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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
407/711

407 驚倒

 修練場所に着いて、ウォルトとハズキが対峙する。ホーマ達は少し離れて見学することに。


「頼みたいのは、呪符と魔法陣の効果の確認だ。魔法で防ぐなり躱すなりしてもらいたい。いいか?」

「こちらからお願いしたいです」


 呪符や魔法陣の効果にもの凄く興味がある。間近で見て観察したい。


「有り難い」

「目的が効果の確認であれば、可能な限り躱さず防ぎたいと思います」

「よろしく頼む。ではいく」

「はい」


 ハズキさんが腰袋から短冊状の呪符を抜き取り、呪文が書かれた面をボクに向けた瞬間に炎が放たれる。


 素早く『魔法障壁』を展開して防ぎきる。


「凄い!」

「『火炎』だ!」


 威力にも驚いたけど、なにより驚いたのは…。


「ほんの僅かな魔力を流すだけで効果が発動するんですね」


 ハズキさんは一瞬だけ微量の魔力を流した。


「その通りだ。他の呪符も試していいか?」

「はい」


 呪符の効果は、正確に言うと魔法とは違う。基礎的なことしか知らないけど、呪文という術式を用いて魔法と同等の効果を持つ術を発動する。

 ただし、『魔法障壁』で防げたことと、観察した効果から限りなく魔法に性質が近いモノだ。呪符に込められているのは魔力だと思う。そして、発動する引き金も別の魔力。


 向けられる呪符から、氷や雷魔法の効果が発動する。どれも見劣りすることのない見事な術。


「さすがだ。次は少し傾向が違う呪符になる」

「はい」


 数枚抜き取った呪符を、ボクに向かってばら撒くように投げた。呪符の材質は紙ではなく薄い板。一度『魔法障壁』を解除して、再度障壁を展開すると、障壁に接触した瞬間に呪符は爆発を起こす。


「きゃあっ!」

「わぁっ!」


 爆発の余韻冷めやらぬ中、ホーマさんが口を開く。

 

「ハズキ。『爆発(エクスプロージョン)』を使うなら、事前に伝えておかないと村の皆が驚くぞ」

「大丈夫だ。ウォルトが一帯に『沈黙』を展開した。今の音は村に響いてない。だろう?」

「はい」

「効果が『爆発』だと見抜いたのか?」

「術式が見えたので気付きました」


 確認できたのは一瞬だったけど、記憶にある術式だった。そうだ。念のため言っておこう。


「ウイカ、アニカ。『強化盾』と『魔法障壁』を展開しておいて」

「わかりました。じゃあ、私が『強化盾』でいい?」

「了解!私が『魔法障壁』だね!おじさんは私とお姉ちゃんの間に入って!」

「お前達は…もう防御魔法を詠唱できるのか」


 アニカ達は息を合わせて魔法を展開した。あの範囲と強度なら問題ない。


 ハズキさんは次々呪符を投げてくる。効果は炎や氷と様々。中には3種の複合魔法もあって威力や術式を付与する技術に驚きしかない。一旦落ち着いたところで尋ねてみる。


「展開された障壁の魔力に反応して、術式が発動するんですね」

「予測されにくく効果的だと思っての仕様だ。気付いたことがあれば意見を聞きたい」

「ボクの意見は役に立たないと思いますが」

「些細なことでもいい。俺はさらに高みを目指したい」


 これほどの知識と技量を持ちながら、まだ満足しないハズキさんの姿勢は尊敬してやまない。気付いたことを伝えよう。


「『強化盾』で呪符を防いでも、術の効果は透過します。『魔法障壁』を同時に展開しないと防げません。狭小な場所では展開が困難で抜群の効果を発揮します。あくまで対人戦の場合ですが」

「そのつもりだったが、お前の障壁には通用してない」

「ボクは2種の混合障壁を再展開しました。『強化障壁』とでもいうか」

「なるほど。多重発動ではなく複合魔法か」

「はい」


 難点なのは、それぞれ単独で展開するより強度が下がることと魔力の消費が激しいこと。改良の余地あり。


「対魔導師であれば有効ですが、投擲しても躱されると厳しいのでは?」

「遅延発動式の呪符も考案している」

「なるほど」

「もう1つ魔法陣の効果を試したいんだが」

「是非お願いします」

「逆だぞ。まったく」


 ハズキさんは両手を翳して詠唱を始めた。囁いているけどボクにはハッキリ聞こえる。早口で囁かれる不規則な数字や単語の羅列で、魔法の詠唱じゃない。聞いている内に意味を理解した。こんなことが可能なのか…。


 ハズキさんの前方に魔法陣が展開され、『雷撃』が迸り『魔法障壁』で防ぎきる。


「ふぅ…。新たな試みだったが、どう思う?」

「驚きしかありません。言葉のみで魔法陣を展開するという発想はボクには皆無でした」


 魔力を声に乗せて言語化した術式で魔法を発動する。どうやって言語化しているのか気になって仕方ない。目から鱗の発想。手や足が動かなくなったとしても声だけで魔法を操れる。

 魔法師という存在の凄さを肌で感じて鳥肌が立った。魔導師とは違う角度から魔法にアプローチして独自に発展させているんだ。本当に魔法は奥が深い。好きでいる限り、一生退屈せずに死ねるような気がする。


「気になったことを教えてくれ」

「手法について理解できていませんが、もっと、………したらどうでしょう?無駄な手間ですか?」

「そうなると、魔法陣の効果が薄まる。むしろ……だな」


 ハズキさんとの意見交換に花が咲く。意見というかほとんどボクが質問する形だけど。



 ★



 遠目に2人の様子を眺めていたホーマが呟く。


「切り札の3種複合魔法も余裕で防ぎきるなんて鉄壁すぎる」


 俺とハズキがコツコツ魔力を込めて形成した呪符も、微塵も効いた様子がない。桁外れに強固な障壁を一瞬で展開するウォルト君はやはり凄い魔導師だ。


「ウォルトさんに魔法を届かせるのは難しいよね。でも、ハズキさんが凄い人なのはわかるよ」

「だよね!初めて見るけど、魔法にあんな使い方があるなんて知らなかった!」

「俺達の研究もまだまだだ」

「おじさんも一緒に研究してるの?」

「役に立たないんだがな。「1人より2人の方がいい」ってハズキが言うから、ない頭を捻ってる」


 俺が村でのんびり暮らしていた間も、ハズキはずっと魔法の研究を続けていた。魔法陣や呪符についてかなりの知識を有してる。

 魔導師としても俺より才能がある。今の魔法もそんじょそこらの魔導師相手なら通用していたはずだ。障壁を張れない俺達は互いに防ぐことすらできないから、ウォルト君にお願いして効果を確かめたかった。


「それでも、エルフを超える魔導師には通用しないな」

「おじさんもウォルトさんがサバトだって気付いたの?」

「村の住人は行商人から噂を聞いて直ぐに気付いた。…というか、白猫の風貌でローブを着た凄い魔導師といえばウォルト君しかいないだろ」


 エルフに魔法戦で勝つなんて今も昔も凄いことに変わりないはずだが、ウォルト君なら驚かない。勝てるだろうと思える。


「さすが師匠!そうだ!まだウォルトさん達の話が終わりそうにないから、私達の修練の成果を見てよ!」

「俺に見せても意味ないだろ?」

「「なんで?」」

「なんでって…」


『魔法障壁』すら操る魔法使いに助言できるとは思えない。


「なにか気付いたら教えてほしいの」

「どんな細かいことでもいいから!ホーマ師匠!お願い!」


 そう言われちゃ…。俺はいつまでも師匠なんだな…。この子達に負けてられない。


「わかった。成長を見せてくれ」

「「やったね!」」


 アニカとウイカは魔法を披露してくれる。種類も増えて格段に魔法操作の技量も向上してるな。旅立ったときとはまるで比べモノにならない。

 恵まれた才能に驕らず、いかに真面目に修練しているのかを肌で感じる。ウイカは魔法を覚えてまだ1年だなんて誰が信じるんだ?


「どうかな?」

「どう!?」

「そうだな…」


 正直、言うことはない……というか、どこが悪いのかわからない。とりあえず…師匠っぽいことを言わせてもらうか。


「まだまだ足りてない。修練してもっと魔法を磨け」

「だよね」

「うぅ~!おじさんに言われてやる気でたぁ~!」


 素直すぎて困ったもんだ。普通なら「アンタに言われたくない!」って怒るとこだぞ、まったく。


「ウォルトさんと魔法武闘会で仕合するのが私達の目標だから!約束してもらってるの!」

「大変な目標だな。だが…お前達ならできるしウォルト君にだって勝てる」

「「ありがとう!」」

「尊敬する師匠に追い付いて追い越せ。それが、なによりの恩返しになる」

「「うん」」

  

 いい笑顔だな。本当に…2人はウォルト君に出会えて幸運だった。出会っていなかったとしても大魔導師になれるかもしれない。並外れた才能だ。

 けれど、彼に師事していなければ、こんな幸せな表情を浮かべていないと言い切れる。彼は女性魔導師を軽視しない。姉妹の才能を理解し高みへと導く誰よりも凄い魔導師。


 巡り会ったのは運命だと思える。魔法の神様ってヤツが存在するのなら、縁を繋いでくれたのかもしれないな。


 

 ★



 意見交換していたハズキとウォルトの話は一区切りついた。


「ありがとう。いい意見をもらえた」

「こちらこそありがとうございました。知らないことばかりで、もの凄くタメになりました」


 長年魔法の研究を続けてきたハズキさんの知識と技量は、ボクの知識にないもので新鮮すぎる。出し惜しみせず教えてくれる懐の深さにも感服。


「後でウチに来るか?呪符や魔法陣について、俺が教えられることがあれば教える」

「いいんですか?!是非お願いしたいんですが…お返しできるモノがないんです…」

「お返し?」

「はい。苦労して蓄えた知識を教えてもらっても、返せるモノがなくて…」


 ハズキさんは苦笑いしながら頭を掻く。


「勘違いしてるようだが、恩があるのは俺だ。お前がクローセに連れてきてくれたから、所帯を持って守る者が…新たな生き甲斐ができた。感謝している」

「偶然です。クローセに来ることを選び、いい出会いに恵まれたのはハズキさんの判断と縁です」

「たとえそうでも、何事もきっかけが大切だと思わないか。俺の知識が役立つなら発展させて見せてくれ。それで礼になる」

「ありがとうございます。そうできるよう頑張ります。その前に…」

「どうかしたか?」

「残りの呪符は障壁系の呪符ですよね?使ってよければ、耐久性を調べたいんですが…」


 ハズキさんの腰袋から僅かに覗いている呪符に書かれた呪文はおそらく障壁の効果だ。試してみたい。


「もちろんいいぞ。こちらから頼みたい」

「防ぐ魔法の出力を弱い段階から徐々に上げてみるのはどうでしょう?」

「それで構わない」


 ハズキさんは、作った呪符がどんな効果を生むのか知りたいと言った。なので、『火炎』や『氷結』を放って呪符で防いでもらう。

 障壁の強度は素晴らしいの一言。威力に辛うじて耐えられる魔法を放出し続けてみる。耐久時間を知ることも重要だろう。


「凄まじいな…。まさしく臨界点を読み切って、これほど精密な魔力操作ができるのか…」

「誰でもできます」

「山奥に隠居しようとしたホーマの気持ちがよくわかる」

「わっはっは!そうだろ?もう逃げる寸前だったからな!」


 ウイカとアニカは目を見開いた。


「おじさん、どこか遠くへ行くの?!そんなのダメだよ!」

「カートと奧さんはどうするつもり!?痩せたからって愛人と山奥に逃げるなんてヒドい!」

「愛人がいるの?!信じられない!」


 ホーマさんはウイカとアニカにポカポカ叩かれている。「違うっ!元はと言えばお前達のせいだぞ!」と否定しながら。愛人となんて一言も言ってなかった。


「村にいる内に訪ねてくれ。いつでも構わない」

「ありがとうございます。必ず伺います」

「ハズキさん。私達もよろしくお願いします」

「今後もよろしくお願いします!」

「あぁ。こちらこそ」



 ★



 去りゆくウォルト達の背中を並んで見つめるハズキとホーマ。表情に乏しいハズキが抑揚なく呟く。


「やはり俺達が作った呪符などモノともしなかったな」


 口には出さなかったが、ホーマと共に時間をかけて作り上げた呪符だった。予想はできたが、純粋に驚かせるところまでだったのが悔しくもある。

 ウォルトが相手であっても上手くすれば通用するかもしれん…と多少の自信はあったが、木っ端微塵に打ち砕かれた。凡人の想像なんて軽く超えてくる魔導師。


「彼は魔法操作や詠唱技術も凄いが、今日気付いたのは…」

「ずば抜けた洞察力だ。呪符の術式を一瞬で見抜くなんて常識外れ過ぎる。魔法戦でエルフが負けるワケだ」


 魔法戦では、相手の魔法や戦術を読む技術が不可欠。ウォルトは、知識、勘、反応速度、予測、全てが卓越している。魔法陣も発現した瞬間に解析していたに違いない。知らない魔法陣であれば惑わせる程度なら可能か。


「人の台詞をとるなよ。だが、彼に通用するような魔法を編み出したくなったろ?」

「正々堂々アイツに魔法を届かせてみたい。カネルラ中の魔導師が同じ気持ちだろうな。あと、お前の弟子達の実力は素晴らしい」


 あの若さで見事な魔法の技量。信じられない姉妹だ。才能の塊に見えた。


「そうだろう。数ヶ月で軽く師匠超えだ。ウイカなんて魔法を覚えてまだ1年なんだぞ。ウォルト君に師事できてよかった」

「それはそうだろう。だが、お前を慕ってる。いい師匠だったんだな」

「魔法使いのオッサンにできるのは、基礎の基礎を教えるのとデーン!と構えることだけだ。いい師匠なワケないだろ」


 笑っているが、ホーマが朗らかな性格であることが大きな要因に違いない。弟子時代からなにも変わってない。たとえ魔法の才に恵まれていなくても、お人好しでひたむきな努力家。人格が尊敬される男。


「それだけじゃ人は慕ってくれない。俺達の師匠も同じことをしてた」

「はははっ!確かにデーンと構えてはいたな。動かない男だった」

「1つ予言しよう。お前はこの村の伝説の魔導師と呼ばれるようになる」

「言うな。あり得そうで恐いんだよ」


 ウォルトとあの姉妹は、いずれ「ホーマは凄い」と口を滑らす。コレは絶対だ。なぜなら本気でそう思っているから。そして『ホーマとはどんな魔導師だ…?』と噂になり、魔導師がクローセに押し寄せ、結果……やはり山籠もりだな。


「いつでも山に行ける準備は整えておけ」

「…その時はお前も道連れにしてやるからな。俺より凄い魔導師だって言い触らしてやる」

「やめろ。とんだとばっちりだ」

「事実だからな」


 なんだかんだ仲のいい中年2人は、駄弁りながら我が家へ帰った。

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