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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
405/710

405 久しぶりのクローセ

 ウォルトがクローセを訪ねるのは、ハズキを連れてきたとき以来。


 子供達と一緒に作った門扉は、以前と変わらず村の入口でボクらを迎えてくれた。昼は開けっ放しなんだな。


「村を出て1年も経ってないのに、何年ぶりかに帰ってきたような気がするね」

「相当久しぶりに来た感覚になる!でも、やっぱりクローセだね!」


 駆け回る子供達の姿が遠くに見えた。


「村長に会いに行こうか」

「いいね!そうしよう!」


 ウイカ達にとって久しぶりの帰省。行きたいところはお任せしよう。ボクもテムズさんにはお世話になってるし、挨拶しておきたい。

 若かりし頃の姿と名前を頻繁に借りてる。リンドルさんには『手の早い無節操男』みたいな勘違いをされてしまって申し訳なくもある。


 家に向かう途中で子供達が駆け寄ってきた。ちょっと見ない間に大きくなってるなぁ。


「うぉるとだぁ~!うぉ~るとぉ~!」

「あそびにきたの!?やったぁ!」

「ういかと、あにかも!」

「「「おかえり~!」」」


 歓迎の言葉に、嬉しくて思わずヘニャッ!とだらしない顔になってしまう。


 子供は可愛いなぁ~。最近子供好きに拍車がかかってる気がする。ララちゃんを抱っこしたぐらいから父性が湧き出してる。暇を見て孤児院やタオにも顔を出そう。でも、迷惑だったりしないかな。子供好きの変態獣人だと思われたりして。


「ただいま。元気だったかい?」

「げんきだった!うぉると!のぼらせて!」

「いいよ」

「「「わ~い!」」」


 しゃがむと皆がよじ登ってくる。


「顔の前はどいてくれないかな?なにも見えないんだ」

「や!もふもふ、すきなの!」


 このやりとりも嬉しい。息苦しくても苦にならない。代わる代わる子供達の匂いがする。


「ふふっ。相変わらず大人気ですね」

「ちょっと村長のトコに行ってくるから後で遊ぼう!今日は帰らないから!」

「それならいいよ!またあとで!」

「うぉると!まほうもみせてね!」

「いいよ」

「あにか!ういか!」

「「なに?」」

「あせくさい!」

「「なっ…!?」」


 子供達は走り去った。また後でゆっくり遊ぼう。


「「くんくん…」」


 2人は自分の匂いを嗅いでるけど、あれだけ駆けたら誰だって汗をかくし、精一杯の修練の成果。気にしなくていいのに。お風呂に入れば済むことだ。


「勝手に泊まるって言っちゃいましたけどよかったですか?」

「構わないよ。元々そのつもりだったからね」


 今日は久しぶりに野宿しよう。この森も空気がいいから気持ちいいはず。夜も暖かくなってきた。


「その顔は野宿しようとしてますね?」

「断固反対!絶対ダメです!」

「………」


 最近はサマラを除く3人もボクの思考を丸裸にしてくる。心情の把握が的確すぎて恐い。チャチャもボクを穴が空くほど観察していて、いろいろなことを言い当てた。

 おそらく長女(サマラ)の入れ知恵。ボクの予想だと目を見て判断してる。それだけで的確に当ててくるから凄い。目は口ほどにモノを言う…とは言い得て妙。気持ちを隠すつもりはないけど、このままでは最終的に顔を見なくても当てられてしまいそうだ。


「とりあえず、目指せ村長の家です」

「そうしよう!」

「そうだね」


 村人に挨拶しながらテムズさんの家に辿り着いた。ノックしながら呼びかける。


「村長~」

「いる~?」


 テムズさんは直ぐに顔を出した。


「誰じゃい?…おぉ!ウイカとアニカか!ウォルト君もよく来たのぅ!」

「「ただいま!」」

「ご無沙汰してます」

「急にどうしたんじゃ?」

「ただの帰省。ウォルトさんが誘ってくれて、皆で行こうって」

「そうかそうか。ウイカは逞しくなったのぅ」

「そう?自分じゃわからないけど」

「ほっほっ!立ち話もなんじゃ。はよう中に入れ」


 家に招かれてボクは台所に向かう。


「ウォルト君。お茶を頼んでいいのか?」

「もちろんです」

  

 何日もお世話になったテムズ家の台所は熟知してる。魔法でお茶を淹れて皆に差し出す。


「ほっほっ!コレじゃ!溶岩のように煮え滾るようなお茶。さすがウォルト君!」

「テムズさんは熱いのがお好きなので」

「そうじゃ!相変わらず美味いのぅ!」


 あまり煮立たせない方が美味しいと思うけど、嗜好は人それぞれ。沸騰寸前の温度に保温しているお茶を軽々とすするテムズさん。舌とか喉を火傷しないのかな?


「村長…。信じられないことするね…」

「お姉ちゃんもそう思う?あんなの飲んだら普通は喉が焼け爛れるからね。村長はもう長くないからどうでもいいけど」

「やかましいわ!ところで、オーレンはどうしたんじゃ?」

「オーレンは後から馬車で来るの」

「ミーリャっていう可愛い恋人と一緒にね!」

「ほほぅ。詳しく聞かせてもらおうかの」


 お互いに近況報告を始める。ウイカは冒険者になって、今はDランクになったこと。アニカとオーレンはCランクへ上がり、元気にやっていること…等々。

 逆に、魔物騒動以降のクローセは平和で、たまに現れる魔物も皆で倒して食料にしたりしながら以前より逞しく暮らしているらしい。


「今日は村をあげて宴会するぞい」

「いいの?」

「うむ。ウイカが村を出てから初めてのクローセへの帰省。それに、オーレンは恋人を連れてくるんじゃろ。めでたいことじゃからのう!ちょうど魔物が獲れたんじゃが、調理法が不明じゃ。ウォルト君の知恵を借りたい」

「任せてください」


 なんの魔物だろう?ほとんどの魔物は調理法次第で美味しく食べられる。稀にバジリスクのような強力な毒を持つ魔物もいるけど少数だ。


「ところで村長…今日ウォルトさんは野宿するつもりなんだよ!」

「アニカ?!」


 一言も言ってないのに突然の告知。バレてたのか。


「なんじゃと?!それはいかんぞい!ウチに泊まってくれ!」

「いいんですか?」

「もちろんじゃ!君は気を使いすぎじゃぞ!」


 姉妹も頷いてるけど、野宿は苦にならないし、たまにするのは普通に好きだ。暖かい時期にしかできないから、久しぶりにやろうと思っただけで。今度住み家の近くでやろう。


「言葉に甘えさせてもらいます。食事はボクが作るので」

「頼んだぞい。楽しみじゃ」

「じゃあ、次はウチに行きましょう」

「ホーマおじさんの所にも!」

「そうだね。また後で伺います」

「うむ。宴会の段取りはしておくぞい。あと、アニカ、ウイカ」

「「なに?」」

「お主ら、汗臭いぞ」

「「うるさい!」」

「ほっほっ!」


 テムズさんの家を出て、姉妹の実家であるアーネス家に向かうことに。



「ただいま」

「ただいま~!」


 玄関で呼びかけると奥からウィーさんが顔を出した。


「はいよ~…って、おかえり」

「久しぶりなのに反応薄いね」

「お母さんは寝坊助だから!寝てたんだよ、きっと!」

「寝てないっつうの!ウォルト君もいらっしゃい」

「ご無沙汰してます」


 ウィーさんも変わりないようでよかった。アーネスさんは仕事かな?


「お母さん。とりあえずお風呂に入っていい?」

「私も!」

「いいけど、沸かしてないよ」

「私達が魔法で湧かすから大丈夫」

「『水撃』もかなり操れるようになってきたしね!」


 2人は『水撃』を修練中。少しでも操れるようになると、魔力が尽きない限り水に困らないから、冒険では非常に役立つ。習得難度は高めだけど、2人なら問題ないので教えてる。


「よくわからないけど任せた。じゃあ、ウォルト君は暇だろうからお茶でもどう?」

「頂きます」


 姉妹はお風呂に向かって、ボクは居間に通されてお茶を頂く。


「お風呂を覗きに行かなくていいの?」

「行きません」


 母親なのになんてことを言うんだ…。豪快すぎる。


「いつも2人の面倒を見てもらってありがとね」

「ボクはなにもしてませんよ」

「謙虚だねぇ。ウイカから何度か手紙が来てるけど、かなりお世話になってるって書いてた。アニカのバカタレは一度も送ってこないけどね!誰に似たんだか!」


 怒ってる姿がアニカによく似てるのは黙っておこう…。


「2人が冒険者になって心配ですか?」

「ん~…。してないと言えば嘘になるけど、あの子達が生き生きしてるからね。そんなことより、ゆっくり話もせずにいきなりお風呂に行くのはどうかと思うけど」

「2人はフクーベからクローセまで休まず駆けてきたんです」

「うっそ?!マジでっ?!」

「はい。少しの休憩を挟んで4時間くらいで」

「はぇ~。元気があり余ってるね。いいことだ!」

「きっと凄い冒険者になります」

「ふ~ん。他になりたいものがあるだろうけどさ」


 大魔導師のことだな。


「ところで、テムズさんから魔物を獲ったと聞いたんですけど」

「そうなのよ!ちょうどよかった!食べれるか教えて。なんでも獲って帰ってくるから、参っちゃってさ」

「誰がですか?」

「村の男衆だよ。前の魔物騒動から身体を鍛えだして、今じゃ自分達から狩りに行くようになったんだよ」

「もしかして、今も?」

「そう。交替で行ってる。まぁ、無事に帰ってくればいいけど。ちょっとした冒険者気取りで困ったもんだ。オーレンやアニカに感化されちゃってね」


 村には大人の男性の姿が少なかった。勘繰ってしまったけど、そんな理由があるなら納得。


「皆さん逞しいですね」

「まぁね。弱いよりいいけどさ」

 

 やっぱり心配だろうな。魔物や獣と遭遇して、絶対に安全ってことはあり得ない。会話していると風呂上がりのウイカとアニカが戻ってきた。


「久しぶりの実家のお風呂、気持ちよかったぁ」

「確かに!やっぱり直ぐ馴染むよね!」

「アンタ達はいい加減に1人で入ったらどうなの?」

「その内ね」

「私達の秘密会議の時間だから外せないんだよ!ウォルトさん、いつものお願いします!」

「うん」


 いつものように2人の髪を乾かしてあげる。


「アンタ達は…呆れたよ」

「「なにが?」」

「いくらウォルト君が優しくても、そんなことまで頼むのはどうかと思うよ」

「お母さんが言いたいことはわかるけど、ちょっと見てて」

「はい。終わったよ」

「…髪サラサラじゃん!すっごぉ~!」

「でしょ」

「この魔法は病みつきになるから!」

「2人ならもうできるんじゃないか?」

「いえ。まだ自分でやるとごわつきます」

「まだまだですね!あと3年はかかるかなぁ♪」


 う~ん…。おかしいな。


 ボクの見立てではもう使えるはずなんだけど。いつも髪はサラサラしてるし…。まぁ、いっか。


「ところで、走ってきたんならお腹空いてるんじゃないの?魔物食べたらいいじゃん」

「まだ食べれる魔物とは決まってないよね」

「私達に毒見させるつもりだ!毒母だっ!」

「あっはっは!バレたか!」

「是非どんな魔物か見たいです」

「よっし!そろそろ男衆が帰ってくるだろうから、昼ご飯に使えそうなら料理しよう!先に集会所に行ってて」

 

 ウィーさんは村の女性に声をかけて来ると言って家を出た。魔物料理は皆で覚えた方がいいからと。ボクらは先に集会所へ向かう。魔物は集会所にある備蓄用の倉庫で『保存』の魔石を使って保管されてるらしい。


「ココが村の備蓄倉庫です」

「小さいけど結構役に立つんですよ!」

「不作の年もあるだろうから備蓄は重要だね」


 そんな時こそ魔法が役に立つ。何度も思うけど、生活魔法を編み出した魔導師は偉大だ。


「クローセに出現する魔物は昔から変わらないので、私達でも判別できると思うんですけど」

「お母さんの口振りだと知らない魔物っぽかったよね!なんだろう?」


 倉庫のドアを開けると、野菜や果物とともに横たわる魔物の亡骸。この魔物のことを言ってると直ぐにわかった。


「初めて見ます」

「私も!大型の昆虫みたい!」

「『グラッパ』だね。森でたまに見かけるけど珍しいと思う。毒もないし美味しく食べられるよ」


 主にダンジョンの序盤で現れる魔物。昆虫のグラスホッパーに似ていることが由来でグラッパと名が付いたらしい。

 内部が森林のような構成のダンジョンではたまに見掛ける。羽根による機動力と跳躍を生かして体当たりや噛みつき攻撃を仕掛けてくるけど、さほど脅威じゃない。


「ウォルトさんって魔物の食べ方に詳しいですよね」

「森の魔物博士です!」

「興味があったのもあるけど、師匠の無茶な要求に応えたりして学んだね」


 料理はからっきしのくせに、ダンジョンなんかで「いつでも美味い肉を食わせろ!ダボ猫がぁ!」と偉そうに言うから研究した。でも、あの人は肉や料理の味なんてわかってなかった気がする。


「それにしても魔法陣が展開されてますね」

「誰が展開したんだろう?ホーマおじさんかな?」


 2人の予想だと魔物の亡骸は『保存』の魔石で備蓄されているはずだった。でも、保存魔法陣が倉庫内に展開されている。


「その辺は後で聞くとして、準備しましょう」

「集会所の調理場に運びます!」

「ボクが運ぶよ」


 グラッパを調理場に運ぶと、女性が集まっていた。


「「「ウイカ~!」」」

「ただいま!みんな元気だった?!」

「アニカもお帰り!」

「うん!ただいま!」


 一瞬で同年代の友人に囲まれる姉妹。再会を喜び合ってる間に準備しておこう。


「ウォルト君。久しぶりね」

「元気そうだねぇ」

「皆さんもお元気そうで」


 ウィーさんやミシェルさんを初めとするクローセのお姉さん達と会話しながら料理の準備を始める。


「もうね!変な魔物ばっかり獲ってくるの!」

「人の気も知らないで!自分で料理してみろっての!」

「獣と違って気持ち悪いんだよ!ウォルト君もそう思うだろ?!」


 準備しながら愚痴が止まらない。よほど魔物を獲って帰ってくるんだな。


「見た目に抵抗があると思いますが、大抵の魔物は美味しく頂けます。ボクの料理が参考になれば。始めますね」


 下ごしらえから調理までボクなりに美味しく食べる方法を教える。このグラッパは、アニカやウイカの身長と変わりないくらい大きくて食べ甲斐がある。


「この部位から血抜きして、内臓を出してから肉を保存しておくと臭くなりません」

「「「ほぉ~」」」

「足はほとんど筋肉なので、食感がコリコリして煮物にしても焼いても美味しいです」

「「「ふんふん」」」

「羽は小さくカットして、油でカリッと揚げるとおやつにも最適です。骨も柔らかくて揚げると美味しく食べられます」

「「「へぇ~」」」


 いろんな料理を少しずつ作って皆で試食する。


「うんまぁ~!!」

「とても魔物とは思えない!かなりジューシー!」

「手が止まらないね!羽もめっちゃ美味い!言われた通りに軽く砂糖を振ったらおやつだ!塩ならつまみになりそう!」

「ウォルト君は魔物専門料理店を開いた方がいいよ!」

「流行らないと思いますよ」


 魔物も安定して獲れるワケじゃない。日替わり魔物定食でいいならやっていけるかも。


「……大漁!大漁!」


 外からガヤガヤと男達の声がする。皆が戻ってきたみたいだ。勢いよく集会所のドアが開いて、逞しくなってる男性陣が入ってきた。


「ウォルトが来てるんだって?」

「獲れたから、コイツを直ぐ捌いてもらいた……ぶはぁ!」

「ぶへぇ…!」

「ぐはっ…!」

「ぶふぅっ!」


 フォレストウルフを肩に担いだ男達に、有無を言わさず女性陣からビンタが浴びせられた。


「いい加減にしろっ!そんなに食べたいなら自分で捌けっ!また何匹も持って帰ってきて…!」

「いきなりなんだってんだ?!」

「肉だぞ!貴重な肉!文句あるのかっ!?」

「あるわっ!しばらく魔物はいらない!森に返してこいっ!」


 備蓄倉庫には、グラッパの他にも手付かずの魔物が何体か放置されていた。食べないと在庫が増える一方だろう。


「お前らがもっと美味い料理を作れば直ぐなくなる!人のせいにすんな!」

「なにを~!食うだけのくせして偉そうにっ!」


 一触即発の雰囲気。男性陣はお腹が空いてるのかもしれない。


「皆さん、お久しぶりです。グラッパを調理してみました。空腹でしょうから一緒に食べませんか?ケンカするならその後にしましょう」

「…ウォルトが言うならそうするか」

「…一時休戦にしようかね」

 

 なんとか矛を収めてくれたみたいだ。皆で昼ご飯を食べていると、険悪な雰囲気もどこへやらで笑顔で仲良く会話し始めた。


「みんなお腹が空いてたんだね」

「違います。ウォルトさんの料理が美味しいからです」

「ウォルトさんの料理を食べると、怒るのがバカらしくなるんです!幸せになるから!」

「大袈裟だよ」

 

 でも、仲良くするきっかけになれるなら嬉しいこと。それにしても、グラッパはボクと姉さんの好物に似てるから食が進んで仕方ないなぁ。

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