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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
386/706

386 お土産の魔法

 ウォルトの住み家から帰ってきた翌日。


 リスティアの部屋を訪れたルイーナが、昨夜のいざこざについて部屋に説明に来てた。


「リスティアが部屋を出てから、そんなことがあったの」

「なるほどぉ。まだ気付かないんだね」


 結局、お父様達は遅くまで議論を交わしたけど、「やはりわからない」という結論に至ったらしい。そして、今後は自分達で真実に辿り着いてもらおうと、お母様は一切の口出しをしないことに決めたみたい。

「内緒にしてほしい」と頼まれたことを、勢いで幾らか暴露してしまったことについてお詫びにきてくれたのは、親子といえど約束を違えるのは許されないという信条があるから。


 昨夜の内に事情を説明されてるウィリナさんとレイさんも同席してお茶してる。2人はウォルトを知ってるからお母様の心情が理解できるらしい。


「朝食の時、お父様の様子がぎこちなかったもんね!ふふっ!」

「気付いてたのね」

「お父様とお母様はいつも甘~い空気を漂わせてるから。今日は変だった」

「そう?」

「そうだよ」

「余計なことを口に出して悪かったわ」

「いいの!まだ気付かれてないのが奇跡だから!」


 普段のお父様達はかなり勘がいいと思う。でも、不思議とウォルトと私の繋がりに気付かない。ヒントは山ほど出してるから私がお父様ならずっと前に気付いてる。実はわざと気付かないふりしてるとか?


「ストリアル様は「どこに行ったんだろうな?」「まだ帰らないのか?」と心配されていました」

「アグレオ様も「そろそろかなぁ…」と落ち着かない様子でした」

「妹としては嬉しいけど、もうそろそろ妹離れしてもいいんじゃないかな?」

「可笑しいわね。それをリスティアが言うの?」

「もう11歳だよ!」


 私は兄離れできてる。ジニアスやエクセル、ハオラのことは可愛くて仕方ないけど、お兄様達は可愛くない!


「ところで、今回も楽しかったの?」

「最高の1日だった!」

「なにをしてきたのですか?」

「ウォルトの日常生活を見てきたの。畑仕事を手伝ったり、初めて釣りや料理もしてきた。騎士の先人に祈りも捧げてきたよ」

「埋葬場所が判明したのね?」

「うん。ウォルトの魔法で探して、花も魔法で手向けてくれたの。あの光景を皆にも見せたかった」


 あり得ない花畑の光景は今も目に焼き付いてる。先人に喜んでもらえたと思いたい。


「見たかったです…。きっと素晴らしかったでしょうね…」


 ウィリナさんが見たらうっとりしたはず。


「埋葬場所は森に点在してたけど、全てを覆うほどの花畑に変えたの。この時期に咲かない花まで咲かせて。理想郷みたいだった」

「聞くだけで素敵です…。はぁ…」


 マズいね…。ウィリナさんは花好きだって、ウォルトに言うの忘れてた…。まぁ、問題ないよね!


「ウィリナ。そんな顔をするとストリアルが妬いてしまうわよ」

「そんなことはありません。私は花が好きなのです」

「ふふっ!そうですね!」


 お母様達はかなり仲良くなった。いいことだ。これもウォルトのおかげ。


「皆に見てもらいたいモノがあるの」

「なにかしら?」

「魔法ですか?」

「見たいです!」


 直ぐに目の色が変わった。とりあえず、誰も入室できないよう扉に鍵を掛けて、カーテンを閉めたら準備完了。首元から手を入れて、ウォルトからもらった碧のネックレスを取り出す。


「綺麗な宝石ね。どうしたの?」

「宝石じゃなくて輝石だよ。昨日ウォルトが誕生日プレゼントに作ってくれたの」

「えっ!?ウォルトさんが作ったのですか?見事なネックレスです」

「装飾品も作れるなんて…。凄いのは料理と魔法だけじゃないんですね」

「とんでもなく器用でいろんなことができるの!薬も作れるし、綺麗な生地も織れる!コレも実は魔道具なの!」

「凄いわね…。彼は万能な天才なんじゃないの…?」

「私もそう思うけど、本人曰く『凡人中の凡人』らしいよ!」


 そういうところがウォルトらしくていいよね!


「じゃあ、見ててね。『精霊の加護』」


 部屋中に『幻視』の星空が浮かび上がった。昨日も寝る前に見た。何度見ても感動する。


「なんて見事な星空なの…。信じられない…」

「表現できる言葉がありません…」

「こんなことが可能だなんて…」


 3人はゆっくり星空を見渡してる。驚いてくれて嬉しいな。


「ウォルトが住んでる場所から見える星空なんだって。私の加護の力でしか発動しないように作ってくれたの」

「はぁ~…。とても素敵ですぅ~…」

「ふふっ。ウィリナ様はそればっかりですね!でも、本当に素敵な魔法です…。とても美しいです」

「気持ちはわかるわ。見せられてときめかない女性はいないわね」

「そうなの!でも、本人に全くそんな気はないからね!」

 

 もちろん褒め言葉だ。邪心がないからこそウォルトの魔法は優しくて美しいんだと思う。


「見せてくれた『幻視』の星空を「持って帰りたい!」って冗談で言ったら、本当にやるんだもん。驚くしかなかったよ」

「そうね…。リスティア…」

「なに?」

「ウォルトは言うまでもなく凄い魔導師だわ。おそらく歴史に名を刻む」

「うん」

「彼の魔法が…カネルラを変える可能性には気付いてるわね?」

「もちろん。初めて見たときから思ってる」

「実際…どう考えているの?」


 お母様の言いたいことはわかる。ウォルトと関わるうえで避けては通れない問題。私個人ではなくて、カネルラの王女としてウォルトの存在をどう考えているのかってこと。

 選択を迫られたとき、カネルラにとって有益をとるのか。それともウォルトの希望を選ぶのか。


「なにも考えてない!」

「随分楽観的な答えね」

「本音を言えば、カネルラ魔法の発展よりウォルトが静かに暮らすことが大事。それ以上に大切なことなんてない。もう二度と表舞台には立たないって言ってた。魔法の発展にも興味がないの」

「本当にそれでいいのね?」

「いい。だって、ウォルトが表立たなくてもカネルラ魔法は発展する。それが昨日わかったの」

「どういうこと?」

「ウォルトは人付き合いが苦手だけど、魔法を教えてる友人が何人かいるの。その人達は大魔導師になるって断言してた」

「教え子が大魔導師に…。彼が言うのならきっと真実ね」


 食事や釣りをしながら教えてくれた。1年くらい前に、縁があって知り合った魔法の才能に溢れる冒険者がいて「大魔導師になれたら魔法武闘会で闘って下さい」と言われたって。

「その言葉が嬉しかったんだ」と笑って、その時はもう一度猫のお面を被ると言ってた。今は無名でもウォルトにそこまで思わせるなんて凄い。是非会ってみたい。


「他にも数人の魔導師と交流してるの。中には、エルフの魔導師やライアンの愛弟子もいるみたい。「皆が口を噤んでくれてるから、珍獣扱いされずに静かに暮らせてる」って感謝してた。きっと今後も輪が広がっていく」

「それなら、時間はかかっても魔法が発展する可能性は高いわね」

「現時点で本人がなにもしてなくても魔導師に影響を及ぼしてるからね。実際ライアンやジグルもそうだよ」


 武闘会で魔法を目にした宮廷魔導師やジグルは、毎日のように修練に励んで切磋琢磨してる。邂逅したライアンは、ウォルトが人付き合いを好まないことをわざわざカネルラ中に伝えて騒がれないようにしてくれた。


「もう動き出しているのね。心配は無用だったかしら」

「流れは止まらないと思う。なるようにしかならないし、余計なことは考えないことにしたの。私の願いはウォルトにカネルラで静かに過ごして、この国にいてほしいだけ。とにかくウォルトがいなくなると、魔法の発展は望めなくなるし」


 お母様はふわりと微笑んだ。


「私は、ナイデル様やストリアル達にもウォルトの魔法を見てほしいと思う」

「もう見てるんだけどね」

「ふふっ、そうね。世の中には…常識では測れない事象が存在していて、心を震わせることを知ってほしい。本当は…私もウィリナもレイも夫と共に感動を分かち合いたいの」


 ウィリナさんとレイさんも頷く。


「わかるよぉ~!ウォルトの魔法には、石頭を柔らかくするだけの衝撃があるからね!」

「最近ナイデル様達に手厳しいわね」

「お父様達は気付いてないけど、少しずつ頭が固くなってる。政に堅実な思考は重要だけど、そっち方面ばかりに偏ったら危険。どっかで、かち割らないといけないと思ってる」


「表現!」と3人は苦笑した。


「ただ、それはウォルトの魔法じゃない気がしてる。見てほしいとは思うけど、今は無理かなぁ」

「リスティアが頼んでもダメなの?」

「頼んだら見せてくれるんじゃないかな。でも、それだけかも」

「どういう意味?」

「ジニアス達の誕生祝宴で見せたような美しい魔法じゃないかもしれない。あの時のウォルトは私達を心から祝福してくれてた。だから素晴らしい魔法を見せてくれたと思ってる」

「そうね。命令では動かないと言い切る人だものね」

「そうなの!お父様に「仕えろ」って言われたらどうする?って訊いたら、「命令される筋合いはない」って言ってたの!格好いいよね!」

「リスティアは一生独身かもしれないわよ」

「別に構わないけど、なんで?」

「貴女がカネルラから出てしまうと、ナイデル様にも仕えないウォルトは行方知れずになる可能性もある。魔導師達の動き次第ではずっとカネルラで暮らすことになるかもしれない」


 いい機会だと思うから言っておきたい。


「望むところだよ!別に好きで嫁ぎたいワケじゃないんだから!お母様やお姉様も同じ気持ちじゃなかった?お父様やお兄様のことよく知らなかったでしょ?」

「まぁ…そうじゃないとは言わないわ…」

「まぁ…そうですね…」

「ちっちっ!腹を割って話そう!王族女性のココだけの話だから!」


 ちょっと困った表情の2人を余所にレイさんが笑う。


「私は庶民だったので事情が少し違いますけど、アグレオ様に嫁いで幸せです。ルイーナ様もウィリナ様も母国にいたときと同じくらい幸せなのではないですか?嫁ぐことも新たな幸せの可能性だと私は思いました。カネルラ王族限定かもしれませんが」

「そうなのよ。やはり嫁ぎ先が重要なの…。私はカネルラだったから恵まれていたと言い切れる」

「レイ様の仰るとおりで、私は母国にいた頃よりも幸せであるかもしれません。ですが…王族女性の婚姻はそうでないことの方が圧倒的に多いのです」

「だよねぇ~!ウチの場合、国王以下王族男衆が甘やかし溺愛系だからそう言ってもらえるんだよねぇ~!」

「リスティアは誰の立場で発言してるの?」

「笑ってるけど事実でしょ!側室も持たずに、夫婦仲良く暮らしてる王族なんてきっとカネルラくらいだよ。でも、お母様やお姉様達の努力の賜物!自分を磨きながら夫を影で支え、存分に寵愛を受けるデキる妻!」

「だから誰の立場なの?あまり力説しないで。恥ずかしいし可笑しいから」

「そう?私もねぇ~、カネルラみたいな国なら嫁いでみたいと思わなくはない。でも、ないんだなぁコレが!」


 意外に将来のことをちゃんと話したことはなかったりする。お母様やお姉様が私に気を使ってくれているから。

 王族に生まれた女性として様々な気持ちを抱えているはず。けれど、あえて私になにも言わないのは、『今を楽しんでほしい』というお母様達の優しさだと思う。淑女たれ!なんて言われたこともない。そんな人達だからこそ腹を割って話せる。


「ふふっ。そうね。母としては、嫁ぐなら私かウィリナの母国がいいと思うけれど」

「私もそう思ってる。2人の母国なら上手くやっていけそうな気がする」

「そうであれば、とても聡明な王族がいるので紹介したいのですが」

「言い辛そうだけど、実は結構おじさんとか?」

「いえ。まだ6つなのです」

「若すぎるよ!」

「あら。あと10年もすれば成人よ?」

「姐さん女房…。想像すると悪くないね!」


 その後も皆でお茶する。話してると、やっぱり気を使ってくれていたんだと嬉しくなる。私は優しいお母様達のことが大好きだ。

 

 盛り上がって、少々お父様達への不満を聞いていたところで思い出した。


「そうだ!話の途中で悪いけど、もう1つお土産にもらった魔法があるの!」

「まだあるの?」

「見たいです」

「見ます!」

「ウォルトは「ちょっと面白い魔法」って言ってたんだけど、珍しく注意事項があって」

「珍しいわね」

「大したことないんだけどね。2つあって1つは既に終わってるから」

「終わってる?」

「1人の時に見るか、見せる人は女性限定にしたほうがいいらしいの!」

「なるほど。それは好都合ね」

「もう1つはなんなのですか?」

「それはね…コレなの!」


 もらった布袋から、絹の貫頭衣を取り出して皆に見せる。


「絹の寝間着(ネグリジェ)…?縫い目がどこにもないけれど……まさか、コレもウォルトが…?」

「そうなの。単純に凄いと思わない?私が城に帰る前にお風呂を借りてる間で作ってた!もうね、度肝抜かれまくり!」

「もはや職人ですね…」

「城で雇ったほうがいいと思います!」

「というか、他人の家でお風呂まで入ってるの…?なんでもありね」

「他人じゃなくて親友だからだよ!すっごくいいお風呂なの!ちなみに、寝るのも一緒の部屋で寝たよ!ダナンとカリーも一緒に!」

「やりたい放題ね」


 お母様達は若干呆れた顔してる。


「リスティアの我が儘でしょうけど、同衾したなんてナイデル様に知られたら「直ぐに討伐隊を組め!生かしておくでない!」と怒り狂うわよ」

「負けるのはどっちかわからないけど、内緒にしてね」

「ただ、ウォルトはなんとも思っていないわね。彼は驚くほどやましさを感じさせない。貴女の反応と魔法を見るだけで理解できる」


 そもそも、やましい男に私は懐かない。なんとも思ってないのは不満だけども!


「あとね……もの凄い魔法の話なんだけど…」

「なに…?」


 お母様達はゴクリ…と喉を鳴らす。


「ウォルトはね……髪を乾かしながら、サラっサラの艶っ艶に仕上げる魔法も使えるの!」

「「「な、な、なんですって~!?」」」


 だよねぇ~。コレが女性にとって普通の反応なんだよ!ウォルト、聞こえてる!?


「今すぐリスティアに仕えさせるべきだわ!」

「賛成です!もはやウォルトさんだけで使用人はこと足ります!」

「それはそれで問題ですけど!」

「ふっふっふっ!皆の気持ちはわかるよ…。だからこそ、私はカネルラに残ってもいいのだ!」


 まぁ、冗談はこのくらいにして。


「それはさておき、魔法を使う前に着た方がいいって言われたの。それか、お母様の服って言ってた」

「意味不明ね」

「どんな魔法なのでしょう?」

「とにかく、やってみよぉ~!」


 ウォルトからもらった寝間着に着替えて2つの魔石を持つ。


「じゃあ、いくよ」


 お母様達は頷いてくれる。いざ!


 魔石を接触させると、視界が光に包まれた。あまりの眩しさに目を瞑る。光が落ち着いて辺りを見回してみても、特段変わった様子はない。


「なにも起こらないね」


 珍しく失敗したのかな?なんて思っていると…。


「なんてこと…。見たことも聞いたこともない…」

「人智を超えています…」

「こんな魔法が存在するのですね…」


 お母様達は凄く驚いてる。一瞬の魔法だったの?


「なにがあったの?!教えてほしい!」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 ウィリナさんが急いで手鏡を渡してくれる。


「リスティア様…。顔を見て下さい」

「顔…?………なにコレ?」


 鏡の中には見たこともない女性の顔……いや、見慣れたこのオッドアイは…。成長した私だ!

 身体を見るとかなり身長も伸びてる。お母様より少し高いくらい。出るところも出て推定20歳前後?

 …なるほどね~。きっと「大人になりたい!」と我が儘を言ったり、「セクシー?」としつこく訊いてくる私を驚かせる魔法。

 まるで、「どうかな?大人の自分に満足したかい?」と言われているかのよう。また心が温かくなる。


「こうきたかぁ…。身体が成長する魔法があるなんて予想外すぎる!笑うしかない!あははははっ!」

「言葉は汚いけれど…イカれた魔導師だわ…。常識外れすぎる…」

「世界には、知らない魔法がどれほどあるのでしょう…」

「ウォルトさんは、人を驚かせないと気が済まないんでしょうか…」


 皆の意見は的を射てるけど、ちょっと違うと思う。


「一番驚くのは「これくらい誰でもできるよ」って思ってることなんだけどね!」


 1時間くらいで魔法は解けたけど、その間、私は皆の着せ替え人形になった。とても楽しそうでなにより。

 内緒にしてたけど、魔法が解けるまでの間、私はウォルトを悩殺するポーズの仮想修練を続けていた。

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