのは自意識過剰だと思うけど、こういうのに慣れてないからもの凄く過剰に反応してしまう。どっしり構えていられる男になりたい。


「隠さずに済むなら、ウォルトの魔道具作りの工程を見せてくれないか?」

「わかりました」


 作業机で魔力インクを作ってみせる。比較的工程も少なくて初歩的な魔道具だ。


「こんな感じです」

「………」

「メリルさん?」

「……君にお願いしたいことがある。魔道具への…魔力付与を」

「ボクにできる付与ならいつでも」


 魔道具に関して多くのことを教わっているから、いつもお返しをしたいと思ってた。この人の知識とアイデア、技量は凄いの一言。尊敬しかないし、本人の意志を尊重するけど魔道具職人にならないのが残念だと思うくらい。


「私が作りたいのは魔伝送器だ」

「どんな魔道具ですか?」

「離れていても会話ができるだけなんだが、リリムに渡したくてな」

「凄い魔道具です」


 離れているのに会話できるなんて魔法のようだ。魔道具の本でも見たことがない。


「ただ…今は素材もない。これから先入手できたらお願いしたい」

「必要な素材はなんですか?」

「魔石と針金、銀合板とコーラル。それに……」


 メリルさんが列挙した素材は、手に入れるのは容易なモノばかり。それならば…。


「ボクが集めます。日頃のお礼に作らせてください」

「気持ちは嬉しいけれど、最後の1つがまず手に入らない素材なんだ」

「最後の素材はなんですか?」

「オリハルコンだ」

「オリハルコンならありますよ」

「あるのか。………えっ?!」

「少量ならこの家にあります」


 自作の金庫から持ってきて見てもらう。友達しか訪ねて来ないけど、念には念を入れて希少な素材だけ保管してる。特に有り難く分けてもらった素材は。


「このくらいで足りますか?」


 掌サイズのオリハルコンを見せる。メリルさんが手に取って鑑定してるけど、掘り出したコンゴウさん達に譲ってもらったから間違いないはず。


「足りるどころか…こんなに必要ない。核になる部分にほんの少しでいいんだ。こんな希少な素材…どうやって…」

「錬成の師匠からもらいました」

「一体どんな人脈を持ってるんだ?」

「メリルさんもそうですが、師匠に恵まれているので。オリハルコンは、どのくらいの量でどんな形に加工すればいいんですか?」

「別に急がなくていいんだ」

「そうですか…」


 早く魔道具を見たかったな…。でも仕方ない。


「そんな顔しないでくれ。オリハルコンを加工できる職人を探さないといけない」

「それなら任せてください。師匠と一緒に加工します。できるのは実証済みです」


 問題なしだ。


「…なぁ、ウォルト」

「なんですか?」

「君は常識外れだと言われないか?」

「よく言われます」


 でも、ボク自身は常識があると自負してる。目立たないように生きていくために身に着けた技能が『常識人っぽさ』だ。

 獣人には目立ちたがる者が多い。でも、ボクは欠片も思ったことがない。フィガロのような強い獣人に憧れても目立ちたくはない。影のように生きて人知れず死にたい。

 だから、揉め事を起こしたりしないよう可能な限りガレオさんから学んだ常識を守るよう心掛けてる。ただし、ちゃんとできてるかは不明。


「そこまで言ってくれるならお願いするよ。こんな感じに、小さく薄く加工してくれないか?」

「任せて下さい」


 その日の夜、早速ドワーフの工房を訪ねてオリハルコンを加工した。





 後日、メリルさんが訪ねて来たときに加工したオリハルコンを見てもらった。


「う~む…。見事だな。注文通りだ」

「よかったです」

「コレなら作れる。この場で作っていいかな?」

「邪魔しないので、見てていいですか?」

「もちろん。魔法の付与もお願いしなくちゃならない。傍にいてくれ」

 

 作業机に移動して隣で見せてもらう。今回はオリハルコン以外の材料もボクが準備した。見せてもらうせめてものお返しに。

 メリルさんは、構造を説明しながら澱みない動きで魔道具を作り上げていく。最初から製作するのを初めて間近で見たけれど、素晴らしい技術に思わず見蕩れてしまう。会話しているときのふんわりした表情と違って、真剣な表情はまさしく職人。


「私の言う通りに魔力を付与してくれないか」

「はい」


 指示通りに魔力を付与する。この程度の魔法ならなんとかなる。ボクでも使える魔法で助かった。


「ふふっ…。ははっ」


 突然メリルさんの表情が緩んだ。


「付与がおかしかったですか?」

「おかしくない。君は想像以上に凄い魔導師だと思って。空間魔法も軽々だな」


 ボクの知り合いは皆優しい。直ぐ大袈裟に褒めてくれる。


「ボクは魔法が使えるただの獣人です。このくらい誰でもできます」

「そういうところが好ましいんだよ。ちょっとだけいき過ぎてるけれど」

「ありがとうございます」

「半分褒めてないよ。さぁ、最後の工程だ。オリハルコンの核に『念話』の魔力を込めてくれないか?」

「どのくらいの量を込めましょうか?」

「任せるよ。込められるだけ込めてくれると嬉しいけれど」

「わかりました」


 許容量を見極めながら薄い板のように成形したオリハルコンに魔力を付与すると、かなりの許容量。魔法と相性のいい素材。


「できました」

「ありがとう。魔伝送器の完成だ。使ってみよう」


 掌に収まるサイズの魔道具にはボタンが付いている。押しながら話すと通話できるらしい。意気揚々と住み家の外に出て、メリルさんの呼びかけを待つ。


『ウォルト。聞こえるか?』

「ハッキリ聞こえます」


 思っていた以上にしっかり聞こえる。この魔道具は凄い。


『成功だ。ははは!』

「凄いです。どのくらいまで離れて使えるんでしょう?」

『距離はあまり関係ない。遠くなるほど魔力の消費は激しくなるけれど』

「なるほど」

『感謝するよ。これでリリムといつでも話せる』

「魔力が切れたらボクが込めます」

『お願いしたい。やっぱり君なしでは…』

「生きられますって」

『あっはっは!この魔道具に少しでも驚いてくれたなら、お礼に激辛料理を所望するよ』

「任せて下さい」


 素晴らしい魔道具を見せてもらった。本当に凄い人だ。激辛料理でもてなして、その後リリムさんに届けるために2人で修練場に向かい、手渡すと喜んでもらえた。



 ★



 数日後、ランパード商会にて。


「キャロル」

「なんだい」


 メリルは、商会の店頭で売り子に励みながら休憩時間にキャロルに話しかけた。キャロルはウォルトの姉貴分だと聞いてる。であれば伝えておこう。


「私は商会を辞めることにした」

「そうかい。止めやしないけど急だねぇ。辞めてなにすんだい?」

「魔道具職人になろうと思ってな」

「売り子の方がいいんだろ。どういう風の吹き回しだ?」

「アンタの弟分のおかげだ」

「魔法のことを教えてもらったのかい」


 やっぱりキャロルは知っていたのか。


「そうだ。彼は特別だ。私はあんな魔導師を他に知らない。薄々気付いていたが想像を遙かに超えてる。退職したら直ぐに頼みに行くつもりだ」

「なにを?」

「これから先、私の作った魔道具に魔法の付与をお願いしたいと。彼の魔法を見て新たな魔道具を作りたい欲に駆られた。金儲けじゃなく自己満足のタメにな。こんな我が儘は彼にしか頼めないし、彼にしかできない」


 魔導師に魔法の付与を頼むと、早くても数日かかる。使える魔法も限られるから、付与魔力毎に別の魔導師に頼むのも当たり前で、面倒くさいことこのうえない。

 彼は頼んだ瞬間から多彩な魔法を付与して効果も絶大。内心叫びたいくらい驚いた。『念話』や空間魔法は高度な魔法ゆえに魔伝送器を作るのは諦めていたけれど、彼にかかれば造作もない。


 ウォルトの傍で魔伝送器を作りながら気付いた。純粋に魔道具作りが楽しかった。ボリスへの復讐のタメに魔道具を作っていたと思っていたが、魔道具製作そのものも好きだったんだと。

 目標を失い、新たな魔道具製作にも限界を感じていたがゆえに、これ以上作っても意味はないと勝手に諦めていただけ。


「いいじゃないか。ウォルトはそういう考えが好きさ。それにしても、旦那さんに雇ってもらえばいいだろうに」

「お抱えになると作りたくないモノまで作る必要がある。それはお断りだ。なんだか偉そうにも聞こえる」


 金儲けのために作りたいワケじゃない。食うに困らぬ程度に魔道具を作る技量はあると思っているから、ノルマに追われた生活は御免だ。


「無茶な注文はしないと思うけどねぇ。契約次第だろうし旦那さんは信用できる。もし目立ちたくないなら、素性を隠すように言っとけばいいさ。約束を守らないようなら即刻見限りな」


 キャロルは本当にサッパリした性格。だから会長も困ってるんだろう。いくら惚れていようと、攻め方を間違えれば一太刀でぶった切られる。


「そういう割り切ったところが好ましい。話すだけ話してみるか。雇ってもらった恩もあるし、私でよければランパードさんの依頼は受けたい。その時はアンタが来てくれ。ウォルトのことが余所に漏れないようにしたい」


 魔法付与は見る奴が見れば技量が直ぐにバレてしまう。ウォルトの周りを騒がせたくない。


「じゃあ、今から一緒に交渉に行くかい?」

「助かる」


 ランパードさんに事情を伝えると、即決で条件を全て飲んでくれた。仕事は依頼するが、別に完全専属でなくても構わない。必要なら素材の納入からやってくれるとまで言ってくれた。破格の条件で怖いくらいだ。


「いいんですか?結構、我が儘を言ってる自覚はあります」

「構わない。断ったら完全個人でやるんだろ?」

「そうなりますね」

「商売人ならいい職人との縁を繋いでおきたいのは当然で、機を失したくないからな…」


 ランパードさんは、ジト目でキャロルを見た。そういえば、結婚を申し込まれて保留してると言っていたな。いい加減ハッキリしてやればよかろうに。まぁ怒るから言うまい。


「そんな目で見るんじゃないよ!文句あるのかい!」

「ごほん…。ウォルト君も認める魔道具職人ならなおさらだ」


 私を通じてウォルトと縁を繋いでおきたい気持ちはわかる。


「では、これからよろしくお願いします」

「こちらこそ頼むぞ」

 

 宣言通り商会の売り子を辞めて、ウォルトに魔道具職人として生きていくことを伝え魔力の付与をお願いした。快く了承してくれたウォルトに報酬の話をすると、「魔道具について教えてもらうので報酬はいりません。それだけで充分すぎます」と言われ、「報酬は私の身体で支払おう。好きにしていいぞ」と告げたら、まぁまぁの勢いで怒られた。


「自分を大切にしてください!」と。


「いやらしい意味では言ってないぞ。肉体労働という意味だ」と返したら、赤猫になって困っていた。そういうところも好ましいんだよ。

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