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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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40 師匠の片鱗

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

「ウォルトさん。ありがとうございました」

「またよろしくお願いします!」

「うん。またね」


 1泊2日でオーレンとアニカに稽古をつけたウォルトは、確かな自信をつけて颯爽と街へ帰っていく後ろ姿を見送ったあと、住み家に入ってふと思った。


 最近、自分の鍛錬が疎かになってる。


 若い2人がめきめきと実力を伸ばしているのに、己の研鑽を疎かにしては申し訳ないと自戒して、久しぶりに行ってみるかと準備を始めた。

 準備といっても、携行する食料と水分を用意する程度。保存食や水筒の準備を滞りなく終え、いつものローブを羽織って意気揚々と出発した。




 住み家から1時間ほど駆けて、目的地に到着した。


 森のとある場所に所在する一見なんの変哲もない洞窟。強力な魔法の修練を行う時は必ずココに来る。

 この洞窟は中でどれだけ魔法をぶっ放しても崩れないように結界が張られている。張ったのはボクの魔法の師匠だ。


「久しぶりに来たなぁ」


 洞窟の奥へと歩みを進める。少し進むと、道中の壁の一部、目立たない箇所に右手を当ててゆっくり魔力を流し込んだ。

 すると、洞窟全体がぼんやりと光を放つ。鮮明な明るさとはいかないけど、不便はない程度の照度を保つ。魔力を感知して作動する照明で師匠が作った。

 魔力を光に変換する魔法装置らしいけど、詳細は不明。込める魔力を強めると、光は長く持続するだけで明るさは変わらない。本当に不思議だ。ボクも『発光』という生活魔法は使えるけど、こんな広範囲で大々的なことはできない。


 時々襲い来る魔物を撃退しながら20分ほど進み、洞窟の最深部に辿り着くと円形に拓けた場所に出る。

 まるで闘技場のような広さ。『修練場』と呼ぶこの場所で、ボクは様々な魔法を学び習得してきた。


 この場所に来ると師匠との修練を思い出すな。いや…。今は思い出すのをやめておこう。首を振って邪念を払うと、修練場の中央に移動して身構える。


 地面が所々ボコボコと盛り上がり、地中から【骨化身(スケルトン)】が現れた。それぞれ剣や槍を手にカタカタと顎を鳴らしながら勢いよく駆け寄ってくる。

 

 慌てることなく迎撃せんと魔法の詠唱を開始する。


破砕(ショック)


 翳した右手からドンッ!と衝撃波が放たれる。避けきれず直撃したスケルトンは、吹き飛んで骨が砕け散りその場に崩れ落ちた。

 迫り来るスケルトンを魔法で冷静かつ的確に倒していく。魔法が間に合わなければ『身体強化』した体術を駆使して破壊する。


 10体ほど倒したところで一息ついたのも束の間、修練場の中央に一際大きなスケルトンが出現した。

 体躯はマードックより大きく、先ほどまでのスケルトンと違い圧倒的な威圧感を放っている。簡単に言うと骨太。手には大斧を握りしめて。


「考案した魔法を使ってみよう」


 跳んで距離をとると、両手にヴォン!とそれぞれ魔法を発現させる。右手には冷気、左手には陽炎のような魔法。

「グオォォ!」と奇声を上げながら、襲いくるスケルトンに対し両手を重ね合わせて複合魔法を放つ。


凍壊(レーシック)


 凍気を纏った衝撃波がスケルトンを襲う。骨太スケルトンは、骨とは思えない俊敏な動きで軽やかに躱し、考案した魔法の威力は確認できずじまい。勢いは殺したものの、またこちらに向き直って突進を開始する。


「コレならどうだ」


 スケルトンの動きに感心しながら、速やかに次の魔法の詠唱に入る。今日は滅多に使わない魔法も使ってみようと考えていた。感覚を思い出すように魔力を掌に集中させる。


 そうして繰り出した魔法は…。


捕縛(バネット)


 魔力で編まれた網が掌から投網のように放射状に飛び出した。放射された網は、骨太スケルトンを絡め取り、苦し紛れに藻掻いても破れる気配はなく余計に絡まっていく。

 もう攻撃はできないだろう、と動けなくなった骨太スケルトンに近づき右手を翳した。


 そして『捕縛』を解除する。網を解かれた魔物は、襲いかかってくるかと思いきや意外な行動に出る。


『久しいな、ウォルト。元気だったか?』

「スケさん。ご無沙汰してます」


 骨太スケルトンはギシリと立ち上がって声をかけてきた。周りで崩れていたスケルトン達も、音を立てながら元通りに体が修復されるとボクの周りに集まってくる。


「皆さんもお久しぶりです。今日はありがとうございました」


 笑顔で伝えるとカタカタ笑う。


『今日もやられた。相変わらずの魔法の威力だ。スケルトンは魔法に耐性あるんだけどな』

『まだ、俺達も修行が足りない。死ぬほど訓練しないとな!カラカラ!』

『全員とっくに死んでるけどね』

『骨粗しょう症気味だけどな!』


 カカカカッ!と歯を鳴らして笑う。皆が元気そうでよかったと笑みを浮かべる。



 この修練場は、元から存在する洞窟を利用して師匠が作った。魔物が出現するから、ボクは小さいダンジョンだと推測してるけど、師匠は「洞窟だ」と言い張っていた。

 友人である骨の皆は、師匠が洞窟にいたスケルトンから『魔物成分』を取り除いたことによって自我を取り戻した人達。魔物成分とやらについてボクは未だに理解できない。


 スケさん達は生前冒険者だった者ばかり。こんな洞窟で野垂れ死ぬのは、ほぼ冒険者しかいない。

 意思のある骨に変化した皆は、「コイツ(ウォルト)の修練を手伝え」と師匠に頼まれた。「もし断ったとしても、ちゃんと『昇天』させてやるから心配するな」とも言われた。スケさん達の生への執着を利用した脅迫だった気がする。


 元から人のいい冒険者ばかりだったのと、元戦士から魔法使いまで揃っていたので、戦闘の基礎から魔法による戦闘やパーティー行動に至るまで基礎的なことを教えてもらった。

 後に教えてもらったけど、一緒に修練する内にボクの真面目さや師匠との修練でボロボロになりながら努力する姿を目の当たりにして、手伝ってやろうと思ったらしい。早く育ててやらないと、その内自分達の仲間入りしてしまうと心配していたと笑った。


 結果、打ち解けて仲良くなり、今でもこうしてたまに手合わせしてはお互いに力を確かめ合って交流を続けている。

 スケさん達は、骨が崩れたとしても塵ほどでも残っていれば何度でも蘇る魔法が師匠によって施されている。ただし、蘇るのは洞窟の中限定。


 昔から互いの守るべきルールとして『修練であっても本気で闘う』という決まりがあって、戦闘時には手加減はしない。ただし、あくまで修練なので命までは奪わないように心掛けている。



『ウォルト。また新しい魔法覚えてるじゃん!』

『うむ。1人になっても弛まぬ研鑽。大したものだ。ときに、変人はまだ帰ってこないのか?』


 師匠のことを気にしてくれているみたいだ。『変人』と言われても仕方ない人だけど。


「消息不明で生きてるか死んでるかもわからないです」

『アイツは簡単に死ぬようなタマじゃないだろ!殺しても死なねぇよ!』

『アイツが死ぬときは一発くらい殴らないと気が済まない!いや、蹴りも入れる!』

『アイツも骨人形にしてやろうか!フハハハハ!』


 さすが師匠…。皆に愛されてる…のかな?


『ウォルト』

「なんですか、スケさん」

『俺達はいつでもココで待っている。修練に来い。皆、喜ぶ』


 カカカカ!と顎を鳴らして笑う。皆のリーダー的存在でずっとボクを気にかけてくれる優しい人だ。


「ありがとうございます。気持ちは嬉しいんですけど、皆は退屈じゃないですか?ココにずっと居るだけだと」

『外にも出てるぞ。森の魔物とも闘ってる』

「そうなんですか?」

『この間もスケ三郎が外で冒険者にやられて粉々になった。皆で最後の一欠片まで拾いに行ってな』


 特にお調子者であるスケ三郎さんが口を開く。


『いやぁ~。あの時は死んだと思ったぜ!いい尻した女冒険者がいたから後を付いていったら、直ぐ見つかっちまってな。強かったな、アイツ!洞窟に帰っても蘇るのにかなり時間かかったぜ!』

『『『………』』』


「あんまり無茶しないで下さいね。昇天したかったらボクの魔法でさせます」

『その時はお前に頼むさ』


 互いに笑い合った。



 その後も、しばらく修練場で戦闘を繰り返し、「もう充分です」と挨拶して帰ろうとしてスケ三郎さんから提案される。


『さっきの『凍壊』って魔法の威力を見たいから俺にかけてみろよ!』


 自信ありげだけど、冷静に考えるとできない。


「スケ三郎さんは危ないです。命に関わると思います。スケさんなら大丈夫だと思いますけど」

『俺をナメンな!昔は『フクーベ最強の盾』と呼ばれた冒険者だったんだぞ!』


 火に油を注いでしまった。言い方がマズかったかな。フクーベ最強の盾ならこの洞窟では亡くならないと思うけど…。


『噓つけ。そもそも戦士じゃなかっただろ』

『ただでさえ骨が細いんだからやめとけよ。虚弱スケルトンのくせに』

『死んでも骨は拾わんぞ』

『どいつもこいつもうるせぇな!』


 皆で止めたけど、その後も駄々をこねて言うことを聞かないので「わかりました」と『凍壊』をぶっ放した。


 スケ三郎さんは文字通り粉々になってしまい、危うく昇天しかけたのは余談。

読んで頂きありがとうございます。

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