41 一度あることは二度ある
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
今日のボクはいつになく気合いが入っている。
目の前にはいつも洗濯や水浴びに使う綺麗な川。住み家の外にもかかわらずローブを脱いで、肉体を露わに精神集中していた。
「今日こそやれそうな気がする!」
全く根拠のない自信を胸に勇気を奮い立たせて目を瞑った。深く息を吸い込むと、勢いよく目の前の川に飛び込む。
次の瞬間。
「ニャァァァァアアッ!!」
2秒と経たない内に川から這い上がった。ただでさえ細い身体が、毛皮がピッタリ張り付いてさらに細く見える。
「やっぱりダメだった!」
ブルブルッ!と身体を高速で震わせた後、持参したタオルで毛皮の手入れをする。綺麗好きなので、こまめに水浴びや風呂などで身体を清めたいんだけど…。
「やっぱり水に入れない…。なんとかならないかな…」
小さな頃から水が苦手だった。身体を拭いたり雨に濡れたりするのは平気だけど、浸かることができない。水に浸かると途轍もない嫌悪感に襲われる。
父さんの話だと、小さかったボクを母さんが誤って川に落として溺れて死にかけたことがあるらしいから、その後遺症だと思うんだけど…。
被告人三毛猫曰く、『ウォルトが暴れたんだからね!それはもう暴れ馬か牛かってくらいに!猫なのに!』と、人のせいにしていたけど、赤ん坊がどうやって暴れ馬になるというのか…。
「母さんに恨みもないし、もう治ってもいいんじゃないかと思うんだけどなぁ…」
数え切れないくらい克服しようと挑戦してきたけど、一向に改善する気配がない。「いつかは浸かれるようになるのかニャ…」なんて悟ったように遠い目をしてみても水には浸かれない。
諦めて帰ろうとしたとき、花の香りを嗅ぎとる。とてもいい香りだ。どこか懐かしい……なんだっけ?
……思い出した!ダメだっ!早く…帰ら…ないと…。久しぶりに嗅いだから……油断した…。
意識を失いその場に倒れ込んでしまった。
★
住み家に遊びに来たオーレンとアニカが、書き置きを見て川に向かい、うつ伏せに倒れているウォルトを発見した時はかなり焦った。
「ウォルトさん!!大丈夫ですかっ!?」
オーレンが駆け寄って抱き起こすと、表情に苦しそうな様子はなくてむしろ気持ちよさそうに眠っているように見える。夢見心地なのか、ニャーニャー言いながら手を丸めて顔を猫のように擦った。
猫人って…ニャ~って言うんだ。
「この様子なら心配はいらなそうだ。…ん?アニカどうした?」
「な、なんでもない!」
顔が熱い。自分では見えないけど真っ赤に染まってる。それもそのはず、ウォルトさんは下着1枚で倒れてた。見事な肉体美に嬉しいやら恥ずかしいやらで混乱してる。
「今は変なこと考えてる場合じゃないからな」
「考えてないっつうの!変なことってどんなことよ?!凄い腹筋!とか思ってないわ!」
オーレンは『ダメだコイツ…』って顔してるけど、とりあえず無視しよう。
一旦この状況について推理してみる。水浴びしながら昏睡なんてする?寝不足とかは、規則正しい生活してそうなウォルトさんに限ってないと思う。
体調じゃないとしたら、この場所に原因があるっぽい。周囲を注意深く観察すると、離れた場所に咲いてる花が目に入った。故郷の村でもよく見る花。
「花のせいかも」
「ん…?夏梅か」
「猫に嗅がせると酔うって聞いたことある。ウォルトさんは猫の獣人で嗅覚が半端じゃないよね。風向きも風上になるしあり得るんじゃない?」
「なるほどな。寝てるんじゃなくて酔ってるのか」
「だから気分がよさそうなのかも」
確信はないけど、とにかく毛皮が濡れっ放しのウォルトさんを放っておけない。どうにか連れて帰る方法を模索する。
「揺すったくらいじゃ起きそうにないな。このまま運ぶか?」
「獣人にしては小さいけど、私達からすると大きいからね。見た目より重いと思う」
「「う~ん…」」
腕組みして頭を悩ませていると、ウォルトさんがクシュン!とクシャミをした。震えて寒そう。
「…よし!私が肩を貸して歩く!」
「無理だろ。やるなら2人じゃないと」
「大丈夫!私に任せなさい!」
ウォルトさんの上半身を起こすと、背中側から右脇に自分の首を入れて、一気に持ち上げるようにして起き上がらせた。
「おぉっ!!すげぇ怪力!」
「うるさい!一言多い……ってぇぇぇ~!」
「アニカ!?」
立ち上がって直ぐにバランスを崩す。オーレンが急いで手を伸ばしてくれたけど、掴むのが間に合わなかった。
ウォルトさんにバックドロップするような形で一緒に川に落ちる。
ごぼぼっ…!!この川、意外に深いぃ~!。私、泳げないぃ~!!
水中で目を瞑ったまま焦っていると、抱き寄せるように掴む逞しい腕が伸びて水面まで一気に引き上げられる。
「ぶはぁっ…!!死ぬかと思ったぁ~!!」
「アニカっ!大丈夫?!」
眼前には目を覚ましたウォルトさんの顔。
「ウォルトさん!目が覚めたんですね!」
「いきなり水に落ちたらさすがにね。一瞬混乱したけど」
「よかったです。 …!」
「どうかした?」
「い、いえ。なんでも…ないです」
水中から引き上げられて片腕で抱き寄せるような状態。ウォルトさんの胸板に私の顔が付いてしまっている。
「顔が赤くなってる!早く住み家に戻って着替えよう!」
「このままでもいいんですけど…」
「ダメだよ!熱でも出たら大変だ!」
「…わかりました」
もうちょっと密着してたかったのに…。
★
ウォルトは、なぜか不満げなアニカを持ち上げて先に陸に上げる。続いて自分も上がろうとしたとき、あることに気付いた。
ん…?水に入っても…いつものように不快感を感じない…。
もう一度、肩までじっくり川に浸かってみみても嫌悪感を感じない…。ってことは、水嫌いを克服したと見ていい。
2人のおかげだ。しかも、普通に泳げることが判明した。身体を使うのが得意な獣人だからなのかな?
「ウォルトさん?どうかしましたか?」
オーレンが心配そうに声をかけてくれる。
「ごめん。ちょっと嬉しくて」
「嬉しい?」
「後で話すよ。とりあえず急いで帰ろう。オーレンはゆっくり来ていいからね」
「そうします」
ローブを拾って素早く羽織り、ずぶ濡れのアニカを背負って全力で駆けた。
「とりあえずよかった」
オーレンはゆっくり2人の後を追う。無駄にゆっくりと。
住み家に到着して、早速アニカに服を渡す。今回も貫頭衣…ではなく、アニカが普段着ている冒険者の軽装に近い服だ。
「ウォルトさん。この服は…?」
「ありあわせの布でボクが作ったんだ。サイズが合うといいけど」
「わざわざ私のタメに…。ありがとうございます!嬉しいです!」
「うん。早く着替えて。濡れた服は『速乾』で乾かそう」
「わかりました!」
アニカは、服を大事そうに胸に抱えて部屋に入った。前回はサイズの合わない貫頭衣で肌を大々的に露出させてしまったけど、今回は大丈夫。
「お待たせしました」
「えぇぇっ!?」
戻ってきたアニカは前回と全く同じ格好で登場した。ダボダボの貫頭衣を着て生足を露出させている。見つからないよう隠したのに!
「なんで貫頭衣を着てるんだ?!さっき渡した服はどうしたの?!」
予想してなかったので、刺激的なアニカの姿をモロに見てしまい、目を瞑って真っ赤になる。まだ濡れてるのに顔が熱い!
「渡された服はちょっと大きくて♪」
「貫頭衣よりはマシだろう?!早く着替えようよ!」
「眼福ですし、コレでいいんですけど」
「ダメだって!なにが眼福なんだ?!オーレンも戻って来るよっ!」
「確かに…。オーレンには見られたくないので着替えてきます」
アニカがそそくさと部屋に着替えに戻ったあと、心を落ち着かせて密かに決意する。
家中の貫頭衣をアニカのサイズに作り変えることを。
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