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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
409/712

409 未来への一歩

 宴もたけなわとなり、終了したあともウォルトは後片付けに大忙し。


「美味かったぞ!」

「今日も美味しかったわ!」

「ごちそうさまでした!」


 帰りながら労いの言葉をかけてくれる。ボクも楽しかったし、沢山食べてもらえたから備蓄倉庫の魔物肉も半分くらい消費できた。

 それに、今回はクローセの郷土料理トンチャを教えてもらった。一言で表現するなら肉野菜炒めだけど、大蒜が効いて精が付きそうな料理。勝手に味付けを変えて作ったトンチャは「美味しい!」と言ってもらえて嬉しかった。


 後片付けを終えて、火の気もないことを確認する。


「ウォルト君。帰ろうかのぅ」


 テムズさんは片付けが終わるのを待っていてくれた。気持ちが有り難い。


「ちょっと村を見回ってから帰っていいですか?今日はお酒を飲まれてるので、魔物が出ると危ないです」

「そうか。頼むぞい。なにからなにまで世話になるのぅ」

「好きでやってます」


 テムズさんには先に戻ってもらって、人気のなくなった村を巡回する。まだ外は明るいけれど、焼いた肉の匂いに釣られた獣や魔物が近くに潜んでいる可能性は高い。嗅覚の鋭さを舐めちゃいけない。


 警戒しながら村を守る柵沿いを歩くと、かなり離れた場所に魔物の気配がある。目を凝らすと、森の中に微かに姿が見えてるな。とりあえず…。

 魔力でナイフのように鋭利な氷を作り、風魔法に乗せて飛ばすと「ギャン!」と鳴く声が聞こえた。チャチャなら、この距離も弓で射抜くだろう。ボクには魔法で射抜くのが精一杯。

 その後も脅威を見落とさないようゆっくり見回っていると、ホーマさんとハズキさんが魔法の修練をしていた。近寄って声をかける。


「お疲れさまです」

「ん…?おぉ!ウォルト君!さっきはご馳走様」

「お前の飯は美味すぎる。こんなところでなにしてるんだ?」

「村の周囲の警戒です。肉の匂いに釣られて魔物や獣が来てないか」

「皆、酔ってるからか」

「ウォルト君は気が利き過ぎだよ」


 ただの予想だけど、ホーマさんとハズキさんも同じ理由でココにいる気がした。修練しながらも周囲に気を配って監視するタメに。


「楽しく料理させてもらったお礼です」

「普通は逆だ」

「それはさておき、障壁の修練中でしたか?」


『魔法障壁』の詠唱を修練してるように見えた。


「そうだよ。やっぱり俺達が互いに魔法を受けられたら、さらに研究が捗ると思ってね」

「ウォルト。よければ俺達に障壁展開のコツを教えてくれないか」

「構いませんが…ボクでいいんですか?」


 2人は独学で魔法を研究したり修得している凄い魔法使いだ。今は操れないとしても教えるなんて恐れ多い。


「ダメな理由がないよ」

「よろしく頼む」

「では…恐縮ですが出来るところまで見せて頂けますか?」


 ホーマさんとハズキさんは各々見せてくれる。魔力の流れや詠唱の段階は確認できた。


「どうだい?」

「基礎的な知識はあるんだが、上手く発動できなくてな」

「お2人は基礎を理解されてます。なので、アニカ達に教えている方法でお伝えします」


 まず、魔力を身体に通して発動することを説明してホーマさんの背中に触れる。


「いきます」

「うん。頼むよ」


 ホーマさんが翳した手から『魔法障壁』を発動する。


「どうでしょう?」

「う~ん…。もう一度いいかい?」

「もちろんです。ゆっくりいきます」


 かなりゆっくり魔力を流しながら何度か繰り返してみる。


「なるほど…。魔力の流れが掴めた気がする。こうかな?」

「そうです。できてます」

「ウォルト。俺も頼む」

「はい。では2人同時にやります」


 並んでもらって両手から同時に発動する。


「コレは凄い技術だ。発動する魔力の動きを実体験できるとは…。身体が覚えるというか、書物よりも遥かに理解できる」

「だよな。こんなことが可能だなんて思わなかった。他人の魔力が体内を通っても嫌な感じもしない。不思議なもんだ」

「ボクは2人の魔力を模倣して魔法を発動してます。体内を通っても違和感は少ないかと」

「そうか。納得だ。なぁ、ウォルト」

「なんでしょう?」

「魔法は面白いな。最高だ」

「ボクもそう思います」


 ハズキさんの言う通りだ。魔法の修練を続けていけたら、死ぬまで幸福でいられる。


「俺達はもう中年なのに、仕事と修練で毎日が楽しくてね。魔力が少ないのが悔しいよ」

「前に会ったときより魔力が増えてますよね。修練の成果だと思います。魔力を通しながら同時に魔力の補充もしているので、どんどん修練して下さい」


 ホーマさんとハズキさんは、目を見合わせて笑う。


「ははははっ!あの子達が伸びるワケだ!」

「くくっ!才能に加えて、この師匠が相手では伸びざるを得ないだろう」


 褒められてるけどそれは違う。


「彼女達は、ボクが教えていなくても凄い魔導師になります」

「そうかもしれないけど、絶対に成長の度合は違うよ。君に教わってるから目を見張るくらい成長してるんだと思う」

「俺もホーマに同意だ」

「そんなことないと思いますが…。それに、本当はホーマさんやハズキさんのように魔法理論がしっかりした師匠に師事した方がいいと思ってます。ボクは疎いので」


 本来、理論と技量が揃ってこそ魔法の高みを目指せるような気がする。ボクなりに頑張ってはいるけれど。


「理論なんて後付けでいい。多くの魔導師は、魔法を習得することに多くの時間を裂く。早く習得できれば、その分魔法理論を学べる。考え方次第だ」

「確かにそうですね」

「ちなみに、障壁の発動を口で説明するとどんな感じだい?」


 ボクなりに噛み砕いて発動法を説明してみる。


「君の説明は魔導書よりわかりやすいよ」

「よく理解できた。魔導書を書いた方がいいぞ」

「大袈裟です。アニカ達に伝えるのに、どう伝えるのがわかりやすいのか考えた結果で、あの子達のおかげです」

「はははっ!君には敵わない!」

「いい師弟関係だな。羨ましいぞ。俺達も負けられない」


 しばらく修練に付き合わせてもらって、かなり発動に近いところまで来た。


「ハズキ。手応えはあるがもう遅い。今日はこのくらいにしておこう」

「あぁ。また明日だ」


 2人には仕事も家庭もある。それでも継続して修練しているから魔力は磨かれている。身に纏うのは澄んだ魔力だ。家族を養いながら修練も欠かさない。ボクは2人を尊敬する。


「明日、時間があるときに家に寄らせてもらいます。…そうでした。お2人に見てもらいたいモノがあるんです」

「なんだい?」

「料理しながら声の魔力について活用法を考えてみました」

「料理しながらだと…?あれだけ忙しそうに動きながらか…?」

「料理しながらだと考えが纏まりやすいんです。少しだけ時間を下さい」


 目を閉じて呟く。声に隠蔽した魔力を乗せて、空中で魔法を構築するイメージを膨らませて。できるはずだ…。


「………なにぃっ!?」

「君は……本当に凄いなぁ」


 ホーマさんとハズキさんの身体を声の魔力で『拘束』できた。

 

「魔法陣ではなく、魔法そのものを発現させるなんて驚きだよ」

「文字や図形で構築される魔法陣だからこそ、言葉での発現も可能だと考えたが…」

「思いついた応用です。魔法陣を構築する魔力を糸のように細く展開して、束ねるように直接魔法を構築してみました。せっかく教えて頂いたので、もっと発展させられるよう試行錯誤してみます」

「見せただけで教えてない」


 ホーマさんが愉快そうに笑う。


「ははははっ!ウォルト君。ハズキは凄いだろう?こう見えて名を売りたいみたいなんだ。知り合いに宣伝してもらえないか?」

「ホーマ…!お前っ…!」


 そうだったのか。だったら微力でも力になりたい。


「是非協力させて下さい。今度知り合いの魔導師に伝えておきます。クローセにもの凄い魔法師がいると。アニカ達にも言っておきます」

「絶対にやめろ!新婚なのに山奥暮らしに付き合わせるのは悲惨すぎる!」

「だはははっ!気の利いたこと言うようになったもんだ!嫁さんをもらうと人は変わるなぁ!」

「やかましい!お前もそうだろう!」


 ハズキさんに「ホーマはいいが、俺のことを口外してはならない。したら呪う」と師匠のようなことを言われた。ホーマさんの冗句だったのか。

 嫌なら誰にも言ったりしない。ボクもそうだから。ホーマさんには「俺のこともダメだぞ」と念を押された。凄い魔導師なのに謙虚な人達だ。


 帰宅を見送ったあと、再び村の巡回を続けた。異常はなかったからテムズさんの家に向かおう。すっかり暗くなったクローセ。月明かりの中を歩き、テムズさんの家の近くで気配に気付く。


「2人とも、どうしたの?」


 近くにウイカとアニカがいる。姿は見えないけど匂いがする。声をかけると家の角から顔を出した。


「やっぱりバレちゃったね」

「さすがです!村の巡回、お疲れ様でした!」

「ありがとう。念のために見回ったんだけど」


 …あっ。そうか。忘れてた。


「モフるかい?」

「もちろんです」

「訊くまでもないです!」


 しっかりモフってもらう。真っ暗だし周囲に人の気配はない。今なら大丈夫だ。


 誰かにモフられのが嬉しいと思うなんて、昔は想像もしなかった。サマラやヨーキー以外の人と触れあったことなんてなかったから。他人の体温が落ち着くってことを4姉妹が教えてくれた。


「ふぁ~。癒されます」

「満足です!」


 ボクも癒された。


「家まで送ろうか?」

「すぐそこなので大丈夫です。1日お疲れ様でした」

「また明日です!」

「うん。また明日」


 笑顔の2人と別れてテムズさんの家に入る。玄関の鍵は開いていて、まだ部屋の明かりが灯ってる。


「ただいま戻りました」

「おかえり。お疲れさん。遅かったのう」

「ホーマさん達と魔法の修練を少し」

「そうか。ホーマとハズキのおかげで村も暮らしやすくなったんじゃ。彼奴らは凄い魔法使いじゃぞい」

「間違いありません。お茶を淹れます」


 熱々のお茶を淹れてテムズさんに手渡す。


「むっ…?!なんというお茶じゃ?初めて見るぞい」

「抹茶です。家から持ってきました。少し前に教えてもらったんです。テムズさんの口に合うといいんですが」

「頂くぞい………美味いっ!この渋みが美味すぎるぞい!」

「よかったです」


 茶飲みの友になったカケヤさんにも飲んでもらって意見を訊きたい。ただ、中々会うことはできない。


 お茶を飲みながら少しだけ話して今日は就寝した。





 次の日。


 テムズさんと朝食をとって、後片付けを終えた直後、誰か訪ねてきた。


「ボクが出ます」


 玄関のドアを開けるとボクの永遠のライバルであるカートがいた。木剣を背負ってる。


「ウォルト!久しぶりだな!昨日の飯は美味かった!ご馳走さま!勝負だっ!」


 いつも律儀なカート。照れ屋なのかその時には言ってくれない。また少し背が伸びて逞しくなってる。成長が早いなぁ。


「久しぶりだね。もちろん受けて立つよ」

「よし!広場に行こう!」


 テムズさんに伝えて広場に向かう。


「俺は腕を磨いてるぞ!」

「ボクもだよ」

「そうか!今日こそ俺が勝つ!魔法はなしだぞ!」

「わかった」


 広場に着いて、カートと木剣を打ち合う。


「せぇい!」

「うおりゃぁ!」

「うわぁぁっ!?」

「ひぇぇっ…!」


 相変わらず表情豊かで面白い。でも、カートは確かに腕を上げている。日々の努力の成果だろう。


「はぁ…はぁ…。くらえっ!必殺……勇者の剣(ブレイブソード)!」


 ただの『身体強化』を纏った斬撃だけど、必殺技は鋭さを増している。でも躱せないほどじゃない。


「くっ…!まだ届かないか…」


 繰り出す前に技の名前を叫ぶからバレバレなんだけど、男の子は格好よさを求めるから気持ちはよくわかる。ボクもそうだった。


「カート。よかったら、ボクが必殺技の上達法を教えようか?」

「ホントか?!……いや!ウォルトはライバルだ!」


 その心意気は素晴らしい。けど、それだけじゃ寂しいな。


「ライバルはお互いの強さを認め合う親友のような関係だ。敵じゃないよ」

「そう言われると…確かにそうだ!教えてくれ!」


 魔法に興味がないカートだけど、『身体強化』を無意識に発動してる。だから、効果的な魔法の操り方を言葉じゃなく身体で教える。コレだけで必殺技のキレが増すはずだ。


「なんとなくわかったぞ!こうか!」

「そう。いい感じだ」

「自分でも違いがわかった!」


 斬撃は少しだけ鋭さを増す。実際は素晴らしい魔法操作のセンス。でも、今の魔力量で発動できるのは1日で3~4回といったところかな。今後が楽しみだ。

 剣技を磨くのが楽しいだろうし、それでいいと思う。もし魔法に興味が湧いたとしたらその時はホーマさん達がいる。


「カートの必殺技は魔力を使うんだ。使える回数は稽古するほど増えていく」

「よし!もっと鍛える!」


 その後も、カートの体力を回復させながら手合わせしていると…。


「ウォルトさん。俺も混ぜてくれませんか?」


 オーレンが来てくれた。

 

「構わないよ」

「オーレン!俺と手合わせしてくれ!」

「いいぞ」

「うらぁぁっ!」


 休みなくオーレンに挑むカート。磨いた必殺技を直ぐに試したいんだろう。


「ふぅ…ふぅ…やるなっ!くらえ、必殺…ブレイブソードォォ!」

「うぉっ…!?」


 必殺技を受け止めたオーレンは驚いた表情。


「まさかの『身体強化』か…。凄いぞ、カート」

「まだだっ!おらぁぁっ!」


 オーレンが猛攻を捌ききって、手合わせは終了した。


「強い…。負けた…」

「俺がお前の年齢だった頃より遥かに強い。でもな、必殺技にちょっと身体が付いていかないだろ?」

「そうなんだ。鍛え方が足りないのかなぁ?」

「逆だ。ちょっと構えてみろ。必殺技を使うとき、今より足の力を抜くんだ。力が入りすぎてる」

「力を抜く?こうか?」

「もう少しだな。身体と魔法のバランスに慣れたらもっと早く動ける。俺に打ってきてみろ」

「魔法なんか使ってないって」


 オーレンが付きっきりで指導して、カートの必殺技はさらに形になった。やっぱり剣士の気持ちは剣士が一番理解してる。ボクでは気付かない箇所に気付く観察眼はさすがだ。


「俺がウォルトさんと手合わせするから見てろ。必殺技の手本を見せる」

「わかった!」

「ウォルトさん、いいですか?」

「もちろん」


 オーレンの『身体強化』された斬撃を何度か受け止めると、カートは黙って見つめてる。


「こんな感じだ」

「なんとなくわかった!もっと見せてくれ!」

「ウォルトさんがよければ続けてお願いします」

「もちろんいいよ」


 いつものように手合わせする。いつもと違うのは、オーレンの動きは技術をカートに見せるための動きだということ。ボクも乗らせてもらおう。


「オラァァッ!」


 オーレンは最後に『炎戟』を放った。修練の成果でかなり威力が上がってるけど、『魔法障壁』で防ぐ。


「ふぅ…。こんな感じだ」

「すっ、す、すげぇ~っ!めちゃくちゃ格好いいっ!」

「そうか?」

「最後の炎のヤツは俺でもできるのか!?」

「お前は魔力を持ってるからできる。ただし魔法の修練も必要で剣だけじゃ無理だ」

「俺に魔法を教えてくれ!どっちも真面目に修練する!」


 ジッとカートを見つめるオーレンの視線は真剣。


「ふざけて魔法を使ったりしないか?人を怪我させたり、森を燃やす可能性だってあるんだぞ」

「そんなことするか!剣の修業だってふざけたことなんてない!」


 年齢関係なくカートは格好いい。礼儀正しく、それでいて好きなモノに真摯な少年だ。


「わかった。だったら、ホーマおじさんに頼め。俺は教えるほど魔法が上手くないし、ウォルトさんもしょっちゅう教えてやれない。今の技は、ホーマおじさんが使える魔法と剣技の組み合わせだ。真面目にやれば覚えられる」

「ボクも来たときはいつでも教えるよ」

「わかった!よぉ~し!父ちゃんに頼んでくる!二人ともまたな!今日からオーレンもライバルだ!次来たときはまとめて倒してやる!」


 カートは元気よく走り去った。


「アイツを見てると昔の自分を思い出します」

「オーレンもカートみたいな子供だった?」

「村を守るために強くなりたい、そして冒険者になりたいって剣ばかり振ってました」

「カートはオーレンの後を追うかもしれないね」

「調子に乗って痛い目を見ないといいんですけど」

「きっと大丈夫だ」


 ホーマさんや村の大人達が付いてる。未来の剣豪かもしれない。


「ボクもライバルに負けないように剣術と魔法を磨かなくちゃいけない」

「アイツは凄い魔導師になれますか?」

「なれるとしても、カートはならないだろうね」

「そうですね。アイツも剣が好きですからね」


 剣を振ってるときの顔が活き活きしてる。本当に好きで、楽しくて仕方ないんだろう。その後は、しばらくオーレンと修練していい汗をかいた。

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