420 変装の弊害
「サバトの偽物…ですか?」
「あぁ。最近、地獄の魔導師サバトの偽物がフクーベに現れた」
ウォルトは久々に訪ねてきた衛兵のボリスをもてなしている途中、聞き流せないことを言われた。
まず、サバトの二つ名が恥ずかしい。なぜ灼熱なんだろう?変化した顔面が焼け爛れていたからかな。しかも偽物が現れた?衛兵が口にしたということは…。
「名を騙って犯罪を犯してるんですか?」
「小悪党みたいなことだがな。女に声をかけてナンパしたり、「凄い魔法を見せる」と嘘を吐いて金を騙し取ったりしている」
小悪党というより卑しい詐欺師。
「本物に似てるんですか?」
「白猫の面を被ってローブを着ているらしい。フクーベにはサバトを直に見た者が少ない。もちろん大多数は騙されないが、困ったことにソイツは魔法を使う」
「ちょっとだけ魔法を見せて信用させる手口ですね」
詐欺の導入に魔法を使うとは、悪知恵が働いて姑息な奴だ。
「俺がお前に信用されていないのは知ってるが、今回の件については無関係と言えない。念のため伝えておこうと思った」
ボリスさんは表情を変えずにカフィを口に含む。実際その通りで、オーレンの誤認逮捕以降ボリスさんを信用してない。
衛兵としては潔白な人物なんだろう。でもボクとは反りが合わない。珍しい感覚だけど対立する予感がある。既にしてると言ってもいい。悪人でないことは理解してるから拒絶することはないけど、距離を置いて付き合うと決めた。
「なぜボクに?」
「サバトの正体はお前だろう」
「どうなんですか?」
「俺に訊くな。とにかく話はそれだけだ。いずれ耳に入るだろうと思って先に伝えたというのもある」
知ったらボクがなにかやらかしそうだと懸念して教えてくれたのか。
「いつ聞いても同じですよ」
「知っているのといないのでは違う。それがお前だ。もう1つ言っておく」
「なんですか?」
「偽サバトは子供に手を出した」
「…どういうことですか?」
聞き捨てならない。
「大人はなかなか騙せないと悟ったのか、子供を騙して小銭を巻き上げたり、「魔法を見せて!」としつこく食い下がる子供相手に暴力を振るった」
思わず表情が険しくなる。
「顔に怪我を負った子供もいる。俺達も捜査中だ」
「教えてくれて…ありがとうございます」
魔法を悪用する偽サバトのせいで、なんの罪もない子供が…。許し難い…。
「おかしなことを考えるな…とは言わない。だが頼みがある」
「なんですか?」
「俺達はソイツを捕まえる。もし牢に入れたら詰所を襲撃しないでくれ。壊されては敵わない」
「詰所は破壊しないと約束します」
「俺達が先に捕まえたら必ず懺悔させる。それが俺達の仕事であり、その後の処置を任せてくれ」
「約束できかねます」
できない約束はしたくない。ボクは気が済むようにやる。ボリスさんは目を閉じて溜息を吐いた。
「今回の事件は、お前がサバトであり姿を消したことが遠因。そこに付け込んだ悪党がいるということ。つまり、お前の行動が元で起こったと言っても過言じゃない」
「承知しています」
「コレも伝えておく。実は類似した事件がカネルラ各地で起こっている」
「…そうなんですか?」
「各地の衛兵は、小悪党を必死で捕まえて職務を遂行している。お前の気が済もうが済むまいが仕事の邪魔はしないでくれ。だが、俺もお前の邪魔はしない」
「理解しました。衛兵が捕まえたら手は出しません」
偽サバトが各地で国民と衛兵に迷惑をかけているのは理解した。ボクの力だけではどうにもできない。各地の偽サバト騒動がボクのせいであるのはボリスさんの言葉通り。
「一応確認しておきたい。犯人を見つけたらどうする気だ?」
「気が済むようにやります。話して気が済んだらなにもしません」
「やり過ぎないでくれると助かる」
さて、早速行こう。
「ウォルト。矛盾したことを言うようだが、今回の事件はサバトの存在が遠因で起きたのは事実であっても、お前は武闘会で魔法を見せただけだ。利用する悪党が狡猾なんだ」
「たとえそうであっても、軽はずみな行動だったと後悔しかしていません」
「そうか」
気のせいか、ボリスさんの雰囲気が変わっているような…。規律一辺倒ではなくなって、少し話しやすくなってる。
それはさておき、とりあえずフクーベに行こう。子供に被害が及んでいる。罪を重ねられる前に止めなければ。
勢いでフクーベまで来て、殴られたという子供に会いに行こうと思っていたけど一旦思い留まる。
その子は…サバトに会いたくないんじゃないか?親も元凶になった魔法使いに会わせたくないだろう。ボクが本物のサバトだと証明する術もない。責められても仕方ないけど、辛い記憶として刻まれているなら刺激したくない…。けれど、せめて会って謝りたい。
いい案が思い浮かばない。どうしたものか…。1人で考え込んでも浮かばないなら、友達に相談してみよう。
「知らねぇよ。勝手にしろ」
「あぁ。そうする」
サマラの家を訪ねると、珍しくマードックが出てきたから一応意見を訊いてみたけど、返答は予想通りだった。
コイツは昔からこういう奴で、とにかく面倒くさいことを嫌う。「面倒くせぇ」「ダリぃ」「勝手にしろ」だけで会話が成立することもある。あと「知らねぇよ」か。幼い頃からなに1つ変わらないある意味凄い獣人。
「急に来て悪かった。じゃあな」
「別に構わねぇ。酒飲む約束忘れんなよ」
「その話、まだ生きてたのか?」
「当たり前だろうが!とぼけんな!」
「とぼけてはいない」
適当に相槌を打ってマードックと別れる。ボクの予想だとこの話が実現することはない。あれから何ヶ月経ってると思ってるんだ。
外に出て思案する。ココに来る前に訪ねたけど、冒険中なのかオーレン達も不在だった。待つのはいいけど落ち着かない。次はラットに会いに行ってみようかなぁ?
「…よし」
次に訪れたのは、久しぶりにきたアニマーレ。サマラの仕事ぶりを見つつ、話せる時間があれば相談するために来た。店に入ろうとして…。
「ウォルト!」
「え?」
顔を向けると、匂いも届かないほど遠くからサマラが駆けてくるのが見えた。相変わらず驚くほど足が速い。
キキーッ!と目の前で急停止する。
「店の前だから恥ずかしいと思ってハグはやめといたよ!どしたの?」
「サマラに相談したいことがあってきたんだ」
「私に?どんときなさい!」
「少し時間ある?」
「少しならいいよ」
「ところで、どこに行ってたんだ?」
「ふざけたウザ男をぶちのめしてた。もとい!眠って頂いた!」
丁寧に言い直しても結果は変わらない。サマラに事情を説明するとニンマリ笑った。
「なるほど!チャミライさんに休みもらってくるからちょっと待ってて!」
「なんで?まだ仕事だろう?」
「私も行くからだよ」
「いい案が思い浮かばなかったから相談に来ただけなんだ。迷惑かけるつもりじゃない」
「別にいいって!いろいろちょうどよかった!」
「いろいろって?」
「まぁ、待ってなさい!」
店内に戻ったサマラは5分と経たずに戻ってきた。
「半休もらってきた!のんびり付き合えるよ♪」
「急に来て申し訳ない」
「いいよ!チャミライさんはウォルトに関することは寛大だし!私も滅多に休まないし!」
有り難いけど、チャミライさんにお礼をしよう。
「それにしても偶然って恐いねぇ~!私の日頃の行いがいいからかな!」
「偶然ってなにが?」
「まずはこっち来て♪」
笑顔のサマラに付いていくと、路地裏でうつ伏せに倒れている男がいた。もしかしなくても、さっきサマラが言ってた奴か。
服装を見て気付く。コイツ……まさか…。
「じゃ~ん!運命に、導かれたよう、殴っておいた、偽サバト!」
「やっぱりそうなのか」
サマラの口調がちょっとリズミカルなのは置いといて、男は白猫のお面にローブを着て倒れてる。ただ、かなり雑な作りで似ても似つかない。ふざけてるのか…?
「俺は噂の魔導師サバトだ!…って雑なナンパしてきたから、本物を知ってる私としてはふざけんなってなるよね!」
「魔法を使うって話だったけど」
「なにか詠唱しようとしてた。けど、遅くって欠伸が出たよ。前にカンノンビラで見たの思い出して一瞬で頭にきてさ」
魔力に敏感で、魔導師が詠唱する前に殴り倒す力がサマラにはある。至近距離で魔法を届かせるのは相当な魔導師か不意打ちでもない限り無理だし、魔法を悪用する奴に同情の余地はない。
「噂の偽物なのか確認してみる。その前に…」
誰もいないことを確認して、魔法でサバトの姿に変装した。
「それが本物のサバトの衣装か~。全然違うね」
「コイツのは作りが雑すぎて頭にくる」
「怒ってるのはそこなの?」
「もちろん違う」
のびている男の髪を掴んで引き起こす。
「ぐあぁぁっ…?!なんだっ?!」
「誰だかわかるか?」
目を覚ましたので顔を近付けると、偽サバトはマスクから覗く目を見開いた。
「まさか……サバト…?」
「人の名前を騙っていろいろとやってくれたらしいな」
右手に『火焔』の火球を発現させる。コイツを灰にできる魔力量。
「ひぃっ…!お、俺はなにもやってないっ!」
「子供を騙して小銭を稼いでると聞いた」
「ち、違うっ!」
動揺を見せながらも偽サバトは魔力を高める。反抗する気か。首を正面から掴んで詠唱した。
『魔力吸引』
「ぐうぅ…」
1滴残らず魔力を吸引する。普段はオーレン達の魔力を吸い取るときくらいしか使わない。他人相手では久しぶりに使った。フレイさんの魔力弾を吸収したとき以来で、大したことない魔力量と質。
どの程度の魔法使いか直ぐに理解した。
「まだやるか?」
「くそっ…。離せっ!」
「いいだろう」
声が漏れないよう『沈黙』を展開して、何発か殴る。
「がはぁっ…!」
「子供に怪我をさせたな…?お前も同じ目に遭わせてやる…」
「あのガキ共はしつこく騒ぎやがったんだよ!黙って騙されとけば殴らなかった!」
やっぱりコイツの仕業で間違いない。犯罪者としては小物中の小物だが、所業は悪質極まりない。サバトを騙った挙げ句、魔法を悪用して子供を傷付けた。ゲスで許し難い行為。ボクが大嫌いなことのオンパレード。
「逆ギレか、クズが…。ウラァァッ!」
「ごばぁぁ!…がっ!」
這いつくばった男の背中に手を添える。
「二度と魔法を悪用できないようにしてやる」
「ぐぁっ…。なんだっ…?!」
魔力回路を徹底的に破壊して、『睡眠』『混濁』を付与した後、道から見えやすい場所に放置しておく。『覚醒』されない限りない2、3日は起きないだろう。
「気が済んだの?」
「本当は殴り殺したいけど、後は衛兵に任せる」
「そっか。いいんじゃない」
衛兵は各地で奮闘してるらしいし、今は他にやらなくちゃならないことがある。
「次は怪我させられた子供を捜してくるよ」
「それも私に任せなさい!」
「どういう意味?」
サマラはニシシ!と笑った。
★
「サマラの奴、なんだっつうんだ」
「ボクにもわからない」
「ちっ…!酒飲んでくるぜ」
「悪いな」
サマラに「家で待ってて!」とだけ言われ、とりあえず待つことに。ボクと一緒に居たくないのか、マードックは居たたまれない様子で直ぐに出ていく。出不精な狼なのに悪いことをした。
「ただいまぁ~!お待たせ~!」
玄関からサマラの声が聞こえて出迎えに向かうと、小さな男の子と女の子の手を引いている。
「…サマラ姉ちゃん」
「…この人、だれ?」
「アンタ達が会いたがってたサバトだよ!」
「「えっ!」」
「サバト!この子達がアイツに怪我させられたの!」
そうか…。サマラはこの子達のことを知ってたのか…。それで目立たないように連れてきてくれた。変装して待ってろって言ったのは、こういう意味だったんだな。しゃがんで視線を合わせる。
「こんにちは。ボクはサバト」
「ホントに…?」
「ほんもの…?」
サマラの足の後ろに隠れる。怖い思いをしたから当然だ。
「ボクの偽物が怪我をさせてゴメンね」
よく見ると2人とも顔に新しい傷がある。可哀想に…。なんとかしてあげたい。
「お詫びに2人の傷を治させてくれないかな?」
「「………」」
「マリー。ヤット。このサバトは本物だし、優しいから心配しなくていいよ!治してもらいなさい!」
「う、うん…」
ててっと前に来てくれた。顔にそっと手を翳して傷を治癒させる。
「はい。綺麗に治ったよ」
サマラから鏡を借りて顔を見てもらう。
「…ほんとだ!きれいになおってる!」
「すご~い!」
「こんなことしかできないけど」
「ほんもののサバトはすごいや!」
「すっごいね!」
「凄くはないけど褒めてくれてありがとう」
頭を撫でると笑ってくれた。可愛いなぁ。やっぱり子供には笑顔が似合う。
「マリーとヤットは本物のサバトの魔法が見たいんだってさ」
「ボクの魔法でよければ見せるよ」
「「みた~い!」」
「じゃあ、楽しんでもらえるよう頑張るよ」
居間で魔法を披露すると喜んでくれる。なぜかサマラも大興奮。
「サバトのまほうは、かっこよくておもしろい!!こんなのみたことない!」
「それにきれい!おはなもよぞらもすごいよ~!」
「よっ!サバト!かっこいいぞ!」
楽しんでくれてよかった。もっと楽しんでもらえるように魔法を磨きたくなる。満足してくれるまで魔法を披露した後は、サマラに食材の買い出しをお願いして作ったおやつを食べてもらう。
「めちゃくちゃおいしい!」
「さばとは、りょうりもすごいの~!」
「蕩けそうな美味しさだね!最高!ねっ!」
「「ねっ♪」」
こんなことでお詫びになるかわからないけど、笑ってくれたことで救われた気がする。その後、マリー達を家まで送って戻ってきたサマラを料理でもてなす。
「うんまぁ~い!」
「それはよかった。今日はありがとう。本当に助かったよ」
「気にしないで!マリー達には「サバトがたまたまフクーベに来たのを見つけた」って言っといた!会ったのも内緒にしてくれるってさ!残念がってたけど帰りも楽しそうだったよ」
ボクもクローセや孤児院で一応お願いしてるけど、実際は子供に口止めは意味ないと思ってる。そもそも、ボクに会ったことなんて自慢にならないし言わないと思うけど。
「楽しんでくれたならなによりだ。それにしても、サマラが2人を知ってて助かった」
「怪我してるあの子達を見つけたのは私だからね。ウォルトを見かけなかったら、偽物を引きずって詰所に行くとこだったんだよ。だって許せないでしょ!」
「そうだったのか」
「あの子達に「サバトに殴られた」って聞いたから、本物は違うって教えてたの。信じてくれてよかった!」
嬉しいな…。
「サマラのおかげだよ。ありがとう」
「ふぉうひぃたひまひて!」
「なに言ってるかわからない」
『どう致しまして』かな?
「サマラは美人なのに気取らない。子供にも優しくて、いつだって元気で天真爛漫なところが魅力的だよ」
「ぶっふぉっ!?ごぼっ…ごほっ…!突然、なにっ?!」
「思ったことを言っただけだよ。心を読まれるからできる限り口に出すことに決めたんだ。今のも内心思ってるのがバレると恥ずかしいだろ?」
「ごほん…。そっか…。嬉しいけど不意打ちはよくないよ!照れるじゃん!」
「そう思ったんだから仕方ない」
「反省の色がないね」
「反省する要素がないよ」
サマラには改めてお礼をしないとな。
「私には必要ないよ。どれだけもらってると思ってるの?そんなつもりで手伝ってないし」
お返しとばかりに心を読んでくるな。マードックには…美味しい酒がいいか。チャミライさんには甘いモノがいいかな。
サマラと別れて、フクーベの街を歩きながらある看板が目に付いた。
【真実の扉 フクーベ新聞社】
ふと思いつく。上手くいく自信はないけど、お願いだけでもしてみるのはありかな。一旦住み家に帰って準備を終えフクーベに戻ってきた。時間はもう遅いけれど、明かりが点いてるから誰かいると思う。行ってみよう。
新聞社のドアをノックすると、「開いてるよ」と男の声がした。「失礼します」と断って中に入る。咥え煙草で机に向かい、黙々と原稿を書いている新聞記者がいるけど、ボクには目も向けない。
「誰だ?忙しいんだ。用件を言ってくれ」
「夜分遅くにすみません。サバトと申しますが、アヴィソの方ですか?」
「そうだが………サバトだとっ!?」
男は鋭い視線を向けてきた。サバトの衣装を取ってきて、『隠蔽』で誰にも見られずに来た。
「お願いがあって来ました。約束はありません」
「お前は……本物か…?」
「立証はできませんが、偽サバトが世間を騒がせてると聞いて伺いました」
「…質問させてくれ。スザクさんに最後に会ったのはどこだ?」
「スザクさんですか?四門の皆さんと一緒に悪魔の鉄槌でお会いしました。21階層ですね」
「なにか約束しているか…?」
「酒と食事を奢ると言ってもらいましたが」
「…俺はツァイトだ。話を聞こう。座ってくれ」
「はい」
ココを訪ねた理由を説明する。
「つまり、お前はその格好以外で出歩くことはない。だから読者に正確に伝えてほしい…ということか?」
「その通りです。偽物による被害が少しでも減ればと思って。突然ですみません」
「それは構わないが、容姿を言葉で表現するのは難しいな…」
「コレならどうでしょう?」
こんなこともあろうかと、住み家から持ってきた魔力紙にサバトの容姿を一瞬で焼き付ける。
「今のはなんだっ?!どうやった?!」
「簡単な魔法です。この姿絵なら使えませんか?必要な枚数を焼き付けますが」
「充分使えるが…新聞に載せるとは一言も言ってないぞ。逆に正確な模倣をされていたちごっこになる可能性もある」
言われてみれば確かにそうだ。それに、この程度の事件は新聞に載せるほどではないと思われて仕方ない。もっと重要な記事があるはず。
「諦めます。お時間とらせて申し訳ありませんでした」
こんなこともあろうかと第2案も考えていた。ボリスさんに渡して、衛兵の間で情報を共有してもらえば少しは偽物を捕まえる役に立つはず。
「ちょっ…!待てっ!やらないとは言ってない!その紙を渡してくれっ!」
「大丈夫です。他に当てがあります。そちらにお願いするのでお気遣いなく」
「俺が上に話を通して必ず説得してみせるっ!だから任せてくれっ!」
なんて熱い記者なんだ…。初対面の怪しい猫マスクの要望なのに、信用してくれて真摯に耳を傾けてくれてる。だからこそ迷惑をかけたくないな。
「聞かなかったことにして下さい。厚意は有り難いんですが、ツァイトさんに迷惑はかけられません」
急に現れた不審者の話を信じて、黙って聞いてくれただけで気持ちが晴れた。
「サバト!頼むから待ってくれないか!?一旦落ち着こう!」
「落ち着いてます。二度と頼まないので安心して下さい」
「そうじゃない!教えてほしいことがあるんだ!お前の種族とか…住んでる町とか!」
「素性は言えません」
「わかった!だったらせめて顔を見せてくれないか!?何人か見たと聞いてる!お願いだっ!」
「顔ならいいですよ」
猫のお面を外して、魔法で作った爛れた顔を見せる。
「オ……オェェェ~ッ!!オ、オ……オェェ~ッ!」
懐かしい反応。実際ボクはそんなに酷い顔じゃないと思ってる。師匠に燃やされて何度かこの顔に近い姿になってるから複雑な気分。
それにしても、自分から見たいと言ったのにツァイトさんはひょうきんなアヴィソだなぁ。思わず笑ってしまいそうになった。
「話を聞いてくれてありがとうございました。では失礼します」
「サバト~!待ってくれぇ…!うっぷ…!おえぇぇ~!」
外に出るなり直ぐに駆け出した。
★
後日、詰所でボリスさんに姿絵を渡した。
「確かに預かる。かなり有用だ。それと、フクーベの偽サバトは捕まえたぞ。模倣犯が出現しないよう厳しく罰してやる。誰かが先に成敗したみたいだがな」
やっぱりボリスさんはボクという獣人を理解しようとしている気がする。そうであれば、少し考えを改めないといけないのかもしれない。




