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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
408/711

408 魔法で遊具を作ろう

 ホーマ達と別れたウォルト一行は、次の行動についてウイカ達に提案される。


「宴会の準備まで子供達と遊びませんか?」

「賛成!」

「いいね。そうしようか」


 子供達が遊んでいる場所へ向かう。


「ウォルトさんは、子供達がどこにいるかわかってるんですか?」

「声が聞こえてる。元気に走り回ってるよ」


 ボクには楽しそうに遊ぶ声が聞こえてる。

 

「まったく聞こえません」

「ウォルトさんにヒソヒソ話は通用しないね!」

「聞かないようにしてるから、してもらって大丈夫だよ。信じてもらえるならだけど」


 聴覚を操作して感覚を鈍らせたり一時的に遮断することもできるし、逆に鋭くすることもできる。人が多い場所では声が聞こえすぎて混乱するから、わざと感覚を鈍らせていることも多い。


「ウォルトさん」

「ん?」

「突然ですけど、モフっていいですか?」

「私もモフりたいです!」

「えぇっ!?今?!」


 さすがにクローセの、しかも外では気が引けるな…。誰が見てるかわからないし、アーネスさんとウィーさんに変な誤解を与えるかもしれない…。


「…って思ってますね?」

「バレバレです!」


 心中をズバリ言い当てられた。


「関係ないです。だって私達の要望なんですから」

「嫌ですか!」

「嫌じゃないよ」


 4姉妹と触れあうのは嫌じゃない。いつでもモフっていいと言ったのもボクだ。


「じゃあ、後にしましょう」

「夜に人目がない場所でお願いします!」

「うん。ありがとう」

「そっちの方が親密感ありますね」

「確かに!密会みたい!」


 そうかもしれない。でも、人前で勘違いされるような行動は控えた方がいい。歩みを進めると遊んでる子供達が見えてきた。近づいて声をかける。


「一緒に遊びたくてきたよ」

「やったぁ!まってたよ~!」

「あそぼ~!」

「もふもふぅ!」


 駆け寄ってくる子供達。みんな可愛いなぁ。


「なにして遊ぼうか?」

「なんでもいいよ~!」

「じゃあ、今日は魔法で遊び道具を作るよ」

「なにをつくるの?」


 皆で遊べそうなモノと言えば…コレにしよう。手を翳して『強化盾』の魔力で形作る。見えるように他の魔力で色付けしてみよう。爽やかな水色がいいかな。


「すごぉ~い!」

「なにこれ~!」

「おもしろそう!」

「すべり台だよ。この階段から登って、座ったまま上から滑り降りるんだ。やってみせようか」


 クローセには子供用の遊具がない。動物の象の顔を横から見たようなすべり台を作ってみた。楽しんでくれるといいけど。


「私に任せてください!みんな見てて!」

「あい!」


 アニカがお手本で滑ってくれる。見事な滑り。


「たのしそぉ~!」

「わたしもすべるぅ~!」

  

 代わる代わる滑って笑顔が弾ける子供達。ウイカとアニカは、走って登ったり勢いよく滑る子供達に気を配ってくれてる。優しいお姉さんだ。


「うぉると!すべるところ、くりん!ってまげられない?」

「曲げられるよ。はい」

  

 すべり台を螺旋のように変形させる。


「おもしろい~!」


 喜んでくれてよかった。登り階段の下とすべり台の終点には『風流』のクッションを敷いてるけど、今のところ心配いらなそう。


「もっと、たかくしてほしい!」

「へんけい!」

「こっちに、すべるのふやして!」

「あそべるへやがほしい!」


 可能な限り変形させて、飽きさせないように楽しんでもらう。最終的に高床式の小屋とすべり台を合体させたような遊具が出来上がった。小屋の中には楽しめそうな迷路なんかも作ってみた。

 子供達は中を走り回ってる。形成する『強化盾』の表面を柔らかく仕上げてるから、中で壁にぶつかったり転んだりしても怪我はしない。


「わたしがさきだよ!ずるい!」

「そっちがずるい!さっきもすべった!」


 中から小競り合いの声が聞こえる。ちゃんと言っておこう。


「仲良く使わないとダメだよ~。いつも言ってるけど、ケンカするなら魔法は直ぐに消すからね~」

「ごめんなさい!さきにつかっていいよ!」

「おれもごめん!」


 謝って譲り合ってくれた。素直でいい子ばかりだ。仲良くしてほしいし、ボクの魔法がケンカの種になるならいつでも消す。


「凄い遊具ができちゃいましたね」

「見たことない大きさです!」


 子供達がみんな中に入って、手持ち無沙汰になったウイカとアニカが傍で苦笑する。


「要望に応えたらこうなっただけだよ。子供の想像力は凄い」

「実際に作ったら相当大変ですよ」

「多分王都にもないよね!皆は相当楽しそう!」

「それは嬉しいけど…」

「子供達と直接遊べないのが寂しいんですね?」

「顔に書いてます!」

「実は…そうなんだ」


 喜んでくれるのは嬉しい。ただ、触れ合って遊べないのは寂しくもある。


「心配いらないです」

「えっ?」

「もうそろそろかな!」


 すると、子供達が一斉にすべり台から出てきた。ボクに向かって駆け寄ってくる。


「うぉると~!あそぼ~!」


 あっという間によじ登られてしまう。


「こうなるのは目に見えてました」

「いくら楽しくても結局飽きるんです!また戻るんですけど!それが子供!」

「確かに…もご……そうだね」

「うぉるとがしゃべると、おなかがくすぐったい!」

「顔からどかない?」

「どかない!もふもふする!」

「耳は掴まないでね」


 一切前が見えないけど、よかったかもしれない。ボクはきっとだらしない顔をして笑ってる。アニカ達からすると気持ち悪い獣人に見えるだろう。


「うぉると、すき!ちゅっ!」

「あたしも!ちゅっ!ひげがささった~!」

「あははっ。ありがとう」


 女の子から両頬にキスされた。悪い気はしないし可愛いなぁ。


 ……ん?ウイカとアニカがジト目でボクを見てる…。変態だと勘違いされたかな…?無駄だと思うけど、嬉しくないふりをしておこう。


 その後も、魔法を使ったり一緒に走り回って遊ぶ。通りがかった大人達もボクが作った魔法の遊具に驚いて何人か軽く楽しんでいた。





「ウォルト君。よろしく頼むぞい」

「わかりました」

「「私達も手伝います!」」

「ありがとう」


 村の皆が仕事を終えて、テムズさんの呼びかけで集会所に集まることになった。集合時間まではまだ時間がある。ボクらが子供達と遊んでいる間に村の女性陣が調理の準備を終えてくれてる。野菜や調味料を提供してくれて有り難い。


「じゃあ、2人は野菜の下ごしらえをお願いしていいかな?ボクは外で肉を捌いてくる」

「「はい!」」


 備蓄倉庫から数頭の魔物を見繕って、外で血抜きしたり捌いていく。皮や牙は素材に使えたりするので綺麗に剥いでおこう。行商の対価にもなる。

 皆がどの程度食べるかわからない。足りなくなっても直ぐ調理できるように、多めに捌いておく。生肉のブロック状態で『保存』を付与しておけばいつでも料理に使える。使うのは今日じゃなくても構わない。


 住み家で食材に『保存』を付与して検証してるけど、1回の付与で1年は全く劣化せず保存できてる。あとは、どのくらい持続できるか経過観察中。ハズキさんの魔法陣だけで大丈夫だと思うけど念のため。肉を持って集会所に戻るとウイカ達の準備も終わっていた。


「ウォルトさん。暖かくなってきましたし、外で串焼きはどうですか?」

「住み家で食べたのが美味しかったので!タレが最高でした!」

「いいね。それと、注文を受けて作らせてもらおうかな」

「そうしましょう」

「焼く道具は村にあるので串がいりますね!竹串があるかお母さんに訊いてきます!」

「大丈夫だよ。ボクが作ってくるから、材料を切ってくれると助かる」

「了解です!」


 この辺りの森も魔物を掃討したときに大方把握できた。竹の密生地も知ってる。よさげな竹を1本だけ切り倒し、『細斬』で細い串を大量に作る。直ぐに村に戻って準備を進めた。


「私達なりにタレを作ってみました」

「ウォルトさんの評価を聞かせてほしいです!」

「ボクでいいなら。偉そうに言えないけど、ちょっと味見させてもらうね」


 少し舐めてみる。…かなり美味しい。


「凄く美味しいよ」

「やったね、お姉ちゃん!」

「うん。ウォルトさんならどんな味のタレを作りますか?」

「気になるね!」

「ボクなら…」


 作ったタレを少し分けてもらって、数種類の調味料を少しずつ加える。


「できたよ」

「ちょっと味見していいですか?」

「どうぞ」


 ウイカとアニカは指先に付けて舐めた。


「「…………」」

「どうかな?」

「あの……」

「なんとも言い難いというか…」


 気を使ってるくれてるけど、2人の反応は正しい。このタレはあまり美味しくないと感じるはず。ただし、あくまでタレ単体での話。


「ちょっと待ってて」


 串に魔物の肉と野菜を刺して、魔法でこんがり焼く。さっき手を加えたタレに付けて2人に手渡す。


「食べてみて」

「いただきます」

「いただきます!」

「…美味しい!全然タレの味が違います!」

「肉にめっちゃ合います!」

「この魔物の肉に合うのは、少し濃いめで臭みを消すような調味料だ。素材に合わせて味を変えると、より美味しくなるよ」

「凄く勉強になります」

「さすがですね!」


 料理は、味を相性よく組み合わせることが重要。ウイカとアニカなら容易い。魔法も似たようなモノだから。困ったときは多くの選択の中から最善を選ぶ努力をするだけ。

 そもそも味覚は千差万別で、料理に正解なんてない。ウイカ達のタレの方が好みの人も当然いるし、本当に美味しい。


「皆が来る前に炭火で焼いて『保存』しておこう」

「はい」

「任せて下さい!」


 アニカ達は『保存』も目下修練中。個人的には、生活魔法の中でも特に習得が難しいと思ってる。発動して付与するのは難しくないけど、状態を保つモノによって、それぞれ形式を変化させる必要がある。

 服なら服に、料理なら料理に。それぞれ適した『保存』がある。早い段階から様々な『保存』をこなしていけば、きっと役に立つ。冒険でも重宝する魔法。


「ウォルトさん!話が落ち着いたんで、俺達も手伝いに来ました!」

「私も手伝います!」


 オーレンとミーリャも手伝いにきてくれた。


「ありがとう。お願いするよ」


 皆の協力を得て準備は終わり、まだ陽が高い内に宴会は始まった。テムズさんが乾杯の音頭をとる。


「今日は、ウイカの初めての帰省とオーレンが可愛い恋人を連れてきてくれたことを祝して…乾杯じゃ!」


 コップを合わせて食べ始める。


「相変わらず美味いな。炭で香ばしいから酒が進むぞ」

「魔物肉とは誰も思わないだろ。獲ってきた甲斐があった」

「しばらく魔物はいらないと思ってたけど、こんなに美味しいと迷うねぇ」

「こっちのタレも美味しいよ」

 

 串焼きは凄いスピードで減っていく。ウイカとアニカが作ったタレも好評。幾つか種類を用意するのはありだな。

 忙しくなって最高に楽しくなってきた。出来る料理限定だけど、注文を受けて作るのも凄くやり甲斐がある。口に合うといいけど。


「うぉると!すごくおいしいよ!」

「ありがとう。あとで甘いモノも作るからね」

「やったぁ!」


 ボクの甘味を褒めてもらって、女性陣が今日の行商から砂糖を購入してくれてる。期待に添えるよう頑張ろう。



 ★



 アニカとオーレン、そしてミーリャは同じテーブルで食事している。ウイカは久しぶりに再会した幼馴染みと一緒に食事中。


「ウォルトさんって、本当に料理が好きなんですね。ずっと動き回って、何品も同時に作ってます」

「ミーリャはあの姿を見るの初めてだもんな」


 笑顔で鉄鍋を振り回すウォルトさんは、いつものと変わらず楽しそうだ。話しかけられて会話してる間も絶対に手を止めないのが地味に凄い。常に動き続けてる。


「手伝ったほうがいいんじゃないでしょうか」

「大丈夫だよ!ウォルトさんには好きに料理してもらうのが一番!」

「アニカの言う通り。俺達は料理で楽しんでもらってる。現に凄く楽しそうだろ?」

「確かに。『楽しいニャ~!』とか言いそうな顔ですね」

「ところで、ミーリャはミルコおじさん達とゆっくり話せたの?」

「はい。御両親もアンディさんも優しくして、オーレンさんに申し訳ないです」

「なんでだ?」

「オーレンに申し訳ないことなんて、この世に存在しないよ?レア素材くらい珍しいよ?」

「うるさいな!確かにないけどお前が言うな!」

「ふふっ。私の両親は揃ってオーレンさんに闘いを強要したので。私も覚悟はしてきたんです」

「ないないないないっ!彼女を殴る家族なんて俺が嫌だっ!」

「ミルコおじさんやアンディ()、優しいからね!」

「は、ってなんだよ!俺もだ!」


 他愛もない話に花が咲いて、ミーリャはちょっとずつ酒を嗜む。


「私、お酒に弱くてあまり飲めないんです」

「なぁにぃ~?!飲み過ぎに注意だよ!この村には変態ドスケベネズ公が生息してるからね!」

「俺かっ?!俺のことだなっ!?」

「他に誰がいるのよ!この前科者が!ミーリャ、夜はウチにおいで」

「ちょっとまて!なんでそうなるんだよ!」


 なに言ってんだコイツ!夜はミーリャと一緒に寝るつもりだってのに!


「ケダモノの家に可愛い妹分を置いておけない。一緒に寝るつもりなら別に止めないけど、部屋にはアンディもいるんじゃないの?…あっ!ミシェルおばさんと寝ればいいのか!ミーリャが気を使わないならいいけど」

「ぐっ…!くっ…」


 確かにアニカの言う通りだ。


「オーレンさん。今日はアニカさんのお宅にお世話になります」

「…そうだな。仕方ない」

「あのさぁ、1日くらい我慢しなさいよ。フクーベに戻ったらイチャイチャしていいけど、たまの帰省ぐらい家族と話せば?ミーリャは言わなくても直ぐに理解してくれたんだよ」


 意外にまともな理由を告げられ反省した。それでも残念でしょげた顔をしていると…。


「オーレンさん。フクーベに戻ったら……ね♪」

「むっふぅ~!そうだな!…ぶへぇあっ!」


 伸びきった鼻の下にアニカの左ストレートが炸裂した。眼前に星が飛ぶ。決して食べる手は止めない食いしん坊。


「お前~!なにすんだよ!」

「なんか腹が立った。ごめん♪」

「ごめん♪じゃねぇよ!」

「うるっさいなぁ!ミーリャ、私達もお姉ちゃんと合流しよう!幼馴染みに紹介するよ!」

「はい。ちょっと行ってきます」

「ちょっ…!」


 手を伸ばすも幼馴染みの元に向かった。入れ替わるようにトール達が酒を持ってきて前に座る。


「ほら、飲めよ。殴り合いなら別だろうけど、口じゃどうやったってアニカには勝てない。逆らうだけ無駄だ」

「もうクローセの不文律を忘れたのか?女には逆らうなってな」

「そうだぞ。ミーリャちゃんも毒されなきゃいいけど。俺達に冒険の話でも聞かせてくれよ」

「お前ら…」


 幼馴染みと忌憚なく会話して、クローセに…故郷に帰ってきたんだと感じる。予定とは違っても俺も美味い酒を飲めた。

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