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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
418/715

418 負の遺産

 遡ることおよそ400年前。


 独裁者セロを首領として、カネルラ王国に侵略戦争を仕掛けた隣国【ブロカニル】。現在では地図上から消滅し、プリシオン公国に吸収されてしまっている。

 カネルラを含む隣国に一斉に戦争を仕掛け、激しい戦闘の末、謀反により大戦は終結を迎えた。かつてのブロカニル国民は、セロの支配下にあったとはいえ戦犯として迫害を受け、戦後プリシオンの他多くの国に散り散りになる。

 時代毎に虐げられてきたブロカニル国民の子孫の中には、時を超えて過激な思想を抱き続ける者達がいた。


 祖国ブロカニルの復活を願う者が。



 ★



「おい。イスト。お前、やる気あんのか?ダルそうに歩きやがって」

「あるから付いてきた。ないならこんな場所まで来ない」

「おい!ノーザン!思った以上に遠いぞ!テメェの情報はどうなってんだ?!」

「うるせぇ。森が広いのは当たり前だろうが。サウス、お前が鈍足だからだ。このデカブツがっ」

「なんだと、テメェ!」

「お前らは静かにできないのか」

「ちっ!」

「スカしやがって!」


 どこにいてもうるさい奴らだ。だから、普通に観光を装ってくればよかったんだ。カネルラは平和ボケして他国民に対する警戒が薄い。小国であるのもそうだが、国民気質が暢気で400年前の侵攻でもかなり押し込んだと伝わっている国。

 ただ、暗部と呼ばれる組織が常に各地で目を光らせている。コイツらは厄介だ。だから夜の闇に紛れて国境を越え、森に忍び込んだものの一向に抜ける気配がない。


「今どきこんなデケぇ森が残ってるっつうのは、世界の流れに逆行してんじゃねぇか?国土は小せぇくせに、この大きさは相当占領してんだろ」

「自然を愛し、無駄な発展を望まないというのが古くからカネルラの思想だ」

「そうかよ。クソみてぇな話だ。いつまでものほほんと生きやがれ」

「俺が今すぐ燃やしてやろうか!焼け野原っつうやつだ!明るくなるだろ!」

「やめておけ。それこそ直ぐに警戒が強まる。カネルラは小国だが決してバカな国じゃない」


 カネルラは、先の戦争以降、侵略に遭ってない。たまたまや単なる幸運ではなく、戦争の教訓を活かして、隣国との同盟関係を強めながら騎士団や暗部を含めた戦力の強化を図って特に情報戦において優秀だからだ。

 他国の動向を常に探り戦争を未然に防いでいる。国内に入り込んだ不穏分子も情報を掴んできっちり始末しているはず。

 暢気に見えてやることはやっている。それがカネルラの強さであり、国民の愛国心も高い。いざとなれば冒険者や魔導師も国のために闘うと言われている。国民総戦力とでもいうのか。そこだけ脅威だ。


「とりあえず、しばらく見て回るか」

「いい女がいたら遊んでもらおうぜ!」

「森にいるワケねぇだろうが!」

「あまり目立つ行動はするなよ」

「おい、イスト。俺らはこの国を乗っ取るための下見に来たんだぜ?なんでも吟味してみなくちゃだろ?女もそうだろうがっ!」

「たまにはいいこと言うじゃねぇか!」

「たまには余計だ。アホ」

「…勝手にしろ」


 能天気な奴らだ。完全にカネルラを舐めている。だが、俺達ブロカニル人の間では『カネルラにだけは負けない』という風潮があるから仕方ない。戦争で押し込んだという過去の栄光だがな。結局、国がなくなったのはブロカニルだ。


「おい。なにずっと考え込んでんだ?まさか、今さら怖じ気づいてんのか?」

「ふざけるな。怖じ気づく理由がない」

「ちっ!格好つけやがって!」


 ノーザンとサウスとは、幼い頃から貧困街で共に育ってきた腐れ縁。コイツらがいたから生きているとも言える。今では、プリシオンの首都において元ブロカニル人で結成された地下組織の一員。はぐれ者が作った組織で、盗み、恐喝、殺し、なんでもやる。


「それにしても、俺らだけとはな」

「腰抜けしかいやしねぇ!黙って死んでいきやがれ!」

「ブロカニル人ってだけで酷く扱われてるっつうのに、アイツらはまだ夢見てやがる」

「動きもしねぇでなにか変わんのか?変わんねぇだろ!」

「動きたくない奴は動かなければいい」

「お前は物分かりがよすぎるぜ」

「甘ぇんだよ!ちゃんと考えてんのか?!テメェは頭いいんだろうが!」

「お前らよりは考えてる。組織のこともな」


 組織と言えば聞こえはいいが、いつ壊滅させられてもおかしくない脆弱な集団。それなのに動こうとしない上層部に、俺達はしびれを切らして行動を起こした。

 暴力で何人殺そうと、集団で女や金塊を略奪しようと、所詮は烏合の衆。終わるときはあっという間。

 今の俺達はプリシオン上層部から『壊滅させる必要すらない』と判断されてる。泳がされているのが丸わかりだ。俺達より有名で、国の転覆を目論むような反逆者は他にいる。


 要するに小物中の小物。ブロカニルの残渣。雑魚だという認識。このまま…舐められたまま泥の中で命を終えてたまるか。

 

「俺らだけでも国盗りできるんじゃねぇか?まぁ、そのつもりで来たけどよ。城に乗り込んで国王をぶっ殺してやっか」

「王都に行ってやっちまうか!」

「お前らが死ぬのは勝手だが、俺を巻き込むな。やるなら勝手にやれ」

「ちっ!ちょっと頭がいいぐらいで調子に乗るんじゃねぇぞ!」

「テメェは昔っから気に入らねぇんだよ!」

「なんだ…?やるっていうのか?」

「…ちっ!クソが!」


 コイツらは脳筋だが、引き際を間違えないから生き残っている。そんなところは賢い。


「俺は今回の潜入でカネルラを転覆させられるとは微塵も思ってない。お前らは相手を舐めすぎだ」

「なんだ?ビビってんのかよ」

「へっ!口ばっかだな、テメェはよ!」

「なんとでも言え。やるなら止めはしないが俺を当てにするな」


 腕っぷしだけは強いから困る。そこら辺の冒険者ぐらいなら軽く瞬殺できる力で、相手を選ばず野良で鍛え上げたケンカ殺法でのし上がった。


 コイツらは人を殺すことに無感情で躊躇しない。殺さなければ殺されるような貧しい環境が俺達を育てた。ただ、血気盛んなことはいい方向に働くこともあるが、大方悪い方に働く。今回の同行にも不安は山積み。

 コイツらはとにかく後先を考えず行動するからな。不測の事態が起これば盾にして迷わず切り捨ててやる。俺の目的は、カネルラの現状の確認と組織の拠点を作れるかの視察で、わざわざ殺されに行くことじゃない。

 王城には騎士団や暗部、その他にも猛者がわんさかいるはずだ。3人でどうこうできるワケもない。プリシオンでも同じだというのに、コイツらは能天気に一本調子。


「しっかし、暗くてなにも見えねぇ。野宿するしかねぇか」

「別にいいが、せめて森を抜けてからにするぞ。魔物に殺されたくない」


 かなり歩いているが手元にはコンパスしかない。方向は合っているはずだが、中々森を抜けないことに苛立っている。


「…おい、見ろよ。家がある」

「なんだと…?」


 ノーザンが指差した先には立派な家が建っていて、窓から漏れる明るい光は誰かが住んでいることを示している。


「ちょうどいいぜ。腹減った。襲うか」

「いいな!抵抗するなら殺しゃいい!寝床も確保できるぜ!」

「やめろ。目立つなと…」

「うるせぇ!だったらテメェは外で寝ろ!飢え死にしろや!」

「若い女がいたら最高だぜ」

「こんなとこにいるワケねぇだろうが」


 ちっ…。面倒くさい奴らだ。森の一軒家の住人が消えても、直ぐに騒ぎにはならないだろうが……ひどく嫌な予感がする。この感覚は…なんだ?


 

 玄関の前に立ち、ノーザンがドアをノックする。


「ウォルトさん!私が出ます!」


 中から女の声が聞こえた。声に若さを感じる。


「くくっ!ツいてるぜ。おい、イスト」


 サウスが耳打ちしてきた。


「…いいだろう。手短に済ませろ」


 ドアノブが回り、女が勢いよく開けると同時に俺は『睡眠』を詠唱した。倒れ込む若い女を肩に担いで、一旦家を離れる。


「上手くいったぜ!まずはたっぷり楽しませてもらうか!かなりの上玉だ!乳もデケぇ!」

「こんな森に若い女がいるとはな。交替でヤるぞ。ちゃんと見張っとけよ」


 家から見えない場所まで、気を失った女を運ぶ。コイツらの常套手段だ。いきなり家に押し入ると、思いがけない反撃を食らうことがある。だから、まずは外で楽しんだ後、心配して探しに出てきた奴らを1人ずつ血祭りに上げる。


「さて、楽しませてもらうかぁ!」

「俺が先だろうがっ!」

「どっちでもいい。早くしろ。直ぐに気付かれるぞ」


 さっき『ウォルト』と名を呼んでいた。あの家には男がいる。用心するに越したことはない。


「わかってるよ!うるせぇな!」


 ノーザンが女の服を脱がせ始めた。一応、見張っておいてやるか…と、家の方向に目を向けた瞬間……影が傍を駆け抜ける。


「なんだ?!」


 振り向くと…男が立っていた。黒い服を着ているが、暗闇でもハッキリ見える白い毛皮。後ろ姿しか見えないが三角の耳がピンと立っている。


 獣人…。匂いを辿ってきたのか。警戒を解かずに、音もなく腰に挿している短剣を抜く。獣人は夜目が効く。さらにココは森の中。コイツらの領域。

 だが、こちらは3人。多勢に無勢。しかも挟撃できる態勢。獣人1人殺すのは容易い。


「ノーザン!サウス!」


 ……返事がない。


 ピクリと耳を動かした獣人は、ゆっくり振り向いた。


「……っ!?」


 獣の表情をした獣人は、両手にノーザンとサウスの頭部をぶら下げていた。髪を掴んで、鋭く切り落とされた首から血が滴っている。

 いつの間に殺した…?コイツらは声すら上げなかった。武器も持たずに一瞬で切り落としたというのか…?


「お前らは……何者だ…?」


 愉悦の表情を浮かべたままの生首を棄てるように放り投げ、静かに訊いてくる声に背筋が凍る。


「何者でも…いいだろう…」 


 気合いを入れないと足が震える…。コイツはヤバい…。過去に感じたことのない圧倒的な恐怖。胃液が逆流して吐きそうだ。強者というより、得体の知れないモノと対峙している感覚。

 ここまで強烈な恐怖を纏う者はプリシオンの特殊部隊にもいない。脳が警報を鳴らし続けている。


「話を聞かせてもらう」

「お前に…言うことなどない…」

「そうか。『睡眠』を使ったのはお前だな?」


 なんだと…?魔法を見抜く目…。コイツは…何者だ…?とにかく、闘っても間違いなく殺される。隙を見て逃走するしかない。


『破砕』


 素早く詠唱する。威力は抑えて速度重視。距離をとれるだけでいい。その間に次の手を考える。


「なっ…!」


 魔法は掻き消されたように霧散し、獣人はグッと膝を曲げた。間合いを詰めてくるつもりか!?


「ちっ…!」


 気を逸らそうと短剣を獣人に向かって投げたが、力なくポトリと地面に落ちる。身体が重くて動かない…!まるで『鈍化』…。


「ウラァァッ!」

「ぐふぅぁっ…!」


 駆けてきた獣人から顔面にまともに膝蹴りを受け、意識を失った。




 目を覚ますとまだ森の中。木に寄りかかって座らされている。動かない身体で目だけ動かすと、首のな2人の死体が見えた。眠らせた女の姿はない。ザッ……ザッ……と葉を踏みしめる音が近づいてくる。見上げると猫の獣人と目が合った。


「お前らの目的はなんだ…?ボクの家になんの用だ…?」

「誰が言うか…」

「そうか。言いたくなるまで付き合ってやる」


 獣人が俺に向かって手を翳した次の瞬間、身体中に数え切れない針が突き刺さっていた。


「ぐあぁぁぁぁっ…!」


 針は細いのに、痛覚を何倍にも尖らせたような激しい痛みが襲ってくる。コイツは一体なにをした?!この魔法のような針はなんだっ?!どこから現れたっ…?!


「喋りたくないのなら黙っていればいい。できるならな」


 猫の獣人は…凶悪に嗤った。


 



「言う…。言うから……やめろ…」

「次は片足ずつ切り落としてやる。その後は腕だ」


 猫野郎は…俺の懇願に一切耳を貸さない。ビードロのような碧い瞳から微塵も慈悲など感じない。獣の表情は消え去り、今はひたすらに冷たく俺を見つめている。

 一切容赦せず決して殺しもしない。俺の気が狂うか、喋るまで続けてやると顔に書いている。


 コイツは…カネルラ暗部か…?謎の力を操るイカれた白猫野郎。獣人がいるとは聞いてないが、暗部は特殊な技能を操ると聞いた。

 精神が明らかにそこらの獣人とは違う。普通の獣人なら苛立ってとうに殴り殺されているはずだ。面倒臭がりで無駄に人を嬲るようなことはしない。

 それなのに、コイツは目に見えないなにかで1本ずつ俺の手足の指先を切り落とし、あまりの痛みに気を失いそうになると、殴られて即座に起こされる。身体が重くて反撃もできない。このままでは、死への一本道。


 だが、なんとか隙を見つけてやる…。


「俺達は……ブロカニル人だ…」

「…なんだと?」

「プリシオンから来た。カネルラを偵察にな…」

「カネルラを偵察…?住み家となんの関係がある?」

「俺達の今日の寝床と…お前が殺した2人の性欲を満たすタメに……通りがかってたまたま選ばれただけだ…」


 目を細める獣人。


「国境を越えて動物の森に潜み、偶然ボクの住み家を見つけたから襲った。こういうことか?」

「そうだ…。それ以上でも以下でもない」

「偵察の目的は?」

「お前らカネルラ人を抹殺する…と言いたいが、ブロカニルを復興する足掛かりにするタメだ…」

「またカネルラに侵攻する気か。400年前のように」


 ……またかっ。うんざりだっ…!


「そんな昔のことなど知るかっ…!お前も同じだろうがっ…!」

「カネルラをめちゃくちゃにしておいて知らないだと?」

「生まれる遙か前の話だっ!先祖共がしでかしたことなど、俺達の知ったことじゃない!戦争も知らない俺達が…なぜ生まれて直ぐに迫害されなくちゃならないっ!はた迷惑な話だっ!お前になにがわかる!立派な講釈は聞き飽きた!」


 ブロカニルの先祖共がしでかしたことで、末代まで迫害され続ける。子孫に罪があるか?!バカげてやがるっ! 


「俺達は……ブロカニル人であることから逃れられない!だったら…祖国を復活させてやる!」


 ブロカニル人の……クソガキ共が堂々と生きていけるような国を作ってやる!


「なるほどな。お前達の他にもカネルラに入り込んでいるのか?」

「さぁな」

「街でも同じことを繰り返すつもりだったのか?」

「知らん」

「お前は正直者だな」


 鼻を鳴らしてそんなことをほざく獣人。


「獣人……満足か…?」

「あぁ」

「じゃあ…さっさと()れよ!簡単だろうがっ!」

「言われるまでもない。お前の夢は誰かが継ぐだろう」

「はははっ!俺が死ねば仲間が異変を察して直ぐにお前を殺しにくる!精々怯えて待ってろっ!」


 ただの戯言だが、獣人は動揺を見せず逆に滑稽だと言わんばかりにククッと笑う。


「なにがおかしい…?」

「もし報復に来れば、プリシオンに潜むブロカニル人を1人残らず根絶やしにしてやる」

「バカかお前は…。できもしない妄想を」

「お前らは特有の匂いがするうえに迫害されている。さぞ探しやすいだろう。老若男女関係なく…皆殺しだ」


 …クソ猫がぁっ!とんでもない野郎に絡んでしまった。コイツは過去に会ったことのないイカレ野郎。ブロカニル人を皆殺しなどできるはずないが…虚言だと思えない。なんなんだコイツはっ…!


 嫌な予感が的中した。あの時ノーザン達を制止できていれば違う未来もあっただろうが、全て今さら。後悔しても遅い。


「獣人…。最後に教えろ。俺達は…お前の女に手を出したから殺されるのか…?」


 蔑むように笑ってみせる。


「気が済むように排除するだけだ。彼女はボクの女じゃないが、守るべき存在なんでな」

「ふはははっ!それだけでここまでやるお前は大した善人だ!拷問好きの…人殺しがっ!服を脱がされただけの女を守るために、首まで落とす必要があるのかっ!」

「彼女の記憶に消えない傷を負わせようとしたお前達は死に値する。過去の所業を忘れ、暢気に生きるブロカニル人には心的外傷(トラウマ)など理解できないか」

「知ったような口を…!」

「善人のお前に1つだけ言っておく。魔法を悪用するな」


 魔法を使えない獣人のくせに…誰に向かって偉そうに説教してる!黙って殺されると思うなっ…!ガサガサッと草むらから音が響き、獣人が視線を向けた。


 隙ができた。燃えろっ!


『火炎』


 気付かれないよう魔力を高めて、地面を這いながら外方を向く獣人に放った。


「…ぐあぁぁっ!なぜだぁっ…!」


『反射』されたように我が身に降り注いだ。躱すこともできず身体が燃え上がる。


 魔力を消せば…!…消えないっ?!熱いっ…!肉が灼けるっ…!


 炎で視界が赤く染まる中、声が聞こえた。


「舐めるなよ…。自分の魔法に焼かれろ…」

「クソ獣人っ…!なにをしたっ!なんなんだ、お前はっ…!この…化け物がぁぁっ…!」


 プリシオンでも何人ものいけ好かない魔導師を魔法で殺した。我流のような魔法でも自信があった。なのに、なぜ獣人のコイツに魔法が届かないっ!肉が焼ける匂いの中で、獣人の声が聞こえた。


「祖国を復興する気なら余所でやれ。カネルラに狙いを定めたお前らの思考が気に食わない。たとえ戦争を知らない世代でも、お前らブロカニル人はなに1つ変わってない」

「クソッタレがぁぁっ…!知ったような口を…!貴様に…ブロカニルのなにがわかるっ!」

「ただ1つわかるのは、お前らがクソ野郎だということだけだ。下らん不幸自慢はあの世で先祖に聞かせろ。お前らが殺したカネルラ人に殺されたとな」

「ぐぅぅうああぁぁ…!」


 こんな化け物が…森にいると誰が予想できるんだぁっ…!



 ★



「う…ん…。あれ?私、なんで寝てるの?」


 アニカはいつの間にかベッドの上にいた。


「アニカ、おはよう」

「目が覚めた?」


 横を向くと、ウォルトさんとお姉ちゃんが並んで椅子に座ってる。


「ウォルトさん、おはようございます!お姉ちゃんもおはよ!」


 よくわからないけど、挨拶しておこう。微笑んでお姉ちゃんが訊いてくる。


「まだ夜なんだけど、なんで寝てたか覚えてる?」

「なんで?…なんでだっけ?」


 確か……誰か訪ねてきたから玄関に出迎えに行って、ドアを開けたとこまでは覚えてる。その先の記憶がない。


「誰か訪ねてきたから私が迎えに行ったよね?でも、なにも覚えてない。摩訶不思議」

「覚えてないなら無理に思い出さなくていいんだ」

「気にしなくていいよ」

 

 うん?2人はホッとした顔してる。心配してくれてたのかな。


「とにかく、ご心配おかけしました!」

「そんなことないよ。今日は、もし眠れなかったりしたら添い寝するから言ってほしい。逆に、顔を見たくないなら遠慮せずに言ってくれないか」

「えぇ~!?そ、添い寝なんて、いいんですか?!」

「ボクがしてあげたいんだ」


 突然の添い寝チャンスが舞い込んできた。でも、いやらしい意味じゃないのは確実。


「じゃあ、がっつり添い寝をお願いします♪お姉ちゃんも一緒に寝よう!」

「もちろんだよ」


 やったね!クローセから帰ってきて直ぐにいいことが起きた!理由は不明だけど、多分さっき訪ねてきた人のおかげだ!


 私は、初めて起きているウォルトさんの腕の中で眠った。控え目に抱きしめてくれる手が温かくて最高!頭も優しく撫でてくれて、危うく愛を告白しそうになった。

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