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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
404/710

404 華季節だなぁ

 カネルラの1年で最も気温が低い亜季節(アキ)が終わり、年に一度チェリブロも咲く季節、華季節(ハル)を迎えようとしている。


 ウォルトにとって、森で迎える7回目の華季節。


「今年の寒さももう終わりかな」


 森を駆けて木漏れ日を浴びながら無意識にヒゲが動く。昼はめっきり暖かくなって、新緑の季節を迎えて森は装いを変えてる。青々とした木々に元気をもらえる気がして空気も美味しい。


 ボクは寒がりな獣人。カネルラは年中温暖でとても暮らしやすい。この国に生まれてよかった。他国で暮らしたくはないけど、暮らすなら絶対に暖かい気候の国がいい。

 世界では、高い山が聳えていたり、北に位置する国ほど寒いと聞く。ボクが国外逃亡することがあれば南下1択。


 心地いい陽射しを感じながら、ふと約束を思い出した。皆を誘ってみようかな。



 


「もちろん行きます。久々なんで楽しみですね」

「予定はなかった?無理なら1人で行くけど」

「ないですし、私も行きたいです」

「私とお姉ちゃんは予定なんてあってもキャンセルでっす!」

「ダメだよ」


 その日の内にオーレン達の家を訪ねた。そして、「また来る」と約束した子供達に会いたいから「クローセに行かないか?」とオーレン達を誘った。

 急な話なのに、「いいですね!」と手放しで賛成してくれた。ウイカはフクーベに来てから初めての帰省で皆に会うのが楽しみらしい。


「本当に私も一緒に行っていいんですか?」

「もちろん。俺の両親にミーリャを紹介したい」

「ありがとうございます」


 たまたま遊びに来ていたオーレンの恋人ミーリャも同行してくれることに決まった。


「ロックは明日もデートか?」

「ギルドの訓練場に修練に行くって言ってました」

「アンタはまだロックを羨ましがってるの?いい加減にしろ!」

「そんなワケないだろ!訊いただけだ!」

「ふふっ」

「ミーリャの心が広いから許してもらってるんだからね!感謝しなよ!」

「うるさいな!ところで、どうやってクローセまで行きますか?」

「ボクは駆けていこうと思ってる」


 クローセまでは全力で駆ければ住み家から2時間かからない。生身でも王都と同じくらいの距離だ。


「私とお姉ちゃんも走って行きます!」

「『身体強化』で走り続ければ4時間くらいで着くかな?」


 人間が駆けるには結構遠い距離だと思うけど、さすが冒険者だ。


「私も走ってみたいです!」


 ミーリャも手を上げる。


「マジか?!クローセはかなり遠いぞ」

「オーレンとミーリャは馬車で来なよ!ちょうど行商の日でしょ?揶揄ったりバカにしてるワケじゃないよ!」

「ミーリャは汗だくで初対面のミルコさん達に会いたくないよね?2回目以降は走って行けばいいと思うの」

「確かに…そうですね!」


 こうして、ボクとウイカ、アニカの姉妹は駆けて、オーレンとミーリャは馬車で行くことに決定した。



 


「おはよう」

「「おはようございます!」」


 出発当日の早朝。フクーベで姉妹と合流した。


「もう準備運動も終わりました!」

「私達はいつでも出発できます」

「じゃあ、行こうか」


 街を出てクローセ方面の街道へ移動する。


「アニカ、大丈夫?」

「いつでもいけるよ!」

「じゃあ行こっか。ウォルトさん、よろしくお願いします」

「わかった」


 ウイカとアニカは『身体強化』を発動して駆け出した。魔法を使わずに姉妹の後方を追走する。

 仲良し姉妹は、会話することもなく全力疾走。「私達の鍛練に付き合ってもらえませんか?」とお願いされたから、力になりたくて同行する。

 魔法を持続させる修練を兼ねていて、一緒にトゥミエに行ったときにボクが魔法で体力を回復しながら駆けているのを見て、自分達でもできないか試行錯誤の末に感覚を掴んだらしい。


 それだけでも凄いのに、限界を目指してクローセまで駆けると言った。間違いなく途中で魔力が切れるので魔力の補充をお願いされている。加えて気になった点は指摘してほしいと。

 ボク自身は生身で駆けても余裕があるスピード。でも、『身体強化』しているとはいえ人間にとってはかなり速いはず。なにより2人は手を抜いてない。

 全力で駆けながら集中を持続させるのは簡単じゃない。魔法を巡らせ続ける修練は必ず他の魔法にも活きる。


 誰に教わらなくても高みを目指す本当に凄い姉妹だ。彼女達を尊敬してるし追い抜かれる日も近いな。倒れたり怪我したときの救助要員も兼ねて追従しているけど、今のところ問題はなさそう。



 駆け出して1時間弱。


 一度目の休憩を迎えた。クローセまでの道程の4分の1は進んだ。


「はぁ…はぁ…。ぷはぁ!」

「ふぅ…ふぅ…。水が美味しいね~!」

「かなりいいペースだよ」


 僅かな休憩を利用して魔力の補充をする。その間も、体力を回復しながら2人で意見交換してる。

 

「走れば走るほど操作のコツが掴めるね。次はもうちょっと長く走れるかも」

「段々しっくりくるというか、魔法が身体に馴染むよね!次は魔力の節約もできそう!」


 魔力をずっと観察してたけど、駆けながらも微かに変化して終盤は安定してた。反復するだけでかなり上達するはず。


「『身体強化』の付与が私の走り方に合ってなかったみたい。少し変えてみようかな」

「だよね!走りに特化して付与してみよう!お姉ちゃんと私でも違うもんね!」


 直ぐに気付くのが凄いな。ボクが覚えた頃は、『なんかおかしいな…』と思いながら改善点が思い浮かばなかった。


「ウォルトさんから見てどうでしたか?」

「教えてもらえると嬉しいです!」

「まさに話してた通りだよ」


 気になることは多少あるけど、まだ伝えるべきじゃない。それより魔法操作を磨くことが優先。


「出発します」

「よぉし!行こう!」


 再びクローセに向けて駆け出した。


 話していた通り二度目は魔法操作が上達している。回復する魔力の持続は無駄が少なく、『身体強化』も自分の走りに合わせて強化できてる。

 次の休憩後にはもっと洗練されるだろう。見ていて飽きないというか、やっぱり2人は天才なんだと実感する。


 二度目の休憩は道程を半分以上過ぎてから。


「ふぅ~。少しだけ距離が伸びたね」

「上手くいったけどまだまだだね!でも積み重ねだから!」

「そうだね。アニカは足の付与をもう少し抑えた方が速く走れそう」

「私も思った!ちょっと回転が速すぎて体力をロスしちゃう!お姉ちゃんは『治癒』に余裕があるからもっと強めでいいかも!」

「だよね」


 お互いの走りを見る余裕もある。観察眼を磨くのも大事だ。教えなくても自然にできてる。


「ウォルトさんは疲れてませんか?」

「大丈夫だよ」

「私達が遅すぎて走りにくくないですか?」

「そんなことないよ。実魔法で負荷をかけてるんだ」


 途中から『鈍化』で自分の身体を重くしてる。そして回復は一切してない。鍛練は自分のアイデア次第で幾らでもやりようがある。


「2人に刺激されてるよ。さっきの休憩の後からだけど、負けられない」

「私達も負けません」

「ちなみに、ウォルトさんの『鈍化』ってどのくらいの負荷ですか?私にかけてください!」

「私も体験したいです」

「いいよ」

 

 ボクと同量の『鈍化』を付与する。


「ウォルトさんは…」

「この状態で…走ってるんですか…?」

「ボクの生身で追走できるギリギリの負荷だね。だから、いい修練ができてる」


 姉妹は顔を見合わせた。


「気合いを入れないと1歩も動けないよ」

「全身に鉛を巻き付けられてるみたいな重さだよね!」


 2人にはちょっと負荷が強すぎたかな。


「気合いが入りました」

「ウォルトさんに負けられない!」

「このペースだと昼前には着くよ」


 そして、三度目の疾走が始まる。


 後方から観察していると、今の自分達に最適な魔法制御を覚えたことがわかる。


 最も駆けるのが速く、最も効率的に魔法を持続させるコツを掴んで実行してる。ボクが思う2人に適した魔法制御に限りなく近い。

 上達や疲れに従って最適な制御は変化していく。それでも、ウイカとアニカにとって修正は苦にならないだろう。それくらい感性が優れている。


 三度目の休憩は、クローセまで残り5分の1を切った地点。駆ける度に距離が伸びているのも納得。


「やっと形が固まったかなぁ」

「だね!『治癒』の操作も上手くなったと思う!」

「魔力を補充しようか」

「「大丈夫です!」」


 間髪入れずに断られた。


「最後は純粋に走って行きます」

「生身も鍛えないといけないので!」


 …反省しよう。彼女達は魔法の天才の一言で表現しちゃいけない。才能に溢れているのに、努力を怠らず能力を磨き続ける努力家でもある。負けてられない。彼女達の何倍も修練しないと置いていかれる一方。刺激されっ放しだ。


「じゃあ、行くよ」

「いいよぉ!勝負だねっ!」


 最後は競走するのか。魔法抜きで純粋な身体能力の勝負。クローセに先に到着したほうが勝つ。



 ★



「悔しいぃ~!負けたぁ~!」

「なんとかお姉ちゃんに勝ったぁ~!」


 姉妹対決の勝者はアニカ。ほんの少しウイカより早く駆け抜けた。一進一退の名勝負だったなぁ。


「次は負けないよ。でも…」

「ウォルトさんは大人げないです!」

「ゴメン…。つい…」


 真剣勝負の熱気に当てられて、途中から勝手に競走に参加してしまった。ボクが最終的に2人の少し前を駆け抜けた。邪魔してしまったけど、負荷も倍くらいかけたから相当疲れたし、なにより勝負するのは楽しかった。


「しょうがないですね!許します!」

「ありがとう」

「ウォルトさんが、最後に自分に付与してた『鈍化』をかけてもらっていいですか?」

「いいよ」


 魔法を付与すると動きが止まる。


「信じられないです…」

「本当に『鈍化』…ですか?」

「今ボクが纏ってる『鈍化』だよ。解除すると、もの凄く身体が軽く感じるんだ。天然の『身体強化』みたいな感覚で楽しい」

「「へ、へぇ~」」

「体力作りをするなら次はこの修練がいいと思う。魔法を操るのにも体力は必須だからね」


 例外なのは師匠だけ。森を歩くだけで息を切らすくらい体力がないくせに、とにかく強大な魔法を操る。なにか裏技を使ってるとしか思えない。


 2人はこれからも伸び代しかない。どんどん成長して驚かせてくれるに違いない。

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