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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
402/709

402 クズの恩返し

「本当に…長い間ありがとうございました」

「いえ。祈りを捧げることしかできませんでした」


 ウォルトは、大事に保管していた遺留品を遺族に手渡して厳かに言葉を交わす。6人がかりで棺を抱え上げながら住み家を後にした。運ばれていく棺を静かに見送る。



 本日、住み家の裏に埋葬した冒険者の、最後の1人の遺体を引き受けに来た。もう墓地には誰も眠っていない。

 全員が遺族と対面できてよかった。冒険者ギルドと情報の拡散に協力してくれたマルコ達に感謝しかない。

 

 誰も居なくなった墓地にしばらく佇む。少しして、供えていた花を避けて棺を掘り起こした土を埋め戻しながら、綺麗に均して元に戻す。ただ1人で黙々と。

 墓標も全てなくなってしまった。仮に魂というモノが存在するのなら、まだ思念が残されているかもしれない。もう少しだけこの場所に花を咲かせておこう。供えていた花の種を植え、手を翳して『成長促進』を付与すると花が咲いた。


 今のように訪ねてくれる友人もいなかった頃は、何度か話を訊いてもらった。話し相手がいなくても苦にならなかったけど、墓前で独り言を呟いたことはある。師匠への愚痴も何度か訊いてもらった。静かに眠ってるのに、いい迷惑だっただろうなぁ…。


 最近では森で倒れていたり亡くなっている冒険者を見掛けない。最後に発見したのはもう3年以上前。あの頃よりかなり行動範囲も広がって、遭遇する確率も高いような気がするけど、発見しないに越したことはない。


 やるべきことを終えて、住み家に戻ろうとしたとき来訪者の匂いを嗅ぎ取る。…懐かしい匂いだ。静かに待っていると顔を出したのは予想通りの人物。


「本当にいた…。ウォルト…。久しぶりだ」

「お久しぶりです。ソウザさん」


 ソウザさんは、全身に大怪我を負って倒れていたのを発見して、回復後に無事に住み家を去った冒険者。出会ったのは、師匠がいなくなって少し経ってから。会うのは4年半ぶりくらい。2つ年上の人間の男性。


「逞しくなったなぁ…」

「そうですか?」

「かなり大きくなってる」


 あの頃はまだ成長し始めたくらい。ボクは一般的な獣人よりかなり成長が遅かった。


「会いにも来ない恩知らずですまない」

「気にしないで下さい。ボクが治療した冒険者で、会いに来てくれたのはソウザさんが初めてです」

「そうか。俺が言うのもなんだけど、冒険者は白状者の集まりだ」


 ソウザさんは苦笑する。実は、ボクもそう思っていた時期もあった。でも、オーレン達や他の冒険者に出会って皆がそうじゃないことを知ってる。


「どこに住んでるかも知りません。遠くへ行ってしまった方もいるでしょう。この森に二度と近付きたくない人も」

「相変わらず獣人なのに優しいな」

「ボクは優しくないです。それより、喉が渇いたでしょう。住み家へどうぞ。お茶を淹れます」

「すまん。ありがとう」

  

 住み家に招いて居間に通す。


「カフィは飲めますか?」

「カフィがあるのか?」

「自家製ですがあります。淹れますね」


 カフィを淹れて差し出す。


「いただきます。…美味いな」

「よかったです」

「自家製と言ったよな?この豆はどこで…。いや、気にしないでくれ。いつもの悪い癖だ。冒険者を辞めて商業ギルドで働いてるんだ。いいモノを見つけるとつい探ってしまう」

「フクーベのギルドですか?」

「そう。無理せず力量にあった仕事をしてるんだよ」

 

 この人は、名を挙げようと背伸びしてクエストに挑み、魔物の返り討ちにあって大怪我を負ったと言ってた。助かった後も、「俺はただの命知らずだ」と自虐してたのを覚えてる。


「見た目が怖い職員で有名なんだ」

「そんなことないと思いますよ」


 顔に残った傷のせいで、ちょっと強面に見えるのかもしれない。当時の未熟なボクの魔法では傷を完全に消すことができなかった。

 

「傷のせいかもしれないけど、戒めにちょうどいい。身の丈を忘れないように」

「ところで、なぜ来てくれたんですか?」

「「森で亡くなった冒険者を埋葬してくれた者がいるらしい」って耳に挟んでさ。きっとウォルトだと思ったんだ」

「なるほど。ボクのことですかね?」

「冒険者ギルドから、商業ギルドにも名前と情報を流してほしいって依頼があってさ。理由を話して場所を訊いたら大体ココだった」

「じゃあボクですね」


 クウジさんが広めてくれたのかな。同じく冒険者出身だから遺族が見つかってほしいと願ってくれたのかもしれない。


「俺は助かったけど、そうじゃない奴もいたろ?最近も多いんじゃないか?」

「ここ何年も見つけてません。いいことだと思います」

「それが1番だよな。人知れず土に還ってるかもしれないけど」


 実は骨だけなら見つけてる。魔物や獣が運んだのか不明だけど、発見しても身体の一部だけというのが多くて遺品も残ってない。

 そもそも、一部だと魔物や獣の骨の可能性もあるし判別できない。明らかに人の頭蓋骨だったりすることもあるけど。そんな時でも、ボクにできることと言えば近くに埋めて祈りを捧げることくらい。


「出ていく前に何度も言ったけど、あの時は本当に助かった。ありがとう」

「何度も言ってもらいました。もう充分過ぎます」

「それにしても、元気そうでよかった。まだ住んでるのに驚いたけど」

「何事も起こらなければ一生住んでますよ」

「ははは!いいかもな。よくこの森で生きていけてるな。仕事してないんだろ?」

「食べ物には困りません。畑も作ってますし魔物も食べますからね」

「逞しいな。冒険者より逞しい」

「大袈裟ですよ」


 カフィのお代わりがほしいと言われたので、台所で淹れて差し出す。


「本当に美味い。フクーベに店でも構えたらどうだ?」

「無理です。家で楽しむ分しか採ってません」

「お前は本当に謙虚だな」


 さて、そろそろ訊いてみようか。


「ソウザさん」

「ん?」

「本当はなにをしにきたんですか?」

「思いたって会いに来たんだ。さっき言っただろう」

「ただ会いに来てくれたワケじゃないですよね?理由を教えて下さい」

「なんでそう思うんだ?」

「匂うんです」

「そんなに臭いかな?風呂には入ってるけど」

「はい。酷く匂います。なぜなのか理由を知りたくて」

「なにを言ってるのか意味がわからないぞ」


 とぼけるなぁ。ボクは自信があるんだ。


「違っていたら謝りますが、ソウザさんはボクに危害を加えるつもりですね?」

「…なぜそう思うんだ?」

「言ったでしょう?匂うんです」


 反吐が出そうな匂いが…。最初からずっと匂っている。会話しながも感じていて気になっていた。


「…参った。バレたら仕方ない。その通りだ」

「ボクがなにかしましたか?」

「俺の都合だ。ウォルトはなにもしてない」

「よくわかりませんが説明してもらえますか?」

「そうだな…。パウロは…まだココに眠っているか…?」


 パウロさんはソウザさんと同時期に森で出会った冒険者。発見時には既に息絶えていてボクが埋葬した。


「ついさっき遺族の方と共に帰られました」

「なにっ!?さっきすれ違った棺がそうだったのか…!」


 立ち上がって住み家を出ていこうとする…が、そうはさせない。


「どけっ!邪魔だっ!」


 眼前に立ち塞がって再度尋ねる。


「まだ答えを聞いてません。なぜココに来たんですか?」

「そんなことはどうでもいいだろっ!邪魔だっ!どけぇっ!」


 拳を握りしめて殴りかかってきた。


「ウラァッ!」


 軽く躱して鳩尾に拳を打ち込むと、両膝を床に着いて両手で腹を押さえる。


「ぐあぁっ…!」

「出て行きたければ答えてからにして下さい」


 見下ろしながら答えを待つ。


「お前ぇ…!気付いてるのか…?!」

「質問しているのはボクです。答えないのなら通せません」

「…そこをどけぇっ!」



 



 無理やり突破しようとするソウザを何度も殴り倒した。遂に這いつくばったまま唸っている。


「うぅっ…」

「元冒険者だからボクを舐めてるんですか?昔と変わりないと…」

「ぐっ…」

 

 この男が回復して住み家を出て行く前に、「どの程度、身体が動くか知りたい」と言って一度だけ手合わせしたことがあった。

 拳士だったソウザの打撃はボクにとって脅威で一方的に殴られた。対抗するのに魔法は使わなかったけど素晴らしい拳技だと記憶してる。


 今は相当鈍っていて、躱すのに魔法を使う必要すらなく打撃に脅威を感じない。全力で殴る必要もない。『腕を磨くことをやめるとこうなる』という悪い手本。


「拳が錆び付きましたね」

「くっ…!」

「まだやりますか?それとも、理由を教えてくれますか?」

「ほざけ…。猫の…弱者の分際で…!」

「ならば、お前はなぜ倒れている?さっきも言ったがボクは優しくない。教えないのなら…」


 右足を上げて思いきり後頭部を踏みつける。床に捻じこむように顔を押し付けた。


「ごばっ…!」

「無理やり訊くこともできる」


 ボクが殴るのは殴りかかってくるからやり返しているだけ。単純な理由だ。静かに話せるのなら手は出さない。ただ…舐められていることが腹立たしい。不愉快極まりない匂いをさせている。

 パウロさんの名を口にしたあとのコイツの行動から、なにが目的なのか予想できた。もし予想通りなら……ふざけてる。

 足を退けて髪を掴んで無理やり顔を引き上げた。歯は折れ鼻は潰れて血塗れだけど知ったことじゃない。


「ぐっ…!クソがぁっ!ぺっ…!」


 吐きかけてきた血の唾を躱してまた殴る。


「ぐあぁっ!このっ…!」


 埒があかない。時間の無駄か。ハッキリ訊いてやろう。


「お前が…パウロさんを殺したんだな?」

「違うっ!」


 今思えば、パウロさんを発見した時、頭に殴られたような形跡があった。獣に牙で裂かれたり齧られたりして損傷が激しかったけれど、コイツが殴ったのなら亡くなった後に被害に遭った可能性が高い。なんにせよ、たった今コイツは認めた。言葉ではなく匂いで。


「ボクが遺族を探してる話を聞いて焦ったんだろう?自分の犯行が明るみに出るかもしれないと」

「このガキがっ…!…なにを根拠に人殺し扱いしてる!殺すぞっ!」

「面白いことを言う…。やれるならやってみろ」

「うっ…!」


 眼球の寸前に爪を出す。同じ日に少し離れた場所で倒れていたことを怪しむべきだったのか。詳しい事情は知らないけど、コイツはパウロさんを殴り森に放置した。それだけは間違いない。コイツが考えそうなことは…。


「口封じのたタメにボクを殺しに来たのか?」

「………」

「脅して黙らせるつもりだったのか?」

「………」

「遺族を追いかけて傷付けるつもりだったんだろう?遺体を回収するタメに」

「………」


 睨みつけてくるが答えない。笑わせてくれる。


「ククッ…!」

「なにがおかしい…!」

「黙っていればわからないと思っているのがおかしくてな」

「なんだと…?」

「お前は匂い過ぎる」


 確認する度に体臭が変化する。匂いは正直だ。言葉と違って嘘を吐かない。そして、口ほどにモノを言う。

 今ほど人に会うことがなかった頃に何日も嗅いだ匂いは忘れない。コイツが出て行く前に、再度パウロさんについて質問していれば直ぐに気付けたのかもしれないが今さらだ。


「パウロさんの遺体は損傷も激しい上に蝋化していた。誰もお前の犯行だと断定できない。なにを恐れてる?」

「………」

「言う気はないのか」


 予想できるところだと…。


「お前とパウロさんは生前仲が悪かった。パウロさんが冒険中に行方不明になったということで話は落ち着いてるが…森で亡くなっていたことが明るみに出るとお前を疑う者がいる…といったところか?」

「………」


 やはり正直でいい。匂いからすると当たらずとも遠からず。だが、予想が当たったとて嬉しくもない。


「事情は知らないが、パウロさんに懺悔したらどうだ」

「…俺をどうする気だ?」

「衛兵に突き出しても痛くも痒くもないだろう?証拠もない。しかも上辺だけはよく見える男だ。ドブのような匂いをさせるクズであるのに」


 会いに来てくれて純粋に嬉しかった。匂いに気付いてなければ完全に騙されていた。だからこそ許し難い。平然と人を騙そうとする行為が。


「黙れっ!お前には関係ない話だっ!離せ!このクソ猫野郎っ!」

「クソ猫…?この期に及んで逆上か…?ウラァッ!」

「ギャァァッ…!」


 交差するように顔を切り裂くと床に血が滴る。


「お前は獣人を殺しに来た。ということは、殺される覚悟もある。やられたらやり返す習性を知らないとは言わせない。ボクの…祖先を舐めたな」


 無理やり立たせて拳を振りかぶり、全力で顔面をぶん殴った。



 ★



 パウロは気に入らない奴だった。

 

 ガキの頃からなにをするにも俺と張り合って、そして…いつも俺が負けた。


 俺が冒険者になれば、後を追うようにアイツも冒険者になった。腐れ縁から嫌々パーティーを組んで死ぬほど修行しても注目されるのはアイツだった。

 なんでもそつなくこなし、人をバカにするいけ好かない野郎。難なく俺の上をいっては自慢するように絡んでくるクソ野郎。


「パウロが好きなの。ゴメンね」


 惚れ抜いて「一緒になろう」と約束した女でさえ俺を裏切ってアイツに靡いた。いつか…殺したいと考えていた気持ちが一気に膨らんで弾けた。

 だから、森でのクエスト帰りに不意を突いて意識がなくなるまで殴り倒し、魔物の餌になるよう置き去りにしてフクーベに帰っていた途中で悲劇が起きる。

 パウロではなく俺が魔物に襲われた。浮かれていたところを襲われ、動けなくなるほどの大怪我を負ったが命からがら逃げのびた先で白猫の獣人に救われる。


 獣人と思えないほど優しく、それでいて非力な猫の獣人は献身的に介護してくれた。パウロも森で死んでいるのを見つけて埋葬したと。素知らぬふりをして『おそらく俺を襲った魔物がパウロにトドメを刺したに違いない』と内心ほくそ笑んだ。やっと…アイツの呪縛から逃れられると。

 

 全快してフクーベに戻り、直ぐに冒険者をやめた。「パウロはクエストの途中で姿を消した」とだけギルドに告げて。

 傷だらけになって帰ってきた俺がギルドから引き留められるワケもなく、未練は欠片もなく商業ギルドで拾ってもらった。 

 やりたい仕事じゃなかったが、パウロがこの世にいないという事実は俺の気持ちを軽くして、物事が全ていい方向へと回り始める。


 人生で初めて順風満帆に思える日々を過ごしながら1つだけ懸念があった。それは、パウロの恋人であるイザベルが俺を疑っていたこと。

 元恋人である俺の性格をよく知る尻軽女は、「アンタがパウロになにかしたんでしょ!」「白状しろ!」「逮捕してもらう!」と、しつこく追求してきた。

 父親が衛兵ということもあって、無駄な正義感を振りかざす愚か者。なにをほざこうと裏切り者の戯れ言に過ぎず、答えてやる義理など微塵もない。

 パウロは既に埋葬され、森に住むウォルトの存在など誰も知らない。非力ゆえに世捨て人のような生活を送っていると言った悲しい獣人。


 どれだけ問い詰められようと、認めなければどうということはない。証拠もないのだから。その内に、新たな恋人に巡り合って仕事も順調そのもの。ただ、執念深いイザベルの存在だけが目障りだった。それほどに惚れていたことに呆れながら無視し続けていた。


 なのに、数年経った今になって突然状況が動いた。


「パウロという冒険者が森で亡くなって、埋葬してくれた者がいるらしい。冒険者ギルドを通じて遺族を探してるみたいだ」


 同僚から聞いたときしばらく動けなかった。なぜ今になって…と混乱した。いい加減にしろ…!と憤った。やっと忘れたのに…いつまでも邪魔するように絡んできやがる…。


 遺族は直ぐに見つかるだろう。商業ギルドに伝達されたということは、衛兵にも情報は入る。尻軽女が喚くに決まっている。

 遺体が引き取られたとして、俺の犯行だと断じることはできない。ただし、傷を見られると勘付く者もいるかもしれない。焼却するのが最善だ。


 そして…脳裏に浮かんだのはウォルトの存在。アイツはパウロが亡くなった状況や場所、そして一緒に保護した俺のことを知っている。

 バカ正直で獣人と思えないくらい賢い奴だった。記憶にあることを躊躇いなく話すだろう。証拠がなくとも当時の状況から俺が疑われる可能性は大。衛兵に聴取され、イザベルが「コイツが殺した犯人だ!」と騒ぎ立てるのが容易に想像できた。


 既に俺の恋人にも何度か絡んでいる。築き上げたモノを失う可能性は捨てきれない。ほんの少しの綻びがやがて大きな影響を及ぼす。やっと任されるようになった仕事も、結婚しようと約束した恋人も失う。万が一にもそんなことがあってはならない。

 

 必要とあれば、ウォルトを始末し事件の関係者を消さねば。まずは確認に向かう。依頼が来たのだから未だにあの場所に住んでいる可能性は高い。

 会話して余計なことを記憶していると判断したなら隙を見て始末する。今さら1人も2人も同じだ。パウロのように森に捨ててやろう。

 俺の邪魔をする者は、この世から消してしまえばいい。そうすれば人生はよりよい方向へ向かうことを知った。


 アイツは非力で獣人らしくない。だから森に住んでいる弱者だ。実力は知っている。俺は腐っても元冒険者。負けることなどあり得ないが、不意を突いて確実に殺してやろう。命の恩人であろうが…障害になる可能性があるなら排除してやる。




「うっ…。こ…こは…?」


 目を覚ますと木にもたれかかって座り込んでいた。周囲は薄暗く、夜が近いのだと即座に理解した。アイツは……俺を森に捨てたのか…。


 顔や腹の痛みはすっかりなくなっている。あの時のように…回復薬で治療した。……お人好しがっ…!舐めてるのはどっちだ!


「情けをかけたつもりか…。虚仮にしやがって……クソ猫がぁぁぁっ!」


 絞り出すように叫ぶ。鳥が羽ばたく音が聞こえた。


「はぁ…はぁ…。クソッ!」


 直ぐ復讐しに行ってやる…!首を洗って待ってろ!


 動こうとして気付く。身体が重い。『麻痺』とも違う。鉛を背負わされたように重い。コレはまるで…『鈍化』…。


「グルルル…」

「……っ!」


 見渡すとフォレストウルフの群れに囲まれていた。4匹いる。俺がさっき上げた声のせいか。魔物に居場所を知らせる愚かな行為。

 

「グルルルッ…」


 威嚇するように牙を見せながら間合いを詰めてくる。今襲われるのは…マズいっ!逃走を図るために駆け出そうとするが、とにかく身体が重い。


「グルァァァッ!」

「うわぁぁぁっ!」



 ★



 明くる日。


『昇天』


 ウォルトは原形を留めないソウザの亡骸に手を翳し、魔法で天に還す。跡には草木が生え茂り、残された衣服を拾って『炎』で跡形もなく燃やした。

 身を翻して住み家へと歩き出す。この辺りには滅多に強大な魔物は出現しない。魔物に遭遇しないよう気を配りながら森を抜ければ、フクーベに無事に帰れる程度の『鈍化』を付与した。


 パウロさんと同じく、魔物が跋扈する森に置き去りにされる恐怖を身を以て感じて、それでも再び目の前に現れるようなら、一切の躊躇なく燃やし尽くすつもりだった。殺しに来た奴を埋葬して、祈りを捧げるような聖人じゃない。ボクは獣人だ。


 パウロさんがどんな人物だったのかは知る由もない。けれど、ソウザとは腐れ縁だったんだろう。それだけは理解した。

 引き裂かれた遺体は、導かれたようにパウロさんが亡くなっていた場所に倒れていたから。

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