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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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39 森の伝説

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ウォルトの住む森は、正式には【動物の森(アツマレ)】という。


 遠い昔、全ての動物はこの森から生まれたという伝説が残っており、嘘ではないというほど広い面積を誇り、多種多様な生物が共存している。

 動物の森の有名な逸話に、森の奥深く人類未踏の地には、誰も見たことのない怪物が棲んでいる…という話がある。




「う~ん。完全に迷った…。…もぐもぐ」


 道に迷って森を徘徊している。目的地は街だけど、向かう途中でカーシを見かけたから狩ろうと追いかけ回したら、方角を見失って完全な迷子に。家に帰る道はわかるけど、街の方角がわからなくなった。

 狩ったカーシを頬張りながら、どうしたものかと思案していると、今度は近くに魔物の匂いを感じた。囲まれたら厄介だ。数匹の気配を感じる魔物から距離をとる選択をした。


「どうにか撒いたかな?」


 森を駆け回って、魔物の追跡もないことに安堵すると、目の前の少し拓けた場所に家が建っているのが目に入る。


「ん…?この匂いは…」


 鼻を鳴らして匂いを嗅ぐと何者かの存在に気付く。なぜか懐かしいような匂い。向こうもこちらに気付いたのか近づいてくる。

 しばらくして、建物の角から猫のような姿の獣人が現れた。警戒して思わず身構えるとジッと見つめてくる。


「やっぱり。ペニーだ」


 獣人は笑顔で話しかけてきた。


「俺のことを知ってるのか?」


 心当たりがないけど。


「久しぶりだね。前に会ったときはもっと小さかったから覚えてないかな?」

「覚えてない…。誰だ?」

「ボクはウォルト。ペニーはココに来たことがあるんだ」

「ウォルト…?ウォルト……あぁ~!」

「思い出した?」

「森で迷ったときに泊めてくれた!思い出した!」

「そうだよ。1年前くらいかな」


 以前、森で迷ってこの家に泊まったことを思い出した。ウォルトにお世話になったんだ。


「あの時は助かったよ!恩を忘れるなんて俺はダメだなぁ…。父さんにも言われてるのに…」

「気にしなくていいよ。ギレンさんも元気かい?」

「元気だよ。あちこち身体が痛いって言ってるけど」

「お大事にって言っておいてくれ。ところで、今日はどうしたの?」

「街に行こうと思ったんだけど、道に迷っちゃって。その途中で魔物から逃げてたらココに着いたんだ」

「なるほど。街に用があるのか?」

「街ってとこを見てみたくなったんだ!」


 ウォルトは少しだけ困ったような表情を浮かべた。なんでだ?


「そうか。ボクが森の出口まで案内できるけど、一緒に行くかい?」

「俺は助かる…けど、なにもお礼できない…」

「そんなこと気にしなくていいよ。ボクらは友達だろう?」

「友達…?俺とウォルトが…?」

「違うなら赤の他人かい?ボクは前に泊まっていったとき友達になったと思ってたけど」

「…いや、友達だっ!俺達は友達だ!」


 ウォルトは笑顔を見せる。


「友達なら助け合うのは普通だよ。少し準備するからちょっと待ってて」

「わかった!」


 ウォルトはそそくさと家に入っていく。待つ間、気持ちが落ち着かない。


 友達か…。友達……。へへッ!


 俺の周りには友達と呼べる者がいない。ウォルトが優しくていい奴なのは知ってる。友達になれたことが凄く嬉しい。


 ウォルトが準備を終えて戻ってきた。


「お待たせ。じゃあ、行こうか」

「うん。行こう」



 ★



 森の出口へ向かう道中、ウォルトはペニーに言っておかなければ…と重い口を開いた。


「ペニー。街に行くのはいいけど、中には入れないかもしれない」

「えっ?!なんで?」


 驚いた様子のペニーに優しく告げる。


「フクーベは人が住む街。ペニーはそうじゃないから街に入ると驚かれて追い出されてしまうかもしれないんだ」

「人じゃないから……。そうなのか…」

 

 少しだけ項垂れたペニーは……人ではない。


 人語を解して話せるけど、どう見ても狼にしか見えない。ボクも初めて会ったときは驚いた。動物や獣とある程度の意思疎通はできると思っていたけど、ハッキリ言葉を交わせる動物がいるとは考えてもみなかったから。 


「人の中には獣を恐れる者も多いんだ。ボクはペニーがそうじゃないことを知ってるからなんとも思わない。でも、初めて会う人はペニーを怖く感じるかもしれない」


 できる限り言葉を選びながら伝える。


「なるほど。獣は獰猛で人を襲うと思われてるんだな。俺は獣に見えるのか」


 思案しているペニーは聡明だ。父親であるギレンさんもそうだった。森で迷っていたペニーと出会って家に泊めたのが1年ほど前。

 すると、ペニーが家に帰った数日後に父親のギレンさんがお礼の挨拶に来た。息子を泊めてもらったことへの感謝の言葉と、お礼にと獣肉を置いていった。

 短い時間だったけど、会話して感じた。狼とは思えないほど知的で思慮深いと。息子であるペニーも、人の事情について思考を読み解いている。


 彼等はタダの狼じゃない気がする。


「そうか。じゃあ帰ろうかな!」


 ペニーはあっけらかんと言い放った。


「街に行きたかったんだろう?入れないとは決まってないけど」

「いいよ!それより嬉しいことがあったし!」


 驚いて尋ねるとペニーは笑顔を見せた。

本当に気にしてないように見える。


「それならいいけど。じゃあ、ボクの家に泊まっていかないか?いきなりだとギレンさんに怒られるかな?」

「大丈夫だけど、ウォルトはいいのか?」

「構わない。だってボクらは…」

「友達だからな!」


 台詞を取られて少しポカンとしたものの、笑顔で頷いて共に住み家に帰った。

 その日は、帰り道で一緒に狩った肉を夕食にお互いの色々なことを話して仲良くベッドで眠った。



 ★



 次の日、ペニーは家路を急いだ。


 ウォルトには大丈夫だと言ったけど、無断外泊できっと父さんは怒ってる。でも、今回は甘んじて怒られるつもりだ。


 友達ができた。森の奥深く一族だけで生活する俺には望むべくもないと思っていた存在。

 帰り際、ウォルトが「いつでもここで待ってるよ」と笑顔で言った言葉が嬉しくて、いつもより軽快に駆ける。



 その後、住み処に着いて、予想通り父さんに大目玉を食らいそうになったけど…。


「父さん!ウォルトにコレをもらった!」

「なんだ?」


 父さんの症状を聞いて、ウォルトが作ってくれた薬を渡すと、「ムムム…」と唸りながら怒りが落ち着いた。


 その様子を見てまた友達に感謝する。


 ウォルト、ありがとうな!

 


 ギレン達が、【動物の森】の伝説である【銀狼(フェンリル)】の一族であることにウォルトが気付くのはもう少しだけ先のこと。

読んで頂きありがとうございます。

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