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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
414/714

414 色々と試してみるのもいい

 ある日の昼下がり。ウォルトの住み家の玄関ドアがノックされる。


「いらっしゃい」

「遊びに来たよ」


 ドアを開けるなり素早くハグしてきたのはチャチャ。ウォルトもそっとハグする。


「今日は来てくれると思ってたよ」

「そうなの?」

「後で意見を聞きたいんだ。修練とか全部終わってからね」

「いつでもいいよ」

「今日は泊まるの?」

「もちろん泊まる」

「そっか。長く一緒にいれるね」 

「…普通に聞いたら相当ドキドキする台詞なんだけどね」 

「なにが?」

「なんでもないよ」


 ひとまずチャチャと花茶を楽しんで、お裾分けしてもらった肉を使って昼ご飯を作る。食べ終わって少し休憩した後は組手の修練。


「おりゃぁ!」


 チャチャは着実に強くなっていて、特に瞬発力は目を見張る。まだ弱いけれど筋力も向上してきてる。生来の負けず嫌いと、頭の回転の速さが成長の要因。その内、手甲でも作ってあげようかな。


「はぁ…はぁ…。まだだよ!」


 今は攻撃を見切って躱しているけど、攻撃を受け止める必要があるときは『身体強化』しないといけなくなる日も近い。


「どうだった?」

「かなり動けてる。でも、まだ間合いの詰め方が甘いかな」

「どうすればいい?」


 反省会をするのも恒例。互いの意見を次の修練に活かして技量の向上を目指してるけど、チャチャはいつもボクの予想の上をいく。いつも軌道修正を余儀なくされる賢くて凄い女の子だ。

 組手を終えると、今度はボクが狩りを教えてもらう。チャチャ曰くちゃんと上達してるらしいけどいまいち実感がない。


 休憩中に気になった点を教えてもらって、しっかりイメージする。狩りを再開して粘ってみたものの残念ながら今日も成果はなし。

 チャチャは1発必中で晩ご飯のおかずを仕留めた。いつものことだけど、本当に見事な腕前。チャチャにとっての狩りは、特殊な生態の標的じゃない限り獲物を射程距離に捕らえたらほぼ成功が約束されたも同然。


「兄ちゃんは腕を上げてるからね。心配いらないから!大丈夫!」

「ありがとう」


 優しい師匠はいつも励ましてくれる。魔法も狩りも、モノづくりも師匠に恵まれたボクは幸せ者だ。そんな狩りの師匠に後で助言をもらいたい。

 



 夕食を終えて、一休みした後チャチャに訊いてみる。


「チャチャにお願いがあるんだ」

「意見を聞きたいって言ってたね。なに?」

「新しい弓を作って練習したいと思ってる。アドバイスしてほしい」

「今までも何度か作ってるよね?カズ達の弓も作ってくれたし」

「作りたいのは、カネルラ式の弓じゃなくて他の国で使われてる弓なんだ」

「へぇ~。すっごく気になる。でも、なんで急に?」

「ちょっと言い辛いけど、このままじゃ上達しないんじゃないかと思ったんだ。教えてくれるチャチャには申し訳ないんだけど…」


 チャチャやダイゴさんに教わって、昔より上手くなってる実感がある。でも、最近は前進してる気配を感じない。ずっと足踏みして同じ場所に留まっているような…そんな感覚。


「兄ちゃんの弓はもう限界ってこと?」


 怒ることもなく至って冷静なチャチャ。


「限界だとは思ってない。むしろまだまだだよ」

「うん」

「でも、上達しないもどかしさがあるんだ。弓を変えてみたら新たな発見があるかもしれないと思った。次に繫げる挑戦というか、なんでも試してみたい」


 ナバロさんに弓の本を仕入れてもらった。世界には気候や風土に添って独自に開発された弓がある。その中には、ボクでも操りやすくて命中率が上がる弓があるかもしれない。

 ただ、いきなり挑戦するのは弓を一生懸命教えてくれるチャチャに対して失礼だ。いつも励ましてくれてボクの微かな上達を感じてくれている。

 決して弓のせいにするとか、安易な方法に逃げるつもりじゃない。そう思われたくないからちゃんと伝えておこうと思った。あと、そんなことをして実際に上達に繫がるのか意見を訊きたい。


「いいんじゃないかな」

「本当に?」

「上達するかもしれないなら、なんでもやった方がいいと思う。他の弓の知識は私も知りたい。種類にこだわる必要ないんじゃない?魔法だってそうでしょ?」

「う~ん…。そうなんだけど、ボクはカネルラの弓で狩りをしたい」

「なんで?」

「格好いいから」


 単純な作りで無骨だけど、人類が知恵を絞って初めて編み出した武器って感じがする。そんな弓を操って狩りをしたい。


「私はもっと自分に合う弓があるならそっちを使いたいけど」


 狩人だから実用性を求めるのは必然。ボクみたいに個人的な好みで決めたりしない。


「作ってみて、チャチャの狩りのスタイルに合うようならあげるよ」

「いいの?!」

「じゃあ、今度来たときにでも…」


 笑顔で肩を叩かれた。


「兄ちゃん。やるならいつだと思う?」

「今…かな?」


 適当に答えたのにコクリと頷かれた。チャチャがいいのなら今から作ろう。ボクらはそそくさと作業机に向かう。

 いつでも作れるように材料は準備しておいた。弓ということもあって、チャチャは目に見えてウキウキしてる。


「じゃあ、作るよ」

「隣で見せてもらうね。ところで、作るのはどんな弓なの?」

「一言で表すならいろんなモノが付いてる弓かな」

「なにそれ。すっごく気になる」


 知り合ってから間違いなく今が一番興味を引いてるな。とりあえず今日の内に作れるとは思う。付属してるモノの使い方や価値をチャチャにも判断してほしい。ボクが本で見た限りでは全部有用だけど、取捨選択できるかもしれない。


 

 ー 3時間後 ー



「できたよ」

「………」

「チャチャ?」


 完成した弓を手に取って隅々まで見てる。


「…この部品はなに?」 

「それは重りだよ。射った後の反動を抑えるらしい。あと、こっちは照準を合わせる器具で……」


 疑問に答えながら一通り機能を説明する。基本的に弓の形は大きく変わらない。ただ、形と装備がちょっと厳つい。もう遅いから、試射は明日かなと思っていたら…。


「今から試し撃ちしていい?」

「いいけど、外は暗いよ?」

「大丈夫」


 よっぽど気になるんだな。でも、ボクも気になる。外に出て真っ暗の中で木に的を設置する。雲で見え隠れする月の明かりがボクらを照らす。

 

「いつでも撃っていいよ」

「わかった」


 いつもの距離から矢を放つ。ド真ん中とはいかないけど見事に的を捉えた。さほど夜目は効かないだろうに見事な腕前。


「さすがだね」

「あと何本か撃っていい?」

「いいよ」


 射るほどに矢は中心に近づいてくる。最後の一射は見事にど真ん中を捉えた。


「どんな感じ?」

「この弓、凄いよ。威力はそんなでもないけど、ブレ止めや照準が付いてるから扱いやすいと思う」

「改善点はありそう?」

「今のところない。照準は人それぞれだから、使いやすいように調整すればいいし」

「ボクもやってみようかな」


 コツを教わって射ってみる。すると、確かに照準しやすくて1射目からなんとか的に当たった。


「凄い…」

「だよね。凄く勉強になった。カズ達にも教えてあげられる」


 その後も数本を試射して、今日のところは終わろう。とりあえず判明したことは、ボクは弓を撃つ瞬間に力が入りすぎて、弓を持つ手を無意識に捻る癖がある。

 なぜなら瞬間的に照準器が動いたから。このことに気付けただけでも弓を作った価値がある。


「協力してくれてありがとう」

「どう致しまして」


 住み家に入ってお礼を告げる。


「チャチャはどう思った?」

「いい弓だと思うけど、私は今の弓でいいかな。兄ちゃんは?」

「もうちょっと使ってみないとなんとも言えない。お礼できることある?」

「別にいらないけど、寝る前に『幻視』を見せてほしい」

「そんなことでいいなら…」


 ん…?


「もしかして…同じ部屋で寝るってこと?」

「そうだよ。ダメ?」

「ダメじゃないけど」


 何度か添い寝もしてるし今さらだ。


「やった!添い寝もありだよ!」

「さすがにダメだよ」


 最近、ボクの家に来るときは門限をなくしてもらえたらしい。ダイゴさんとナナさんがボクを信用してくれているということ。いくら成人した女性とはいえ、両親に疑われるような行動はよくない。


「気にしすぎだよ。2人は疑わないから」

「簡単に心を読んでくるね…」


 4姉妹には噓がつけないし、心の内を見抜かれてる。いやらしい考えは持たないようにしないと…。


「別に自然体でいいってば。皆わかってるって言ったでしょ?」

「そうだね…」


 今のも口に出してない…。しかも、可能な限り顔に出さないよう細心の注意を払ったにも関わらず…だ。


 決めた…。こうなったら…もう開き直るしかない。抵抗するのはやめよう。これからは自然体でいく!ハッキリ口に出していこう!


「女性らしさが増して魅力的なチャチャを、凄くいやらしい目で見るかもしれない。それでもいいかい?」


 ちゃんと正直に伝えるからバッサリ断ってほしい。


「いいけど、面と向かって言われると恥ずかしいよ!」

「えぇっ!?いいの?!」

「全然いいよ!でも、急にそういうこと言うのよくないよ!」

「そ、そっか。ゴメン」


 頬を赤らめてる。どういう気持ちなんだろう…?女心は難しい。一生理解できないかもしれない。

 でも、ムッツリスケベ猫だと思われたくないから積極的に伝えていこう。嫌われたって仕方ない。どうせバレてるんだから隠すだけ無駄だ。対暗部だと思えばなんてことはない。嫌なら言ってくれる。そんな間柄にはなれてると思う。


 結果、開き直ったことで気も楽になって仲良く同じ部屋で眠った。





 後日、またチャチャが訪ねてきてくれたとき、作った弓で特訓した成果を見せることに。


「ふぅぅぅ…」


 集中して弓を引く。そして…的に狙いを定め矢を放った。かなり距離は近いけど、ビシッ!と中心付近に矢が突き刺さった。


「やったね!」

「ありがとう。少しコツが掴めてきたんだ。今のもまぐれ感はあるけどね」

「そんなことないよ。ちゃんと狙えてた」


 ボクには照準器付きの弓が合ってる。でも、やっぱりカネルラの弓で上手くなりたいから練習を怠らないようにしなきゃ。


「ところで、チャチャに見せたいモノがあるんだ」

「なに?」


 ボクの寝室に案内する。作った弓を壁に並べて置いていた。


「コレって…」

「本に載ってた弓を作ってみたんだ。よかったら使った感想を教えてくれないか?ボクの感覚だけじゃ自信がない」

「いいの?私は嬉しいけど」

 

 いつも食材をもらいっぱなしでお返しができてない。だから、モノづくりの趣味も兼ねてるのが申し訳ないけど、作った弓を試してもらいたかった。とりあえず、実用性がありそうな弓を4種類作ってみた。


「もし、使い勝手がいいのがあればもらってくれると嬉しいよ」

「試してみたい!小さかったり弓の形が変わってて面白そう!」

「街の武器屋ならもっと種類が置いてると思うけど」

「私は兄ちゃんが作ってくれた弓がいい。コレなんて凄いね…。弓って言っていいのかな」

「それは石弓(クロスボウ)っていう武器だね」


 石弓は、バネの力を使って専用の矢を飛ばす弓というより矢を発射する装置。大して練習しなくても扱いやすくて狙いもつけやすかった。威力も申し分ない。誰でも操作しやすいこの武器は、おそらく戦争のような場面で本領を発揮する。


「試射してみる?」

「そうだね。全部使ってみたい」


 更地で試射会を楽しむ。どんな弓を撃たせても直ぐにコツを掴むチャチャは順応性が凄い。何度か射るだけで精密な弓射を見せてくれる。


「どの弓も個性があっていいね~。やっぱり一長一短だけど楽しい!」

「気に入った弓はあった?」

「石弓は凄くいい。素早い連射ができないのが難点だけど」


 威力があるから弦を引く力が必要で、レバーを使って弦を引く仕組み。連射には向いてない。慣れたら速く撃てると思うけど。


「でも、私が思うにはこの弓が一番だと思う」


 小型の弓を構えて見事に的を射抜いた。複合弓と呼ばれるモノで、様々な材料を使って作り上げて強度を上げている。馬上でも使えるコンパクトな弓なのに威力も高めだ。


「この弓は凄くいいなぁ。小さいのに丈夫で、狭い場所でも使いやすい。もらってもいい…?」

「もちろん。使ってくれると嬉しい。全部チャチャにあげる用に作ったからね」

「そうなの?!」

「そうだよ。自分が試したかったのもあるけど、チャチャ用のサイズなんだ。これから身長が伸びると思うけど、今の体格に合わせてある。ボクには小さい」


 作ってて楽しかったのもあるけど、チャチャの能力を伸ばす一助になればと思った。


「じゃあ全部もらう」

「邪魔じゃないか?無理しなくていいよ。改造して使えるからね」

「ううん。いずれ欲しがったらカズ達にあげてもいい?」

「あげるんだから好きなようにしていい。嵩張るから帰るとき一緒にダイホウへ行くよ」

「ありがとう。ララが喜ぶよ」

「ボクのことを覚えてくれてるといいけど」


 ララちゃんは住み家に連れて帰りたくなるくらい可愛いからなぁ。忘れられてると寂しい。


「絶対覚えてる。兄ちゃんのぬいぐるみを取ったりしたら、めちゃくちゃ怒るからね。魔法を見せたりするからだよ」

「ゴメン。あんなに懐いてくれると思わなかったんだ。まだ赤ちゃんだし」

「油断しすぎ!ララは私の妹なんだよ!」

「知ってるよ?」

「知ってても兄ちゃんはわかってない!」

「難しいこと言うなぁ」


 知ってるのにわかってないって言われても…。


「要するに、妹だから私に似てるのっ!」

「そうだね。チャチャに似て可愛いと思う」

「そういうことじゃないし、恥ずかしいからサラッと言うなぁ!」


 それはできない相談だ。


「心を見透かされてる。だから、今後は口に出して伝えていくことに決めたんだ。だってその方が気分がいい。ボクが噓をついてたらわかるだろう?」


 彼女達にとって嫌なことを考えていても、伝えて嫌なら教えてくれるはず。判断は4姉妹に委ねる。


 清々しくて笑みがこぼれるなぁ。


「くぅ…。私達のせいだけど、会合が必要かも…。召集をかけないと…」



 

 チャチャの帰宅に合わせて共にダイホウに向かったウォルトは、ララと再会して喜ばれた後、帰ろうとする度に泣かれてしまいしばらく帰れなくなった。


 なんとか宥めて住み家に戻ったのは、ララが眠ったあとのこと。やっぱり可愛くて仕方なかった。

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