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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
406/711

406 主役は遅れて登場

 俺とミーリャはクローセに向かう行商の馬車に揺られている。到着まであと30分くらい。


「ミーリャ、気分悪くなってないか?」

「大丈夫です。そんなことより…ウイカさんとアニカさんは本当に走って向かったんでしょうか…?」

「やる気満々で朝早くから出て行った。ウォルトさんに付いてきてもらうよう頼んでたから、走らない選択はないな」

「実感してますけど、かなり遠いです。私は正直走りきれなかったと思います。アニカさん達は大丈夫でしょうか?」


 普通そう思うよな。俺もアニカと一緒に走ったときは死ぬかと思ったし、ミーリャには厳しいと思った。『邪魔しないからゆっくり話しながら来れば?』という姉妹の気遣いを感じた。『ウォルトさんとの時間を邪魔するな』という無言の圧力も。


「アイツらにはウォルトさんが付いてる。体力は自分で回復するから心配いらないさ」

「ウォルトさんって、走るの速いんですか?」

「めちゃくちゃ速い。住み家からクローセまで、生身で2時間かからないらしい」

「本当ですか?嘘みたいな速さですね」

「俺じゃ併走できないけど、とにかく速い」


 付き合いが長くなったから言えるけど、ウォルトさんも稀に噓を吐く。でも、どうでもいいことを誤魔化そうとする時だけで、しかも直ぐにバレるから結果嘘を吐けてない。


「うぅ~!オーレンさんの両親に会うの緊張してきました!」

「大丈夫。2人とも優しいから」

「ふふっ。ウチの両親は過激なので対照的ですね」

「少なくとも「実力を見せろ!」とは言わないと思う」

「あはははっ」


 ただ、どんな顔をするのか想像できない。喜んでくれるだろうけど、その先は予想しづらいな。なんにせよ、もうすぐ答えは出る。





「ココがオーレンさん達の故郷なんですね…。静かで落ち着きます」


 昼過ぎにはクローセに到着した。門を潜ったミーリャは、直ぐに馬車から降りて村を見渡してる。行商の準備を始めた商人にお礼を伝えておこう。


「田舎だろ?」

「スイシュセンドウも大して変わりません。いい場所ですね」

「そう言ってもらえると嬉しい」


 ん…?


 何人かこっちに向かって走ってくる。クローセ村で主導権を握る女性達で年齢は様々。行商はまだ準備できてないけどなぁ。

 

「ただい…」


 帰ってきた挨拶をしようとしても、皆の勢いは止まらない。


「オーレン!邪魔っ!」

「うわっ!」


 突き飛ばされる。いきなり邪魔って…。


「貴女がミーリャ?!」

「は、はい!そうです!初めまして!」

「初めまして!可愛いねぇ~!」

「ホントにオーレンの恋人なの?!」

「遠いところまでようこそ!」


 幼馴染みからウチの母さんまでいる。まさか、いきなり突っ込んでくると思わなかった。取り囲まれてるミーリャを助けよう。


「一斉に話しかけるなよ。困ってるだろ」

「おっ!一端の彼氏面してる!ひゅ~!」


 幼馴染みが揶揄ってくる。面倒くさい奴らだ。


「こう見えて彼氏なんだよ!」

「そう怒りなさんな。心が狭い彼氏だね」

「なにを~!」

「オーレン、お帰り。さっきウイカとアニカから恋人のミーリャちゃんと来るって聞いて、気になって仕方なかったのよ」


 母さんは嬉しそうだ。


「ただいま。ミーリャ、俺の母さんだよ」

「は、初めまして!ミーリャと言います!」

「私はミシェル。よろしくね」

「よろしくお願いします!」

「とりあえず少しだけ待ってて。行商の買い物が終わったらゆっくりお茶しましょう」

「はい!」


 女性陣は直ぐに行商の品定めを始めた。長時間滞在しないから、さっと買い物を済ませなくちゃならない。俺の勘だと今回は時間がかかるとみた。商品に女性が好むモノが多い。


「母さん。あとで家に行くからミーリャと村を見て回っとく」

「わかったわ。またあとでね」

「そうだ。ウォルトさん達は?」

「櫓の広場にいると思うわ」


 ミーリャと広場に向かう。俺とアニカがグリーズベアと闘った場所。


「うぉらぁぁ!せぇい!」

「いけっ!」

「そこだ!」


 遠くから威勢のいい男達の声が聞こえてくる。広場でなにやってんだ?歩みを進めると、段々と人だかりが見えて盛り上がってる。


「凄く盛り上がってますね」

「とりあえず見にいこう」


 近くに寄ると、輪になっている男達の隙間からウォルトさんとトールが木剣を打ち合っているのが見えた。なんでだ?


「うぉぉぉぉっ!」


 トールが打ち込んだ渾身の一撃は防がれて片膝をついた。 


「はぁ、はぁ…。ウォルトさん!ありがとうございました!」

「ボクこそありがとう。トールはもっとこうすると…」

「…なるほど!ありですね!」


 人だかりの中に親父の姿が見えた。


「親父」

「ん?オーレンか。元気か?」


 反応薄っ!


「彼女のミーリャと一緒に帰ってきたんだ」

「初めまして!ミーリャです!」

「おぉ。遠いところまでよく来てくれた。俺はミルコ。よろしくな、ミーリャ」

「はい!よろしくお願いします!」

「なにもない村だが、ゆっくりしていってくれ」


 なんか…俺よりミーリャの方が歓迎されてるな。その方がいいけどさ。


「ところで、なにやってんだ?」

「昼飯食った後に、アニカとウイカから話を聞いた若い奴らがウォルトと剣で手合わせしたいって言いだして相手してくれてる。アイツは剣もできるんだな」

「俺の剣の師匠だから」

「もう5人相手にしてる。でも、一撃も食らうことなく息1つ切らさない。凄い奴だ」

「剣の素人なのに、俺なんか相手にならないくらい強いんだ。体力も半端じゃない」

「やっぱり凄い人ですね」


 駆けてきたと思えないほど爽やかな表情。きっと負荷をかけて駆けてきたはず。ウォルトさんも動けば疲れると言ってた。でも、疲れを意識せず平然とした態度でいればさほど気にならないらしい。精神力で抑え込んでるって意味だろうけど。

 ミーリャには、自分の肌で感じてもらいたくてウォルトさんのことを詳しく教えてない。……ん?トールの奴、どこ行くんだ?


「トール、お疲れ様。『治癒』」

「ウイカの魔法は凄いな。すげぇ癒されるよ」

「自分じゃわからないけど、そうなら嬉しいな」  


 鼻の下が伸びまくってる。なるほど…。アイツの狙いはウイカに回復してもらうことか。思考が手に取るようにわかる。隣でアニカが睨むようにトールを見てるのは、誰も回復を頼んでないからだな。その気持ちも理解できる。


 ウイカは話し方や纏う空気がふわふわしてて、身体だけじゃなく心まで癒される。アニカに頼むと回復してもらっても気が休まらない。治癒魔法の技量は似たり寄ったりでも、精神的な癒しが全っ……然違う。その差は歴然。

 

「アニカ。ボクの体力を回復してくれないか?」

「いいんですか?喜んで♪」 

「凄く楽になったよ」

「そうですかぁ~!」


 ウォルトさんは優しい師匠。気を使って頼んでる。皆の前であえて頼むことで、アニカの治癒魔法も凄いってことを皆に伝えたいんだろうし、本当にそう思ってる。

 少しずつだけど「皆の心の機微を感じられるようになってきた」と笑ってくれるけど、まだ俺と4姉妹限定らしい。

 ウォルトさんは鼻を鳴らすような仕草を見せて俺を見た。こんなに人がいるのに匂いに気付いたのか。


「オーレンが来たね」

「えっ!?…ホントだ!皆、オーレンが着いたよ!」

「「「…なぁぁにぃぃ~!」」」


 な、なんだっ?!トール達が俺の前に走って来る。


「久しぶりだな……ぐぇっ!」


 いきなりヘッドロックされて拳で頭をグリグリしてくる。


「いてててっ!なにすんだよっ!」

「うるせぇ!ムカつく野郎だっ!」

「可愛い彼女だな!このヤロ~!」

「見せつけやがって~!羨ましくなんかねぇからな!」

「いたたたっ!」


 ポコポコ叩かれる。手荒い祝福だ。顔は見えないけど声は明るい。ミーリャも笑ってくれてるけど、マジで痛い!


 皆にミーリャを紹介すると、とりあえず男衆は仕事に戻るらしい。そろそろ女性陣が買い物を終えるから、「仕事しろ」とドヤされるのを回避するタメに。


 俺とミーリャはウォルトさん達の元へ向かう。


「ウォルトさん。お疲れ様です」

「ボクは疲れてないよ。オーレンとミーリャのほうが疲れてない?」

「大丈夫です。俺達は一旦実家に寄ってきます。そろそろ母さんの買い物が終わりそうなんで」

「ミーリャ!またあとでね!」

「はい!」


 

 ★



 ウォルトと姉妹は揃ってホーマに挨拶に向かう。


 手合わせを見守る面々の中にいなかったから、畑仕事をしているという予想。ボクらの予想通りホーマさんは畑にいた。


「…おぉ!帰ってきたのか。2人とも元気だったか。ウォルト君も」


 ホーマさんが汗を拭いながら近づいてくる。


「「誰…?」」


 ウイカとアニカは怪訝な顔。なんでだろう?


「どう見てもホーマさんだよ」

「私の知ってるホーマおじさんじゃないです…。声はそうですけど…」

「顔が似てる親戚みたいな…。ぽっちゃりしてない…」

「はははっ!間違いなく俺だぞ。お前達のおかげで激痩せしたんだ」

「私達がなにかしたっけ?」

「おじさんが痩せるようなことはしてないよ?」


 ウイカ達は心当たりがないのか。前に訪れたときホーマさんが痩せたことに気付いたけど、心労で痩せたらしくて理由は詳しく聞いてない。


「理由は知らなくてもいい。俺を大魔導師扱いするのだけやめてくれ」

「私とアニカにとって、おじさんは凄い魔導師だからね」

「断る!お父さんに止められたから今は大人しくしてるけど、いずれ大魔導師ホーマの名を世に広める使命があるから!」

「頼むからやめろって。名を広めるならウォルト君だけにしてくれ。俺は骨になっちまう」

「ボクもダメです」

「あっはっは!そうか」


 そうだ。ホーマさんに訊いておこう。


「ホーマさん。備蓄倉庫の魔法陣は、ハズキさんが展開したモノですか?」

「そうだよ。アイツが村に来てくれて助かってる」

「「ハズキ?」」

「お前達は知らないよな。俺の昔馴染みだ。クローセに魔法使いが増えたんだよ」

「へぇ~!」

「会ってみたい!」

「行ってみるか?多分、今の時間は家で魔法の研究をしてると思う」


 会話しながらハズキさんの家に向かう。


「おじさん、修練してる?」

「ハズキと毎日修練してるぞ」

「ハズキさんは魔法師だから魔法理論にも詳しそうですね」

「そうなんだ。でも、アイツも魔導師としての修練を再開した。君のおかげだよ」

「ボクはなにもしてませんよ?」


 たまにボクのおかげと感謝されることがあるけど、大抵というかほぼなにもしてない。


「おじさん。いつものことだよ」

「そうだね!ウォルトさんのおかげに違いない!」

「ははっ。お前達はわかってるな」


 そんなバカな…。今回は間違いなくなにもしてないはず…。


「着いたぞ。お~い、ハズキ~!」

「ハズキさんは、空き家になってた家に住んでるんだね」

「長いこと誰も住んでなかったよね!」


 ホーマさんが玄関の前で呼びかけると、中から女性が顔を出した。


「は~い……って、ウイカとアニカ!久しぶり~!」


 前回来たときに会った村人の顔と名前は覚えてる。この人はスーザンさんだ。


「スーザン姉さん、久しぶりだね」

「なんでこの家にいるのっ?!」

「なんでって…ハズキさんと結婚したからだよ♪」

「えぇ~!」

「ずっと独身を貫いてたのに!」


 スーザンさんは、ウイカやアニカが小さな頃から可愛がってもらった優しいお姉さんらしい。おそらく、ボクにとってのキャロル姉さんのような存在。器量もよくて、いい縁談が何度も舞い込んでいるのに、その度「結婚なんて面倒くさい」と笑って独身を貫いていると聞いてた。


「びびっと来ちゃったんだな!人生なにが起こるかわからない!」

「へぇ~!おめでとう!」

「意外だった!おめでとう!」

「ありがと♪」

「スーザン。ハズキはいるか?」

「いるよ。ちょっと待って。ハズキさ~ん!ホーマおじさんが来たよ~!」


 奥からハズキさんが顔を出す。以前と違って少し逞しくなった印象。


「どうした?修練にはまだ時間が早いだろ………後ろにいるのはウォルトか」

「ご無沙汰してます」

「あと…誰だ?」

「ウイカです。よろしくお願いします」

「アニカです!私達はホーマおじさんの弟子です!」

「聞いたことがある。俺はハズキだ。去年からクローセでお世話になってる。ホーマの兄弟子だ」

「噓つけっ!俺が少し早いだろっ!」


 冗談を言い合えるような仲。ハズキさんとホーマさんの関係は昔から変わらないんだろう。


「ちょうどよかった。ホーマ、ウォルトが相手なら前に言ったことを実践できるかもしれない」

「言ってたことって、アレか…?確かにウォルト君に頼むなら安心だが」

「なんでしょう?」

「俺の魔法師としての研究に付き合ってくれないか?無理なら構わない」

「凄く気になります。是非お願いします」


 ウイカとアニカに断りを入れると、「私達も見たいです!」と言ってくれた。ハズキさんは魔法師で魔法陣や呪符の研究もしている。内容に凄く興味がある。


「外へ行こう。スーザン、ちょっと出てくる」

「いってらっしゃい!」


 準備を終えたハズキさんと共に、普段ホーマさん達が修練している場所へ向かうことになった。

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